今夜は女子会
よろしくお願いします。
私の部屋は、廊下を挟んでローズの部屋の正面だった。こちらは薄いブルーを基調に、やっぱり可愛くなりすぎていない素敵な部屋だった。
私の荷物は奥にある大きな机(執務用と言われた)の横に置いてあり、中身を確認すると、きちんとすべて入っていた。
すぐ後ろについてきていると思っていたラザイガー副団長は、扉のすぐ脇に立っていて近づきそうもなかったので、カードを取り出して副団長の側へ行った。
「ラザイガー副団長、これがギルドカードです。返却はいつでも良いのでお願いします」
「私のことは、リカルドとお呼びください」
「え、そういうわけには──」
「シャル、私もそう呼んでるからリカルドって呼んであげて」
「そうなの?じゃあ、そうします。あ、あと、パーティはお休みするって言ってあるので、やめることを仲間に伝えられたらお願いしたいんだけど」
「承知いたしました」
リカルドは答えると部屋を出ていった。
それにしても、部屋が整っていないって言っていたのに、そんなふうにはとても見えない、と言うとドレスを運び込むのに手間取っただけよ、とお母様が答えた。
「背格好が私とあまり変わらない感じだったから、まず私のサイズのドレスを用意したのよ。でも、近いうちにちゃんと採寸して作るから、楽しみにしていてね」
ローズと同じサイズ、そうね、確かに近いかも。
でも、ちょっと私のほうが貧相かなぁ、と一点を見つめてしまった。
「あ、大丈夫よシャル。今、コルセットつけてないでしょ?あれつけるとこうなるわよ」
ローズは自分の胸を指さして笑った。
そうなのかな。そうなるのかな。
ちょっと期待したい。
「いいわねぇ、このお部屋がこんなに賑やかになるなんて、本当に夢のようだわ。シャル、お母様も今夜はシャルと一緒に寝たいわ」
「わぁ、お母様良いわね。シャルを挟んで三人で寝ましょう?ね、シャル、良いわよね」
あっさりとこの部屋での女子会が決定した。
「あれ?でもベッドがないわ」
「それはこっちよ」
執務机の奥にある扉を開けるともう一部屋あり、そっちが寝室だった。ドレスはここよ、とローズが寝室内で違う扉を開けるとドレスが沢山掛かっていて、よく見るとそこも部屋だった。
あとこっちはお風呂よ、と言うので見てみると、サンドナの家のお風呂の五倍位の広さ。広い!
「楽しみね、ワクワクするわ。じゃあ夕食後、湯浴みを終えたらこの部屋に集合ね」
お母様があまりにも楽しそうなので、私も楽しみになってきた。
「あ、紹介しておくわ。シャルにつく侍女のマイリーよ。他にもいるけど、この子はシャルに専属でつくから」
「シャーロット様、マイリーです。よろしくお願いします」
上品なお仕着せの二十歳位の女性が頭を下げた。
「こちらこそよろしくお願いします」
「ああ、シャル、丁寧すぎるわ。そこはよろしく程度で良いのよ」
ああ、貴族って難しい。
マイリーは専属だと言っていたけど、常に私の近くにいた。
夕食の場所まで案内して、私達が食べている時は壁際でじっと待つ。食後はまた私と部屋へ戻り、湯浴みの用意と手伝い。一人で入れると言ったのに、新しくついた侍女と四人で『王女様は一人では入れません』との謎理論で私を煙に巻き、髪から体にいたるまで綺麗に磨き上げた。
そう、磨き上げたって言葉はまさにその通り。
髪はいつもよりツヤツヤしてるし、体もいい香りがする。いや、決して臭かったわけではないけど。
そして『王女様』になった私は、これからお母様とローズの三人で女子会を始める。
お父様も参加したいなぁ、と部屋に突撃してきたけど、お父様は男子です!とのローズの一声であっさり撃沈して戻っていった。
それにしても、私は本当に王女なのか。周りはもうそうだと動いているけど、私はまだ信用できない。
この国には双子の王女様がいて、妹姫は病弱だから別に住んで療養しているというのはさすがに知っていた。
でも、それは行方不明を隠す嘘で、さらにそれが私だということに頭が追いつかない。私が王女だということすら嘘なんじゃないかとさえ思う。たまたま似ているのが見つかったと。
「この指の痣、王族はあるって言っていたけど、ローズもあるの?」
私の質問に、勿論よ私はここ、と右手の中指にある指輪を外して見せてくれた。
同じような大きさで色も同じ。ローズも光るの?と聞くと、シャルと同じような光だった、見せればよかった、と笑っていた。
お母様は嫁いできたから無い、とのこと。あと、王族と言っても結婚して降嫁したり臣籍降下した人は、痣が消えていくそうだ。
「だから、王弟は痣がないわ」
どのような仕組みでそうなっているのか全くわからないし、痣が発光するということも王族と宰相、騎士団長しか知らない機密事項なんだとか。そしてこれを理由なく他者に話した場合は相応の罰を受けることになるらしい。
「あれ?でも今日はリカルドがいた」
その話でいくと、リカルドは部外者のはず。誰が話したんだろう。
「国王は聖玉に秘密を共有する人を登録することができるから、今回はそれを使ったのよ」
「なぜ?」
「リカルドを登録しておく方が都合がいいからじゃない?」
「うん?なんで?」
「···これは秘密なんだけど、リカルドって転移できるのよ。わかる?転移って凄いことなのよ。さ、シャルもリカルドの秘密を知ったから、これ以上は考えちゃだめよ」
ローズはコソコソッと内緒話のように話し、私はまだ理解していないけど、これ以上教えてくれそうになかった。
私にとって初めての女子会は、なんだか知りたいことを教えてもらう会って感じだった。
痣の話から始まり、王家が管理している領地のこと、王家に仕える侍女は貴族の娘で、ほとんどの侍女は嫁入りの箔付けのためにきている、なんてことも。
でも、驚いたのはお母様がしれっと発した、
「ローズは来年結婚するのよ」
これにつきる!
ローズは隣国の第三王子と婚約し、来年結婚、いずれ女王になるそうだ。
要は婿取り。隣国の第三王子は王配になる。
国王夫妻には双子の王女だけだったのでこの形になって、その婚約式が丁度一ヶ月後に行われると。
隣国から第三王子と御一行がやって来て、やれ晩餐だやれ舞踏会だと予定が組まれているらしい。
「シャルは病弱設定だから、全部は出なくても平気よ。でも、晩餐くらいはお願いしたいわね」
またまたにっこり笑いながらお母様が言う。
マナーとか常識とかダンスとか、一ヶ月以内にものにならなかったら参加できるものだけで良いと言うけど、それで良いのかな。
「いいの、いいの。シャルは『病弱』なんだもの。だから、御一行がいる時は、走り回っちゃ駄目よ。走りたかったら全部出来るようにならないと、変な目で見られちゃうわ」
なるほど。貴族の常識とかないと何かと困る場面が多そうだ。ダンスは後回しでマナーと常識を最優先にしたほうが良さそう。
そんなことを話していると、もう日付は翌日になっていた。
楽しいけど夜更かしは美容の敵よ、また近いうちにやりましょうね、とのお母様の一言でベッドに入ることになった。
ベッドはとても大きくて、三人で並んでも平気だった。
並びは私を挟んで二人が寝るという、まあ予想通りの形。
王都に出てきて二日目で、こんなことになるなんて想像もしていなかったし、今日は色々あって本当に疲れた。
ベッドに入った私は、たぶん誰よりも早く落ちていたと思う。
翌朝は七時過ぎに目が覚めた。
う〜ん、と伸びて目を開けると、もう既にドレスに着替えたお母様とローズがいる。
寝坊した!とガバッと起き上がると、ゆっくりで良いのよ、私達はシャルの寝顔を見たかっただけだから、と微笑んでいた。
寝顔見るのに着替えるってことはないから、やっぱり寝坊したんだろうか。
お母様は侍女を呼び、朝の支度に取り掛かるように言った。
私が自力でしたのは洗顔くらいで、着替えも髪も全て侍女の手によって形になった。
いや、ドレスは一人では着られそうもない物だったから良かったけど。
髪は編み込みにして、凝った感じに仕上がっていた。
これも一人では無理か。
二人は側でニコニコと私の変身を見て、とても楽しそうにしていた。
三人(とそれぞれの侍女達)で朝食のために移動し、テーブルにつく。すぐにお父様が来て、朝食スタートとなった。
とっても見られているけど、これはきっとマナーチェックだと思う。
お父さんに教わった通りに食べ進めてみたけど、どうだったのかな。
心配しながら食べたので、味がよくわからなかった。
皆が食べ終わるとお母様が一言。
「シャル、朝食は合格ね」
合格をもらえた。ただ、
「あとは場数ね、経験値を上げましょう」
満点ではなかったらしい。
ちなみに今夜から隣国の御一行との晩餐に向けて、きっちりマナー講座を実地ですると。食べながら教えてもらえるということかな。
今日の予定は、貴族としての常識を午前中、昼食を挟んで王族としての知識関係、お茶を挟んで採寸。
お勉強関係の先生が温厚な人でありますように、と願わずにはいられない。
ドレスは着ているけど頭の中はまだ平民な私は、絶対に何かと迷惑かける気がするので、なるべく怒らないで褒めて伸ばしてほしい。
朝食後、部屋に戻ると着替えだと言われた。
今度はコルセットも着用するそうで、部屋にはちゃんと準備してあった。
マイリーを始めとした侍女三人が私を着せ替える。
初めてのコルセットは、正直辛い。
ぎゅうぎゅう紐を引っ張るマイリーが、悪魔のようだ。
ちなみ、胸は通常よりあるように見える。
貴族としての常識はマナーなども交えて多岐にわたっていた。
先生となったソール伯爵夫人は、話し方はおっとりしているけど有無を言わさぬ雰囲気で、この方をお手本にするとなかなか迫力ある貴族になれそうだった。
もしかすると昼食にソール伯爵夫人もご一緒するのかな、と思っていたけど、家族だけだった。食事系は家族にまかせるということらしい。
ちなみに昼食のマナーは、合格だけどやっぱり経験値上げは必要らしい。
午後の王族としての知識関係は、貴族の名前とその領地、貴族間のつながり、等とても覚えられるとは思えない。まずは名前と領地を覚えてから広げていくことになった。
採寸はとても細かかった。
品の良いマダムが指示をして、二人の女性が測って書き残す。
ドレスのデザインはお母様とローズが熱心に選んでいる。
「シャル、座って休んでいて。また倒れるといけないわ」
私の病弱設定は健在で、目の前の二人は女優のように演じていたので、それに乗っかる形で休んでいた。
今夜もよく寝られそうだ、と私がぼんやり考えているその時に、既にリカルドはサンドナにいて、調査していることなど想像もしなかった。
今回もお読みいただきありがとうございました。
主人公が良いように流されていきます。
次話は二十一時投稿予定です。




