婚約者候補はシャルを知る
よろしくお願いします。
またしても正規のスピード。
セイヴァーはカントと背の高さが同じくらいなので、踊り辛さは感じなかった。
なんとなく気まずくてあまり見ていなかった顔も、ダンスのパートナーなので至近距離で見ることになる。
茶髪茶眼で落ち着いた文官のような雰囲気なのに、ミハエル殿下と剣の鍛錬をしているからか、わりと力はありそうだった。
ホールドがしっかりしていて、そこはダグラスに似通っている。
踊りやすさでいったら、三人の中では一番。
そんなことを考えていたら、まず一つ目の注意点が近づいてきた。
私はそこに気を取られると、セイヴァーが『少し重心を後ろに』と囁いて、背中にある手が離れた気がした。
言われた通り少し重心を後ろにすると、背中を支えられて注意されたところが終わる。
次の注意点もセイヴァーが囁いてくれて、その通りにして過ぎる。
結局四箇所全て教えてもらった。
終わりの礼をすると、お母様が『とても良かったわ』と一言褒めてくれて、セイヴァーは私をソファへと連れて行ってくれた。
私がソファに座ると、いつものようにカントが横に座り、侍従達が一人掛けのソファを二脚持ってきて、私の前に窮屈にならない程度に間を空けて置いた。
当然なのか、ダグラスとセイヴァーはそこへ座り、四人で向かい合う感じが作られた。
離れたところに座るお父様を見ると、すぐ後ろにシュバイス宰相が居て、ニコニコとこっちを見ていた。
お父様とお母様は、とりあえず笑顔だったけど、何を考えているのかわからない。
もう、すぐにでも部屋へ戻って一人になりたい。なぜこの配置?
私がソワソワしていると、マイリーが果実水を持って来てくれた。
トレイの上には果実水の入ったコップが四つ。
それぞれが受け取り、喉を潤した。
「ねえ、いつから決まっていたの?」
私がカントに聞くと、『ウィズレッド団長から提案がありまして』と教えてくれた。
ダグラスを見ると、『私は休み明けから本来の仕事に戻っていますので、この練習の場でないとシャーロット様にお会いできないんです』と苦笑いをしていた。
「ダンスの練習を楽しみに登城したら、今日は練習が無いと聞かされて、コンシューリ団長へご相談いたしました」
「ダグラスの提案なら、ダグラスが迎えに来れば良かったんじゃないかしら。ローズとカントが一触即発でミハエル殿下が驚いたと思うわよ」
「そこは私が譲れませんでした。少しでも長く愛しい人といたかったのでね」
もう、他人がいようがお構いなしで『愛しい人』とか言っちゃうカントが凄いと思う。
「ブレないわね」
「シャーロット様のことですからね」
ニコニコと微笑むカント。ここまで徹底できると尊敬する。
お父様とお母様を見ても、二人は何やら話し込んでいてこっちを見ていない。
宰相も少し屈んで話に加わっている。
宰相がいるということは、きっとセイヴァーを見に来たんだろう。
宰相は、初めて会った時もニコニコしていたけど、宰相職についている人だから額面通りにとってはいけないと思う。
お母様が話し中なので、練習の続きを始めるわけにもいかず、なんとなく候補者三人の圧を躱しながら果実水を飲んでいた。
するとそこへローズとミハエル殿下がやって来て、『嫌ぁ、シャルが囲まれてるわ』と笑いながら近づいてきた。
また一人掛けの椅子かと思ったら、少し大きめの三人か四人座れるソファを用意され、二人はそこへ座った。
ここに皆が集まるのは想定済みだったのかも。
そこへお父様達も加わって、お父様が一言、『シャルの討伐参加が決まった』と教えてくれた。
驚きの声を上げたのはカント以外の面々。
私は思わず拳をグッと握って喜んでしまって、それを見た人達がまた『え?』と言っていた。
「陛下、討伐と言うのは来月の魔法師団が行う討伐ですか」
「それだ」
「それは、さすがに危険では」
「ダグラス、シャルの魔法は知っているだろう?あれなら、多少は役に立つだろう。白魔法使いは女性が多いから、夜は白魔法使いと一緒に休めば良い」
「ありがとうございます」
私が満面の笑みでお礼を言うと、ローズが『雷よ、何かあったらすぐにドーンと、ね』と真顔で言う。
「ローゼリア様はご存知だったのですか」
これはミハエル殿下だ。さすがに王女が魔物討伐に出向くなんて思わないだろうから、こういう質問は出るだろう。
「先日聞きまして、当初反対したのですけど」
「私が側にいてお守りしますから安全ですよ」
「それが一番危ないけど、シャルは雷を約束してくれたから」
「シャーロット様、私にサンダー落とすつもりですか?」
「無闇矢鱈には撃たないわよ」
「まあ、こんな感じなので大丈夫なのかなと」
「では、私が護衛につきましょう」
そのダグラスの提案は、お父様にあっさり却下されていた。
「魔法師団の遠征に、近衛騎士の団長が行くわけにはいかない。シャルの護衛は近衛騎士の中で少数つける」
「それでは私がつきましょうか?」
その提案はセイヴァーだった。
セイヴァーがどのくらいの腕前なのかわからず、お父様は宰相を見た。しかし、宰相もセイヴァーと会ったのは二年ぶりで、情報は古い。セイヴァーの腕前を教えてくれたのはミハエル殿下だった。
「セイヴァーは、我が国の近衛騎士とも互角かそれ以上の腕前です。こちらの国の中でも引けをとらないと思いますよ。保証します」
なんと、将来の宰相候補は剣技も優れているらしい。文武両道とは素晴らしいことだ。努力の人なのか。
宰相もすごく嬉しそうにしている。
しかし、留学に戻らなくても良いのだろうか。討伐は一ヶ月後でミハエル殿下が帰国するのは二週間後。私の心を読んだ訳ではないだろうけど、ミハエル殿下があっさり疑問の答えをくれた。
「セイヴァー、もし討伐に行くのなら、夏休みの間はずっとこっちにいていいから」
夏休みという名の長期休暇に入っていた。
私は学園に通っていないので、そんなシステムがあることすら知らなかった。
ちなみに、夏休みは二ヶ月あるという。
しかも、まだ始まったばかり。
セイヴァーは宰相に討伐参加の許可をとっていた。
ご両親でなくてもいいのかしら。侯爵家で騒ぎにならないかしら、と心配するけど、どうやら城内での事柄には宰相に決定権があるらしい。
信頼なのかな。宰相の圧力じゃないと思うけど、その辺はよくわからない。
「陛下の許可がいただけたら、討伐に参加しても良い」
宰相は、笑顔なくそう言った。
そりゃ心配だろう。笑顔も無くなるはず。
しかしセイヴァーは全く気にしていないようだった。
セイヴァーはお父様の前に跪き、『シャーロット様をお守りする任につかせてください』と言う。
お父様は国王の顔で『うむ』と言ったけど、直後に口をついて出たのは拒否の言葉だった。
「セイヴァーは留学中の身分で、騎士でも魔法師でもない。連れて行くわけにはいかない」
宰相は無表情だったけど、たぶんホッとしているはず。あまり危険がないといっても、周りは騎士やら魔法師やらで、その中にポンっと放り込まれるのは酷だと思う。
私に今回許可がおりたのは、ギルドで仕事をしていた過去と、私の魔法を見たことがあるから。
まあそうなるだろうと思ったけど、それに異議を唱えたのはミハエル殿下だった。
「セイヴァーの腕は確かです。なんならこちらに所属している騎士の方々と手合わせをして確認してもらっても良い」
「腕は良くても、立場が問題ということですわ、殿下」
答えたのはローズだった。
思わぬ人からの反論に、ミハエル殿下はローズを見て『ローゼリア様?』と言ったまま言葉が続かない。
「今のセイヴァーは、留学生が一時帰国しているだけです。その者を王女の護衛につけるわけにはいかないということです」
「ローゼリア様は、婚約者候補の一人がシャーロット様と討伐に赴いても問題ないと?」
「大問題ですわ、私の中では。シャルがカントに絆されるのではないかと心配です」
「私が絆される?」
「シャル、私はね、本当に心配なのよ。カントは女性の扱いに慣れすぎているから、シャルが手のひらで転がされる未来しか見えないの」
「ローズは心配しすぎよ。こういう甘い言葉を紡ぐ人は、町中にはたくさんいたわ」
「ま、まさかシャル」
「私にじゃないわよ。私は言われたことないわよ」
「そうよね、さすがにね」
「町中というのは?」
「······」
セイヴァーからの当然とも取れる質問は、宰相が答えていた。
「結局、皆が知ってしまったのね」
私の呟きに、『シャルは隠し事なんてできないのに、隠そうとしたのがそもそも間違いだったのよ』と溜息混じりに言ったのはお母様だった。
ちなみに、場所は練習用のホールで、楽団の皆さんは討伐参加のあたりから離席している。
もう色々諦めたのか、メイド達と近衛騎士はそのままの場所にいるので、きっと驚いていると思う。
「絶対に漏らさないように」
なんて宰相は釘をさしていたけど、『言わないで』という話ほど広がるものだと知っている。
さすがに王弟あたりは誤魔化していたけど、変に誤魔化すとさらに噂は広がるんだけどな。
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