友達できた
よろしくお願いします。
研究所が動き始めても、私の本業は『王女』。
名誉所長として落ち着いて実験に参加しようにも、目前に迫る『ローズの結婚式』の準備もあった。
ドレスを作ったり、アクセサリーなどを選んだり。意外とやるべきことはあった。
もちろんローズの比ではないけど、こんなに私自身も動くのかと驚いた。
カントも私の婚約者として挙式に参列するし、その後の夜会にも出る。
準備はできているのかと聞くと、『男は意外とやることはない』と言う。
ただ、私の夜会用のドレスは、もう依頼してあるから近く届くはずです、と言われ、なんだか嬉しくなった。
研究所では、私とカントは同じ部屋に机を並べ、研究所の所員は別に少し広めの部屋を使っていた。
男女別の休憩室と皆が使える休憩室。そういう部屋もあり、割と手厚い施設だと思う。
総勢八名なのに建物は大きいし、部屋は広いし多いし、まだあまり埋まってない書庫も広めに作ってある。
そして目の前は練習場。
環境はとても良い。
一日も早く落ち着いて、ここでしっかり魔法に向き合いたいけど、ローズの結婚式が終わったら、今度は私達の結婚式が半年後にある。
そっちは主役になるから、私もカントもやることはそれなりに増える。
私はあがってきた書類を綴じて、『う〜ん』と唸った。
「シャーロット様、休憩なさいますか?」
私と一緒に研究所へ出勤しているマイリーが、苦笑いを浮かべながら声をかけてきた。
「う〜ん、そうね。お茶にしようかしら。カントも休める?」
「うん、すぐに終るから先に休んでいて」
私はソファへと移動した。
マイリーは私付きの侍女ということで、研究所へも私と一緒に出勤しているし、結婚後は研究所の名誉所長付きの侍女となる。
私の部屋付きのメイド達も、結婚後は研究所のメイドに異動すると決まっている。
彼女達と一緒にいるのは楽しいので、それを聞いたときは嬉しかった。
メイド達も喜んでくれて、その決定を聞いた日は部屋での話はいつまでも尽きなかった。
「何か悩み事ですか?」
書類を机に置いたカントが、こちらへ歩きながら聞いてきた。
「そうね。いつになったら落ち着いて研究できるのかなって」
「魔力増幅については、確認したいとかやってみたい事とか紙に書き出してください。結婚後、どんどん進めましょう。結婚までは落ち着きませんからね」
「やっぱりね」
「私は魔法師団長から研究所長に変わって、かなり楽になったけど、シャーロットは仕事が欲しくて仕方ないみたいですね」
「仕事が欲しいというより、早く試してみたい、見てみたいというのが正しいかな」
「魔法が好きなんですね」
「そうね」
そう。私はパーティで討伐に行く時は、いつもワクワクした。
討伐対象の魔物に出くわした時、ピンポイントで魔物の急所に攻撃できるか、狙い通りに魔法を繰り出せるか、そういうことだけを考えていた。
それが今でも染みついているのだと思う。
頭の中で、『こうしたらどうだろう』とか『あのレベルはどうだろう』とか、常に考えている。
そして、それだけを考えて実験できる仕事をもらえたのに、結婚するまでは落ち着いて向き合えないのだから気落ちしても仕方ないことだと思う。
「あ〜あ。早く結婚式終わらないかな」
早く研究にとっぷり浸かりたいと思って出た言葉は、誰もそうは捉えなかったようだった。
「シャーロット、嬉しいよ。私も早く結婚したい」
「シャーロット様!幸せオーラが出まくってます!」
カントに肩を抱かれて、頭に額にとキスがチュッチュッと降ってくる。
言葉が足りなかったんだな、と反省しつつ、カントの気が済むまで、されるままでいた。
キスの雨がいつもより早く終わったのは、来客があったからだった。
いよいよ十日後にあるローズとの結婚式の為に、昨日ミハエル殿下が到着していた。
セイヴァーも一緒に帰国して、セイヴァーの隣には可愛らしい奥様がいた。
こちらへ帰国する直前にあちらで結婚式を挙げてきたと言い、今日はご挨拶に、とわざわざ二人で出向いてくれた。
「お時間をいただき、ありがとうございます。これは妻のアンナリエです」
「こちらこそ。疲れているでしょうに、わざわざありがとう」
私はアンナリエに向かって微笑みを浮かべながら労りの言葉を伝えた。
アンナリエは、うっすら頬を染めながら、『シャーロット殿下とお目にかかることができ、光栄でございます』と返してくれる。
なんだろう。可愛い。この言葉を言い終えた後、やりきった、という表情でホッとしたのが見えて、女の私でも守ってあげたくなる人だ。
「セイヴァー、恋のライバル多かったんじゃない?」
「わかりますか?私一人では限界があったかもしれませんが、ミハエル殿下が援護してくれましてね。なんとか良い答えをいただけました」
そう言ってアンナリエを優しく見つめたセイヴァーに、アンナリエは嬉しそうに笑みを返していた。
幸せそうな二人を見ていると、こっちも幸せになる。
ニコニコと見ていたら、二人はハッと気がついたようで、俯いてしまった。
気にしなくていいのに。この部屋の侍女もメイド達も耐性できているんだから。
あえて言わないけど。
「そ、そういえば、シャーロット殿下がセイヴァーの背中を押してくれたと聞きました。ありがとうございます」
「そんなにたいしたことはしていないけど、二人が幸せそうで良かったと思います」
「いいえ、感謝してもしきれないです」
「では、これからは私とも仲良くしてもらえますか?」
「勿体ないお言葉です。ありがとうございます」
私も半年後には侯爵夫人になるから、お茶会等は開くことになるだろう。
その時によく知る人がいると心強い。
アンナリエとは仲良くなれそうな気がするし、交流を深めたいと思える人と知り合えて良かったと思った。
私がアンナリエと話している間、カントはセイヴァーと話をしていた。
セイヴァーは宰相の甥で、将来は宰相になるだろうと言われているだけあって、頭の回転が早い。
私が聞いてもすぐには理解できないような内容の話を、二人はどんどん進めていく。
時々声を出して笑ったりして、どこに笑うポイントがあったのかわからなくて、私とアンナリエは場所を変えて話をしようと席を立った。
本当は庭園とかあれば良いんだけど、練習場と周りは林。それでも木陰は気持ちいいのでそこで歩きながら話をした。
アンナリエはやっぱり不安が大きかったと言う。周りは誰も知らない人達だけの中にポンッと入るのは怖かったと。
そんな時に、セイヴァーから私の話を聞いたそうだ。
平民として育てられ、ある日突然王女になった。
覚悟を決める時間はなく、王女としての教養を身につけるように必死だった。
それでも、前向きに頑張っているシャーロット殿下なら、きっと力になってくれる。
そう言われて、セイヴァーからの求婚を受けたという。
求婚を受けた直後には、『良かった。国の秘密を話してしまったから、これで断られたらどうしようかと思いました』とセイヴァーが戯けたそうだけど、本当それ。誰にでも言って良い話じゃないんだから。
「シャーロット様は、お心がお強いのですね」
「私は······私は強くないです。でも、周りの人達がいい人ばかりだったから、私は今、こうしていられます。次はそれを他の人へ返す番ですね」
そう。私は強くない。だからサンドナを逃げ出した。たまたま結果が良かったけど、環境が違っていたらどうだったのかわからない。
ぼうっと考えながら、研究所の周りを歩いていたら、普段行かない場所に小さな薔薇園があった。
これ、前は無かった気がする。
植えたばかりなのか時期が早いのか、蕾しかなかったけど、一輪だけ風魔法で切って、棘も風魔法で落としてアンナリエに渡した。
「私からで色気も無いけど、今日の出会いを記念して」
「ありがとうございます。嬉しい。私、魔法は得意じゃなくて······ああ、もっと一生懸命勉強しておけば良かったです」
アンナリエが目を輝かせて喜んでくれて、私も嬉しかった。その姿を見て、勇気を出して言ってみた。
「私は血筋だけは王女ですが、平民として育ちました。こんな私でも良かったら、お友達になってもらえますか?」
アンナリエは目を見開いて暫く止まっていたけど、ぱあっと花が咲いたような笑顔を見せて、
「勿論です。こちらこそお願いします」
と言ってくれた。
二人でふふふっと笑って、どちらも照れ隠しをした。
勇気出して良かった。
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