リカルド、サンドナへ行く〜リカルド〜
優しい目でお読みください。
シャーロット王女からギルドカードを預かった私は、先程までいた宰相の執務室へ向い、陛下と宰相へ支度が終わり次第出発すると挨拶をした。
陛下からは、ギルドカードは好きに使え、返却はしなくても良い、その時の判断に任せると言われた。
宰相の執務室を出て、騎士団の宿舎へ向かう。
転移でいつでも戻れるので、着替えを最低数、念の為の魔力回復用ポーションを三本荷物に入れた。
忘れてはいけないのは、偽の身分証明書。これは王都の冒険者ギルド発行で、騎士団で諜報活動を主に受け持つことになった時、使えと渡された物。
王都では魔物こそ滅多に出ないものの、貴族の護衛を受けることがある為、実力がBランク以上の者しか登録できない。
家名のない、ギルドカードにあるリカルドは平民だ。
市井によくいる服装に着替え、剣を腰に差し、荷物を持つ。
まず、目指すのはサンドナの南にある宿場町の入口近く。
そこは昨年、陛下の視察時に転移軸を設定した場所。
私は無詠唱で術を展開した。
すぐに景色が変わる。
宿場町入口近くにある大木。町から見ると木の裏にあたる場所。街道からも見つかりにくい。
本当は直接町に入りたいが、いきなり人が現れると驚かれるので転移軸は場所を選ぶ。
廻りを見回しても人がいないので、誰にも見られていないだろう。
宿場町の貸馬屋で馬を借り、サンドナへ向かう。
脚の強い馬で、三十分程でついた。
もう日も暮れた。まず拠点となる宿屋を探すが、町の真ん中に一軒しか営業していなかったので、その扉を開く。
一階が食堂二階より上が宿屋という、いたって普通の宿屋。部屋は空いていると言われたのでとりあえず二泊とった。言われた部屋は二階。
食堂にはあまり客はいなかったが、階段近くにいる男女二人が何やらコソコソ揉めていた。
痴話喧嘩かと気にせず通り過ぎようとした時、『シャーリーが』と言う言葉が聞こえた。
何食わぬ顔で通り過ぎ、階段を上ったところで集音魔法をかける。
丁度目の前に今夜の部屋が見えたので、鍵を開け中に入りドアを少し開けたまま耳を傾けた。
「戻ってこないわよ。何日目だと思うの?」
「あいつ、行くとこないだろ。一人で出歩いたこともないんだぞ。早く探さないと危ないだろ」
「子供じゃないんだから平気よ」
「だから危ないんだろうが!」
その後無言が続いたので、部屋に荷物を置いて鍵を締め、食事のふりをして階下の食堂へと向かった。
集音は二人の周りに展開したまま、二人から離れた席に座る。
ちらっと二人を横目で見ると、女は男を見ているが男はテーブルに視線を向けたままじっとしている。
私はエールと串焼きを三本頼み、話が聞こえていない体で座っている。
私が注文した物が揃っても、二人はまだそのままだった。
いなくなったシャーリーなんて、そんなにいるはずがない。このシャーリーはシャーロット王女のことだろう。
友人か、パーティの仲間か。仲間ならあの女が白魔法師か。
声を聞き洩らさないように気をつけながら考えていると、もう一人男が合流し声をかけた。
「サイラス、俺は明日から王都の方へ探しに行く。お前はここにいろ」
「俺が行く。マイケルさんに守れって言われているんだ」
「お前、守っているつもりだったのか?毎回ミーシャとベタベタじゃれ合っていたのに」
「じゃれ合ってなんていない!」
「あれはじゃれ合っているって見えるんだよ、他から見たら。ミーシャ、お前はそのつもりだっただろ?」
「サイラスが嫌がらないから、私に気があるのかと思ったけどね」
「俺はシャーリーを守るために!シャーリーを守ってほしかったら仲良くしてって!ミーシャ、お前言っただろ!」
「私が言った仲良くは、男と女として仲良くって意味だったけど、サイラスったら全然そういう関係にはなってくれなかったわね」
「サイラス、お前討伐の最後にミーシャのテントに入ったよな」
「気がついていたのか。でもあの時だって、ミーシャがお腹が痛くて苦しいって声をかけてきたから、様子を見に行っただけだ」
「それ、シャーリー見ていないのか?」
「男用テントに戻る時にあいつを見たけど、背中向けていたから気がついてないだろ」
「確実に気がついてるな、それ」
「じゃあ、もう良いじゃない。サイラスはシャーリーから離れる時よ。マイケルさんは死んじゃったし、シャーリーはいなくなったし、サイラスも自由にしたら?何なら私がずっと一緒に居てあげる」
「俺は···シャーリーと結婚しようと思ってた」
「「はあ?!」」
「シャーリーが、二十歳位まではこのまま続けたいって言っていたから、それから結婚しようと···」
「それなのにミーシャとベタベタしてたのか?」
「ベタベタしてない!」
「あれはベタベタしてるって言うんだ。もう認めろ」
「そんなつもりじゃなかった···」
この話はやはりシャーロット王女のパーティ仲間か。それにしてもなんというか、どうしようもない馬鹿だな、あの男。あんな男のどこが良かったのか。シャーロット王女は男を見る目がない。まあでもこの感じだと、王女は処女だな。危なかった。
なんとも力の抜ける会話を聞きつつ、私が次にやるべきことを考える。
こいつらにもっとしっかり話を聞きたいが、どう声をかければ自然か。
シャーリーのギルドカードをちらつかせるか、と考えていると、別の所から『おいっ五月蝿いぞ』と声がかかる。咄嗟にその声の主を確認すると、その男はこっちを見ていて、私と目が合うとスッと逸らした。
おや?明らかに私を気にしていた。
パーティ仲間と思われる三人も、ちらっとこちらを見て静かになった。
よくよく気配を調べると、他の席の客も私の存在を気にしているようだ。
これは私に聞かれたくない話ってことだな。
少女が一人いなくなったことを、こんなに余所者に聞かれないように注意するものか?
少し突っ込んでみるか。
私は食べ終えて部屋へ戻るフリをして歩き出し、三人の横でシャーリーのギルドカードを落としてみた。
「落ちまし──」
後から合流した男が拾い、私に渡そうとしたところでどうやらカードの名前に気がついたようだ。
「ああ、悪い。助かったよ」
サッとカードを奪い取り、ついでを装い尋ねる。
「この町の冒険者ギルドって何処か知ってるか?用事があるんだが」
「勿論知ってる。あんた、そのカードどうしたんだ?」
食いついてきた。
「ここに来る前に知り合った子から預かったんだ。返却してほしいって。あと、仲間にも伝言をね」
「なあに、リゲルどうしたの?」
「こいつ、シャーリーのギルドカード持ってる」
「えっ!その子どこに居るんだ?!迎えに行かないと」
サイラスというのが幼馴染の剣士、ミーシャが白魔法師、リゲルはもう一人の剣士か。
顔を見て記憶と擦り合わせる。
「なぜ答えなくてはいけない?まず俺はこの子のパーティ仲間を探さないといけないんだ。頼まれごとをしているからね。あと、この子の家にも用事があるんだが、知ってるか?」
家に用事なんてない。そこに転移軸を設定したら楽になると思っただけだ。
「知っているけど、何で家にまで」
サイラスに聞かれる。
「忘れ物があるらしい。探して持ってきてくれって言われたんだ」
そんな頼まれ事なんてない。
「持ってきてくれって···何処で合流するんだ?俺が行くよ」
サイラスがしつこい。
「この子の家、教えてくれるのか?」
「何を忘れたんだよ。俺が渡すから教えてくれよ」
「頼まれたのは俺だ」
「お前、シャーリーの何なんだ?」
「お前こそ何だ?」
「俺は···パーティ仲間で幼馴染だ」
はい、一人確定。
「ああ、四人で組んでいたって言ってたな、じゃあ、こっちも仲間か?」
女と後から来た男を見ると、そうだと頷く。
「じゃあまずこの子の家を教えてくれ。忘れ物を探さないと」
この会話の最中、周りの客がこっちに集中しているのがわかる。
外野から妨害されないように、この三人だけを別に連れて行って話を聞きたい。
リゲルという男が立ち上がり、案内する、と言って食堂を出る。
私も後に続くと残り二人もついてくる。
「ねえ、シャーリーはもうこの人に任せたら?」
ちらっと後ろを見ると、ミーシャはサイラスの腕に手を回しべったり張り付いている。
ああ、これはベタベタしてるって見える。その手を振り解かない時点でその気がないなんて嘘だろ?
暫く歩くと、リゲルという男が『ちょっと待っていて』と言って、ある家のドアを叩く。ドアを開けた女性が応対し、リゲルが何かを受け取ると戻ってきた。
そして目の前の家の鍵を開ける。
さっき受け取ったのは鍵か。
「ここだ」
ドアを開けて中へと促された。
中は暗いが慣れた様子でリゲルがランプをつけてまわる。慣れてるな。
室内が明るくなり、見渡すと生活感が溢れていた。
王女は最低限の荷物しか持っていかなかったのか。
私は『頼まれた忘れ物』を探すフリをしながら、あちこちを確認した。
隣の部屋は寝室で、ベッドの横に剣が立て掛けてあった。
これはマイケル・カイナーゼの剣だろう。
手に取ると鞘と柄に彫刻がされていて、なかなか良いものだと見えた。
まずこれは持ち帰る。
他にはないかと抽斗などを探す。
「なあ、シャーリーとどこで知り合った?」
リゲルが聞いてくる。
「質問の前にまず名乗らないのか?」
私は自分のことを棚に上げて言ってみる。
すると、三人が自己紹介をしたので、私も名前を言う。
「で?どこで?」
「シャーリーが仕事を探して、ある所に面接に来たんだ。そこでだよ」
「それはどこ?」
「随分気にするんだな。あんなに酷い傷を放ったらかしにしておいて」
「傷って何だよ」
「サイラス、君は知らないのか?左脇腹にわりと酷いケロイドがあったぞ。左手を挙げるのに苦労するような」
「えっ!」
サイラスはミーシャを見るが、ミーシャはへらへら笑っているだけだ。
この女、不愉快だな。
「白魔法師が居なかったのか居てもレベルが低かったのか、あれは止血して終わりって感じだな」
「み、見たのか?脇腹」
「見たよ」
ああ、見たよ、国王もな。
「私、レベル低くないわよ!」
「いつ見たんだ!」
「ふっ、そんなことより、話を聞いてもいいか?」
話があらぬ方向に行きそうだ。私は違う話を聴きたい。
今回もお読みいただきありがとうございました。
次話は二十一時投稿予定です。




