銀色のドレス
よろしくお願いします。
暫くするとローズがお母様と戻ってきた。
ローズは、『今日一日安静にしていたら、明日からはベッドを出ても良いわ』と言ってくれた。
少し不服そうだけど、それは私を心配していたからだと理解している。
そのこともあわせて『ありがとう』と言ったら、また泣きそうな顔をした。
お母様は、『今後について話をしようと思ったのに、カントはもう戻っていたのね』と苦笑いを浮かべた。
討伐から帰ったら、婚約について話を進めると言っていたからそれか、と思い出し、もう少しひきとめても良かったのかと思った。
お父様がダグラスを護衛につけただけで私を自由にしたことは、お母様も私が城を出てから知ったそうだけど、お母様からはローズほどお説教はなかった。
ただ一言、置き手紙でもいいから欲しかった、と言われただけだった。
今回、討伐での死者はなく、怪我人は白魔法師が治した。
私達が城へ戻った後、徹底的に近辺を調べていた魔法師団から魔鳩が飛ばされて来て、ドラゴンの塒は他にはなく、ドラゴンの番がたまたま良さげな穴蔵を見つけたのだろう、との結論になった。
明日にも討伐隊は帰城予定で、詳しくはその後になるらしい。
きっと討伐隊が戻るとそのことでカントは忙しくなるだろう。
お母様は今のうちに少し話をしておこうと思ったのかもしれない。
「全てが落ち着いてからでも、私は全然かまわないから」
「あら、そうなの?でもこれから婚約式をして、結婚の準備をしてとなると、どのみち早くても一年半は時間がかかるわ」
「私はそれでも良いけど、ローズが結婚したら私はどこかへ移動したほうが良いんですか?」
「それは大丈夫。ローズは暫く別宮に住むから」
別宮は、ミハエル殿下御一行が泊まった離宮だ。
どんな建物なのか知らないけど、きっと結婚して暫くは二人きりでという配慮なんだろう。
「私は別宮から通うから、あまり変わらないわ」
ローズは嬉しそうに微笑んでいる。
ローズは女王となるために、学園を卒業したら本格的に仕事を始める。ミハエル殿下は王配になるために、同じように仕事を始める。
別宮から王城へ通うことになるけど、城の敷地内にある別宮からも馬車を使うそうだ。
カントは魔法師団長だけど、侯爵位を継いでいる。ご両親が病で立て続けに他界された為だった。
以前、侯爵としての仕事はどうしているのか聞いたら、ちゃんとやっているとドヤ顔された。
転移が使えるから、移動の時間が省略できる。その分、侯爵としての仕事をこなしていると言われ、器用だなと思ったことを思い出した。
その時に、『シャーロットが望むなら、二人で領地に籠もっても良いですね』と言われ、それも良いかな、と思った。今、カントはどう思っているのだろう。
その辺もきちんと話をしないといけないな、とボンヤリ考えた。
コンシューリ家の領地は、王都より北。冬は長いけど、夏は避暑地として人気があり、観光産業が盛んな土地だったと記憶している。
結婚したら二人で領地に籠もって、時々お父様達も遊びに来る。それも楽しそうだなと、結婚に現実味が出てきた今、考える。
明日の討伐隊の帰還式には出席してね、と言いおいて二人は部屋を出ていった。
翌日、帰還式は十五時からあった。
私とカントが並んでいるのを見た魔法師団員は、皆一様に安堵の表情だった。
あの団長と王女が傷病者用の馬車に揺られて帰城なんて、きっと色々な意味で恐怖を感じていたことだろう。
私は心の中で謝った。
今回は、きちんと当初の目的の魔鹿も駆除して、ドラゴン討伐で得た物の他、魔鹿の肉もお土産で運ばれて来た。
これはきっと、慰労パーティで振る舞われることになる。
国王陛下であるお父様は、労いの言葉をのべた後で、明日の夜、慰労パーティを開くと言った。
お城はパーティばっかりだな、とは思ったけど、今回のはお疲れ様の会なので、飲んで食べて楽しんで欲しい。
私もカントがパートナーで出席することになった。
まだ婚約式がいつになるか決まっていないけど、これからは毎回カントがエスコートして、周りに周知させると言われている。
婚約式は国内に広めるための儀式のようなものだけど、貴族達には何回か隣に立てば勝手に理解するから。お母様はそう言って慰労パーティのドレスを用意していた。
カントは髪も瞳も銀色だから、私の瞳の色である碧を使って刺繍をする。とお母様は、お城勤めのお針子さんに依頼した。
お針子さん達は今頃、本当に寝る間を惜しんで仕事をしてくれている筈だ。
お針子さん達は、慰労会なんてあるのだろうか。
一度、主催してみようかな。
慰労パーティ用にお母様が用意してくれたドレスは、銀の布地に碧をふんだんに使った刺繍。
何回も立たなくたって、これだけで貴族達へ効果がありそうな一着だった。
エスコートしてくれたカントは式典用の騎士服だったけど、式典用なので飾緒も勲章もキラキラしている。
この人、頭の先から足の先まで光っているな、と思ったけど、私のドレスを見たカントは『ああ、これは感激ですね』といつも以上に甘く微笑んできた。
笑顔すら眩しい。
慰労パーティなので、立食形式で食事は沢山用意され、楽団も音楽を奏でて踊りたい人は踊るもよし、という自由なものだった。
参加している貴族は若い人が多く、気楽なパーティを楽しんでいるようだった。
カントは常に私の横にいて、ダンスは二回踊った。
飲み物を持ってバルコニーへ出たけど、これは興味本位の視線を向ける貴族達から避けるためだった。
「ウィズレッド団長じゃないのか、という視線が多かったですね」
「二回続けてカントがパートナーだし、このドレスだから決定だと思われたんでしょうね」
カントの横でこのドレスだから、ほとんどの人は驚愕していた。きっと私の魔力量を知らない人達ばかりだから、そのこともあるのだろう。
カントに見合う魔力量を持っていないと、気がふれるか白い結婚。病弱で療養から戻ったばかりの王女が、そんな魔力量の持ち主なのか。それとも王家は白い結婚前提なのか。
そんなことを考えていた人が多かったと思う。
視線がいつも以上に刺さった。
その視線を避けて、バルコニーへと避難した。
バルコニーに用意してあったソファに座ると、カントは『このドレス、結婚する時に持ってきてくださいね』と囁いた。
カントは帰還式の後、書類仕事が多くなって目が疲れると言い、しばしば私の部屋でお茶を飲みながら愚痴を言った。何かかわいそうだなと思ったら、『ちょっと休ませて』と言ってゴロンと横になり、所謂膝枕をする形になった。
まあ、好きな人に甘えられている感じで嬉しいから、何も言わずに膝を貸した。
十五分たったら起こして、と言われたけど、まさか本当に寝るとは思わなかった。
カントは静かに寝息をたてて、無防備に寝ている。
十一歳も歳上なのに、可愛なあと思ってしまう。短くなった銀の髪を指先で撫でるけど、寝息は変わらず聞こえてきて、気を許してもらっているのだと嬉しくなる。
カントは忙しいけど、私は平和な日常が戻ってきて、しかもとても幸せだ。
この人がいるからだと思うと、自然と笑みが浮かぶ。
結婚までは時間がかなりある。
それは決まり事なので仕方ないし、できればカントの負担にならないように進めたい。
でも、今みたいな穏やかな時間は毎日でも欲しいと思う。
「カント、時間よ」
約束の十五分になったので、少し小さめの声でカントを起こす。
起きなくても良いな、と思っていたけど、カントの寝覚めは良かった。
うっすら瞼を開けて、また目を閉じたら『う〜ん』と伸びをした。
それからおもむろに座り直し、『おはようのキスをして』とねだられた。
お昼寝から目覚めてもおはようなのかな、とは思ったけど、チュッと頬にキスをしたらとても嬉しそうな顔をされた。
それが嬉しいと思うと同時に、こうしてどんどん好きになっていくんだろうなとも思う。
だけど、それで良いんだろうな。
「婚約式の前に、サンドナヘ行ってお墓参りをしましょう。シャーロットと結婚すると報告をしたい」
カントからの提案は、嬉しくもあり不安でもあった。
誰にも何も言わずに出てきてしまった。
そんな私が、突然王族として戻ったら。
そう考えると気が重くなる。
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