死に続ける
こちらは百物語四十六話になります。
山ン本怪談百物語↓
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「これから案内するアパートは、〇〇町の××にあるMアパートです。駅からも近いし、大型スーパーも近所にあるので、とても人気がある場所です」
とあるマイナー雑誌で、オカルト関係の記事を書いている者です。
その日は読者から人気が高かった「事故物件」の取材記事を作成するため、不動産のスタッフと事故物件を訪れていました。
「この場所は、どんな感じの事故物件なんですか?殺人とか自殺とか…」
不動産のスタッフは、カバンの中からボロボロになった資料を取り出した。
「えぇ、この部屋なんですけど…えっと…そういう感じの事件はなかったみたいですね。資料には書かれていません」
気になった私は、さらに質問を続ける。
「病死とかですか?それとも建設中に誰かがこの場所で死んだとか?」
「それもありません。この部屋で人は死んでませんから」
それは事故物件ではない。不動産には、事故物件を紹介するように依頼したはずなのだが…
「それじゃあ、何があるんですか。私は事故物件を探しているんですよ?」
不動産スタッフが資料をゆっくりと確認している。かなりマイペースな人らしい。
「人が死んだのは、この上の部屋なんです。数年前に学生が自殺してます」
そういうことなら、そっちの部屋を紹介してほしい。
「あぁ、でも上の部屋は特に問題ないというか…今も人が住んでるくらい普通の部屋になっているんですよ。事故物件なのは、この部屋です」
不動産スタッフが意味のわからないことを言い始めた。人が死んでいない部屋なのに、どうしてここが事故物件なのか。
「人が死んでないのに事故物件って…どういうことですか…?」
不動産スタッフが腕時計を見て時間を確認し始めた。
「もうすぐわかると思いますよ。ちょっとこの窓を見ててください」
何を考えたのか、不動産スタッフは部屋の窓を開けると、私に窓を見続けるよう指示を出してきた。
「窓って…私が探しているのは事故物件で…!」
「まぁそう言わずに見ててくださいよ」
窓を見続けて1分後、何も起こらない。
窓を見続けて3分後、まだ何も起こらない。
「いい加減にしてくださいよ!事故物件の取材なんだから、ちゃんとした物件を…」
窓を見続けて5分後、それは現れた。
「あ゛ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
凄まじい顔をした男性が、アパートの下へ落ちていった。
「た、大変だ!人が…今人が落ちて…!」
慌てて不動産スタッフの顔を見てみたが、不動産スタッフは動揺するどころか、やっときたという感じでため息をついていた。
「これですよ。この部屋が事故物件と呼ばれている理由です」
私は急いで窓からアパートの下を確認してみたが、死体どころか何かが落ちたような跡すら見つけることができなかった。
「そ、それってどういう…」
不動産スタッフが再び資料を確認している。
「学生は飛び降り自殺だったみたいです。窓から飛び降りちゃったみたいで、まだやり続けてるんですよねぇ~」
不動産スタッフがそう言った途端…
「あ゛ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
窓の外に再び飛び降り自殺をする男性の姿が見えた。恐怖に歪んだ顔をこちらへ向けながら、断末魔をあげて真っ逆さまに落下していく。
「死に続けてるんですよ。今でも…」
この部屋が事故物件になってしまった理由。
それは元住民が永遠に死に続けている場面を窓から見なければならないという不思議なものであった。