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よろしくお願いします。
セイヴァーは、『驚きました』と言っているけど、表情はかわらない。
さすがに将来の宰相候補というところか。
さっきのダンスの指示を見ても、この人は冷静に状況を分析できる人なんだなと思う。
だから、聞いてみることにした。
「私は、私を好きな人と将来を共にしたいんです。ご自身の立場とか将来のこととか抜きで、私を選ぶという気持ちがあるのなら、婚約者候補として名前を残してください」
セイヴァーは私の目を見て、真意を探っているようだったけど、ほんの数秒の後、はっきり言った。
「それなら、私はご辞退申し上げます。私は気になる令嬢がいますので」
「お、おまえっ」
宰相は慌てていたけど、お父様が手で制していた。
「わかりました。正直に答えていただいて、嬉しいです。ねえ、ダグラスとカントも同じよ。これまで我慢してきたとか、これを逃すと他にいないとか、そういうの無しで考えてほしいの」
私はダグラスとカントもふるいに掛けることにした。
これで誰も残らなくても、私はかまわないと思っている。
いきなり町育ちの娘が『婚約者候補です』と現れても、困惑するのは貴族側。平民は恋愛対象にはならないはず。雇い主から『候補に入っているからね』と言われたら、嫌とは言えないだろうから、セイヴァーが断った今のタイミングで言うべきだと思う。
「お父様、断られても今まで通りか、それ以上に重用してくださいね。これは私の我儘なので」
一応お父様にことわっておく。皆に聞こえるように少し大きめの声で言ったから、側にいるダグラスとカントだけでなく、離れて立つメイド達にも聞こえているはず。
さあ、どちらが先に答えを出すのか。
ローズはミハエル殿下と手を握ってじっとこちらを見ていた。
ダグラスは少し下を見て、一生懸命考えている。その様子を見たカントが『まず私から』と手を上げた。
「私はね、ご存知のように結婚には制約があるんです。正直、ずっと諦めていました。そんな時にシャーロット様に出会えたんです。初めて会って直ぐに求婚しましたね。あの時はこの人しかいない、と思いました。でもあの後、ちゃんと結婚について考えたんですよ。毎日シャーロット様と会って、話して。ほとんどは魔法についてか魔導具とかだったと思いますけど。でも、その話の中で、シャーロット様の優しさとか愛情深さとかに触れて、私はあなたを好きになりました。あなたが無詠唱で魔法を操れなかったとしても、あなたと手を握ることしかできなくても、私はあなたが良い。私はあなたと添い遂げたい」
なかなか熱い告白だった。
私はカントを見て聞いていたけど、途中から顔が赤くなってきたのは自覚していた。でも、目を逸らしたらいけない気がして聞いていた。
熱く思いを伝えてくれたカントは、ほんの少し照れたような顔をした。
初めて見る表情だ。ちょっと可愛いと思ってしまう私は、流されているのかもしれない。
「私は······」
ダグラスが口を開いた。
相変わらずほんの少し下を見たまま、考えながらという感じで、たぶん考えがまとまっていないけど、カントが終わったから自分の番だと思って話し始めたのだろう。
「私は、シャーロット様は可愛らしいと思います。話をしていると、愛らしい方だとも思います。好きか嫌いかでわけるなら好きです。ただ、それはシャーロット様が求めるものなのかわかりません。ゆっくりと向き合えば、シャーロット様が望む形になるような気はしますが、今はどうかと言われると、わからないと答えるしかありません」
これはダグラスの正直な気持ちなんだろう。
公爵令息で、前から婚約者候補筆頭と言われてきた人がここまで言うのは、勇気が必要だったと思う。
「ダグラス、正直にありがとう。カントも、なんというか、ありがとう」
私がお父様とお母様を見ると、二人は頷いて『じゃあ、今日はこれで終わりね』とダンスの練習を終わらせた。
だからといって、あの話の後で私は解放されるはずもなく、国王の執務室へと連行された。
今、執務室にはお父様とお母様、ローズと宰相がいる。メイドと騎士は下がらせた。
さっきの話についてなんだろうな、とは思うけど、皆が眉間にしわを寄せて考え込んでいる。
これはまず宰相に謝るべきかと思い、私が先陣を切った。
「シュバイス宰相、ごめんなさいね。セイヴァーは素敵な方だと思ったけど、三人を一人に絞るには色々と難しくて」
「いえ、シャーロット殿下。セイヴァーが候補に残ったというだけでも私は嬉しく思っております。ただ、辞退するにももう少し違う理由を、と」
「あら、正直で素敵だと思いましたよ。ぜひ、そのご令嬢と共に歩まれると良いなと思ってます」
「ありがとうございます」
シュバイス宰相はやっと笑顔を取り戻し、表情が緩んだ。
「それで、二人に絞られましたけど、シャーロット殿下はどちらが良いとお思いですか」
「······難しいです」
「どの点がでしょうか」
「ダグラスの答えは、私も納得できるんです。好きか嫌いかで言えば好き。だけど私は、将来の二人の姿が想像できない。カントの答えは、まあ、熱意はわかったし、嬉しかったというのが正直な感想。ただ、これはローズが言う絆されたとか唆されたとか、そういう類のものなのか、全くわからないんです」
ローズは突然自分の名前が出たせいか、私を見た。私は客観的な目で見た感想を知りたくて、ローズに聞いた。
「ねえローズ、私は唆されたのかな。嬉しいって思っちゃったけど」
「あんなに熱烈な言葉をぶつけてきたら、それはやっぱり嬉しいでしょう」
ローズは『気に食わない』という表情が隠せていない。ローズはダグラスに一票だったものね。
ローズは憮然としたまま続ける。
「ただね、今までカントは、女性に対してあんなに熱烈な言葉を言ったことはないのよね。だから、カントの本意がわからないというか」
「カントは沢山の女性と付き合っていたんでしょ?ああやって口説いていなかったの?」
「カントはね、一度も口説いたことが無いのよ。ああ、勿論噂で聞いただけだから、本当かどうかは知らないわ。でも私が聞いているのは、女性から告白されたら断らないってだけね」
ローズが思い出しながら話す。
口説いたことが無い人があんなに熱烈な言葉を私にくれたのは嬉しいけど、その後の告白されたら断らないってところでなんとなくモヤモヤした。
魔力量がわかるまで手を握る程度のお付き合いだったと言っていたけど、心から好きな人はいなかったのだろうか。それこそ、手を握ることしかできなくても添い遂げたいと思える人。そういう人は、今までにいなかったのだろうか。
そんなことを考えると、またモヤモヤする。
このモヤモヤはいったいどんな感情なのか、それすらわからなくて情けない。
なるべく周りに気づかれないように溜息をついたけど、やはりバレバレだった。
「私は、やはりカントに任せたいわ」
お母様が真顔で言う。
「今、ローズが言っていたけど、カントがあんなことを言うのは初めてなのよ。それだけシャルを求めてくれているのよ。きっと大切にしてくれるわ。浮気の心配もないし」
「確かに浮気の心配は無さそうね」
それについてはローズも認めた。魔力量の問題だからか。
「シャルは、カントとの将来は想像できるのか?」
お父様が聞いてきた。
う〜ん、と頭の中で想像してみると、意外にちゃんと穏やかな生活をしている気がする。
今まで、ソファに並んで座って話すことが多かったからか、これからもそうやって話を聞いてくれそうな。
それを伝えると、皆が顔を見合わせていた。
変なことを言ったのかしら。
「これは何?刷り込み?」
「いや、やはり距離の近さは大切なのか」
「カントの作戦か」
「嫌ぁ、やっぱりカントの手のひらで転がされてる」
口々に感想を言っているけど、ローズが言った『手のひらで〜』というのがもしかするとピッタリなのかもしれない。
「でも幸せなら転がされても良いけどな」
ポツリと呟いたら、皆がぎょっとした顔で私を見た。
え?おかしいのかな?
「もう、答えじゃないのか?それは」
お父様が私にそう言ったけど、私は答えたつもりはなかったので首を傾げてしまった。
「つまり、カントとの将来は想像できるわけでしょ?それが、カントの手のひらで転がされていた結果でも良いってことなら、それはシャルはカントを······」
「えっ?そ、そうなの、かな」
私の話を穏やかに聞いてくれて、合間合間に私が無意識に欲している言葉をくれる。そんな姿を想像して、それが手のひらで転がされていることによって得られる幸せなら、それでも良いのかなと思っただけなのに、どうやらその手のひらが『誰の』かが意識下にあることが今の答えという。
そう指摘されて、カントの笑顔が思い出された。
いつもさり気なく『愛しい人』なんて言われて、最近は慣れたなと思った筈なのに、頭の中で再生されると途端に恥ずかしくなってしまった。
頬を紅潮させた私を見る周りの目は、なんとなく死んでいた気がする。
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読んでいただき、ありがとうございました。




