コンシューリ領見学3
よろしくお願いします。
夜中に目が覚めたのに、朝はいつもどおりに起きた。
身支度をととのえて、朝食前に散歩をしようと庭へ出た。
マイリーが一緒に歩いてくれて、感想も共有して楽しく散歩を終える。
邸へ戻ると、メイド長から食事の用意ができたと伝えられ、食堂へと向かった。
既にカントは待っていて、『散歩はどうでしたか?』と聞かれたけど、私は夜の空気について話した。
「夜の空気が気持ちよくて、深呼吸が気持ち良かったの」
「シャーロット、夜中に外へ出たんですか?不用心な」
「あら、ベランダだし、ここは安全だと思ったのよ」
「何も考えていなかったでしょ」
図星に、『うっ』と返事に詰まってしまい、何か言い返そうと考えているとカントに、『夜中でも私を呼んで』と言われた。
「だって、夜中よ。ほんの少しのことだし」
「では、違う部屋に移動してもらいましょうね」
移動したとて、わざわざ呼びに行くのも面倒なんだけど、と思ったけど、カントの笑顔が反論を許さないと言っているようで、とりあえず黙っていた。
食事が始まる。
昨夜の食事も今朝の食事も、王都で食べる物より味付けがしっかりしていた。
濃いとまでは思わない。その程度の違いだけど、今朝の私は少しだけ残してしまった。
朝はもう少し薄いほうが良いな、と思ったけど、言うほどではないと判断して食事を終えた。
食堂から部屋へ戻ろうとするとカントから、『新しい部屋へ案内します』と手を取られた。
さっきまでは客室だった。他にも客室があるのかとついて行く。
ここです、とカントが扉を開くと、食事中に部屋を調えたようで私の荷物が既に入っていた。
カントは私と手をつないだまま、こっちが寝室でこっちがバスルームで、と案内してくれる。
連れられるまま歩いていたけど、寝室の奥にある扉を開けて、『こっちが夫婦の寝室です』と言われたのは驚いた。
「えっ?どういうこと?」
「そのままですよ。ここは夫婦の寝室です。そしてあの扉から向こうが私の部屋」
とても大きなベッドを横目に通り抜け、奥にある扉を開けると、私用に用意された部屋よりも落ち着いた壁紙の部屋だった。
「ここは私の寝室です。そこからバスルーム、あの奥の扉からは、私が執務室として使っている部屋に続いてます」
奥まで歩いて扉を開けると、確かにシックな作りの部屋で、ソファセットの他に大きな執務机があった。
「部屋から外へ出ることなく、私の所まで来れますから、夜中でも早朝でもいつでも来てくださいね。私としては、夫婦の寝室を使っても良いんですけど」
耳元でこそっと囁かれたけど、そこは即座に辞退した。
私が慌てて拒否したのに、カントは楽しそうに笑う。
からかわれた、と気がついたら恥ずかしくて顔が赤くなる。
「十一歳も下の小娘をからかって楽しいの?」
「からかってませんよ。本当にどちらでも良いんですけど、今のはシャーロットが可愛らしくて、ね」
カントは私の頬を、人差し指の背でするっと撫で目を細める。
やっぱり、からかわれてる気がする。
今日は街を案内します、と言われ十時に馬車へと乗り込んだ。
女性の護衛も馬で移動するということで、馬車の中にはカントと私とマイリーが乗った。
当初、マイリーは留守番組に入ると言っていたけど、コンシューリ領を見ることなんて頻繁には無いだろう。私が無理やり馬車に乗せた。
馬車の中では、私の隣にカントが座り、正面にマイリーが座る。
何か違うと思ったけど、カントが楽しそうだから良いか、とそのまま特に反論もぜずにいる。
十五分ほどすると到着したと外から声かかかった。
しかし、扉を開けることなく、カントが窓にあるカーテンを開けて外を見るようにと促した。
言われるとおりに目をやると、少し離れた所に大きな門があり、長く頑丈そうな塀が続いていた。
「あの塀は、街をぐるっと囲んでいます。塀に沿うように木も植えてあるのが見えますか?塀だけだと重苦しいので植樹してあります。あれらも一種の風雪よけですよ」
随分前に仕事帰りに雪の中を歩いていた男性が、風雪が酷くて前が見えず街から離れた遠くまで行ってしまうという遭難事故があったそうで、塀があれば街から離れた所へは行かないと思い、それも兼ねていると教えてくれた。
どれだけ酷い風雪なのか。
私は興味が湧いたけどカントから、『絶対に駄目ですよ。死んでしまいますから』とキツく言われたので、冬の外歩きはカントから許可が出たらと決めた。
街の外観を見終わると馬車は動き出し、さっき見た門をくぐる。
そこからは他と同じような街の造りで、塀で囲まれているとは思えなかった。
「ここは商業地区と住宅地区です。塀の外には畑もあるので、農業従事者は門から出て畑へ行くんですよ。街の外れには大型の倉庫を造りまして、穀物や日持ちする根菜を保管して、冬は街から出なくても生活できるようになっています。燻製肉も保管してあります」
基本的には各家に大きめの食料備蓄倉庫を造ってあるという。
話を聞けば聞くほど冬が厳しいとわかってくる。
コンシューリ候爵邸は地下に倉庫を造ってあり、使用人が全員邸から出られなくなっても十日は過ごせるように準備すると言っていた。
かなり大きな倉庫だな。帰ったら見せてもらおう。
冬場は絹織物に刺繍をして、雪が溶けたら売りに行くそうだ。最近は、王都でお針子をしていた人が中心になってドレス等も作るようになった、と街の暮らしを教えてもらった。
「そういうことなら、私のウエディングドレスはここで作ってもらえばよかったな」
「シャーロットは聞いてないんですか?あなたのウエディングドレスは、今現在ここで作っていますよ。腕の良い者が選ばれて、毎日一針一針縫っています。王家からの依頼ですから、皆張りきっています」
ウエディングドレスは作成中なので見せられないけど、従業員に声をかけてあげたら喜ぶでしょう、と言われ、私は喜んで工房に向かった。
デザイナーがデッサンしたものをパターンにおこすまでは王都で行い、それ以降はここで仕上げます。そう話してくれたのは、この工房の責任者である四十代の女性。
ここの絹織物が一級品だからできることです。と胸を張ったその人が、王都から来たお針子さんだった。
もともとコンシューリ領出身で、王都へは針仕事の勉強のために行ったそうで、王都の店でも仕事を任せられるようになって十年経ち、そろそろ郷で針仕事の工房を造ろうと戻って来たと言う。
この工房の従業員は、全部で六人。そのうち一人は経理などの書類関係を引き受け、一人は営業、四人がお針子さん。
私はそれぞれにお礼を言って、結婚式に着ることを楽しみにしていると伝えた。
我々のような平民に勿体ないお言葉を、なんて言われたけど、私は平民として育ったからそのへんの線引きがまだあやふやだ。それをなんて言ったら良いかわからず、『もうすぐ私もコンシューリ家の人間になりますから』とはぐらかして笑ってみた。
途端に、『まあ』なんて感激されたのは、恥ずかしかった。
とうぞお幸せに、と祝福された私達は、少し街中を歩くことにした。
歩いてわかったけど、この街は街の中心が高い。小高い丘のような所に街ができている。
雪解け水が自然と流れて街から排出されるそうだけど、カントは他にも何か良い案はないか考え中だと話してくれた。
私も、冬にこの街に来てその様子を見たら、何か思いつくだろうか。
私もコンシューリ領の為に何かできれば良いな、と考えながら街の中を見て歩いた。
昼食は街の中心部にあるレストラン。
さすがに貸し切りだったけど、次に来る時は王女ではないから皆の様子も見ることはできるだろう。
カントは何度か来たことがあるそうで、オーナーと気安く話していた。
ここの料理人は、王都の有名店で修行をして、さらに新しく入る料理人もその王都の店で修行をする。そして、王都の有名店の味とコンシューリ領の伝統料理を組み合わせた料理を提供している。オーナーは料理の説明の時にそう教えてくれて、とても興味深かった。
午後も休みながら街中を見た。
カントは領地を案内しているだけなのかもしれないけど、私はデートしているみたいで楽しかった。
たぶん、はしゃぎすぎたんだと思う。
夜、湯浴みの最中に寝てしまい、マイリーにものすごく迷惑をかけてしまい、翌朝呆れ顔で、湯船で寝るなと叱られた。
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読んでいただき、ありがとうございました。




