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シャーリーのリスタート  作者: 小松しの


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37/49

語彙欠乏を確認


よろしくお願いします。



 アンナリエと建物をぐるりと一周して、執務室へと戻った。

 カント達はまだ話の最中だったけど、私達が部屋に入ると、『ああ、いけない』と話を切り上げた。

 そして二人は、『またゆっくりと話しましょう』と言い帰って行った。


「どこに行っていたんですか?」

「この建物の外をぐるっと一周しました。あ、バラ園があったの。カント知っていた?」

「ああ、見つかってしまいましたか。もう少ししたら満開になるから、そうしたらお連れしようと思っていたのに」

「あれ、カントが指示したの?」

「シャーロットに喜んでもらおうと思ってね。ああ、残念。あなたの喜ぶ顔が見られなかった」

「まだ蕾だったから、満開になったら連れて行って。楽しみにしてる」

「シャーロットは、私を喜ばせるのが上手ですね。わかりました。満開になったら二人で、ね」

「うん」


 あのバラ園はそういうことで造られたのか。

 カントが庭師に指示しているのを想像すると、とっても嬉しくなった。

 

「シャーロット、あなたが城へ戻って一年経ったでしょう?その記念も考えたんです。ただ、開花が少し遅れてしまってね。ああ、重ね重ね残念」


 今年は冬が長くて、春の訪れが遅かった。それが開花を遅らせたらしい。

 でも、カントが私のことをいつも考えてくれているのがわかって、さらに嬉しい。


「カント、ありがとう。私も何かお礼がしたいわ。どうしよう。何か希望とか、ああ、でも聞かない方が良いのかな」

「シャーロット、あなたのその気持ちが嬉しい。でも良かったら以前約束したとおり、今年の夏は一緒に領地へ行ってもらえますか?少しゆとりをもって領地を見て欲しい」

「それで良いの?それはできると思うけど、それだけで良いの?」

「今はそれで十分」


 なんだかしっくりこないけど、今はそれでと言うのだから、また時間をおいて考えようと思う。

 ちなみに、以前望まれた刺繍は、研究所の制服のシャツの襟にコンシューリ家の紋章を入れてプレゼントした。

 今はハンカチにも紋章を刺繍している。

 もうすぐ出来上がるので、次が決まるまではこれで許してもらおう。

 

 


 ローズとミハエル殿下の結婚式は、朝から雲ひとつなく良く晴れ、二人のこれからを祝福しているかのような青空だった。

 教会で式を挙げた後、オープンタイプの馬車で約一時間パレードがあるので、今日の天気は本当に良かった。

 ローズも、そんなに青空に負けないくらい澄んだ美しさを見せ、私は感動して、『凄い。綺麗。おめでとう』しか言えなかった。

 今更だけど、自分の語彙力の無さに肩を落とす。

 朝から城の中は高揚感が溢れていて、支度にも力が入った。

 それは例外なくマイリーとメイド達にも伝わり、私に向き合っていた。

 慣れたと思っても、やっぱりコルセットは辛い。

 マイリー達は、『これ以上締め付けたら死ぬ』というギリギリを攻めつつ、若干の緩さを最後に与えて締めた。

 ドレスを着て化粧をし、髪を結っているとカントが迎えに来たので、ソファで待ってもらった。

 カントは私を見て、『半年後が楽しみですよ。今日も美しいけど、きっと私だけのシャーロットはもっと美しいからね』と今日も絶好調だった。

 本当はそれに突っ込みたかったけど、話し始めるとマイリーの邪魔になるので、何も言えなかった。残念。

 

 支度が済んだので、カントと教会へ向かう。

 半年後、ここで私達も式を挙げる。

 そう考えると感慨深いものがある。

 一度、正面の外観をじっくり見てから中へ入った。

 既にほとんどの参列者は揃っていて、後は国王夫妻を待つだけ。

 その二人もすぐに入ってきた。

 さすがにプライベート空間ではないから、国王と王妃という雰囲気を全面に出し威厳があった。

 私も王女らしく姿勢を保つ。

 カントも先程までとは違い、ピシッとしている。笑顔もない。

 皆、婚約式の時よりキッチリしている。

 私は雰囲気にのまれてしまったのか、緊張感が凄い。

 落ち着かなくて、でもそれを知られないように『落ち着け』と暗示をかけていたけど、全く効かなかった。

 ほんの少しだけ小さく息を吐いたけど、それだけでカントには伝わったらしい。

 そっと手を繋いでくれて、優しく握ってくれた。

 カントを見上げると、少しだけ笑みを見せてくれて、そのおかげで落ち着くことができた。

 


 結婚式は三十分程で恙無く終了した。

 ローズ達は教会前で馬車に乗り、パレードが始まる。

 参列者は二人を見送って解散となり、私達は城へ戻った。

 今日は近衛騎士総動員なので、警備対象を少なくする為にお父様、お母様、カント、私の四人は同じ馬車に乗った。

 騎士団長のダグラスは、ローズ達のパレード担当で、今日の私達の護衛は珍しく魔法師団がついている。

 魔法師団といっても、女性の白魔法師以外は剣も扱える。

 ただ、剣より攻撃魔法の方が得意というだけなので、護衛としても問題はない。

 無事に城に到着し馬車を降りると、城での護衛兼待機組だったリカルドが、お父様とお母様についていた。

 魔法師団はここまで。

 カントは魔法師団の人達に声をかけて労って、その後で私を部屋まで送ってくれた。

 


 当然のようにカントは私の部屋へ入り、ソファへ座った。


「ああ、緊張した」

「え?カントも緊張していたの?」

「勿論。だけど、シャーロットと手を繋いだら落ち着きました」

「私も」


 笑い合っている私達の前にマイリーはお茶を用意して、部屋から出ていった。

 コルセットを緩めて欲しかったけど、この後もお祝いの夜会もあるから、その時もコルセットをギッチリ締め上げることになる。

 今緩めなければ時間短縮になるから良いか、と考え直し、カントの隣でお茶を飲んだ。

 

「シャーロット、痩せ過ぎじゃない?ちゃんと食べてます?」


 カントは私のウエスト辺りを見ながら聞いてきた。


「あ、これはコルセットで締め上げているからよ。ちゃんと食べてます」

「そう?細くて心配になる」

「大丈夫よ。コルセットの力技だからね」

「コルセット、苦しくない?夜会までには時間があるでしょ。緩めなくて平気?」

「正直言うと少し苦しいけど、マイリーも出て行っちゃったし、我慢するわ」

「私がコルセットを外しても良いんですけど······ふふっ、困った顔をしないで。誰かを呼んできますよ」


 カントは笑いながら部屋を出ていった。

 コルセットを外すって、素肌を見せるってことよね。

 私が、『お願い』なんて言おうものなら······

 ポンッと顔に熱を持ったのがわかって、両手で顔を隠しているとマイリーが入ってきた。

 

「どうしました?お顔が赤いですね」


 マイリーのその言い方は何もかもお見通しのようで、さらに恥ずかしくなった。

 

「コンシューリ侯爵は夜会の前にお迎えに来ると言って、今はお帰りになりました。律儀ですね。まだ時間はたっぷりあるのに」


 マイリーのあけすけな物言いに私はさらに恥ずかしくなって、体中が赤くなってしまった。


「あら、少し刺激が強すぎましたか。すみません」


 笑いながらの言葉に、全く悪いと思っていないという心の声が聞こえたようで、なんとも複雑な気持ちになった。

 反論できない。

 反論の言葉が咄嗟に思いつかない私は、まだまだ勉強不足なのかもしれない。

 こういうことは、誰に師事すれば良いのかわからないけど、今は流しておこうと決めた。


 コルセットを緩めて、ほんの少しお昼寝をした。

 昨夜から緊張の為、何度か目を覚ましていたので、昼食を食べたら瞼が重くなってしまった。

 実際に寝ていたのは二十分くらいだったけど、頭はとても冴えた。

 今夜は舞踏会。

 週に何度かマイリーに付き合ってもらって復習しているから、かなり余裕は出てきた。それに、今はコンシューリ侯爵の婚約者なので、お誘いはほとんどないと思う。

 もっとも、カントに秋波を送る令嬢はまだいるらしいので、そっちに気をつけないといけないのかもしれない。

 今日は下位貴族もいて、その中にはカントの妾になりたいと考える家があるそうで、カントからは事前に離れないように釘をさされていた。

 『王女の婚約者になってもモテまくるのね』と言ったら、『むしろそれで箔が付きました』と苦笑いをされたのは昨日のこと。

 隣りにいるだけで良いのかしら。

 語彙力がないことは、今日再確認してしまったけど、それでも何か会心の一撃になるような言葉は用意した方が良いのかな。

 夜会用に贈られたドレスに着替えている時もずっと考えていたけど、迎えに来たカントと会場へ向かう今になっても、これだという言葉は見つからなかった。

 何もなければ良いのか。

 さすがに王女の結婚祝の夜会で、双子の王女に喧嘩を売る令嬢はいないだろう。

 私はカントと舞踏会を楽しむことにした。





 更新は毎日二十一時を予定しています。


 読んでいただき、ありがとうございました。




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