山登り
私達の住んでいる地域は、山と海が近くて、山のある方が北で、海は南と決まっている。
かくして北へ。北に進路を取って歩いている。
山かあ......。
山での遊びって何があったっけ?
小学生の時の遠足、山登りばっかりだったなあ。
なんかモクモクと歩いて登って、下ってばっかりだったなあ......。
飴を舐めて糖分取って、半日ぐらい延々歩いてた記憶がある。死の行軍。と呼ばれていた。小学生のする山登りではなかった気がする。そこに、ひまりちゃんが聞いてくる。
「さて、りんごお姉さん。山ですよ!山と言えばなんだと思いますか?」
「なんだろう......?登るしかイメージ無いんだけど......」
「山と言えばですねぇ......。ヘビ!!」
ひまりちゃんが素早く動く!
いつの間にか私達の足元に小さなウニョウニョ動くヘビがいた。そのヘビを両手でかま首のところを、バシッ!と押さえて捕らえた。
「ほうほう。こいつは子供ですが、マムシですね。毒もありますが、栄養もあります」
「え......?あ、危ないよ、ひまりちゃん」
「大丈夫です、お姉さん。ここを、こう。首を落としてしまえば......ほら!」
どっから出したのか、手にしたペティナイフでマムシの首をチョンパして、そこから血が出てきた。
「これをこう、逆さにして胴体を絞って、生き血を......飲みます!」
「ひぃやあああ!!」
小学生の幼女がマムシの生き血を絞ってごくごく飲んでいる。その余りに鮮烈な光景に悲鳴をあげてしまう。ス、スプラッター......!
完全にモンハンの世界線だ!
「お姉さんもいっときますか?精がつきますよ?」
いらない、いらないとブンブン首を横にふる。
良い食料になります。と背中のリュックに仕舞いこむ小学生。
そんなに困窮しているのだろうか?
「ひまりちゃん?そんなに困ってるならお金貸そうか?」
「いけません!お金の貸し借りは、人間関係にヒビを入れます!特にお姉さんとの間には、貸し借り無しでいきたいのです!」
一家言あるらしい......。
けど、私との間柄をそんな風に思ってくれているのは素直に嬉しかった。登山が、サバイバルになってしまったけども、大事な思い出になるだろう。
それからも、ひまりちゃんは、
この野草は食べれます!おひたしにするとイケます!
柿は、重要な糖分補給になります!助かりました......!
いや、ほんとに困ってるみたいだから帰ったら、なんか差し入れぐらいはしよう......。
「さて、そんなこんなですが、頂上到着です!」
絶景が広がる山の頂上。
主にひまりちゃんの食料確保の道すじだったけども、やっぱり登頂の達成感はあった。
「......すみませんでした、お姉さん。目先の食料に囚われてせっかくの登山が......」
「いいよ。最初はギャー!って、なったけど。途中からちょっと楽しかったし」
「あ、ありがとうございます!唯一、私の遊び道具のフリスビーを、ここで出します!」
「おおっ!遊びだ!」
バーン!
と出したフリスビーを嬉々として投げ合う。
ひまりちゃんも小学生らしい笑顔だ。
私も下界の煩わしい事を忘れて遊べた。
ただ楽しい。
「アハハ!ひまりちゃん!やっとデートっぽい感じだねぇ!」
「うう.....。りんごさんが、デートと認識してくれた、感無量です....」
動きが止まり、嬉し涙をこぼしてその場で崩れ落ちた。
しまった。そこまで喜ばれると思わなかった。うっかりデートと言ってしまった。
......でも、気分は悪くなかったので、デートでもいいかと思い直した。間違いなく良い思い出なんだから。
「次は、私から誘うね!ひまりちゃん」
「お、お姉さんから、デートのお誘いを......」
「か、どうかはわからないけどね?」
喜び涙のひまりちゃんを目の前にして、やっぱりまだ、デートと言ってしまうのを、ためらう私だった──
続く