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シャーリーのリスタート  作者: 小松しの


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カント・コンシューリの回想


よろしくお願いします。



 二人が結婚して初めての新年を迎え、邸の中は新しく迎えた『奥様』の存在が喜びを増していた。

 そんなことを知らないシャーロットは、今日も使用人達に声をかける。


「雪が凄いわね。あなたは通いでしょ?道はどうだった?あら、ブーツに雪が入ったの?冷たいわね。新しいブーツあったかしら」


 シャーロットより十歳は上のメイドは、そんな心配をされたのは初めてだと感激している。

 確かに、足場の悪い道を歩いた経験がなければそんな発想はないだろう。

 積雪の経験がなくても、町で平民として育ったシャーロットならではの着眼点。

 そして、その心遣いは使用人達に広く浸透して、今では街中でも『お優しい奥様』と噂になっているらしい。

 

 そう、シャーロットは優しい。

 たぶん私と結婚したのは、その優しさもあったのだと思う。

 



 私は魔力量がかなり高く、普通の女性とは結婚できない状態だった。

 結婚など当然諦めていた。

 恋人になって欲しいという女性は多いが、アクセサリーをコレクションする感覚で私に声をかけているのは知っていた。

 だから、デートに誘うこともないし笑いかけた記憶もない。

 当然だ。アクセサリーは笑わない。

 恋人だという女性の隣に立つだけ。

 つまらない人生だな、と惰性で生きていた。

 そこへ現れたのがシャーロット殿下。

 無詠唱であらゆる魔法を駆使する姿は、その容姿も相まって輝く天使に見えた。

 殿下が雷で丸太を割るたびに、私の心も何かが撃ち抜く。

 この人を逃せない。

 私はその場で求婚した。

 女性から言い寄られるくらいだから、見目が良いのだろうとはわかっていた。

 しかし奢りがあった。すぐに了承されると思ったのに、殿下からは困惑しか感じられない。

 私は一人になってから、何がいけなかったのかと考えた。

 魔法師団付きのメイドにも聞いてみた。


「初めて会った男に求婚されたらどう思う?」

「えっと、困惑ですね。なんのつもりだろうと背景を考えます」

「なるほど。その状態からどうしたら求婚を受け入れようと思う?」

「お相手の為人がわかったら、考えます」

「なるほど」


 どうやら私を知ってもらう必要があるようだ。

 殿下について調べると、毎日ダンスの練習をしているという。

 体が弱く療養していた殿下は、ダンスなどやる体力もなかったのだろう。

 そう考え、殿下の姿を思い出したが、顔色も良く、健康そうに思えた。

 顎のラインはローゼリア殿下よりシャープだったけど、それ以外は健康体に思える。

 なんの病気だったのかは知らないが、健康を取り戻して良かったと思う。

 

 その日の午後、私は殿下がダンスを習うホールへと向かった。

 当然私は呼ばれていない。しかし、扉前で護衛に立つ近衛に、『入るからね』と声をかけると、その近衛は、『え?あ、あの』と言ったきり止めなかった。

 彼は教育が必要かもしれない。

 私は自分が侵入者であるにもかかわらず、警備体制に不安を感じた。


 殿下は程なくやってきた。

 私は殿下の手を引いて、扉を閉めて鍵をかけた。


 予想以上に早くウィズレッド団長が飛び込んできたけど、私は毎日会うという約束だけは取り付けた。

 毎日会って話をしたら、気持ちが近づくかもしれない。殿下が人を疑うことを知らない様子なのは心配だったけど、それは私の入る余地もあるということだと勝手に良いように解釈した。



 ウィズレッド団長がシャーロット殿下の婚約者候補の筆頭だということは想像していた。

 実際にシャーロット殿下の護衛として立つウィズレッド団長は、単なる護衛というよりも自分のものを盗られたくない、という気持ちがまるわかりだった。

 ただ、ウィズレッド団長がシャーロット殿下を見る目にも、反対にシャーロット殿下がウィズレッド団長を見る目にも、特別な愛情が見えなかったのは不幸中の幸いか。

 今は少しでも私のことを知ってもらって、なるべく早くその先まで進みたい。

 私はダンスの練習中、自己紹介として私のことを話した。その中で魔力暴走の話をしたが、それ以降殿下の表情が曇ったのは気になった。

 殿下の魔力量は高い。もしかすると過去に魔力暴走を起こしていたのかもしれない。それが理由で王城から遠ざけられていたのなら、病ではなく危険人物扱いされていたのなら、それはとても悲しいことだ。

 私は両親も周りの使用人達も、魔力暴走を起こした私を愛して守ってくれた。

 しかし、殿下は遠ざけられたのかもしれない。そう考えると、今すぐにでも抱きしめてあげたくなった。

 殿下からは翌日、魔導具がはめ込まれた剣の鑑定を依頼され、軽く話を聞いた。

 私が思っていたのとは違う、マイケル・カイナーゼという近衛騎士が殿下を守った話を聞いて、私は心底ホッとした。


「護衛の対象としてではなく、あなたを大切に守っていたんだね」


 シャーロット殿下を守る人が側にいて、殿下はその人と信頼関係を築いていた。良かった。そう思って出た私の言葉は、殿下の何かを刺激したようで、殿下は静かに落涙した。

 マイケル・カイナーゼという騎士は、既に他界したと聞くが、きっと殿下はその騎士からの愛情を思い出したのだろう。

 殿下はその存在自体が深く愛されてきたと感じられた。それと同時に、静かに涙する姿はとても神々しく見え、私は自分の中の気持ちがはっきりとわかった。

 私はこの女性を愛している。

 この人を守りたい。

 ずっと隣りに居たい。

 しかし私のこの渇望など、誰も信じないだろう。なにせ、私は来るもの拒まず沢山の女性と交際した男なのだから。

 

「ああ、あなたは涙も美しいね」

「歯が浮かない?」

「思ったことを言っただけだよ」


 本当にそう思っているのに、殿下はさらっと受け流す。

 私が初めて好きになった人は、私の言葉を軽く見ている。

 自業自得だとはわかっている。

 でもせめて、私があなたに向かって伝える言葉は本心だと理解して欲しい。

 どうしたらわかってもらえるのか。

 私はその日、ウィズレッド団長とシャーロット殿下が練習しているのを見ながら、これから先のことを考えていた。



 隣国からミハエル殿下が婚約式のために来た時、随行の一団の中にこの国からの留学生で、宰相の甥であるセイヴァー・リッセル侯爵令息がいた。

 

 夕食を国王一家とミハエル殿下が共に取るのはわかるが、リッセル侯爵令息も一緒にという段階で、このご子息もシャーロット殿下の婚約者候補なのだとわかった。

 年齢ならば一番シャーロット殿下に近い。将来を約束された若者は、自信に溢れて見えた。

 

 ある朝、ウィズレッド団長が魔法師団の執務室へとやってきた。


「本日、ダンスの練習が中止となり、殿下は婚約者候補のセイヴァー・リッセル侯爵令息とお茶をされるそうです。ご存知でしたか?」

「いえ、何も」


 ウィズレッド団長もきっと私と同じように、リッセル侯爵令息と並ぶシャーロット殿下を想像しているのだろう。

 ライバルである筈の私のところへ来るなんて、かなり強敵だと思っているのか。

 私としても、リッセル侯爵令息がシャーロット殿下の側にいるのは面白くない。しかも、どうやらミハエル殿下御一行が滞在中の二週間の間、リッセル侯爵令息とシャーロット殿下は交流を深めるように画策されているのだ。

 人を疑うことを知らない無垢な殿下なら、二週間も一緒にいたら流されるのではないだろうか。

 ここはウィズレッド団長と手を組むか。

 私はお茶の時間に乱入し、ダンスの練習へ連れ出すと約束した。


 結果、連れ出すことは成功したが、リッセル侯爵令息もついてきたのは誤算だった。

 しかも、ダンスの練習相手もした。

 リッセル侯爵令息は、的確にシャーロット殿下の不得手な箇所を矯正した。

 さり気なく声をかけているだけなのに。

 二人の息のあったダンスは、私の心を乱した。

 無理なのか。私では駄目なのか。


 気落ちした私だったが、直後に朗報が伝えられた。

 シャーロット殿下が討伐に参加する。

 約一週間、一日中殿下の側にいられる。

 もしも殿下の心がリッセル侯爵令息のものになっていても、少しでも近くにいられるなら、ただ思い続けるだけなら許されるはずだ。

 そう、自分に言い聞かせてみた。

 しかし、誰もが想定しない事態が起こった。

 護衛に誰がつくかとひとしきり揉めた後、信じられないことにリッセル侯爵令息が婚約者候補を辞退した。

 今、誰が見ても一番有力だったのに、気になる令嬢がいるから、と殿下へ言ってのけ、殿下はあっさり受け入れた。

 私もウィズレッド団長も、一番の強敵の退場に呆気にとられた。

 しかもその日の夜、私の元へ王家から届いた知らせは、ローゼリア殿下の婚約式後の舞踏会では、カント・コンシューリ侯爵がシャーロット殿下のエスコートをする、ということだった。

 

 前回の舞踏会では、ウィズレッド団長がエスコートをした。

 またウィズレッド団長がエスコートすると、それはもう婚約者内定の扱いになるということ。

 王家はそれを避けたのだろう。

 それをわかっていても、私はシャーロット殿下と並べる幸せを感じた。

 見ているだけで、ただ思うだけで良いと覚悟を決めたのに、この状況には喜んでしまう。

 この先、まわってくるかわからない殿下のエスコート役。

 まもなくやってくるその日を、私は待ちわびていた。




 

 更新は毎日二十一時を予定しています。


 読んでいただき、ありがとうございました。




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