1話
よろしくお願いします!
「はぁ……はぁ……まじかよ!」
空から雪が舞い落ち、地面は白一色で覆われている。
そんな中をものすごい勢いで走る青年が一人。黒味がかったブレザーの制服に真っ黒なズボン。首には手編みなのか少し不恰好な赤いマフラーを巻いている。青年は左手に着けている腕時計をちらりと眺めるとさらに走るスピードを上げる。
白い吐息が空気を彩り、首に巻いてある赤いマフラーや頭の上には雪がくっついている。
「間に合うか……」
青年が見据える先には冬にもかかわらず学校の門があり、横にはタンクトップで手には竹刀を持ついかにも体育会系の教師が仁王立ちしている。
さらに門の向こう側には真っ黒な長髪に青年と同じく真っ赤なマフラーを巻いて手を振る女の子が一人立っている。
「悠人〜〜頑張って〜〜」
「5……4……3……」
女の子が青年ーー天咲悠斗を応援し、タンクトップ姿の教師が青年を見ながら秒数を読み始める。心なしか男の口角が上がり、今か今かと腕時計を見ながら秒数を読む。
悠斗はさらに走るスピードを上げる。そしてタンクトップ姿の男が1と声を上げたと同時に門を通り過ぎる。
「はぁ……はぁ……なぁ? 間に合うって言ったろ〜〜真波……」
肩で息をしながら、顔を上げ、待っていた幼馴染で恋人の真波に声をかける悠斗。
しかし目の前の光景に思わず口が開いてしまう。
「なんだよ……これ……」
悠斗は目の前の光景に思わず声が漏れる。
彼の目の前には恋人である真波の姿でもタンクトップ姿の先生でもなく、また雪の積もった地面でもない。
悠斗が立っているのは見渡す限りの草原。申し訳程度に舗装された道の上に彼は立っている。
「まじかよ……まじかよ……これってもしかして……」
悠斗は拳を握りしめ、わなわなと震え始める。
「異世界……転生?」
優斗は生粋のアニメオタクである。こういった状況は最近流行りの異世界転生もので見慣れている。
「いや待てよ……俺はトラックに轢かれたり、というか死ぬような状況になんてなってなかった。それに俺は俺の身体のままだ。ということは転生じゃなく……転移だな……」
なぜか一人納得し沈黙が流れていく。この時悠斗の思考は完全に止まっていた。
そして1分後……。
「って! 納得できるかぁぁぁぁ! どうすんだよ、この状況! 神様とか出てこいよ! この後どうすんだよ! 魔王でも倒せばいいのかよ! てか異世界いらねーーよ! 俺リアル充実してるから! 彼女いるから! 普通に生活してるから! ふっざけんなよ!!!!!」
地団駄を踏みながら叫ぶ悠斗。周囲には誰もいないので変な奴だとは思われないだろう。
すると突然黙り込み3回ほど深呼吸を繰り返し、辺りを見回しだす。
そして周囲に何も無いことを確認すると申し訳程度に舗装された一本道を歩いていく。背中からは諦めが見て取れる。
「 とりあえず街に行かないとな……」
悠斗は割と大雑把な性格だった。
次回も楽しみに!