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シャーリーのリスタート  作者: 小松しの


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どん底

こんにちは。

今回もご都合主義のお話です。

どうぞ、優しい目でお読みください。

 森の中の小さな池の近く。

 焚き火から五メートル離れた位置に、野営テントが二張ある。テントは魔物討伐に来た冒険者ギルドの一組のパーティの物で、左は男が、右は女が使用している。

 剣士二人は共に男、サイラス十八歳赤髪黒眼、リゲルは二十二歳銀髪碧眼。

 魔法師二人は女で、黒魔法師のシャーリーは十七歳、金髪碧眼。白魔法師のミーシャ十八歳、銀髪赤眼。四人共この年齢としてはレベルは高い。

 この森一帯はさほど強い魔物は出ないが、中レベルの強さの魔物は多く出る。繁殖地として目をつけられたのか、時期的に大量に。そういった魔物をチマチマ討伐していたら、レベルが上がっていった。


 今回も二泊の予定で討伐に来ていた。

 

 シャーリーはふと目を覚まし、魔法ランプがうっすら灯っているテントの中で懐中時計を手に取り時間を見る。

 そろそろ見張りの交代時間だ。

 ギルドに入ってパーティを組んだばかりの頃はなかなか起きられなかったが、今では三時間おきに目が覚める。それでも父からもらった懐中時計はおまじないのように枕元に置く。

 この懐中時計は、元々冒険者ギルドで働いていた父の物で、やはりおまじないのように枕元に置いていたらしい。もっとも、目覚まし機能などはないので、本当に気休めだけど。


 シャーリーは隣で寝ているミーシャを起こさないようにそっと起き上がり、テントを出た。

 離れたところにある焚き火の側に、サイラスが座って見張りをしている。

 サイラスとシャーリーは幼馴染で二年前に始めたこのパーティの初期メンバー。一年前まではシャーリーの父も一緒に組んでいたが、体力的にそろそろ···と抜けた後にリゲルが入った。ちなみに父は冒険者ギルドの事務所に就職できた。

 初期メンバーの魔法師は半年前に結婚し、それを期に辞めてミーシャが入った。


**********


 私は気休め程度には扱える小型の剣を腰に装備しつつ、サイラスの側へ向かう。


「そろそろ交代だよ」

「···ああ」


 チラリと私を見て答えたが、サイラスはすぐに視線を焚き火に戻して動かない。

 いつもならすぐに立ち上がるのに、と少し違和感を感じながらも、私は焚き火を挟んでサイラスの反対側に座った。

 私が腰まである髪を左前に流し三編みを始めたところで、サイラスがおもむろに、


「パーティ組んで二年になるけど、お前、これからどうするんだ?十七歳っていったら、彼氏ができたり結婚を考えるやつが出て来たりするんじゃないか?いつまでも魔物追っかけてるっていうのも···なぁ?」


 焚き火に木の枝を一本放り投げ、それを長めの棒でチョイチョイといじりながらやっと聞こえる程度の音量で話し始めた。


「う〜ん、まだニ年だし、二十歳くらいまではこのまま続けたいけど、なんで?」


 私にとってサイラスは初恋で、今も好きで、できればずっと一緒にいたい人。だけど、この関係が壊れるのが怖くて何も言えずにいる。だから本当は先のことなんて考えないでいた。

 三編みの最後を紐でキュッとまとめてからサイラスを見たけど、相変わらず焚き火を見ている。


「何か、あった?」


 訊ねてみても、返事はない。

 なんとなく気まずい空気を感じていると、


「よし、俺は寝る。見張りしっかりな」


 スッと立ち上がってサイラスはテントに向かっていった。

 何だったんだ?と後ろ姿を横目で見ていると、男性用テントに入ろうと屈んだサイラスが、ピタッと止まって女性用テントの方を見た。そしてスッと女性用の方に入っていった。


 ああ、そういうことか。

 三ヶ月くらい前からミーシャからサイラスへの接触があからさまになってきたけど、あの二人は付き合っていたのか。サイラスの態度はそっけなかったから、ありえないと思っていたけど。

 いきなりの現実に脱力し、さっきの言葉を思い出した。

『これからどうするんだ?』

 私の抑えていた気持ちなんてとっくにバレていて、私がパーティにいたら気まずいと思っての言葉だったのか。

 お前、やめないか?と言われたんだと思うと、胸がチリチリと痛くなり息苦しい。

 大声を出して逃げたかったけどそれもできず、ただ、二人がいるテントに背を向ける。


 左の脇腹をそっと触った。

 一ヶ月前の討伐中、うっかり山肌を滑り落ちてしまい長さ二十センチほどの傷ができた。酷い怪我だったが、ミーシャは止血程度の治癒魔法でそれ以上は治してくれなかった。私も初級レベルの治癒魔法は使えるが、いくらやっても治らず、今はケロイド状態で皮膚が引き攣る感じだ。

 サイラスの怪我は痕が残らないようにしっかり治癒するのに、私にはこれだけかとムッとしたが、常にサイラスと一緒にいようとベタベタしているミーシャには文句を言えなかった。パーティの雰囲気を悪くしたくなかったから。

 でも、あの時既に二人が付き合っていたのなら、ミーシャは私を疎ましく思っていたのかもしれない。


「はぁ〜」


 大きな溜息をついたら、さらに脱力した。

 胸の痛みも広がった気がする。


「帰りたい」


 朝になったら町へ帰るだけだ。早く朝にならないかなぁ。




 朝になり、焚き火を囲んで朝食を食べる。

 今日もミーシャはご機嫌だ。理由は考えないようにしよう。落ち込むだけだから。


 四人でさっさとテントをしまい、町─サンドナ─へ帰る。ここからは魔物も出ないのであまり気負わずに歩ける。

 私の数メートル前にサイラスとミーシャが並んで歩いている。

 ミーシャはしきりとサイラスに話しかけ、キャッキャと楽しそうだ。しかし一方のサイラスは魔物がいないか確認しつつ、緊張感を保ったまま歩いているようだけど。

『真面目なんだよね』

 あまり見ていたくはないけど、そんなことを考えながらボーッと歩いた。

 

 夕方にやっと町が遠くに見えてきた。町の入口が見えてくると、そこに立っていた男がこちらに気がついて走ってくる。


「シャーリー!シャーリー大変だ!早く家に!親父さんが!」


 叫びのようなその言葉を聞いて、訳もわからずとにかく家に急いで向かった。

 母は私を出産した時に他界しているため、うちは父一人子一人だ。

 その父に何かあったらしい。

 町の中を必死で走る。たいして大きい町ではないけど、なかなか家に着かない。 

 やっと着いてドアを開けると、八百屋をやっている隣のおばさんが家の中にいた。


「シャーリー!あんたの父さんが!」


 わぁっと泣きながら寝室を指差す。

『何?どうしたの?』

 聞きたいのに声が出ないまま寝室のドアを開けた。

 父はベッドに寝ている。胸の上で指を組んで。


「お父さん?何?どうしたの?」


 そろりと近づいて声をかけても反応がない。


「昨日の朝、仕事に来ないってギルドの子がうちに来て、うちの旦那と様子見に来たら、ベッドで寝たまま···そのまんま···」


 そのまんま何?

 お父さん、私、帰ってきたよ。お帰り、今回はどうだった?っていつもの笑顔で聞いてよ。


「ハイム先生の話だと、脳内出血だろうって」


 おばさんが泣きながら教えてくれる。

 お父さんはまだ四十歳だし健康だった。


「脳内出血···」


 おばさんの言葉を反芻しても現実味がない。

 ただ何も考えられなくて、お父さんを見たままボーッとしてしまう。


「ほら」


 いつの間に来ていたのか、リゲルがハンカチを渡してくれた。そのハンカチを見て、私は自分が泣いているんだと気がついた。

 ドアの近くにサイラスとミーシャが立っている。

 ミーシャがサイラスの袖口をつまんでいるのが見えて、こんな時でもそんなところには目がいくのかと、変に冷静な自分に気がついた。

 

 私が戻ったと聞いたのか町長と神官がやってきて、葬儀と埋葬は明日午前中と決め、町長が帰るのにあわせるように皆が帰っていった。


 私はお父さんの横に座ったまま、今までのことを考えていた。

 お父さんは過保護だったなぁ。十五歳くらいになると仲良しの友達の家でお泊り会をしたりするけど、絶対ダメだった。町の外へ行くのもお父さんが一緒じゃなくちゃ許可してくれなかった。

 自分の目の届く範囲内にいなくちゃダメだって言うから、冒険者登録してお父さんと同じパーティに入った。


『シャーリーが一人で出歩くのは、お前が嫁にいくか俺が死んだときだ』


 酔ったお父さんの口癖が思い出される。

 心配性だったお父さんは、この現状をどう見ているのかな?私の独り立ちを応援するのかな?

 

『お前、これからどうするんだ?十七歳っていったら、彼氏ができたり結婚を考えるやつが出て来たりするんじゃないか?いつまでも魔物追っかけてるっていうのも···なぁ?』

 フッとサイラスからの言葉を思い出した。

 そうね、このままここにいてサイラスとミーシャを見続けるのも辛いし、家族はいないし、この町出ていこうかな。

 一度そんな考えがよぎると、それが最善な気がしてきた。

 町を出る準備を整えなくちゃ、誰にもどこに行くかバレないように静かにさっさと出ていこう。

 目標が出来たら、行動に移りたくなる。


「お父さん、薄情な娘でごめんね」


 立ち上がってお風呂の準備を始めた。

 ダイニングテーブルにはサンドイッチと隣のおばさんからの手紙が置いてあった。

 ─もっと食べたかったら家においで─

 町を出る気持ちが少しぐらついたけど、でもやっぱり行動するのみ。持っていく物は必要最低限だわ。着替えと、お金、お母さんの形見のピアスも持っていこう。

 お母さんのピアスが仕舞ってあった引出しを開けた。

 ピアスのケースの横に布袋がある。

 なんだろうと持ち上げると重みがあった。

 台に置いて中身を見ると金貨銀貨銅貨と手紙が入っている。


 ─シャーリーが稼いだお金だ。お嫁にいく時に使いなさい─


 ああ、ごめんね、花嫁姿を見せられなかった。

 ぐっと胸に何かがつかえたが、遠慮なく貰っていくことにした。

 全てをバッグに入れると、それをクローゼットに隠してお風呂に入る。

 リゲルから借りたハンカチも洗おう。明日返すために。

 しばらくギルドの活動は休むってことにして、パーティは抜けるって伝えることも忘れずに。

 

 ゆっくり湯船に浸かってからササッと掃除をしてあがった。

 今日はお父さんとの最後の夜。いつもより早いけど、お父さんの隣のベッドで寝た。




どん底からのスタートですが、幸せになる話です。

これから、よろしくお願いします。

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