コンシューリ領見学
よろしくお願いします。
私達が結婚式を挙げる一ヶ月前からは、本当に自由がきかなくなるようなので、式の三か月前に移動込み二週間の予定でコンシューリ領を訪問することになった。
今では食事時にしか顔を合わせなくなったローズは、『二週間も二人きりなんて、絶対に何かたくらんでるわ。シャル、気を許しては駄目よ』と口酸っぱく言ってくる。
ミハエル殿下は、『シャーロットのことが心配なんでしょう』と苦笑いだ。
気持ちはわかるけど、そもそも二人きりではない。
マイリーがついていくことは決まっている。
他にも近衛と魔法師団から数名ずつ護衛がつく。
そう言うと、『護衛はカントの暴挙を止められないわ』と言う。
はて、暴挙とは。
カントが私に対して危害を加えるとは思えない。
もっとも、その考えは気を許しているということなのか。いや、婚約者に気を許さないでどうする。
あれこれ考えてもわからないことが出てくるだけで、面倒になって考えるのを止めた。
研究所では、日々実験に明け暮れる。
研究所の所員は、魔法師団の中でも柔軟に物事を考える人が集まっている。
それは、物事に拘らない性格ということでもあり、人間関係にも当てはまった。
週末の午後、その日の実験は終わりにして、皆でお茶を飲んでいる時のこと。
「シャーロット様は、コンシューリ所長のどこが好きですか?顔ですか?魔力ですか?」
「そんなこと教えないわよ」
「え〜、恋バナしましょうよ。俺、妹と恋バナしてるんで、聞き上手だと思いますよ」
「もう帰って良いから妹と恋バナしてきたら?」
「妹の恋バナは飽きました。それより、お二人の話が聞きたいです」
「あ、僕も気になってた。いつの間にかコンシューリ所長が婚約者におさまっているんだもん。最初はウィズレッド団長かと噂されていたのにね」
「私が頑張って口説き落としたとは思わないのかな」
「ああ。所長いつもと違いましたもんね。いつもは恋人ができても会うのは月イチくらいだったのに、毎日決まった時間にいなくなるから調べたら、シャーロット様に会いに行ってるって言うんだもん。驚いて顎が外れるかと思いましたよ」
「へえ、カントはそんなに違ったの」
「違いましたよ。毎日会ってあんなに笑顔を見せて。元カノ達の中には笑顔を見たことがない人もいるんじゃないかな」
「元カノ達、ね」
「シャーロット、彼等の言うことは気にしないで。私はあなただけを愛していますから」
「ほら、こんなこと言う人じゃなかったのに」
「シャーロット様、やっぱり恋バナしましょう」
爵位とか役職とか関係ない、仲間としての付き合いは、私にとっては気楽でいられた。
一応彼等も貴族だったりするんだけど、貴族としてのマナーはこの場にはない。
所長も名誉所長も気にしないから、あっという間にこの気楽な会話をするようになった。
そして、この会話にはマイリーとメイド達も加わる。
毎日十人程がテーブルを囲んでわいわい話す。
自然と仲間意識が強くなる。
そしてやっぱり自然の流れか、研究所所属の伯爵令息とマイリーが恋仲になっていた。
あれよあれよと話は進み、ある日二人から結婚すると報告された時は、それこそいつの間に?と驚いた。
二人共跡継ぎではないので、結婚してもこのまま働くと言ってくれたのはありがたいと思う。
マイリーが辞めたら寂しい。
そんな私の気持ちは、きっと二人にはバレていたんだろう。
「シャーロット様、大丈夫ですよ。ずっとお側にいます。目指せ乳母!ね、今の目標です」
なんてマイリーが言ってくれた。
うん。乳母。いずれは必要になるのかな。
魔力量が高い子が生まれても、乳母って雇えるのかな。
「乳母は、魔力量少なくても平気なの?」
「乳母ですか。オムツ替えや寝かしつけは平気でしょうけど、授乳は無理でしょうね」
「やっぱり」
「乳母の手配を考えてくれるなんて、嬉しいですよ、シャーロット。早く子供作りましょうね」
「あ、いえ、そういうことじゃないんだけど」
この手の話を始めると、すぐにカントは夢の世界へと飛んでいく。
だから最近は、迂闊に言葉を出せない。単語を選んで言わないといけないけど、乳母という単語が、『早く子供が欲しい』に変換されるとは思わなかった。
マイリーとメイド達は何食わぬ顔でカップを片付け始め、所員達は仕事の部屋へと戻っていった。
残るはカントと私のみ。
カントは私の顔中にキスの雨を降らせてきた。
ここに配属された人達は空気を読むことに長けていて、それが余計に恥ずかしい。
コンシューリ領へ向かう当日は、残念なことに雨だった。
私とカントは同じ馬車。マイリーと女性の近衛騎士がもう一台の馬車に乗り込んだけど、他の護衛達は馬での移動なのでかわいそうだった。
せめて早く止むとい良いなと願っていたけど、結局宿屋に着いても雨は降り続いていた。
雨のせいか宿屋は部屋を求める客が多く、本当は貸し切りにしていたけど、私達が借りているフロア以外は解約した。
私達は最上階のワンフロア八部屋のみを借り、他の部屋は一般客が通常通り使うこととなったため、食事は部屋まで持ってきてもらうことになった。
カントが私の部屋へ来て、二人で食べることになり、その間に護衛達は交代で食べる。
マイリーも護衛達と同じタイミングで食べる。
こうして一般客も利用する宿屋に泊まるのはハウシシュルへ行って以来だけど、前回も今回も毒見役がついていた。
近衛の一人が他の近衛が見つめる中、毒見をする。
怖い仕事だなと思うけど、こうやって守られているのだから突発的な行動は止めようと、王族としての自覚を持つようになった。
ただ、カントの食事は毒見をしていない。
「私は幼少時から少しずつ慣れされてきましたので」
カントは事も無げに言うけど、少しずつ毒を飲んで慣らされたと聞いたときには怖かった。
翌日は朝からスッキリと晴れ、道に水溜りはあるけど昨日よりは進みも良かった。
王都から南北にはしる広めの道はよく整備されていたけど、コンシューリ領はその道から少し離れていた。
今日はコンシューリ領までの途中にある領地を管理している貴族の邸へ泊まることになっている。
いずれ降嫁するとはいえ、やはり王女が泊まるというのはそれなりにプレッシャーがある分、メリットもあるらしい。
今回宿泊した伯爵家では、私と歳の近い令嬢が前面に出てもてなしてくれた。
カント狙いかなと思ったけど、どうやら今回は私との今後の付き合いを求めていたようで、少なくとも一度はお茶会などに招待しようかと思った。
これからコンシューリ領への往復で、お世話になるかもしれないし。
それに何より、この令嬢には表裏がない感じで好感が持てた。
翌日も晴れ。しかしコンシューリ領へは着かないので、この日は前日とは違う貴族の邸でお世話になった。
これまで三泊していて、移動の馬車はカントと二人きり。
景色を見ながら目についたものについて話をして、それに連なる話をして、時々うつらうつらと船をこいで。
国内が安定していることや近隣諸国とも関係が良好なので、暴徒などに会うこともなくコンシューリ領に入ることができた。
コンシューリ領は東西に広く、今日は領地の西にある別荘に泊まる予定になっている。コンシューリ領のカントリーハウスは東端に近く、ここからは東へ約一日行くとあるそうだ。
別荘とはいえきちんと使用人によって管理、手入れされていて、普通の邸としても遜色なかった。
「この別荘に二日宿泊して、明日は領地の西側を案内します。と言っても、西側は避暑の為の観光客を迎える施設が主なので、領民の生活とは少し離れているかもしれませんね」
今は多くの貴族が避暑に来ているそうで、王女が来ていると知られると面倒なことになりそうなので、馬車から降りるのは昼食くらいだと言う。
ちなみに、今日は町長の家で昼食をいただくことになっているそうだ。
コンシューリ家の別荘は、他の貴族達の別荘と同地域にあり、馬車で約十五分走ると町に出た。
町は綺麗に整備され、真っ直ぐで広い道の両脇に店が並んでいた。
表にある店は観光客が利用するのが主なのか、お土産物や特産の織物の店が多く、所々に飲食店がある。
一本裏に入ると、八百屋や肉屋等、生活する上で必要な店が並んでいて、そこは貴族の使用人もいるし町民もいる。
子供だけで遊んでも安全な公園もあり、なかなか生活しやすそうだ。
何より、子供も大人も笑顔だった。
「皆、幸せそうですね」
「ここは商業地区なので、観光客が来てくれると儲けが出ますからね。忙しいながらも充実しているのかもしれません」
馬車から外を見ながら話すカントは、とても優しい表情で、領民を思っていることがわかる。
「ここから北の地域も、別荘として開発しました。店も少しずつ増えていますから、楽しみですね」
カントはちゃんと領地経営をやっていた。
だからか、こういう町の姿を見ると、安心すると言っていた。
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