バルコニーにて
よろしくお願いします。
私達は王族の中で一番最初に入場し、主役の二人は一番最後。
朝早くから支度が大変なローズなのに、疲れを見せるどころか一段と綺麗だった。
王族の矜持か、幸せの為せる技か。
きっと両方なんだろうけど、ローズとミハエル殿下が踊っている姿を見ると、感嘆の声しか出ない。
カントも静かに二人を見て、二人が踊り終わると私をエスコートしてホールの中へ歩いた。
他の貴族達は出てこなくて、以前お母様が、『双子が並んで踊る姿を見たい』と言っていたのを思い出した。
予め貴族達に通達してあったのだろう。
私とカントがホールに立ってすぐに曲が始まった。
広いホールを贅沢に使って踊る二組を、貴族達は静かに見ていた。
カントは相変わらず優しく笑みを浮かべているし、私も幸せが出まくっている自覚はある。
これでカントへ突撃する令嬢がいなくなればいいけど、と思ったのはどうやら甘かったらしい。
二曲続けて踊った私達は、バルコニーで休憩することにした。
私は果実水が欲しかったけど、バルコニーまで来る途中に果実水が見つからず、カントが取りに行ってくれた。
ソファに座って待っていると、カーテンが開いてバルコニーに戻ってきたカントのすぐ後ろに、初見の令嬢がくっついてきた。
「あっ」
その令嬢は私に気がついて足を止めたけど、すぐに小走りでカントの側へついた。
「シャーロット、はい果実水」
「ありがとう。ねえ、私の出番ってこと?」
「暫く様子を見ましょうか」
私達は小声でコソコソと話していたので、令嬢には聞こえなかった様子。
令嬢は私の隣に座ったカントの正面に立って、もじもじしていた。
「ローゼリア殿下、お綺麗でしたね。私も早くシャーロットと結婚したくなりました」
「私も同じことを考えていました」
カントに合わせて言葉を返し、私達はふふっと笑いあった。
甘い雰囲気を出したつもりなのに、目の前の令嬢は未だにもじもじして顔も見ない。
こんなに近くにいるのに、カントの顔も見ないで撤退するのかしら、勿体ないことを、と漠然と考えていると突然、
「わ、私!カント様の妻になりたいです!」
いきなり叫んだ。
その剣幕に私はビックリしてしまったけど、カントは慣れているのか、『私の妻はシャーロット殿下だ。重婚は許されていないよ』と冷静に返していた。
「それなら側室に」
「側室が持てるのは王家だけだ」
「では愛妾に」
「愛してもいないのに?」
「えっと」
「そもそも、君は誰?君を側に置いて、私に何のメリットがあるのか知りたいね」
「カント様を癒やしてさしあげることができるかと」
「名前呼びを許していないし、そんな無礼な令嬢が私を癒やすなんて無理なことだ。それに癒やしならシャーロットだけで十分」
「で、でも、殿下と白い結婚をなさるなら、私もお側においていただけたら」
「誰が白い結婚だなんて言ったのだ。私達は子供を望んでいる。お前の出る幕はない」
カントはかなりイライラした様子で、とうとうお前扱いをしていた。
いくらバルコニーとはいえ、あまり言い争いはしたくない。さてどうしたものかと考えても、良い案は出てこない。
沈黙の最中に、バルコニーとホールを仕切るカーテンが少し開いて、知らない男性がちらりとこっちの様子を探っているのが見え、ああ、父親に命令されたのかと同情した。
同情はしたけど、父親ごと諦めてもらうのも難しいなと思っていたら、カントの顔が近づいてきた。
ん?と思った時には口吻されていた。
二・三回チュッチュッとされた後、少し顔が離れ、『早く結婚したい』とはっきり口にしたカントはまた口吻をした。
先程とは違う大人な口吻で、内心、見せつけるだけにしてはやり過ぎだと焦る。
実際令嬢から、『え?』という困惑の声が聞こえたけど、私はカントからの口吻に翻弄されて、それ以上はわからなかった。
私には長い時間に感じた口吻が終わっても、令嬢はその場に立っていた。
「まだいたのか。もっと見たいのか?」
「カント、恥ずかしいからやめてよ」
さすがにこれ以上見せるなんて、私の心臓がもたない。
慌ててカントを止めたけど、令嬢はそれよりも、『口吻されたのに、狂っていない』とそればかりを口にしていた。
「シャーロットは、私と同程度の魔力量だから狂うはずがない。お前はどうだ?狂うか狂わないか、試してみるか?」
カントはニヤリと笑った。
初めて見るカントの悪い顔に私は焦って、『他の人とキスしたら駄目』としか言えなかった。
カントがパンパンッと手を叩くと、警備の近衛がやってきて令嬢を連れて行った。
カーテンの向こうでは、父親と見られる男性も連行されたようだった。
こうなることを予測して、警備と打ち合わせしてあったのか。
まさか本当に突撃する家があるとは思わなくて、そして何もしないうちに方がついたことに呆然としてしまう。
バルコニーには、私とカントが残されていた。
「他の人となんて口吻しませんよ」
優しく私に言って顔を近づけるカントに、私はさっき引っ掛かった言葉を投げつけた。
「カント!私がカントの側にいるメリットは?」
カントがさっき、『君を側に置いて、私に何のメリットがあるのか知りたい』と言ったことが気になっていた。
メリットがあるから私と結婚するのか。
愛情ではなかったのか。
カントは一瞬ポカンとしたけど、すぐに何を聞かれたのかわかったようで、『シャーロットが側にいると、私は幸せを感じるんだ。それがメリット』と言ってやっぱり口吻をされた。
やっぱり長く感じた口吻の後、ぼうっとしたままさっきのことを考えていた。
近衛が連行するっていうことは、罪になる何かがあったということ。
それは何だろう。
「ねえカント。何で近衛はあの人達を連行したの?」
「あれは、王女の婚約者を誘惑して操ろうとした、いわば国家反逆罪の容疑ですね」
「え?」
とんでもない罪状に、私は目が覚めた。
カントの肩にもたれかかっていたけど、思わずガバっと起きあがってカントを見る。
カントはクスクス笑いながら私の肩を抱いて、『国家反逆罪をちらつかせて、お説教で終わりますよ。ただ、彼等はスケープゴートになるけどね』と教えてくれた。
あの令嬢は今後の人生終わったようなもの。
少しだけ同情したら、『そもそもすぐに引き返したら、こんな大事にはならなかったんだ』と説明された。
どこかの家が突撃することは想定していたけど、しつこい場合のみ連行する予定だったという。
あの令嬢が私達の口吻の最中に立ち去っていたら、呼ぶつもりはなかったとカントは言っていた。
「ああでも、シャーロットからのヤキモチは案外良いものですね。他の人とキスしたら駄目。グッとくる殺し文句でした」
カントは楽しそうに笑う。
私は恥ずかしくて、誤魔化すために果実水を一気に飲み干した。
後日、『国家反逆罪の容疑者親子』について詳しく知らされた。
父親は男爵。最近事業が上手くいかず、金銭面で苦労していた。
コンシューリ侯爵は領地経営も順調で羽振りが良いことを知り、王女の婚約者ではあるけど愛人がいる貴族は珍しくないので娘を焚き付けて突撃させた、ということだ。
娘は父親から言われて仕方なく、ではなくて、わりとやる気に溢れていたらしい。それなのにいざカントを誘惑しようと思ったら、想定外の私がいて、頭の中で作戦を練り直しているうちに連行されたらしい。
バカバカしい。
同情したあの時間を返してほしい。
私は自分の甘さにも苛立った。
結局彼等は牢で一泊して、翌日の夕方に帰されたそうだ。
それぞれが長時間お説教されたとのことで、もう仕掛けることはないだろうとカントは教えてくれた。
そして、スケープゴートは本当のことらしく、貴族内では実名が流され容疑内容も噂されているらしい。
割に合わないな。
客観的に見るとそう思う。
でも、私の目の前でカントにちょっかい出そうとしたのは、全く許せない。
もしまた同じようなことが起きたら、私が対処しなくてはいけない。
どうしてやろうか。
最近は研究よりも、そっちばかり考えていた。
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