初期化されまして
よろしくお願いします。
結局決まったのは
・セイヴァーを候補から外すこと
・ダグラスは筆頭ではないということ
・カントについては黙認
黙認ってなんだろう。
賛成はしないけど、反対もしないってことなのかな。
誰も教えてくれなかったから、想像するしかない。
今、晩餐が終わり部屋への移動中。
今夜もセイヴァーはいた。
たぶん毎日いるんだろうけど、候補から外れたことは伝わっているので双方気が楽。
部屋へ戻る間際には、セイヴァーからお礼も言われた。
考えが甘いと叱られても、やっぱり好きな人と結ばれるのが一番だと思うから、ぜひセイヴァーには意中のご令嬢とうまくいって欲しいと強く願う。
今日はなんだか疲れたな、早く寝たいな、と思っていたけど、マイリーもメイド達も目が輝いている。
ダンスを始めてから恒例となったマッサージをしてもらっていると、『シャーロット様、どちらになさるんですか?』と聞いてくる。
あの場にはマイリーしかいなかったから、きっとマイリーが話したんだろう。
「マイリー、駄目じゃない?」
「はい、すみません」
「絶対に話しちゃ駄目なことなんだからね。他所で話さないでよ」
「はい!」
元気な返事の後、沈黙が流れて『ああ、これは私の返事待ちか』と気が付いた。
「決まってません」
「あら、そうなんですか?」
「まだ決まってません。本当です」
「てっきりコンシューリ団長に決めたのかと思いました」
「熱烈だったんですよね。あのコンシューリ団長から思われているなんて、素敵です」
「き、決まってないから、想像で話しちゃ駄目よ」
「この部屋の中で、この顔ぶれなら良いですか?」
「う、ん、まあ、そうね」
マイリーもメイド達も、手は抜かずに話に花を咲かせる。
器用だなと感心した。
私が一人だけ気持ち的に落ち着かなくても、時間は過ぎ、あっという間にローズの婚約式当日。
婚約式は教会で誓いをたて、二人が書類にサインをした。
私達はそれを見届け、神へ祈りを捧げて終了。
時間にすると三十分を少し過ぎたくらいで終わった。
ローズは華麗だった。
ミハエル殿下の隣にいてとても幸せそうだったし、早く結婚式が見たいと思ったけどそっちは一年後らしい。
でも、頻繁にミハエル殿下はこちらにいらっしゃるそうで、それは良かったと思う。
私はこの城に来て一ヶ月ほどだけど、すっかり王族の席に慣れた。
後ろを近衛騎士がついて歩くことにも慣れた。
ただ、慣れたと思っていたカントに対しては、初期化されたようだ。
これから婚約式のお祝いの舞踏会に向かうのだけど、迎えに来たカントから『今日も美しいね、私の愛しい人』なんて言われて、白粉をもっとのせてくるべきだったかと思う程、頬が紅潮したのを自覚した。
で、その私を見たカントの嬉しそうな笑みを見ると、今度は動悸が激しくなる。
今日は何か失敗するかもしれない。
なんだかフワフワしてる。
ローズの大切な日だから、絶対に失敗したくないのに。
王族の入場となり、扉が開いて私とカントがまず先に入場した。
私達の姿を見た貴族達が、拍手をしながらも少しざわついた。
たぶん、前回はダグラスだったのに今日はカントだったからだろう。
それでも続いてお父様とお母様が入場したので、すぐに落ち着いた。
最後にローズとミハエル殿下が入場した時は、祝福の拍手が暫く鳴り止まず、二人もそれに応えるように手を振っていた。
うん、こっちも幸せな気持ちになる。
お父様が、二人の婚約が調ったことを伝え、まずローズ達がダンスをする為にホールへ降り立った。
二人のダンスを見ている時、『綺麗ね』と思わず呟くと、『私にとっては、あなた以上に綺麗な方はいませんよ』と耳元で囁かれた。
体中が熱をもったのに気が付いたけど、平静を装って『今日も絶好調ね』と睨みつけたら、『そんなに可愛らしく見つめられるなんて、嬉しいですね』と返された。
睨んだんだけどね。
ファーストダンスが終わり、『では私達も』とカントに誘われホールへと降り立った。
ああ、顔見て踊れるかしら、と心配していたけど、カントがカイナーゼ家へ贈る剣の話をしてくれて、すっかり気持ちは先日の打ち合わせの内容に持ってかれた。
仕様書はあの打ち合わせの二日後に手元に届いた。
石については、良さそうなものが見つかったと、昨日遅くに連絡が来たそうだ。
二週間弱で納品できると言われて、早めにカイナーゼ家のご子息に渡すことができそうでホッとした。
カントは剣をプレゼントする時について行って、魔導具について説明したいと言う。
今のカイナーゼ家は、魔力を持っているのがご子息達だけなので必要なことだろう。ありがたく了承した。
「シャーロット様とのダンスは、いつも業務報告ですね」
「ああ、そういえば」
「今度は共通の話題を探しましょう。それも楽しいと思いますよ」
そう言われて、確かに楽しそうだと思った。
ぜひ、と頷くとカントも嬉しそうに微笑んで、そのタイミングで曲が終わった。
礼をすると、すぐ側にダグラスが来て、『次は私と』と手を差し出された。前回の逆パターンだわと思って、その手を取る。
カントは何も言わずに、その場から去った。
なんとなく、寂しかった。
ダグラスは、カントと何を話していたのか聞いてきたので、カイナーゼ家への剣の話をしたと答えた。
「ダグラスは私とカントが何を話したのか、いつも聞いてきますね」
「目の前で、気になる人が自分以外の男と楽しそうにしていると気になるんですよ」
「ふふっ、ダグラスは言うことがカントに似てきてますよ」
「私は、今現在はわからないと申し上げましたが、このまま交流を続ければ、将来はシャーロット様が望むような夫婦になれると思っているんですよ」
「なぜそう思うんですか?」
「私が少しずつシャーロット様に惹かれているからです」
「交流をやめれば、冷めていくわけですね」
「寂しいですよ、そんな想像は」
「明日からはダンスの練習もありません。気持ちが落ち着いてもかまいませんよ」
「コンシューリ団長に決めたんですか?」
「まだ決まってません」
「では、まだ私にも希望があると思っても良いのでしょうか」
「私からは何とも」
「望みがあるなら諦めません」
無理に好きにならなくても良いのにな、と思ったけど、お父様が誰を選ぶのかわからないから、何とも答えられなかった。
曲が終わって礼をすると、やってきたのはセイヴァーだった。
次のダンスはセイヴァーと。
セイヴァーからは、『新しく練習したステップが上手く踊れていた』と褒められ、アドバイスが良かったとお礼を言った。
そして私は、意中の令嬢と上手くいくように祈っていると伝えた。
セイヴァーは少し照れたように笑い、相手が隣国の伯爵令嬢であること。ミハエル殿下がこちらへ来る時に自分も戻ってくるので、それまでには婚約したいと話してくれた。
「それなら、こちらでお目にかかることができるんですね」
「そうなるように頑張ります」
「楽しみにしてますね」
セイヴァーとのダンスは、前向きな話しばかりでとても楽しかった。
セイヴァーとのダンスが終わり、側に来たのはカントだった。
カントの手を取った時、なんとなくホッとできた。
カントは自分用にシャンパンを、私用に果実水を受け取り、バルコニーへ連れて行ってくれた。
「はあ、休める」
「さすがに三人続けては疲れますか」
「疲れたわ」
「少しゆっくりしていきましょう。ホールではシャーロット様は注目の的です」
「嫌だわ。今日はローズが主役なのに」
用意してあったソファに座ると、カントはいつものように横に座る。
うん、慣れた。慣れたのよ。
心の中で暗示をかける。
カントは私の心の中がどうなっているのかお構い無しに、私の顔を覗き込むようにして微笑む。
「やっとあなたを独り占めできる」
自分の気持ちが誰に向いているのか自覚したばかりの私には、その顔とその言葉でまた気持ちを持っていかれた気がした。
咄嗟に返事ができなかった私に、カントは『体調が悪い?』と聞いてきた。
体調は悪くない。ただ、カントの存在が心臓に悪い。今もドキドキが凄い。
「体調は、平気」
「熱っぽい」
カントは私の頬に手を当てて言う。私を見る目元には憂いが見える。
そんな表情も素敵だと思う。
「いったい、どうしたいの?」
私の、本当に本当に小さい声だったのに、しっかり拾ったカントは目を見張って、しかし直後に破顔した。
「結婚したい」
ああ、もうどうしよう。
走って逃げ出したい。
だけどいつの間にか腰を抱かれて逃げられない。
どうしよう。
心臓の音が聞こえそうで気が気じゃない。
恥ずかしい。
「シャーロット様、顔を見せて」
さっき私の頬で熱を測っていた手が、私の顎に移って私の顔を少し上向かせた。
きっと赤くなってる。
私は恥ずかしくて目を逸らした。
「シャーロット様、目を見て」
うう、恥ずかしい。きっと、私の気持ちなんてバレてる。
「ね、目を見て」
私は恐る恐るカントに視線を合わせた。
思った以上に近くにあった銀の瞳に、私はその美しさに見入ってしまった。
「大切に、愛し続けます。だから──」
更新は毎日二十一時を予定しています。
読んでいただき、ありがとうございました。




