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シャーリーのリスタート  作者: 小松しの


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旅立ち

どん底から脱出します。

 翌朝、六時には目が覚めた。

 お父さんにはいつものようにおはようと挨拶をした。

 やっぱり起きなかったけど。


 九時には町の東にある墓地で埋葬予定になっている。あとたったの三時間しか一緒にいられないと理解していても、現実味がない。

 頭の中にはお父さんとした会話、教えてもらったこと、今までの思い出が次々とでてくる。

 乗馬も、食事のマナーも教えてもらった。カーテシーなんて平民に使う場面は来ないだろうと言っても、知識はある方がいいと譲らなかった。

 でも、お父さんとお母さんについては話してくれなかった。


『駆落ちしたんだよ』


 俯いてそれだけを苦しそうに言ったのを見て、聞いてはいけないことかと子供心に理解した。

 いつか話してくれると思っていたけど、その日は結局来ないまま。私もここから出ていく。

 突然の別れにショックはあったけど、お父さんからの愛情は私の中にたくさん蓄積されている。この気持ちがあれば新しい場所でも頑張っていける気がする。ていうか、この機を逃すと前向きに生きていけないとさえ思う。


「よし、とりあえず今日を頑張ろう」


 ありあわせで朝食を作り、身支度を整えているとあっという間にお父さんを送る時間になった。


 棺に入ったお父さんを町の男衆が担いで墓地へ行く。

 私はすぐ後ろを歩いていく。

 墓地では皆で土をかけて埋葬した。

 お父さんと特に仲が良かった町長は、周りがひくほど号泣していたり、お父さんが剣を教えた子供達もお別れに来てくれて、これでお別れなのにふんわりとした幸せを感じた。

 沢山の人達がお父さんを見送ってくれるのが、嬉しかった。

 

 神官の祈りの言葉で葬儀は終わり。

 それぞれが家に帰るとき、リゲルが心配して話しかけてきた。


「大丈夫か?」

「うん、大丈夫。昨日より気持ちは上向いてる感じよ」

「ならいいけど、何かあったらすぐに言えよ。メシくらいは奢ってやるし」

「ありがとう。あ、これ昨日借りたハンカチ。ちゃんと洗ったからね」

「律儀だな。別に返さなくても良かったのに。じゃあ、この後、昼飯でも行くか?」

「早速奢ってくれるの?」

「出世払いで返してくれればいいから」

「奢られっぱなしで良さそうね」

 

 そんな会話をしていると、今度は町長と町長の奥さんと長男のタリスト兄さんがやってきた。


「シャーリー、突然こんなことになるなんて。一人で平気か?無理しないで家に来るか?」

「おじさん、ありがとう。お世話になりっぱなしね。でも大丈夫。十七歳よ、私」


 お父さんが泊まりで討伐に行くときは、いつも町長の家にお泊りに行っていた。町長の次男がサイラスなので、私の初恋はそこからなのかもしれない。


 そういえばサイラスいないなと思ったのが表情に出たのか、


「すぐに戻るって言って、早朝に出たきりなのよ。あの子」

「ああ、そうなの。用事なら仕方ないわよね」

「···う〜ん、まあいつでも泊まりにおいでね。最近遊びに来てくれないけどシャーリーの部屋はそのままあるし、おじさんもおばさんも寂しいからね」


 子供の頃は月に何日か泊まりに行っていたので、私の部屋を用意してくれていた。それがまだそのままあるのは驚いた。


「ありがとう、おばさん。また今度行くわね」


 ふふっと笑って答えたけど、その「今度」はきっとこない。だって、明日の早朝にはこの町を出ていくから。

 そんな秘密を実行しようというだけで、少し元気が出てくるのは物事を深く考えない性分からかしら。でも、誰にも見つからずに町を出るということは成功させなくちゃ。

 後で一人になったときにちゃんと計画を頭にたたき込もうと、気を引き締め直す。

 

 その後、一旦帰宅し着替えてからリゲルと約束した店へと向かった。

 リゲルはお父さんと同じ位心配性で、明日も昼食を一緒にしようと誘ってくれた。

 そうね、ありがとうと返事をし、別れ際に大切なことを伝えた。


「これからのことをゆっくり考えたいから、しばらくギルドは行かない。パーティは休みたい」


 パーティを抜けると言いたかったけど、何か気づかれてもいけないので休みと伝えた。

 リゲルは一瞬の間のあと、そうかと一言だけ。でも、明日の昼食は一緒に食べるぞとやけに力強く宣言して帰っていった。

 約束を守れないという少しの罪悪感を抱きながら家に戻ると十五時前。明日持って出る荷物を再確認し、これからは予定がないのでベッドに寝転がり、最低限やるべきこれからの行動を決めた。


 この町の南に約三時間歩くと大きな宿場町に着く。

 その宿場町には大きな街道が東西にはしっていて、その街道を道なりに西へ行くと王都に着く。

 馬だと一日で着くと聞いたことがあるので、宿場町で馬を借りよう。確か貸馬屋があると聞いた。

 王都では宿屋を拠点にしてすぐに仕事探しだ。

 身分証代りに冒険者ギルドのギルドカードを持っていく。

 あとは出たとこ勝負かな?

 やっぱり考えなしだけど、とりあえず今は行動あるのみ。このままこの町にいてはいけない気がするから、動く。直感だけを信じて。

 

 これだけ決めたところで、友人達が訪ねてきた。

 夕食、一緒に食べるよ、なんなら今日は泊まっていくよと言い出したので、お父さんのベッドで寝るのか?と聞き返すと「ごめん、今日は泊まらないで帰る」だと。

 彼女達とも会えなくなるのはかなり悲しいけど、もう決めたことを成功させたいので、泊まらずに帰ってもらえると助かる。

 結局、それぞれが夕食を持ち寄り、色々と話し、皆が帰っていったのは二十四時を過ぎていた。

 お風呂に入り、一睡もせず日の出前に家を出てまずはお墓で別れの挨拶をした。お墓には誰が手向けたのかユリがあった。

 お父さんの好きな花。開花時期はまだ先なのに、誰かが探してくれたのか。


 もう少しで日の出。明るくなる前に予定通り南の宿場町に向けて町を出た。

 

 さあ、行こう。




 宿場町に着いた時には、町は朝の活動が始まっていた。

 予定通り貸馬屋で馬を借り、王都へ向かう。

 体力があり、脚が強い馬をお願いしたら料金が一割増しだったが、とにかくさっさと王都に着きたいのでそれでお願いした。

 早駆けをしたり休憩したりと私の我儘にも付き合ってくれる、とても優しく素晴らしい馬だった。

 アタリだ。幸先がいい。この馬との出会いにも、気持ちが上向いてくる。


 途中の町で一泊し、王都に着いたのは翌日の夕方。

 この馬との別れは残念だけど、借りた馬は返さなくてはいけない。〇〇の町で借りたと貸出書を見せればどこで返しても良いので、まずは貸馬屋へ向かった。


「お嬢ちゃん、馬扱えるのか」


 貸馬屋の店主が驚き顔で聞いてきた。

 町民の娘が乗馬できるなんて珍しいからだろう。

 この馬はいい馬だったとお礼を言うと、嬉しそうな笑顔を見せ観光か?仕事か?と聞いてきた。

 王都で仕事したいと田舎から出てきた。これから宿を探して仕事も探すと答えると、じゃあいい宿を紹介してやるついてこいと貸馬屋を後にした。

 貸馬屋から四軒隣りにある、一階が食事処二階が宿屋というこの建物が目的地だったらしい。


「カリア〜、ちょっと〜」


 貸馬屋の店主が入り口で奥に向かって声を張り上げると、すぐに奥から五十歳位のちょっとぽっちゃりした女性が出てきた。


「このお嬢ちゃん、宿と仕事探してるんだと。馬が扱えるからどこかのタウンハウスとかでもいけるんじゃないかね」


 貸馬屋店主が仕事についても折衝してくれるつもりなのか、女将さんに早口で告げてニコニコとこっちを見た。

 女将さんも、へぇ馬をねぇ、と驚き顔でこちらを見ながら、とりあえず部屋は空いている一泊いくらだよと値段を教えてくれた。

 昨日まで住んでいた故郷サンドナより少し綺麗な宿屋なのに、同じくらいの価格。ここが安いのかサンドナが高いのか。


「ここの女将さん、カリアっていうんだけど、顔が広くて仕事も良いところ見つけてくれるよ。任せていいと思うよ」


 貸馬屋の店主がそう言ってから帰っていった。

 すぐに仕事が見つかるとは思えなかったし、宿屋もいい感じなのでここでしばらくお世話になることにした。


 部屋を教えてもらった後で、女将さん─カリアさん─から仕事を探す上で必要なことを聞かれた。

 名前は?歳は?故郷は?両親は?読み書きできる?計算は?料理や裁縫は?

 すべて答えると、それはそうと···と私の左手の中指を見ながら聞いてきた。


「それは、痣かい?生まれつき?」


 この宿屋に来たときから、カリアさんがチラチラとこの左手の中指を見ていたことは気がついていた。


「はい。生まれつきの痣です。薄いのに、よく気がつきましたね?」


 私の左手の中指には、まるで指輪のような痣がある。可愛いねと友人から好評のこの痣は、薄いピンクなので近くで見ないと気がつかないが、私も気に入っている。

 可愛い指輪だね、とここでも好意的に見てもらえたのが嬉しくて、元気よく「はい!」と返事をし二人で笑いあった。

 馬も貸馬屋の店主もカリアさんもみんな優しくて、やっぱり王都に来て良かったなぁと一安心し、早めの夕食を食べて早めにベッドに入った。

 このところ気を張っていたせいか、朝食だよとカリアさんに起こされるまでぐっすり眠った。


「シャーリー、昨日の今日で悪いけど、仕事先を紹介したいから昼食後に出かけるよ」


 ある貴族のタウンハウスで、産休に入ったキッチンメイドの代わりを探していると。期間は限られているけど、働き次第でそのまま働けるかもしれないという話だった。

 メイドの部屋もあるそうなので、家を探すこともしなくていい。

 持ってきた服の中から、面接で好印象をもたれそうな服を着た。

 白のブラウスに臙脂のスカート、同じく臙脂のショートブーツ。あまり服を持ってこなかったけど、これならいけるかな?

 ダメだったら他も面接になるだろうから、早急に服を買いに行こう。今日は買いに行く時間がなくて残念だけど。

 緊張しているのかお腹は空かなかったし、無理して食べた昼食はあまり味がしなかった。

 

「貴族の所で仕事だから、今日は身元確認が色々とあるけど、正直に笑顔でね」

 

 鍔の広い帽子を私に被せたカリアさんと、乗合馬車に乗る。私達二人だけだったので、カリアさんは面接についての注意事項を話してくれた。

 相手は貴族だから、市井の娘でもちゃんとした人を雇うんだと。

 いや、そうしたら私は無理かも、と気弱になってしまったけど、カリアさんは大丈夫よと笑顔で励ましてくれた。

 何で大丈夫かはわからないけど、初めての面接だし、今後に繋がる何かをえられればいいなと、ダメ元で挑むことにした。

 気になったこの鍔広帽子について聞くと、若い娘は日焼けを気にしなくちゃね、とウインクされた。冒険者ギルド所属なので今更とも思ったけど、これが王都なのかと借りることにする。


 馬車に揺られること二十分。乗合馬車は最後まで我々二人だけで目的地近くに着いた。

 

 ここよ、とカリアさんが教えてくれたのはとても大きな家だった。

 貴族のタウンハウスって、お城?

 ボソッと呟いた私に、公爵様だからね〜、タウンハウスって言っても豪邸よ〜とカリアさんは笑いながら歩きだした。

 メイドの面接なので裏の使用人が使う入り口に向かうが、馬車を降りてから既に十分は歩いているのに、入り口にたどり着かない。ヒールの低いショートブーツで良かったと考えながら歩いていると、カリアさんが立っていた男の人に話しかけてから


「到着〜」


 冗談ぽい口調で扉を開けて、中へ入るように促してきた。

 扉は敷地内へ入るためのもので、邸宅はさらに少し離れた所にあった。




お読みいただき、ありがとうございます。

数話続けて投稿します。

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