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シャーリーのリスタート  作者: 小松しの


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隣国御一行


よろしくお願いします。



「あんなに女性にだらしない人は不潔よ!」


 ああ、なるほど。『でも魔力量のせいで、女性とは手を繋ぐことしかできなかったと言っていたわ。それ以上になると精神が保てないと言うのだから、決して不潔ではないと思うけど』

 私がそう言うと、ローズは顔を赤く染めながら


「カントとシャルの子づくり前提で皆が見るから嫌なの!やっと戻ってきた妹を性的な目で見るなんて、最悪!」

「それを言うなら、ローズとミハエル王子との婚約式は、いずれこの二人はって見る人もいるんじゃないのかしら?」


 お母様は容赦なかった。

 ローズのお姫様的思考をバッサリ切り捨てた。

 ローズは目を見開いて、『そうなの?でも、一年後には結婚するし、確かにシャルより早く』とブツブツと呟いて頭の中を整理しているようだった。


「カントの魔力量に耐えられるのはシャルだけだろう。しかし、それだからといってカントはシャルを性的な目で見ているわけではないよ、ローズ。カントのシャルへの接し方を見ていると、大切にしているのがわかる」


 お父様がカントを擁護している。

 ローズはまだブツブツと整理している。


「ローズ、私を心配してくれてありがとう。嬉しいわ。でもね、大丈夫。うまく言えないけど大丈夫よ」

「魔物討伐の時は危なくない?」

「魔物?カント?」

「両方」

「ローズ、私の魔法見たでしょ?どっちも襲ってきたら凍らせてやるわよ。雷が良いかな?」

「······雷で」

「了解です」


 私が戯けて親指を立てたら、ローズがやっと笑ってくれた。

 お父様もお母様も私達を見てやっと笑ってくれた。

 やっぱり、ちゃんと話をしないと駄目ね。『これからは二人で何でも話をしましょう』と約束した。


 結局、ローズの婚約式はカントがエスコートとなった。セイヴァー・リッセル侯爵令息では間に合わないだろうということと、カントも私のここに来るまでを知っているから、何かあったらフォローしてくれるだろうとの期待からだった。




 翌日も、午前中の歴史と地理はたいへん濃い内容だった。

 私が独り占めして聞いているので、質問とかしやすかったのもある。ありがたい。

 午後は本来お休みだったダンスの練習がある。

 ダグラスは今日もお休みなので、カントにずっとお願いすることになった。

 近衛騎士と練習用のホールへ向かい、中へ入ると既にカントが待っていた。

 ソファにゆったりと座って、『待っていました』なんて相変わらず甘く微笑む。

 うん、やっぱり慣れたな。私も余裕が出てきた。

 ローズは学園にいるので、ステップはマイリーが見本を見せてくれた。

 マイリーは元々ダンスが得意だったようで、とても上手だった。

 侍女用のお仕着せも、足元が見えるのでわかりやすい。

 

「今すぐに覚えられなくても、お部屋でも練習できますよ」


 なんてこっそり言ってくれたけど、それならもっと前からマイリーに頼んでも良かった。

 ローズが悲しむから言わないけど。

 休憩の時には、いつものようにカントの横に座って雑談をした。

 

「婚約式は、私がエスコートだと聞きました。私がシャーロット様を独り占めですね」

「さすがにそれは難しいと思うけどな」

「もっと早く知っていたら、色々な贈り物をしたのに、残念」

「ああ、ドレスの色をパートナーの色に合わせるとかなんとかって?」

「それです」

「あれは婚約者限定でしょ?」

「私に決めてくださいよ。大切にしますし、毎日愛を伝えますよ」

「う〜ん、むず痒いわね」


 こういう会話も楽しいけど、これを他の女性ともしていると想像すると嫌な気分になる。

 ローズはこういう場面を見たことがあるのだろうか。だから、女性にだらしないなんて意見を持っているのかもしれない。

 そりゃ、恋人なら甘い会話なんて日常茶飯事なのかもしれない。

 想像だけど。

 愛する人を独り占め、なんて普通なんだろう。

 あくまでも想像だけど。

 私を愛していると言うのなら、やっぱりこういう会話は他の人にはしてほしくない。

 

 カントは私の足に治癒をかけてくれて、優しく微笑んでいる。

 この顔は、私の出方を待っているように見える。

 これは、愛されているという状態なのか、どうにもよくわからない。

 誰か教えてくれないかな。


 そういえば、明日隣国からの御一行が到着する。

 その中にセイヴァー・リッセル侯爵令息もいるので、婚約式の前に一度会うことになっているらしい。

 宰相ご自慢の甥っ子らしく、将来は宰相になるんじゃないかとも思われている程優秀らしい。

 シュバイス宰相の末の妹のご子息。十九歳。

 今はそれしか情報がなくて、また交流から始めるのかと思うと少し気が重い。

 

 チラリとカントを見ると、何も言わずにニコニコと私を見ていた。

 こっちも、どういうつもりなのか頭が痛い。



「あ、そういえば、魔物討伐の話。カント、お父様にしてくれたの?」

「全力でプレゼンしました」

「このステップをマスターしたら、参加許可が出るらしいわ」

「頑張りましょうね。私はいくらでもお付き合いします」

「本当?ありがとう。頑張るわ」


 ああ、やっぱりカントがお父様を説得してくれたらしい。

 一ヶ月後の討伐を楽しみに、頑張る気力が湧いてきた。

 

 

 ホールで二時間練習し、カントは足に治癒をかけて『また明日』と本来の職場へ戻った。

 私も部屋へ戻り、ソール伯爵夫人へのプレゼントの刺繍の続きをした。

 マイリーは、今日の私の進み具合について『ゆっくりならできるので、あとはスピードを上げた時にできるようになるために、何度もやってみるだけです。慣れですよ』と言ってくれた。

 イッシュラル子爵といいマイリーといい、褒めて伸ばす先生に恵まれた。

 明日も褒められるように頑張ろう。




 ダグラスの休暇が明け仕事復帰した日、かわりにリカルドが二日休みになった。

 思えばこの二人、私が城へ戻ってきてからほぼ休みなしだった。

 リカルドは婚約者もいるのに、申し訳ない。

 今は、私の護衛は近衛騎士が日替わりでついている。

 日替わりと言っても、専属の近衛騎士が六人ついて、その中で複数人が日替わりでついていた。

 これはローズも同じだという。

 隣国のミハエル殿下がローズと結婚したら、また配置換えをするそうだ。

 今日、ミハエル殿下がいらっしゃる。

 滞在は別宮になるので顔を合わせることはないだろうけど、近衛騎士は総動員らしい。

 ミハエル殿下の滞在予定は二週間。

 特別編成での仕事になるらしく、近衛騎士っていうのは大変な仕事なんだなと感心してしまう。

 

 今日、私についている近衛騎士の一人は、リカルドの婚約者の兄──ガナック・ソイル──だという。

 私が突然城へ戻ったことで、リカルドには休みなく仕事をしてもらって、婚約者と会えなかっただろう申し訳なかったと言うと、妹はリカルドと婚約した時点で休みは変則になると覚悟していた、と言う。

 なるほど、婚約とはそういう覚悟もいるのかと感心すれば、リカルドは特殊な仕事を請け負うことが多いから、と言っていた。

 私の婚約者候補は、『近衛騎士団長』『魔法師団団長』『宰相候補』。

 リカルドの婚約者のように、何か覚悟がいるのだろうか。

 まったくわからない。

 少し離れた所で控えているガナック・ソイル。

 彼は確かソイル伯爵二男。顔立ちが温和なせいか、メイド達も気負わずに話している。婚約者はいるので、メイド達にとっては恋愛対象ではないそうだ。

 こうやって貴族の繋がりはわかるようになってきたけど、相変わらず恋愛に関してはわからない。

 思わずこめかみをもんだら、『頭痛ですか』とマイリーに聞かれ、『考えることが、ね』と答えると、『シャーロット様は初心ですね。たくさん悩んで良いお相手を選んでくださいね』と言われ、私が何に悩んでいるのか、その場にいたメイド達や近衛騎士達にバレてしまった。

 恥ずかしいからやめてほしい。


 

 十四時過ぎに隣国御一行が城へ到着した。

 当然ローズも学園を休み、一緒に出迎える。

 馬車から降り立ったミハエル殿下は、金髪碧眼整った顔立ちで背は高く、どちらかというと騎士のようなしっかりした体型だった。

 ローズとミハエル殿下は今までに何度か会ったことがあるようで、両陛下への挨拶の後私にも挨拶をしてくれて、最後にローズと会話をしていたけど、なんだかピッタリとあっている感じがした。

 ミハエル殿下は十九歳。ローズの二歳上。

 そういえば、三人目の婚約者候補のセイヴァー・リッセル侯爵令息も十九歳。ああ、ただ優秀というだけではなく、将来の王配の友人としての繋がりを作ることも、隣国への留学の理由なのかとわかった。

 ローズは落ち着いて見えるけど、なんとなく雰囲気が可愛らしい。いつも可愛いけど、いつもに増して可愛らしい。

 恋しているのかな。

 幸せそうで良かったと思えた。




 更新は毎日二十一時を予定しています。


 読んでいただき、ありがとうございました。




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