区切りをつけて
よろしくお願いします。
護衛の騎士が教会内部を確認し終わって、私とカントは中へと入った。
護衛は建物の外にいて、教会の中には入らない。
私達が入ると、既に三人の友人達とリゲルが待っていた。
「黙って出て行ってごめんね」
私はシャーリーに戻って話しかけた。
皆、顔を見合わせて困っている。
やっぱり、黙って出て行ったことは許せないけど、王族相手に失礼はできないということなのかもしれない。
ここは早々に引き揚げるべきだろう。
「これ、お詫びの気持ち」
皆に用意してきた物を渡そうと思ったけど、私が一歩前に出ると皆一歩後ろへ下がる。
それを見て私は諦めた。
「私が渡してきましょう」
カントが剣と三人に用意したブレスレットの入った小箱を持ち、さっと四人の前へ歩き出す。
四人は一瞬戸惑って行動が遅れたせいか、カントはさっさと渡した。
渡し終わると私の横に戻ったカントは、『そんな顔しないで』と私の頬を撫でてくれた。
「ありがとう」
カントにお礼を言ってから皆に向き合って、『ごめんね。それじゃ』と手を振って踵を返した。
ああ、やっぱり駄目だったか。俯いてしまいそうになる私を、カントが優しく頭をポンポンとして慰めてくれた。
扉に手をかけようとした時、『シャーリー!』とリゲルの声が聞こえた。
振り向くと、『シャーリー、今幸せか?』と聞いてきた。
「うん、幸せよ」
「そうか、それなら良いんだ」
「皆が守ってくれたって、教えてもらった。それなのに、何も知らなくてごめんね」
「俺達は、お前が元気で幸せなら良いんだ」
「シャーリー、私達何も知らなくて」
「二十歳になったら教える決まりがあったって聞いた。私も知らなかったんだもん。みんな知らなくても当然だよ。でも、仲良くしてくれてありがとう」
「シャーリー、私達、今もシャーリーを好きだよ」
「ありがとう。私も大好き」
友達三人が私に近寄ってきたので、私も駆け寄った。
四人でギュウッと抱き合って、皆泣いた。
怒っているとか嫌いになったということではなくて、友達が王女だったということに戸惑っていただけだと言われた。
私がいなくなってすぐに、城から調査としてリカルドが来た。その後情報は解禁され、年齢関係なく町人が知ることとなった。
そして今回、城から私がここへ来ることを知らされ、教会で会いたいと言われたことで、『知らなかったとはいえ、馴れ馴れしかったと叱責されるのでは』とビクビクしていたそうだ。
「そんなこと絶対にないのに」
「だって、いきなり友達が王女だって言われたのよ。こんなことってある?」
「そうよ、みんな混乱しちゃってさあ、もうミーシャなんて顔面蒼白。自分のしたことを何とか無かったことにしようとしてたわよ」
「無理なのにねぇ」
懐かしい名前が出て、そこで私がパーティを抜けたことを思い出した。
「リゲル、突然パーティ抜けてごめんね」
「それは仕方ないことだろ。俺はマイケルさんからシャーリーを守るように言われたけど、実際ミーシャの嫌がらせからは守れなかったし」
「それは気にしてないわ。傷も綺麗に治してもらったし」
私は傷のあった左脇腹をポンポンと叩いた。
「それにしても······キラキラね」
友人がカントをちらりと見て、うっとりと言った。
「ああ、そういえば紹介していなかったわね。こちらはカント・コンシューリ侯爵。魔法師団の団長で──」
「シャーロットの婚約者です」
カントが私の腰に手を回して、微笑みながら言葉を繋いだ。
途端に黄色い悲鳴があがって、教会の扉から護衛の騎士がなだれ込んできたのはご愛嬌。
もうそろそろ時間だと声がかかり、離れ難かった私達はギュウッと抱き合いながら、『幸せにね』『また、会いたい』と口々に言いながら、後ろ髪をひかれつつ教会を出た。
教会を出ると、そこからは王女としての立ち振る舞いだ。
協会の扉から馬車までは約五メートル。道を作るように護衛が立っていた。
私はカントと馬車へと歩く。
乗り込む直前に、『シャーリー!』と叫ぶサイラスの声が聞こえ、思わず顔を向けてしまった。
サイラスの横には顔面蒼白のミーシャがいた。
ミーシャを守るためには、私に声なんてかけない方が良かったんじゃないかな?と思いながら、私は何事も無かったように視線を戻し、馬車へと乗り込んだ。
すぐにカントが乗り込んできて、扉が閉まる。
馬車は程なく動き出した。
本当は隣の八百屋の家族とも、町長のおじさんおばさんとも話をしてお礼を言いたかったけど、あまり時間をとれないということで、お礼の品に手紙をつけた。
馬車が町を出る。
私はやっと一つの区切りができ、前向きな気持ちになれた。
「シャーロット、表情が良くなりましたね」
「カントのおかげだわ。ありがとう」
「私は何もしてませんよ。良いお友達をもって幸せですね」
「本当に」
数か月前の早朝、この道を通って王都へ向かった。
自分が何者かなんて知らずに。
私は今、あの時とは違うけど、でも確かに幸せを実感している。
目の前にいるカントは、私を優しく見守ってくれる。
いつも、私の欲しい言葉を欲しいタイミングでくれる。
「シャーロット。侯爵夫人になったら、またサンドナヘ行きましょうか?」
ほらね。
絶妙なタイミングに、頬が緩む。
「連れてきてくれる?」
「勿論。シャーロットが望むならいつでも、いくらでもね」
私はカントの横へ移動して、カントの肩に頭をあずけた。
「幸せになりましょうね」
「うん」
寝るつもりはなかったけど、安心感からかウトウトしてしまった。
カントはずっと、私の肩を抱いていてくれた。
私とカントの婚約は、城へ帰った翌日に国民へ発表された。
婚約式の日取りもあわせて伝えられ、国中が賑やかになったそうだ。
私達の婚約式の半年後にローズの結婚式。さらにその半年後には私達の結婚式。
暫くは祝賀ムードが続きそうだ、とマイリーが教えてくれた。
マイリーもメイド達も城の敷地内にある建物内で寝起きしているけど、休みには街へ出掛けているので、街の雰囲気や噂話等は身近らしい。
最近は町で娯楽劇を見たそうだけど、それは明らかに私とカントが主役だったそうだ。
「体の弱かったお姫様が、魔法の国の王子様の愛で健康を取り戻して末永く幸せに暮らしました、って話で、申し訳ないんですけど微妙だなと笑えました」
マイリーは笑いを堪え、口元を引き攣らせながら教えてくれた。
王子様の愛で健康を取り戻すって、本当に微妙。それは聞いてるだけでも笑える。
目の前で見たマイリーは、さぞや笑いを堪えるのが辛かっただろう。
「でも、見ている人達は、皆感動していましたよ。まあ、話のあらすじを言うとこんな感じですけど、実際はちゃんと感動劇に仕上がっていましたし」
この話のどこに感動があるのだろうか。
王都では二ヶ月上演しているというから、一度は見てみたいものだ。
愛の力で健康になったお姫様の劇を見てみたいとは思ったけど、この人と二人でなんて思わなかった。
なぜカントと見に行く予定が組み込まれている?
絶対に目立つ。
そしてバレる。
こっそり見たいのであって、こんなに目立つ人と一緒に行ったら周りの視線が刺さること間違いなしだ。
「シャーロットは、私と街へ繰り出すのは嫌ですか?」
「嫌じゃないけど」
嫌じゃないけど目立つでしょ。
なんてことも言えずに言葉を探していた。
暫く私の様子を見ていたカントは、『仕方ない』と言って自分の頭をちょんと指で叩いた。
すると髪色が銀色から茶色に変わり、一見すると下位貴族のように見える。
「色、変えられるの?」
「シャーロットも目立つから、お揃いにしましょうね」
カントは私の頭に指をちょんとすると、どうやら私の髪色も茶色に変わったらしい。
マイリーやメイド達が『わぁ』と感嘆の声を出していた。
鏡で見たら、ちょっと羽振りの良い商人の娘っぽく見えた。
色を変えるだけで雰囲気も変わるものなのだと感心した。
私達はお忍びで使う、古くて小さめの馬車に乗って街へ出た。
「ねえカント、街でその言葉遣いはちょっと違和感があるわね」
「じゃあ、少しだけくだけた言い方にしましょうか」
「そうね」
「じゃあシャーリー、今日は楽しもう」
突然の『シャーリー』にドキッとしてしまったけど、『シャーロット』『カント』と呼び合っていたらバレるから愛称で、と言われ納得した。だけど、カントの愛称は今までもなかったそうで、どうしようかと悩んだ末に、『じゃあ、旦那様?』と私が提案すると、カントは一瞬目を見開いた後、とても良い笑顔で、『それが良い』と言った。
今日は新婚夫婦のお出かけ、という設定に決まり、街歩きを楽しむことになった。
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