ツルの恩返し ~襖の向こうからオットセイの鳴き声が聞こえてくるんですが……~
爺は襖の前でしばし悩んでおりました。
──オウッ!オウッ!
夜になると襖の向こうからオットセイの鳴き声が聞こえるのです。
(開けてぇ……メッチャ開けてぇ……!!)
事の発端は昼間に助けたツルでした。ツルは美しい女性の姿に化け、爺の家に押し掛け女房的なアプローチで潜入したのです。そして夕食を済ませると部屋に閉じこもり中から元気なオットセイの鳴き声が…………。
爺は美しい女性の正体がツルだと知っています。何故なら脛に大きな虎挟みの痕があったからです。
──オッ!オッ!
(が、我慢ならん……!!)
しかし、爺は『開けてはならぬ』との約束を思い出し襖に掛けた手を引っ込めました。
──オッ!オッ!
──オッ!オッ!
(ふ、増えただと!?)
襖の奥から聞こえるオットセイの声が二匹に増えました。爺はそろそろ限界です。
その時、襖の向こうから美味しそうな匂いがしてきました。
(こ、これは……焼き芋!?)
サツマイモの甘い香りが襖の向こうからグイグイと爺の腹の虫を誑かします。
──グゥ……
(い、いかん! さっき夕飯を食べたばかりだと言うのに……!!)
爺は襖に手をかけ、開けるか開けないかの瀬戸際で理性と煩悩のハルマゲドンに耐え忍んでいます。
──プシュッ!
トドメは缶ビールを開ける音でした。爺は既に煩悩モンスターと化しています。
──ガラッ!!
爺が思い切り襖を開け放つと、そこにはオットセイの動画を見ながら焼き芋を焼いており、ビールをグビグビと飲んでいるツルが居ました。
「家の中で芋を焼くなぁ!!!!」
──ピシャン!!!!
爺は襖を閉めました。そしてスッキリした顔で床に着きました。
読んで頂きましてありがとうございました!