はるゆめ
桜が散る。
寂しさと愛しさとが、世界によりくっきりと形をなした。
びゅう、と風が吹く。
少しばかり、冷たく首筋をとおり抜けた。
――花びらが降る。
私は生徒昇降口にいた。
馨は既に昇降口の外にいて、学生鞄をブラブラ振りながら私を待っている。
「あ。朱音、スカーフ解けてる。」
馨は、靴を履いて隣に並んだ私に言った。
そして私の白スカーフに、細くて長い、綺麗な指を絡ませ、丁寧に結い直した。「ありがと。」
にこりと笑いあって馨と二人、歩き出した。
「今年の桜は早いね。」
ふと馨が言う。
馨は空を見上げている。
澄み切った空。
薄いガラスを何枚も重ねたような、透明な青さ。
日差しはまぶしい。巨大なダイヤモンドのような太陽が、四方八方光を伸ばしていた。
「…。」
何かしら言おうとして、止めた。
校庭の桜の花びらが、ちろちろと、見上げた視界に舞い、落ちてゆく。わたしは、美しい景色であると思った。
まるで春のようだ。
ずっと、ずっと昔の。
紺のセーラーに白スカーフをひらひらさせて、振り向きざまに馨が笑った。
とても綺麗だと思った。
今まで隣にいたはずの馨が、急速に、ぎゅんとどこまでも遠くなっていた。
――そして、消えてしまった。
ぽつねんと取り残されたわたしの胸元には、丁寧に結い直されたスカーフが春風に、静かに揺れている。
足下には、落ちた花びらがびっしりと敷かれている。コンクリートに踏みつけられ、突然降ってきた雨にぐちゃぐちゃになって冷たく濡れてしまった。
びっしょりになったわたしは、そのまま花びらを散らかして、コンクリートに這いつくばった。膝小僧がじんじんした。
酷い景色であるとわたしはおもった
こんなところに這いつくばって。花びらもわたしも…
――ふと目が覚めたような感覚に捕らわれた。そのうち全てが思い出された。
朱音は遠い昔の夢をみたような気がした。
それは朱音の過去より、もっと昔昔の話し。
朱音は遥、地球を仰ぎ見た。
にんげんたちが生まれたところ。
朱音は宇宙を飛びながら、遥、地球の春を思い描いた。
――透明な青さ。
切なさと愛しさと悲しさと。
夢落ちなのだろうか。もう訳が分からん。環境問題?とでも受け取ってくだされ(逃)