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シャーリーのリスタート  作者: 小松しの


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カント・コンシューリの回想4


よろしくお願いします。



 私は決済書類が嫌いだ。

 私の魔力など必要ないし、面倒だなと思う。

 頻繁にあがってくる研究内容を読む方が、自分の能力を発揮できると思う。

 もう、いっそのこと団長職を退こうか。

 毎日なんだかんだで帰宅は二十二時を過ぎる。

 結婚してもこれでは、シャーロットとの時間がない。

 意を決して陛下へと伝えた。

 

「結婚後は、団長職を辞するつもりです」


 たったこれだけの言葉は、陛下を慌てさせた。

 王女の嫁ぎ先は肩書が多い方が良いのだと打ち明けられたが、私もシャーロットとの時間がとれないと泣きついてみた。

 陛下自身、新婚当時は同じように悩んだようで、気持ちは理解するが······と、そこで話は終わる。

 しばらくすると、シャーロットが何やらうかぬ顔をするようになった。

 あの討伐以降、親しくなったウィズレッド団長から、『陛下がシャーロット殿下へ丸投げした』と聞き、シャーロットはどう出るのかと不謹慎ではあるがワクワクした。

 今日は何か言うのか、今日は何か聞いてくるのか、毎日楽しみにしていたが、シャーロットは少しずつ表情がなくなるだけで、私に何も言ってこない。

 これは良くない。以前、私との結婚の決めてを聞いたら、『何でも話せるところ』と言っていたのに、この状況は違う。

 私は我慢できずにヒントを与えた。

 もしこれでシャーロットが私に何も言わなかったら、誰がなんと言おうと団長職を辞めてやる。そう決意して臨んだ翌日のお茶では、ちゃんとシャーロットからなぜ辞めたいのか聞かれた。

 私はやっと聞かれた、と嬉しくなって全部答えた。

 シャーロットも確認に来て、その結果研究所の設立を提案し、所長を私にと決まった。

 魔法だけを考えていられる職は嬉しいし、何よりシャーロットが名誉所長になった。

 名誉所長が何なのか良くわからないが、一つだけわかるのは一日中シャーロットといられるということ。

 後任の魔法師団長は今の副団長だから心配していないが、引き継ぎをしっかりしなくてはいけない。私は毎日頑張って仕事をした。

 シャーロットも午前午後と来てくれて、私を励ましてくれた。

 研究所が稼働するまで約三ヶ月。長いな、と思っていたが、案外早かった。

 私は研究所で研究だけすれば良いのかと思ったが、やはり予算等の決済については必要な仕事だった。

 しかし、面倒だなと思っていた書類仕事も、側にシャーロットがいてくれるだけで進み方が違う。

 研究所員の休日調整はシャーロットがやってくれる。所員はもちろん、メイド達も王女だろうが気にせず話すので、休みたい日を各自が言い、それをシャーロットが調整していた。

 こじんまりとした職場なので調整もすんなりいく、とシャーロットは事も無げに言うが、連勤が酷くならないようにとか、希望の休日が被ってしまった時にどう対応するか等、人間関係が物を言うことが多い内容だ。シャーロットのように皆に愛される人間でないとできないと思う。

 シャーロットが人に気遣いができる人だから、周りもゴリ押ししない。

 ここがうまくまわっているのは、シャーロットの力が大きいのは確かだ。


 シャーロットは、結婚したらすぐに領地で過ごしたいと言ってくれた。

 雪が降る町での生活を知らないから早いうちに理解したいと言い、そのことに私は感謝しかない。

 私は研究所の収入もあるが、領民は領地での仕事がないと生活できない。

 領民の生活基盤は、領主である私がしっかり作ってあげないといけない。結婚前の領地訪問で、シャーロットへそのあたりを説明したから、シャーロットも実際に経験したいと思ったらしい。

 真面目に領民に向き合おうとするシャーロットの姿勢に、私は一層好きになった。

 

 結婚式は恙無く終わり、夜の舞踏会でもシャーロットは幸せを振り撒いていた。

 この美しい人は、シャーロット・コンシューリ候爵夫人ですよ、と皆に言って回りたくなるほど、私も嬉しくて浮かれてしまった。


 シャーロットと離れて仕事の話をしていると、シャーロットもどこかの令嬢に話しかけられていた。見るたびに違う相手だったから、きっと王女の時には話しかけられなかった人達なんだろう。 

 あまり入れ代わり立ち代わり人が変わるのも気疲れするだろうから、早く戻ってあげよう。そう思って仕事の話を切り上げ、シャーロットの元へ戻った。

 同じタイミングでリッセル侯爵令息と夫人が挨拶に来て、シャーロットはアンナリエ夫人と話し込む。

 この二人は仲が良い。

 私もリッセル侯爵令息も少し離れたところで見守った。


 シャーロットがあまりにも疲れたように見えたので、アンナリエ夫人との話が終わったタイミングで、両陛下へ挨拶をして帰ることにした。

 シャーロットへ内緒で、シャーロットについていたメイド達を雇うことにしていたが、喜んでくれるだろうか。

 私は馬車の中で、シャーロットが驚く顔を想像して笑いを堪えていた。


 やはりシャーロットは感激してくれて、早速マッサージを念入りにしてもらったようだ。

 夫婦の寝室に予想より遅く入ってきたシャーロットは、随分と薄着の夜着だった。

 ああ、聞いたことがある。初夜はこういう夜着を着るんだと。しかし夏ならともかく、今はシャーロットが風邪をひかないか心配になる。

 私は読んでいた本をテーブルに置いて近づき、『寒くない?』と聞くと寒いと言う。ああ、やはり寒いだろう。少しでも温めてあげようとお姫様抱っこをしてベッドまで移動した。

 暖かくしないと、と掛布団をかけ隣に潜り込む。

 

「こんな薄着じゃなくても、シャーロットは魅力的なのに」


 と伝えて抱きしめたが、せっかくメイド達が気を使ってくれたので、ありがたくそのままいただくことにした。

 翌朝、ぐっすり寝ているシャーロットの寝顔を見た時に、夫婦になったんだなと実感し、なんとも言えない喜びにニヤニヤしてしまった。

 シャーロットに見られなくて良かった。


 宝飾屋が依頼してあった指輪を持ってきた。

 不思議な指輪のような痣。これのおかげでシャーロットが王女だと証明され、その後私とも出会った。

 王族ではなくなると徐々に消えていくそうで、私としては寂しく感じた為、ピンクゴールドで指輪を作った。

 もし消えてしまっても、この指輪を見て思い出したい。

 

 出発直前には、ローゼリア殿下が見送りにいらした。

 魔鳩をシャーロットへプレゼントし、手紙のやり取りをしようと言うのは王族らしいというか豪胆というか。

 魔鳩の足には水色の足輪。

 きっとローゼリア殿下の魔鳩にはピンクの足輪がついているのだろう。

 ローゼリア殿下から、育てるのは私だと指名された。

 そうか、ならば可愛がって育てよう。

 番を探して繁殖も良いな。そんなことも考えて、カントリーハウスでは私の執務室に鳩舎を造った。

 シャーロットはそれが面白くないようで、私の執務室に来ては魔鳩を構い倒す。

 私が手ずから餌をあげていると、シャーロットは傍でつまらなそうにしている。

 そんな姿も可愛いなと思う。

 もう、この人は何をしてもどんな表情をしても可愛い。

 

「シャーロットがそんなに魔鳩を好きだとは知らなかった」

「そうじゃないのよ。そっちじゃないの。カントは魔鳩をかまい過ぎだと思うの。もう少し私のことも──」


 ああ、やっぱり可愛過ぎる。

 私の愛はシャーロットだけに向いているのに、魔鳩にヤキモチなんて。

 一冬領地に籠もると決めて良かった。

 私はシャーロットに口吻をして、私の愛の深さを教えるために寝室へと移動した。



 ローゼリア殿下の懐妊が発表された同時期に、シャーロットのお腹にも私達の家族がやってきた。

 高確率で魔力量の高い子供が生まれるが、私はこの子に伝えたい。


 絶対にあなたには良い出会いがあるから。

 幸せになれるから、信じて待ちなさい。






これでいちおう一区切りです。


お読みいただきありがとうございました。




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