お墓参りをあなたと
よろしくお願いします。
お父様とカントの話し合いはあったようで、婚約式は四ヶ月後に決まった。
ローズの婚約式から半年弱。
国民は、王族が結婚するとお祝いとしてお祭りを楽しむので、あまりに近すぎると国民の楽しみが半減するし、一年後にするとローズの結婚式があるので、真ん中をとって日を決めたとお父様から言われた。
そして今年の夏は、王都より東にある海沿いの街ハウシシュルへ避暑に行くことも伝えられた。
「ハウシシュルへ三日滞在し、帰りにサンドナ経由で王都へ戻る。シャルの他にはカント、カイナーゼ侯爵及び侯爵の二人の息子達」
墓参りの為だけに表立ってサンドナヘ行けないから、こうして『ついで』という形にしてくれたのだろう。
実際に行くと決まるとやっぱり気が重い。お墓参りをするのが目的だけど、けじめはつけなくてはいけないな、と気持ちを奮いたたせた。
カイナーゼ家の二人のご子息には、まだ剣を渡せていない。
お父様にそのことを言い、近いうちに渡したいと相談すると、ハウシシュルへの避暑の話をするついでに渡せばいい、カイナーゼ侯爵と二人のご子息が近く登城する用に手配すると言われた。
剣は魔導具付きなのでカントに説明してもらう予定としていたので、日程が決まり次第カントへも伝えておくと言われた。
二ヶ月後にサンドナヘ行く。
こんな形で戻ることになるとは思わなかった。
勝手に黙って出てきたことがこんなに重く感じるとは思わなかった。
けじめだと思っても、なかなか苦しさからは逃れられなかった。
「最近、何か悩みでも?」
いつものようにお茶に来たカントが、私の顔を覗き込んでサラリと聞いてきた。
「最近、時々表情が抜け落ちる時がありますね」
カントといてもそんな時があったのか、とちょっと慌てた。
討伐の書類関係は全て纏まり、最近はゆっくりと過ごす時間が増えた。
だから何か感じるものがあったのかもしれない。
私が城に戻るまでのことは、大雑把ではあるけどカントに説明してあった。だけど、黙って出てきたことは話していなかったのでそれを話し、サンドナヘ行った時に友人や町の人達の感情が気になる、と心情を話した。
カントは暫く考えて、『例えば、教会へ立ち寄ってお祈りをしたい、と先触れを出しておいて、そこへご友人に来てもらうとか』と提案してくれた。
教会なら多少なりとも目眩ましにはなるかもしれない。サンドナの教会はあまり大きくないから、危険も少ないだろう。でも······
「友達が、会ってくれなかったら······」
「王家の要請を断ることはできませんからね。会うことはできるでしょう。そこからは人払いをして、シャーリーとして話をするんです。シャーロット王女ではなくね」
確かに不敬罪として処罰されるより、会いたくなくてもその場へと向かうことを選ぶだろう。
その場でシャーリーとして謝る。それでも許してもらえないなら、それはもう仕方がないこととして諦めるしかないのかもしれない。
「そう、そうね。それが良いのかもしれないわね」
「どうしても気になるのなら、先に私が潜入して様子を見てきましょうか?」
カントの提案は、謹んで辞退した。
こんなキラキラな人があの町に行ったら、絶対に目立ってしょうがない。
大人達が注視するのが目に見えている。
とりあえずサンドナを出る前に会った友人達に、教会で会いたいと言うことを伝えることにした。
その際人払いをするということで、護衛としてカントが側にいると言ってくれたけど、友人達がカントに見惚れて話に集中できない気がした。
それはそれで仕方がないことか。
午前中の授業は終了し、最近の私は一日刺繍をしたり本を読んだりしていた。
討伐で周りに沢山心配をかけたので、大人しくしようと決めたのと、やはり王女の振る舞いということも考えたからだった。
ソール伯爵夫人へ贈るケープへの刺繍は、既に終わりプレゼントした。とても喜んでもらえて、頑張って良かったと思い、今はイッシュラル子爵へのプレゼントに刺繍をしている。
イッシュラル子爵へは、無難ではあるけどハンカチにした。
お父様とお母様、ローズへのプレゼントも考えている。
カントは、『最後でも良いので私にもくださいね』と言うので、結婚前には贈ろうと思う。
何を贈ろうか。そんなことを考えているのも楽しい。
そんな落ち着いた日々を送っていると、あっという間にハウシシュルへの出発間近になった。
私は荷物の中に、友人達、町長一家、隣の八百屋の家族への手土産を用意して、もう一つ、リゲルへのお礼も用意した。
カントは一振りの剣を見た時に何か言いかけたけど、フッと息を吐いただけで何も言わなかった。
「この剣はね、お世話になったお兄ちゃんみたいな人に渡すのよ。あの町を出る前の日も、ご飯を食べさせてもらったの」
カントにいらぬ心配をかけないように、不安要素は減らしていこうと思って話した。
カントはいつも、私の様子をよく見て話をしてくれる。私がカントに心を掬い上げてもらったことは、一度や二度ではない。私もカントをちゃんと見て、あなたの必要な言葉をかけることはできるの。私は、そう思いながら話しかけた。
私のそんな気持ちが顔に出ていたのか、カントは『話してくれてありがとう。シャーロットがその剣を渡す時、私の心が黒い霧に包まれなくて済みそうですね』
と言いながら、優しく抱きしめてくれた。
私の気持ちが正しく伝わったのが、言葉や行動でわかって嬉しい。
「ねえカント、これからも沢山話をしましょうね」
「そうですね」
二人で笑い合う。サンドナでは常にカントは隣にいてくれる。きっとうまくいく。そんな気がして、初めて行くハウシシュルも楽しみになった。
ハウシシュルは、空気が違った。
潮の香りだと教えてくれたのは、カイナーゼ侯爵だった。カイナーゼ侯爵の領地も海沿いということで、海での遊びも教えてくれた。
今回は教えてくれた遊びは予定に組み込まれていないけど、一度経験するのも楽しそうだなと思った。
ここでの食事はシーフードがメインで、王都では食べたことがない料理もあった。
貝を生で食べるなんて初めてで、こわごわ口にすると甘みがあってとても美味しかった。
王都までは輸送の関係で、生では食べられないと説明されて残念に思ったけど、またぜひ遊びにいらしてください、と言われたので、いつかまた来たいと返事をした。
ハウシシュルは新しい経験が多く、全ての予定を楽しんでいたらあっという間にサンドナヘ向かう馬車の中。
ハウシシュルからサンドナへは馬車で三日。
途中の宿泊地は過去にも王族が泊まったことがある場所で、宿屋も慣れた感じだった。
カイナーゼ侯爵の二人のご子息は、少し前にプレゼントした魔導具付きの剣を持ってきていた。
まだ体に対して大きい剣だけど、今回はカントも同行するということで、山積みだった聞きたいことを宿屋に入るたびに質問していた。
カントも丁寧に答えていて、宿屋では三人が一緒にいるのがいつもの光景となっていた。
カントは無駄な言葉はないので、聞いていてわかりやすいんだと思う。
二人はカントの姿を見つけるとすぐに寄ってくるので、私はカントと二人きりになるということはなかった。
ほんの少し寂しかったけど、カントが子供にも優しいというのが嬉しかった。
朝九時に出発した我々は、十四時にサンドナヘ着いた。
馬車は墓地の近くでとまり、私はカントのエスコートで墓地へと向かう。
前をカイナーゼ家の三人。少し離れた周りには護衛がいる。
さらに護衛から離れて町の人達がこちらを見ていた。
町の人達は声を出さない。とても静かな中、私達はお父さんのお墓の前へ歩いた。
三人は花を供え、頭を下げている。
きっと、何か話しかけているのだろう。暫く動かなかった。
三人は頭を上げると、場所を私とカントに譲る。
カントはお墓の前で、さも当然のように膝をついた。
「カント、汚れるから」
「お嬢さんとの結婚の報告ですからね。きちんと礼を尽くさないと」
カントは頭を下げて何やらブツブツと言っていた。
最後に立ち上がると魔法師団の敬礼をした。
「ありがとう、カント」
私はカントと場所を変わってお父さんへ向き合う。
私は今、王女としてここにいる。だから、膝はつかない。でも、話したいことは沢山ある。
頭の中で早口で言い切ったけど、かなり時間をとらせたかもしれない。
最後に、『ありがとう』と声に出して終わりにした。
カントはまた私をエスコートして、今度は私とカントだけ教会へ向かった。
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読んでいただき、ありがとうございました。




