ローズからの贈り物
よろしくお願いします。
結婚式翌日、目が覚めたのはもうすぐお昼という頃だった。
時計を見た時は見間違いかと思ったけど、夜更かしをした覚えはあるから恥ずかしい。
それより、目覚めてすぐにカントのキラキラとした笑顔を見て、びっくりした。
物凄い至近距離で、『おはよう』なんて言われてキスをされたら、こればかりはこの先も慣れないんじゃないかと不安になる。
カントは私が起きたのを確認すると、ガウンを羽織ってカントの部屋へと向かった。
もちろん部屋の続き扉からで、すぐにトレーを持って戻ってきた。
トレーにはサンドイッチやカットフルーツが用意されていた。
「喉が渇いたでしょう」
そう言ってカントは、コップに入った果実水を渡してくる。
もそもそと起き上がろうとして、自分の状態に気がついた。
パッと布団で隠したら、カントが笑いながら新しいバスローブを私に掛けてくれた。
見えないようにコソコソと袖を通し、前を合わせ、果実水を飲んで少し落ち着く。
カントはトレーを持ってベッドに上がり、『はい、あ〜ん』とフルーツを口元へ持ってきた。
出た、あ〜んだ、と恥ずかしかったけど、誰も見ていないし良いか、と口を開けて食べさせてもらった。
サンドイッチも食べさせてもらい、私が咀嚼している間にカントも食べていた。
あ〜ん、が好きなのかな。凄く嬉しそうに食べさせてくれる。
私も食べさせた方がカントは喜ぶのかな、と思ったけど、腕がだるくて断念した。
少し早めの昼食を終え、カントの手によって湯浴みを終えた。
恥ずかしかったけど、今この状態をマイリーとメイド達に見せるのも恥ずかしかった。
湯浴みを終えると、簡単に着れるワンピースが用意されていたのでそれを着た。
体中に違和感が凄いけど、今日は夕方に宝飾屋が指輪を持ってきてくれる。
そこで最終的なサイズ確認をして、直しがなければ納品となるので、どうしても私がいなくてはいけない。
ぐったりとソファに座り込む私の隣りで、カントはいつにも増してニコニコだ。
魔法師団とはいえ騎士だったカントは、やっぱり体力が違うんだろう。
今もマイリー達は部屋にいない。かわりにカントがお茶を用意してくれた。
いつ用意されたのか、テーブルには焼き菓子もある。
「ほら、これは一口サイズだから食べやすいですよ」
カントがまた、あ〜んをする。
フィナンシェかな。確かに一口サイズで、私は言われるがままに口を開けた。
ああ、美味しい。甘さが体に染み渡る。
私は、よいしょ、と体を起こして、焼き菓子を一つ手に取ってカントにもあ〜んをした。
カントは目を見開いた後、口を開けて私の指ごと口に入れ、私の指を舐めたあとで、『美味しいね』と笑った。
やっぱりこの人、あ〜んが好きなんだな、と確認したところで左手の痣をちらっと見た。
まだ、痣は変わりなく見える。
昨日、教会で書類にサインして提出したから、私はもうコンシューリになっている。
徐々に消えていくのだろうか。
「まだ消えていませんね」
「うん」
「消えてしまうのは寂しいですね」
「うん。ん〜、気になっていることがあるんだけど、カントはずっと敬語なの?」
「ああ、習慣ですね」
「私も言葉遣い気をつけないとね」
「シャーロットはそのままで。私に気を許してくれているようで嬉しいので」
「それならカントも」
「ふふっ、そう?シャーロットが望むならそうしようかな」
「望んでいます」
「じゃあ、そうしよう」
カントはそう言って左指の痣にキスをした。
夕方、宝飾屋が来た時は、それなりに動けるようになっていた。
指にはめてみるとぴったりで、直しはなかった。
この指輪、せっかく納品してもらったけど、暫くジュエリーボックスに寝かせておく。
痣がなくなったらはめようとカントと話していたからだ。
綺麗なピンクゴールドの指輪は、ちょうど痣と同じ太さに作られていて、この指輪があれば痣を思い出すことができる。
カントは、『この痣があったから、シャーロットは城に戻れた。そして私達が出会えた。だからいつまでも残しておきたい』と言って指輪を作ってくれた。
本当にその通り。
カントが指の痣にキスをするのも、毎回感謝をこめているのは見てわかる。
この痣が無くなるのはいつなんだろう。
この痣が無くなっても、カントは私の手を撫でてくれるのかな。
私の左手を撫でるカントを見ながら、なんとなく不安を感じてしまった。
夕食は食堂で食べた。
豪華な内容で、お祝いを兼ねていると執事から説明されて、私はコンシューリ候爵夫人になったと再認識した。
私達は明日領地へ向かうけど、彼等はここでこの邸を守ってくれる。
春になったらここへ戻ってくるから、それ以降彼等の待遇を見てみよう。たぶんカントはちゃんとしていそうだから、あまり改善点は無いだろうけど、それでも不満なくいて欲しいから。
私はお礼を言って、美味しく食べた。
今できるのはそれくらいだから。
夕食後、少しだけ食休みをしてから湯浴みをした。
今回はマイリー達がお世話をしてくれて、やっぱり磨き上げてくれた。
そして用意されていた夜着は、昨日とは違うけど似た物だった。
結婚したら、これが普通なのかな。寒いコンシューリ領でもそうなのかな。
私の疑問は顔に出ていたようで、『コンシューリ領では以前の夜着に似たものをご用意いたします』とマイリーが教えてくれた。
王都限定?よくわからないけど、以前のと同じような夜着なら安心。寝返りうっても風邪はひかないだろう。
明日、領地へ出発するのは午前十時。
その見送りに、ローズが来ると知らせてきたそうだ。
それは仰々しい出発になりそうだ、とカントと溜息をついた。王族が来るということは、それなりの護衛が来るということ。
しかも、ローズは将来の女王だ。
ふらふらと気軽に出歩ける人でない。
明日の出迎えを指示して、『明日は早起きだな』とカントにしては珍しく舌打ちをした。
「カントって、舌打ちとかするのね」
「しますよ、出るでしょう?出発ギリギリまでゆっくりしていようと思っていたのに」
「ギリギリまではゆっくりしすぎよね」
「シャーロット、あなたの為なんだけど?」
「ん?」
その理由は翌朝嫌というほど実感した。
「カントは、手加減とか適当とかという言葉を知らないのかな」
「私はシャーロットにはいつでも全力で向き合う所存です」
「こうなるってわかっていたら、私も全力で逃げたわ」
「逃さないけど?」
今朝もカントの手により湯浴みをして、長旅になるからと楽なワンピースを着た。
そして、移動はカントによるお姫様抱っこ。
使用人達は微笑ましいという視線をくれるけど、それも恥ずかしい。
ダンスの練習を始めた時、筋肉痛で歩き方が変になった。でもメイド達のマッサージで二〜三日後には問題なくなった。
今回の状態は筋肉痛なのかわからないけど、二〜三日で通常に戻るのだろうか。
もう少しゆっくり寝ていたかった。
昨日のカントの舌打ちがよくわかった。
「シャル、ここまでの状態とは思わなかったわ。なんか、ごめんなさいね」
私を見たローズの言葉は、謝罪だった。
ローズは、結婚して二日目には朝から普通に歩けたから、みんなそうなのだろうと思った、とソファに座りながらもカントに支えられていないと上体を起こしていられない私を見て、呆然と言った。
「私こそごめんね。ちゃんと出迎えるつもりだったのに」
「それはいいの。私が見送りたいって思っただけだから。それと、これを」
ローズは側に控えていた侍女に合図をすると、その侍女は持っていた箱をテーブルに置いた。
被せていた布を取り除くとそれは鳥籠で、『通信用の魔鳩よ。コンシューリ領と王城なら、一日かからないはず。育て方はカントが知っているわ』とさらっと言った。
カントはその鳩をじっくり観察していた。
「二人の婚約がととのってすぐに調教を始めたのよ。もうちゃんと仕事はできるって確認済み。ああ、これは私とシャルのプライベート用よ。もう一羽、同じように仕込んだ鳩を私も受け取っているからね」
姉妹の文通の為に魔鳩を調教したのかと、ローズの仕事ぶりに驚いた。でも、それ以上に嬉しかった。
「ありがとう。何かあったらすぐに教えるからね」
「何もなくても連絡してね」
本来ならばありえないけど、ローズは本当に私達を見送ってくれた。
私達の馬車が動き出すと、ローズはじっとこちらを見ていた。
涙が見えたけど拭うこともなく、微動だにせず見送るローズの姿はとてもかっこよかった。
数日後、私達は無事にカントリーハウスへ到着した。
ローズから贈られた魔鳩に、無事についたことを書いた手紙を付けて飛ばした。
きっとこれが正しい使い道。
ローズからも、翌日には魔鳩が手紙を届けてくれた。
無事について安堵しています。とのローズの字の他に、お父様とお母様からも安堵の言葉が書かれていた。
今日のコンシューリ領は雪が降っている。
すぐに止みそうだ、とメイド長が教えてくれた。
この寒いコンシューリ領で、外に鳩の小屋を造るのはかわいそうだ、とカントは自分の執務室の隅に鳩の小屋を作った。
魔鳩に手ずからご飯をあげているカントを横目に、きっと魔鳩を気に入ったんだな、と思ったけど、なんとなく放っておかれている気がしてつまらなかった。
でもそれを言うと嬉しそうに笑って寝室へ運び込まれるから、恥ずかしくて言えない。
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