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シャーリーのリスタート  作者: 小松しの


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カント・コンシューリの回想3


よろしくお願いします。



 シャーロットが魔力切れの私に、血を飲ませようとしたらしいとウィズレッド団長が教えてくれたが、そもそもなぜこの二人がいるのか。

 シャーロットには治癒をかけたから大丈夫だと言われたが、ぐったりと力なくウィズレッド団長に抱え込まれている姿は嫌なものだった。

 しかし、私も動けない。

 助けに来てくれた白魔法師に背負われ、既にドラゴン三体を討伐した魔法師団と合流した。

 私とシャーロットは傷病者用の馬車へ担ぎ込まれ、中にあるベッドへ寝かされた。

 ベッドと言っても馬車内にマットが敷かれていて、そこは雑魚寝。

 私とシャーロットは隣で寝かされたが、きっと私が動けないからそれが許されたんだろう。

 すぐ動き出した馬車は、揺れもなく静かだった。

 私はやっと動かせるようになった手で、口周りに固まっている瘡蓋を剥がす。

 シャーロットが私に魔力を分けようとした塊。

 私は躊躇なく口にした。

 口の中で貼り付く感じはあったが、これはシャーロットの気持ちだ。無駄にしたくない。

 口周りの瘡蓋が無くなっても、体を起こすところまでは回復しない。

 私は横にいるシャーロットに顔だけ向けて、シャーロットの回復を祈った。

 馬車は二時間ほどで休憩になった。

 私は眠っていて、扉が開く音で目が覚めた。

 

「コンシューリ団長、体調はいかがですか」


 外から声をかけたのはウィズレッド団長で、私は動かせる手を上げて、『シャーロットの瘡蓋で、いくらかマシになった』と伝えると、『瘡蓋、食べたんですか?』と呆れていた。

 彼は食事を持ってきてくれて、私は彼に上半身を支えられて座り、水とカットされたフルーツを少し食べた。

 シャーロットはまだ動かない。

 顔色も悪い。

 

「白魔法師の診立てでは、貧血と疲労らしいです」


 私はウィズレッド団長から、寝ずに馬を走らせたことを聞き、シャーロットを抱きしめたいのにまだ動かない体が恨めしかった。

 休憩は一時間。水を入れた水筒を置いて、ウィズレッド団長は扉を閉めた。


 その日の宿泊は、討伐へ行く途中にも利用した宿屋。

 昼休憩の後から少しずつ体が動かせるようになった私は、宿屋へ入る時は気力を振り絞り自力で歩いた。

 しかし全快とまでいかず、シャーロットはウィズレッド団長が抱き上げて宿屋へと入った。

 布をかけて顔を隠し、怪我をした黒魔法師だと身分を偽ったので、誰も気がついていないはずだ。

 しかし、身分を偽ったため特別室を借りるわけにはいかず、二人部屋を手配して同室には護衛としてついてきた女性の黒魔法師がついた。

 シャーロットは夕食時も起きず私達を心配させたが、翌日の朝食には顔を見せた。

 魔法師団のローブを着て、フードを頭から被ってはいたけど、顔色は悪くなさそうで安心した。

 馬車は、さすがに私と二人きりでいるわけにはいかないので、私は御者台で御者の隣りに座った。

 その日の夜遅くに帰城。

 城はどこも明るく照らされていて、王女の帰りを待っていた。

 シャーロットが馬車から降りると、ローゼリア殿下が足早に側へ行き、シャーロットの両手をギュウっと握って、『心配しました』と言っていたが、本当は泣いて抱きつきたいんだろう。

 王女は大変だと同情する。

 その様子を横目に見ながら、陛下が私に労いの言葉をくださったが、すぐに王家の方々はシャーロットを連れて戻ってしまったので、私はシャーロットと話ができなかった。

 執務室へと向かう途中、ウィズレッド団長から、シャーロットは酷い火傷をおった私を見たと教えられた。

 そして、完治はできなかったが治癒をかけてくれたとも。

 ウィズレッド団長はそれしか教えてくれなかったが、その後私に治癒をかけた白魔法師は、火傷はかなり酷く、普通の女性なら怖くて逃げるレベルだった。火傷などわからないように治せたから良かった、と面白おかしく話してくれたが、シャーロットは怖くなかったのだろうか。

 シャーロットが私の何を気に入ってくれたのかわからない。今までの私の経験を当てはめると顔なんだろう。しかし、そんな酷い状態を見た後でも、私と結婚したいと言ってくれるだろうか。

 不安は時間が経つにつれ酷くなる。

 結局その日は眠れなかった。

 翌日の午前中、シャーロットを見舞った。

 すっかり元気なのに、ローゼリア殿下からベッドに放り込まれたまま動けない、とシャーロットは苦笑いをしていたが、シャーロットも今回は無茶をしたと自覚があるようで言いなりだった。

 

 ローゼリア殿下が退室し、二人きりになる。

 シャーロットが私の髪や頬を触り火傷の確認をする。


「優秀な白魔法師がいて良かった」


 目で見て触って安心したように笑い、その笑みに私もシャーロットの無事を確認し、やっと安心できた。

 私の頬を触っていた手を取り、その手のひらにキスをして安心したことを態度で伝える。

 

「火傷で酷い状態の私を見て、あなたの心は離れたと思っていました。私は、このままあなたを思い続けても良いのでしょうか」

「倒れているカントを見た時はショックだったけど、その後は助けることしか考えていなかったわ。もう、どんな状態だったかなんて、覚えてない」


 もし、私に恐怖を感じているのなら、婚約していない今のうちに逃げても良い。手放したくないが、これから先のことを考えるとシャーロットにとって最善だろう。私にとっては最悪だが。

 しかし私の言葉に、シャーロットは気にするなという感情を滲ませた言葉を返してくれた。

 シャーロットの指先に少しだけ力が入った。

 その、ほんの少しの動きで、シャーロットが嘘をついたことはわかった。

 しかし、私を拒絶する言葉も態度もない。

 それならば、もう手放そうなどと考えない。

 何があっても離さない。 


「自ら悪魔の生贄になろうなんて、これ以上なく愛を感じますね。ずっと大切にします。愛しています、シャーロット。ただ、これ以上ここにいると、あなたの純潔さえも奪いそうな予感がするので、今日はこれで戻りますね」


 本当は抱きしめたかったが、相手はベッドにいる。

 誰かが入ってきたら、それはまずいだろう。

 瞬時にそう考え、私は軽く口吻をして執務室へと戻った。


 

 直後にあった討伐隊の慰労パーティは良かった。

 デザインはシンプルながら、銀の光沢に碧の刺繍が映える。このドレスを着て私の隣にいてくれたら、もう誰も何も言わないだろう。

 王妃が用意したと聞いた。もう頭があがらない。

 

 二人でいると、貴族達が控えめながらもこちらを見てくる。

 いつもは嫌な視線も、今日は気分が良い。

 誰も敵にはなり得ない、お前達はしっかり目に焼き付けておけ、と思いながらシャーロットとダンスを踊った。

 至近距離で見るシャーロットの笑顔は、いつにも増して美しく愛らしかった。



 シャーロットは、私より十一歳も年下なのに、私を甘えさせるのが上手い。

 書類仕事に疲れた私がシャーロットの部屋へ逃げ込むと、いつも膝枕をしてくれた。

 頭を優しく撫でられ、その心地良さからいつも寝てしまう。

 勿体ない時間だと思うが、この時間がやめられない。

 ああ、早く結婚したい。

 時間を気にせず一緒にいたい。

 

「カント、時間よ」


 時計を壊しておけば良かった。

 う〜んと伸びをして、シャーロットからキスをもらって仕事に戻る。

 よし、頑張ろう。

 


 サンドナが最終目的地である『避暑』は、二人きりになることは少なかったが、それなりに充実していた。

 避暑へ出発する前に陛下から、シャーロットがサンドナでどんな生活をしていたか聞いた。

 町長の息子で幼馴染、それがシャーリーの初恋相手。その男を好きな女から嫌がらせを受けていたと聞いて、その二人から守らないといけないと思い、先触れで訪問予定を伝えた時に、その二人を近づけないようにとも付け加えた。


 シャーロットが育ったサンドナで、マイケル・カイナーゼの墓参りをした。

 シャーロットの育ての親。

 こんなに可愛らしくて素直に育ったのは、この人がきちんと愛情を惜しみなく注いだから。

 魔力暴走からも守り、男達からも守った。

 兄のような存在というリゲルという青年は、兄とは違う熱を持った視線でシャーロットを見ていた。

 しかし、シャーロットにそうと気づかせなかったのは、マイケル・カイナーゼからシャーロットの背景を説明されていたからだろう。リゲルという男は、マイケル・カイナーゼからの信用はあるようだった。

 馬車に乗る直前にかけられた声は、焦燥感を感じた。

 必死に存在を知らせようとする男と、隣に立つ青白い顔の女。

 ああ、これが初恋の幼馴染と嫌がらせをした女か。

 シャーロットはどんな対応をするのかと思ったら、一瞬見た後、すぐに何事も無かったように馬車へと乗り込んだ。

 無視。彼等にはそれが一番堪えるのかもしれない。

 シャーロットの答えに私も倣う。すぐに私も馬車へと乗り込んだ。

 シャーロットの横に座り、他愛もない話をする。その時間が幸せだ。

 

 翌日、シャーロット王女とコンシューリ侯爵の婚約が発表された。

 国中、双子の王女の続く慶事に湧いた。

 




 

 更新は毎日二十一時を予定しています。


 読んでいただき、ありがとうございました。




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