討伐隊への参加
よろしくお願いします。
翌日、お母様から『シャルの舞踏会の為にほぼ休みなしだったダグラスは、二日休み』と言われた。
昨日あんなことを言われたので、心の底から安心した。
私も今日明日の二日間は、ダンスの練習はお休みとのこと。ローズの婚約式に備えて、今は少し休息をとるようにと言われた。
お休みは嬉しいけど、カイナーゼ家のご子息に渡す魔導具付きの剣の相談をカントにしたいのに、どうしたら良いのか。ローズの婚約式が終わって落ち着いてからの方が良いのか、と悩んでいたら、宰相の執務室の近くにある部屋を使えば良いと教えてくれた。
どうやらナモシェンド子爵夫人と会ったあの部屋のようで、宰相に伝えれば使用可能とのこと。
ならばカントにいつなら会えるか予定を聞いてから、宰相に部屋の使用許可をもらおうと考えた。
しかし、お父様が『今日、来月行う魔法師団の魔物討伐の打ち合わせがあるから、国王執務室に来て話をすれば良い』と言われた。
そうすると私は面倒な『お伺い』をたてなくて良いので楽。
そうしようかな、とお父様にお願いすると、十六時に来るようにと教えてもらえた。
午前中はいつものように勉強がある。
今日は隣国との歴史。
もうすぐローズの婚約式があるので、直前に詰め込んでおこうという考えだ。
イッシュラル子爵は、周辺国が書かれた地図も広げて、歴史についてはまるで見てきたかのように話す。
百年以上前のことだから見ていない筈なのに、その話しぶりから夢中になって聞いてしまう。
私が夢中になると子爵も熱が入り、今日の午前中の授業はとても濃かった。
イッシュラル子爵が人気なのは、こういうところもあるんだろう。
午後は約束の時間までゆったりと過ごした。
お茶は昨日と同じ、カントからもらった紅茶。
香りが良くて、お気に入りになった。
十五時五十分。私は今日ついている近衛騎士とお父様の執務室に向かった。
執務室には既にカントがいて、ちょうど打ち合わせが終わったところだと言う。
お父様の正面にカントが座っていて、『ここ』と横の座面をポンポンと叩くのでそこへ座った。
お父様は驚いた顔をしたけど、お父様はソファの真ん中に座っていて両脇には何かの書類が置かれていた。だから私が座るスペースがなかったし、それは仕方のないことでは、と思う。
さて、昨日話した魔導具付きの剣について、と話し始めたら、お父様の侍従が剣の見本を数本持ってきてテーブルに置いてくれた。
剣の大きさや長さ等少しずつ違っていて、大人になってから使うか、現在使うかによって変えたほうが良いみたい。
やっぱり、長く使ってもらいたいので大人になって使うということを想定して選んだ。
カントは魔導具師も呼んでくれていて、鞘のデザインとか、どのレベルの魔導具か、等を考えた。
これもやっぱり、紋章が入っている方が良いだろうし、魔導具も上級が良い。
私が守ってもらったのと同等かそれ以上を。
そう言うと、魔導具師は『あれ以上は石探しから始めなくてはいけない』と言う。
ある程度しっかりと魔力を抑え込むためには、石自体にも魔力に耐えうる丈夫さが必要らしい。
さらに上書きをして魔導具師が作り上げるとのことで、二本の剣となると最低でも一ヶ月はかかるという。
こればかりは仕方がないと、魔導具師に正式に依頼した。
魔導具師が『仕様書は近日中にお届けします』と言って退室していったけど、私とカントはまだ残っていた。
じつは、来月ある魔物討伐に興味があって、見学したいな、できれば参加したいなと思っていた私は、何とかそれを伝えようとタイミングを見ていた。
私がウズウズしているのを二人は感じ取っていて、『何か他にもあるのかな』とお父様から促された。
「来月の魔物討伐は、どちらでどんなことをするのでしょう」
私のこの言葉だけで、お父様は私の言わんとすることを理解したようで、『駄目だ』と一言言った。
「魔物討伐に王女が参加なんて、聞いたことがない。そもそもシャルは療養明け。自分の立場を理解しなさい」
「最前線に立たなくても、どのようなことをしているのか知ることは必要ですし、王女が視察となると士気が上がるかもしれません」
私は、反対されるだろうと予め想定してきた。私が随行したところではたして士気が上がるかはわからないけど、それっぽいことも言わないと、絶対に考えてもらえないと思った。
この、士気のくだり、私の想像以上にお父様には刺さったようで、お父様は顎に手を当て考えだした。
もう一息だと思うけど、私はプレゼン能力が低いようでトドメの一撃が出ない。
顔には出さず、私も頭の中では『何か言わないと』『何が決定打なのか』など、ぐるぐる考えていた。
そんな中、助け舟を出してくれたのはカントだった。
「今回の魔物は、主に魔鹿ですから、多少量が多くてもあまり危険はないでしょう。私も行きますし、殿下を私がお守りすることは可能ですよ」
繁殖期を迎え、人里に降りてくる魔鹿を広範囲で駆除するのが今回の目的で、今年は数が多く予想されているだけで、驚くほど危険と言うことではないそうだ。
魔鹿は、私もギルドの依頼で倒したことはある。
あの時は、魔導具の材料採取の依頼だったから、私が魔鹿を凍らせてサイラスが剣で必要部位を刈り取っていた。
「懐かしいな」
思わず声に出ていたようで、お父様とカントはこっちを見た。
しまった!と思って慌てて『魔鹿のグリルを食べたことがあって』と言い訳をした。
お父様はたぶん、私が魔鹿と対峙したことがあるとわかったんだと思う。顔色が悪かった。その顔色の悪さに、私はフォローしようとさらに慌てた。
「あ、そんなに大きくなくて、体長は三メートルあるかな、くらいで」
「大きさわかったんですか?グリルなのに」
カントの冷静な質問に、余計な一言だったと後悔した。お父様は片手で自分の頬を擦り、溜息をつくし、カントはニコニコと答えを待っていた。
たぶん、この人は私が療養明けだとは思っていないんだろうな、とその時わかった。
私がお父様を見ると、お父様は『そういうことは、あんまり話さないように』と私に注意し、人払いしてから、カントに全てを話していた。
カントは穏やかな表情だったけど、全てを聞くと『カイナーゼ家への想いの理由がわかりました』と言った。そして、なぜか魔物討伐の話へ戻り『見学だけでも良いのではないか』と言ってくれた。
つい最近まで外を走り回っていたのに、城に籠りっぱなしではストレスもたまるだろう。今回は主に魔鹿、最前線に居るならともかく、後方ならば危険はほぼない。総指揮をとる自分の横にいれば安全だろう。とのことだ。
お父様は『お前の隣が一番危険だ』と言っていたから、もしかすると団長という肩書がありながら、最前線に行く人なのかもしれない。それならそれで、私も少しは力になれるかもしれない。駆除が目的なら、倒し方が少々荒っぽくても許される筈だから。
ニコニコとお父様に笑顔を向けると、お父様は『少しだけ時間を』と言って拒否はしなかった。
私の用件は済んだので『では、これで』と礼をして執務室を辞したけど、なぜかカントにエスコートされた形になっていた。
「魔物討伐の依頼された場所は、シューレン領です。ここからは馬車で二日かからないでしょうね。ただ、王女が同行となると、宿泊はテントというわけにはいかないので、そのあたりが今からだと苦慮されるんじゃないかなと思いますよ」
「テントでもかまわないんですけどね」
「さすがに王女がテントでは、警備が大変でしょう」
「王女ということを隠しますか」
「私がお守りすることは可能ですが」
「カントがお父様を説得できますか?」
「シャーロット様がお望みなら」
「望みます」
カントは私の言葉を聞くと『あなたの望みなら叶えないといけませんね』と甘く笑った。
慣れたな。この美しい殿方の甘い笑みに。
慣れって凄いな、今ではすっかり受け流している。
「それで、ウィズレッド団長からは何を言われました?」
唐突な言葉に、私は思わず立ち止まった。
カントを見上げると、優しい表情はそのままだけど、どこか憂いが感じられた。
「昨夜のウィズレッド団長の様子から、愛の告白でもされましたか?」
「えっと······」
とてもじゃないけど、歩きながらする話ではない気がする。私の後ろには、護衛の近衛騎士もいる。この人の上司の話だ。気軽にペラペラとは言えない。
「お時間がよろしければ、お茶でもいかがですか?」
「よろこんで」
「あ、お茶といえば、香りの良い茶葉をありがとうございました。とても気に入って飲んでいます」
「それは良かった。あれは私の領地の特産で、今年の一番良い物をお持ちしたんですよ」
「そうなんですか」
コンシューリ家の領地は、と頭の中で情報を手繰り寄せる。
そうだった、絹織物が特産で避暑地としても人気がある。お茶も取れるのか·····
ああ、貴族の名前から領地の情報を考えるなんて、ついこの前までは想像もしていなかった。
これも慣れの一種かな。
本当に慣れって怖い。
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