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シャーリーのリスタート  作者: 小松しの


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王弟の片想い

よろしくお願いします。

 国王には二歳下の弟がいる。

 今は王位継承権を放棄し、ライノース・ヤンゼント公爵を名乗っている。

 現在の王妃であるダイアナは生家が公爵家で、アルケインとライノースとはいとこであり幼馴染でもあった。

 アルケインとダイアナはアルケインが八歳の時に婚約し、良好な関係を築いてきた。

 ライノースもダイアナを好きだったが、気の優しいライノースは強く出ることはなく、アルケインとダイアナを見守る状態だった。

 アルケインは二十一歳になり、ダイアナと結婚したタイミングで、アルケインが王太子となる。

 ライノースは、頑なに拒んでいた自身の婚約も受け入れたことから、すぐに婚約者が決まった。

 お相手は侯爵家の長女ライラ。

 ライノースより三歳下の美しく優しい令嬢だった。

 ライノースとライラは少しずつお互いを知り、婚約から一年後に結婚した。

 王子達二人が結婚し、幸せになったのを見届けるように、体の弱かった国王が他界した。これにより、アルケイン王太子は国王へと即位する。

 そして半年間、他界した国王の喪に服していた国民は、喪明けに喜ばしい発表を聞いた。

 

 アルケイン国王に双子の王女が誕生した。

 この国は長子相続のため、王女も継承権はある。

 双子の誕生に国中が歓喜した。

 また、このタイミングでライノースは臣籍降下を発表し、ライノース・ヤンゼント公爵を名乗ることになり、王都内に新しく建てた邸に住むことになった。

 

 アルケインはしっかり公務をこなし、国は変らず安定している。

 双子は生後十ヶ月になり、姉のローゼリアはゆっくりながらもつかまり立ちをし、妹のシャーロットは伝い歩きが出来るようになった。

 その双子の愛らしい成長を見るのが、アルケインとダイアナの幸せだった。

 

 前日からの大雨が止む気配のない夏の夜、ダイアナは公務のために遠方へ向かっているアルケインを心配していた。

 平地を進むため比較的安全ではあるが、この大雨で体調は崩していないだろうか。ローゼリアを抱っこしながら窓の外を見ていた時のことだった。

 突然廊下が騒がしくなり、ローゼリアを抱く手に力が入ったその時に、廊下へと通じる扉が勢いよく開いた。

 数人の近衛騎士が抜刀して室内へ入ってくる。

 ダイアナとローゼリアは扉から離れた窓際にいたが、シャーロットは乳母と一緒にソファにいた。

 運悪く、窓と扉の中間あたり、しかもシャーロットは伝い歩きを楽しんでいる最中だった。

 シャーロットの近くにいた乳母は急いでシャーロットを抱き上げようとしたが、乱入した近衛騎士に切りつけられてしまった。

 その間に別の近衛騎士がシャーロットを抱き上げ、部屋から飛び出していく。

 ダイアナはシャーロットの名を呼ぶが、近衛騎士は走り去ってしまったうえに、まだ室内には先程乳母に斬り掛かった近衛騎士がいる。

 ダイアナはローゼリアを抱きしめ、廊下側とは離れた場所にある別の扉に向かい走った。

 慌てながらも扉を開け、別室へ入り鍵を締める。 

 そして、王家に伝わる避難用の通路への入り口へ向かった。

 避難通路は暗く手探りで進んだが、今は脱出のみを考えなくてはいけない。

 しかし、一歩一歩と進むたびにシャーロットが気にかかる。

 腕の中のローゼリアは、喧騒に気付くことなく寝ている。

 シャーロットは何のために、何処へ連れ去られたのか。

 ダイアナの手が出口の扉に触れた。

 しかし、そこから出ることを躊躇った。

 襲撃してきたのは近衛騎士。

 ここから外へ出ても、誰が守ってくれるのかわからない。王家しか知らないこの通路にいることが、今は安全ではないかと思った。

 ローゼリアを抱きながら、力なくその場に座り込んだダイアナは、ひたすらシャーロットの無事を願った。

 

 その頃、シャーロットを抱いた近衛騎士は、廊下をひたすら走っていた。

 一刻も早く依頼主に王女を渡すこと、それのみを考えていたため、誰が仲間だったか失念していた。

 前に立つ近衛騎士に気がつき、走る速度を落とした時、背中に重い熱を感じ足がふらついた。

 斬りつけられたと気がついたのは、シャーロットを庇いながら倒れ込んだ自分の顔を覗き込む、二人の近衛騎士の顔が見えた時だった。

 二人は第三騎士団で、この計画の仲間ではなかったはず。王女を奪い返しに来たのだと瞬時に思った。

 

「王妃と王女が狙われた。お前達はこちらの王女を連れて城を出ろ。襲ったのは近衛騎士だから、敵味方がわからない。バレないように城を出て、遠くへ避難しろ。できれば王都を出た方がいい」


 王女をここまで連れてきた近衛騎士は、自分は襲撃側ではないように装った。

 二人の近衛騎士はそれを信じたようで、王女を抱き上げると上着で隠すようにし、その場を足早に去っていった。

 もし、襲撃側である仲間なら、王女をあの方に渡してくれるだろう。

 仲間でなくても、王女だけは守られるだろうし、その後はまたあの方が別の方法を考えて手に入れるだけだ。

 自分はここまでだ。

 シャーロットを部屋から連れてきた近衛騎士は、そのまま意識をなくした。

 


 倒れた近衛騎士から王女を抱き上げた近衛騎士は、マイケル・カイナーゼ伯爵家長男。騎士を斬りつけたのは、タトーラス・ナモシェンド子爵家長男。

 マイケルは今日の勤務を終え、下城しようとした時に襲撃の一報を聞いた。

 急ぎ国王一家の居住スペースへと向かうが、彼方此方で近衛騎士達が剣をあわせている。

 同じ王家を守る者達がなぜ、と思っていたが、よく見ると王弟を守るはずの第二騎士団が国王と王妃を守る第一騎士団、王女達を守る第三騎士団と戦っている。

 そもそも王弟は別の邸にいるので、この場に第二騎士団がいるはずがない。

 そう気がついた時、前方から第二騎士団の一人が何かを抱えながら走ってくる。

 マイケルが剣に手をかけた時、その近衛騎士はぐらりと倒れ込んだ。

 どうやら後ろから斬りつけられたようで、騎士の向こうに第三騎士団の仲間であるタトーラスが剣を持ち立っていた。

 倒れた騎士は、意識を失う前に説明をしていたが、どうにも怪しい。


「何があった?」

「この男が王女を拐った。ただ、襲撃したのも近衛騎士で、今戻るのは悪手だ。とりあえず城を出るぞ。その先は王女の安全を確保してからだ」


 マイケルが尋ねるとタトーラスが周りを気にしながら答えた。

 マイケルは上着のボタンをはずし、王女を中へ抱え込み他からは見えづらいようにし、タトーラスとその場を離れた。

 人気の少ない通路を選びながら、城の外へ出る。

 マイケルとタトーラスは、王女が雨に濡れないように気を使いながら走った。

 目的地は乗合馬車の停留所。

 偶然すぐに乗り込むことができ、二人はそのまま王都を出た。

 そこからの目的地は決まっていない。とりあえず王都から一番近い町へと向かった。

 馬車に揺られること三時間。目的地につくと馭者に口止めをし、多めに金を渡した。

 二人は目立つ近衛騎士の上着を脱ぎ、クルクルと丸めて抱え持って宿屋へ向かった。

 マイケルは王女を抱えていたので、目立たないように路地に待機して、タトーラスが部屋を手配しに宿屋へ入った。

 程なくタトーラスが宿屋の正規の入り口ではない扉から出てきて、マイケルを手招きする。

 マイケルはそこへ向かい、宿屋内へ入った。

 室内に入ると、王女をベッドに寝かせる。

 あれだけの騒ぎの中、王女はマイケルの腕の中ですやすやと寝ていた。

 

「服の色から、このお方はシャーロット様だな」

 双子を見分けるために、ローゼリアは薄いピンク、シャーロットは薄いブルーを使っていた。

 この王女は薄いブルーのワンピースを着ている。

 

「このままだと風邪をひく。とりあえず私は子爵家へ戻り、王女が着れそうな服とマイケルが着れそうな服を持って来る。ここで待機してくれ」



 

「と、わかっているのはここまで。タトーラス・ナモシェンド子爵が戻った時には二人の姿が消えていたそうよ」


 王妃は淡々と話しているが、時々当時を思い出すのか、手をぐっと握りしめることもあった。


「それは誘拐じゃないのでは」


 私がポツリとつぶやくと、『そうね、誘拐というより行方不明といったほうが正しいかしらね』と王妃も続けた。


「最初に子供を抱えて背中切られた第二騎士団の人は、どうなったんですか?」

「直後に尋問部屋に連れて行かれて、そこで治癒を受けてね、知ってる情報を全部話してくれたわ。それをタトーラス・ナモシェンド子爵の話とすり合わせたら齟齬がないってことで、今ではそれが事実として伝わっているの」


 確かに流れとしては綺麗だった。

 でも、この王都から私が住んでいたサンドナまで、そんなに遠くはない。


「捜索って、すぐに終わったんですか?」

「まさか!今でも毎年続けているけど···そうね、不思議なのよね。その陣頭指揮をとっているのがタトーラス・ナモシェンド子爵なのよ。毎年報告書もあがっているはずよ。なぜ見つからなかったのかしら」


 お母様が首を傾げる。


「首謀者って、捕まったんですか?」


 一番大切なところを聞いたけど、捕まえてはいないけど、もう手を出してくることはない、と言われた。なぜ捕まえないのか、証言だけでは捕まえるのは無理なのか。


「捕まえないのが不思議よね。···そうね、話したほうが良いかしらね。話は長くなるけど、大切なことだから」


 お母様が少し考えてから、話し始めた。


 そもそも発端は、王弟ライノースがダイアナを好きになり、いつまでも忘れられなかったこと。

 兄のアルケインとダイアナが結婚し、自身も結婚したが、ライノースはどうしてもダイアナを諦めることができず、白い結婚を続けていた。

 ライノースの妻ライラは、婚約期間中からライノースの為人に触れ、優しいライノースのために何かしてあげたい、幸せになってもらいたい、と考えていたが、白い結婚ではライノースに子供も望めず、他に何ができるのかと日々考えていた。

 ある日、国王に双子の王女が生まれたと知らせが来る。

 国の慶事だと周りは皆喜んだが、ライラは違うことを考えた。

 

 双子なら、一人譲ってもらえないだろうか。


 ライノースにとって兄の子供ではあるが、産んだのはライノースの愛するダイアナ。

 その子をライノースが育てるのは、何よりの喜びではないだろうか。

 ライラは、祝の品を持ってダイアナと双子の王女に会いに行った。

 ダイアナは産後の経過も順調で、少しずつ以前のような生活に戻りつつあり、ライラの訪問を喜んでくれた。

 双子の王女は、それはそれは可愛らしくて、並んで寝ている様子を見ると心底『欲しい』と願ってしまった。

 それはライノースのためではなく、自分のために。

 ダイアナは甲斐甲斐しく世話を焼き、二人をとても慈しんでいる様子がよくわかる。

 欲しくても言えない。その光景は、一層ライラに渇望感を植え付ける。

 ライラはそれから毎日、自分の心との闘いだった。


 一人くらいならもらえるのでは?

 いやダイアナが大切にしている。一人も欠けてはいけない。

 でも、このままでは自分の子供も望めない。


 そしてとうとう、気持ちが決壊してしまう。

 王弟であるライノースを護衛するための第二騎士団を使い、王女を手に入れようと計画、そしてあの日実行した。

 第二騎士団の多くは、報われない恋をしている護衛対象二人に同情心を抱いていて、この計画を聞いたときには賛同してしまった。そして、雨音に隠れて襲撃した。

 それが真相だった。


「ライラ様は、王女が一人見つからないという結果を知り、ご自身がなさったことの重大さに気がついて後悔なさってね。余程のことがない限り、城へは来ないと約束なさった。ライノース様は、計画を知らなかったとはいえ自分が原因であるから、ライラ様を側で見続ける、と、まあ監視の意味が強いのでしょうね。私達としても、このようなことを国民には伝えられませんから、それで幕引きとしました。それにしても、ここまで見つからないのは···」


 お母様は釈然としない様子で考え込んでいたけど、サッと顔を上げて、


「でもまた調べ直すって話だから、今はここまでで良いかしら。シャルはこれから忙しくなるから、このことを考える時間もないだろうし。早速明日からお勉強始めるわよ。貴族としての常識やマナーとか、あ、ダンスは必須ね」


 ああ、やっぱり勉強するのか。ダンスなんて初めてのことだし、できるのかしら?思わず肩を落とす私に、

 

「ああ、それと」


 お母様がにっこり笑う。


「シャーロット王女は虚弱体質改善のため、別荘で療養してましたってことになっているから、間違っても走り回ったりしないでね」


 ああ、怖い。嘘がバレそうな気がしてきた。



今回もお読みいただきありがとうございます。

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