勢揃い
よろしくお願いします。
今夜から、早速ミハエル殿下をお迎えして晩餐会がある。
到着早々ご苦労さまだ、と思うけど、王族とはこんなものだとローズから聞いた。
「でも、シャルは降嫁だろうから、他国へ行くことはないと思うわよ。気にしなくても平気よ」
とローズは言うけど、今の私に降嫁は禁句だ。
また婚約者について思い出して悩んでしまう。
「ローズは、ミハエル殿下をお好きなのね」
なんとなく口にしたら、ローズはすぐに顔を真っ赤にしていた。
国と国とのあれこれで決められたと思っていたけど、好きな人との結婚で良かった、と思う。そして、羨ましいとも。
私は今、三人の中から選べるみたいだけど、いったいどうなることやら。
晩餐会には、セイヴァー・リッセル侯爵令息の席がミハエル殿下の隣に用意されていた。
ご友人も一緒なら殿下も少しは気が楽だろうという配慮に見えて、私とセイヴァー・リッセル侯爵令息との顔合わせだな、と理解できた。
あちらはどう聞いているかは知らない。
主役はローズとミハエル殿下。
私は何も知らないふりをしていればいい。
会話は、両陛下とミハエル殿下とローズ。
私とセイヴァー・リッセル侯爵令息は、静かに微笑みながら聞き役に徹していた。
そう、静かに。
で、困ったことに相手の為人がわからない。
本当に顔を見ただけで終わった。
部屋へ戻ると、ローズからの連絡が来て、明日内々にお茶会を開くので参加するように、とのことだった。
今夜の晩餐会で、私とセイヴァー・リッセル侯爵令息が会話をしなかったことを見て、急遽設けられた席なんだろうと思う。
今の私はお茶会よりもダンスの練習をしたいのに。マスターできなかったら魔物討伐に参加できないから、必死なのに。
しかし、出席者はローズとミハエル殿下とある。たぶんセイヴァー・リッセル侯爵令息も付いてくるのだろうけど、この顔ぶれでは断れない。
仕方がない。参加します、との返事をローズへ渡すようにマイリーに持たせた。
翌日のお茶会は、いつもならダンスの練習をしている時間だった。
もしかすると、ローズが今練習中のステップをマスターしないようにしているのか?と疑ってしまう。
とはいえ、こればかりは仕方がないので、今夜マイリーにお付き合いしてもらおうと思っている。
身だしなみを調えて、指定の場所へ向かう。
周りに花が見頃を迎えている庭園の四阿。
さすがに城ともなると、庭師はいい仕事をしている。少しずつ開花時期の違う植物が植えてあるようで、いつでも何か咲いているらしい。
やっぱり参加者はミハエル殿下とセイヴァー・リッセル侯爵令息。ローズはミハエル殿下と楽しそうに話をしている。
ミハエル殿下は、体型がしっかりしていたので予想していたけど、やっぱり剣術は好きだし得意だと言う。こちらに来てからも、朝は鍛錬を怠ってないとのことで、セイヴァー・リッセル侯爵令息が溜息混じりに『私もつきあわされていて』と言っていた。
セイヴァー・リッセル侯爵令息は、現在侯爵家に帰っているはず、と思っていると、『ご想像通り、早起きして別宮まで参っております』と言う。
それは大変なこと。リッセル侯爵邸がどこにあるのか知らないけど、確実に早起きだ。
「まあ、ミハエル様、リッセル侯爵令息がお可哀想ですわ」
ローズが、小首を傾げてミハエル殿下を見て言う。言葉遣いが丁寧。カントに対するのとは全く違う。とっても微笑ましくて、ニコニコと聞いてしまう。
「はは、セイヴァーが怠けるといけないでしょう?剣は己も己の愛する人も守りますからね」
ミハエル殿下は優しく微笑みながらローズを見る。
ああ、これは私にもわかる。いちゃついてるんだ。
二人してふふふと笑い合う。
あらあらお熱いことで、と思っていたのに、二人はなぜか私を見た。
あの流れで私を見る?あ、三人目の婚約者候補ってバレている?
セイヴァー・リッセル侯爵令息を見ると、私を見て優しく微笑んでいた。
ああ、これは全て知っています、的な感じだろう。
気まずい。
思わず目をそらして近くの花を見るフリをした。
「シャーロット殿下はお花が好きですか?」
すぐに尋ねられる。声はセイヴァー・リッセル侯爵令息。
視線を侯爵令息へ戻して、『そうですね』と答えてみた。
「こちらの庭園は初めてですが、沢山の花が美しいと思います」
「ああ、療養から戻られたばかりですね。お元気になられて良かったです」
「ありがとうございます」
「シャル、リッセル侯爵令息と散策したら?私、ミハエル様とゆっくりお話したいわ」
これは、ローズがミハエル殿下と二人きりになりたいからの提案なのか、それとも侯爵令息と二人で話せということなのか。
ローズを見るとニッコリと微笑んで、意味がくみ取れない。
ローズを見て考えている時間はほんの数秒だと思うけど、侯爵令息は私の方に近づいてきて手を差し出していた。
高位貴族っていうのは、仕事が早いな。ぼんやりしている時間も与えないらしい。
仕方ないので手を添えて、『リッセル侯爵令息、よろしくお願いします』と微笑んでみた。
「セイヴァーとお呼びください」
この、名前呼びも決まり事のようだ。
カントもダグラスも。
やり取りも面倒なので『わかりました』と伝えた。
でも少し歩いたら、交流というノルマはこなしたことになるだろう、そう思ってほんの二歩歩いたら、前方からカントが近づいてくることに気がついた。
おや?と立ち止まると、カントは『迎えに来ましたよ。愛しい人』と私に向かって言った。
「カント、控えなさい」
ローズのピリついた声が背中を飛び越す。
「シャーロット様、ダンスのお時間が過ぎていますよ」
「カント、控えなさい。シャルは私達とお茶を楽しんでいるのよ」
「ローゼリア殿下、シャーロット様はダンスの練習をしないといけません。もう時間もありませんからね」
相変わらずカントは怯まずローズに言い返す。
でも、今の私には力強い言葉だ。
「ローズ、私ダンスの練習に行くわ」
「シャル、今日は駄目よ。ダンスはお休みよ」
「でも、時間が無いのは本当だし」
「では、私も一緒に参りましょう」
そんなことを言い出したのはセイヴァーだった。
この様子だと、カントも候補者だということは知っていそう。気になるのはどこまで知っているか、ということ。シュバイス宰相の甥っ子だけど、宰相が話しているのか秘密にしているのか。
「セイヴァーは、今のところ婚約者候補ということだけですよ」
ミハエル殿下がはっきりと私に伝えてきた。
いや、それはミハエル殿下は知っているということなのでは?と思わず振り返った私に、セイヴァーが、『今は秘密と言われまして。シャーロット殿下が教えてくれるまでは待つように、と』と教えてくれた。
隣国へ帰るミハエル殿下に伝える方が問題のような気もするけど、その辺の線引がわからない。
考えているうちにセイヴァーに手を引かれた私は、カントの後ろを歩いて練習用のホールへと向かっていた。
そして、練習用のホールへ入ると、中で待っていたダグラスを見てどっと疲れが出た気がした。
婚約者候補勢揃い。
今日の私は、ダンスの練習に集中できるのかしら。
既に心臓はバクバクしている。
一番奥のソファに、お父様とお母様が座ってこっちを見ているのがわかった。
今は私に選ばせようとしているけど、時間がかかるようならお二人が選ぶのかもしれない。
セイヴァーは、私をホールの真ん中へ連れてきたけど、すぐにカントと入れ替わっていた。
「何を練習しているのか、まず拝見させていただきます」
セイヴァーは、そう言ってダグラスの近くまで歩いて行った。
どうやらすぐに練習が始まるのだと理解した私は、カントの正面に立ち、『練習、お願いします』と声をかけて礼をした。
正規の速さで曲は流れ、私はなんとかギリギリ間違えずに踊れたけど、合格が貰えないのはわかっていた。
お母様が近づいてきて、やはり注意を四箇所もされた。
次はダグラスが来て、カントと交代。
なんだろう。最初から話ができていたのかもしれない。やけにスムーズに進んでいる。
しかし、私がそれ以上考える間もなく、ダグラスは私の正面に立ち、優しく微笑んでいた。
もう視界の端で、楽団の方々が曲を弾こうと構えたのがわかり、さっき注意された四箇所を思い出しながらダグラスと踊った。
やっぱり正規のスピード。気をつけた筈の四箇所は、まだまだできなかった。
踊り終わった私に近づいてきたのはカント。だけど、足に治癒をかけて離れていった。
そして想像通り、次はセイヴァー。
治癒をかけてもらったけど、私の病弱設定はどこへ行ったのだろう。お父様もお母様も黙って見ている。
ローズの婚約者とはいえ、隣国の王子に知られているからもうどうでもいいのか。
私は諦めてセイヴァーの手を取った。
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