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ジョウ族とヤイ族 人を見下すことのルーツ

作者: NOMAR


 むかしむかし、あるところに大きな島があった。

 そこにジョウ族という民族が暮らしていた。


 ジョウ族は他の土地で他の民族との争いに敗れ、逃げるようにしてこの大きな島へと辿りついた。

 ジョウ族は獣を狩る狩猟の民。他の民族が住まない大きな島を見つけ、そこでジョウ族は獣を狩り、穏やかに暮らしていた。


 時は流れ、大きな島にヤイ族がやって来た。ヤイ族は米を育てて米を食べる農耕の民。

 二つの異なる民族が出会えば争いとなる。

 ジョウ族とヤイ族は自分達の暮らす土地を守る為に争った。

 しかし、大きな島は土地の恵みは豊かで、その争いが大きくなることにはならず、ジョウ族とヤイ族は争いながらも、大きな島で共に暮らしていた。


 やがて長い冬が訪れた。

 雪はいつまでも降り続け、なかなか春が来ない。

 あまりにも長い冬が続き、野の獣の数は少なくなっていった。

 獣を狩る狩猟の民、ジョウ族は獲物が少なくなり、食糧は乏しくなり、次々と死んでいった。


 片や同じ大きな島に住むヤイ族も、長く続く冬にその数を減らしていった。何年も続く冬の中でヤイ族もまた、数を減らしていった。

 しかし、米を育てる農耕の民、ヤイ族は寒い中でもなんとか穀物を育て、食料を得ることができた。そのためヤイ族はジョウ族ほどに数を減らすことは無かった。


 長い長い冬が終わる頃には、ジョウ族はすっかり数を減らして少なくなった。

 ヤイ族は弱ったジョウ族を支配して、大きな島をヤイ族のものとした。

 しかしヤイ族もまた、長い冬で弱っており、ヤイ族はジョウ族を支配しつつも、互いに協力しあうような間柄となった。


 大きな島の中で、ヤイ族が上位、ジョウ族が下位という階級社会が産まれた。


 ヤイ族は米を育てる農耕の民。

 米のおかげで長い冬を生き延びることができ、ジョウ族に勝てたのだ、と、米を一層、神聖なものと、崇めるようになっていった。


 ジョウ族は、獣を狩り森の恵みを得て生きる狩猟の民。ジョウ族とヤイ族、二つの民族は暮らし方に違いがあった。

 共に暮らすようになったことで、二つの民族に変化が訪れる。


 ヤイ族は米を食べることを崇めており、獣の肉を喰らうことを野蛮だと言うようになっていた。

 四ツ足の獣を喰うのはジョウ族だけ。

 四ツ足の獣を喰えば獣になる。

 だからジョウ族は獣同然の民なのだ。

 ヤイ族はそのように言い伝え、ジョウ族をヤイ族以下の、人未満の民として言うようになる。


 ヤイ族はジョウ族を支配して使う。

 ジョウ族は獣を狩る狩猟の民。獣を食うために獣を解体するのに慣れた民族。

 獣の死体を扱うことを日常とするジョウ族を、ヤイ族は死の穢れを纏う民、と蔑んだ。

 そして獣の処理に慣れたジョウ族に、死体を処分させたり、ゴミを処分する役目を負わせる。穢れた不浄の仕事はジョウ族にやらせろ、と役割を押し付ける。

 四ツ足の獣の肉を食わないヤイ族は、獣の肉を喰らうジョウ族を、獣に等しい者として見下しながら。

 ヤイ族には穢れの思想が根付き、穢れたジョウ族はヤイ族未満の存在、というのがヤイ族にとって当たり前のこととなる。


 ジョウ族はヤイ族より下層の民とされ、獣の肉を喰らう卑しき民と言われながらも、大きな島で共に暮らしていた。

 長い間、ヤイ族はジョウ族に嫌な仕事、汚れ仕事を押し付けて、二つの民は同じ大きな島の中で役割を分担して暮らしていく。


 時は流れ流れて、やがて人の間に平等や人権といった思想が芽生えていった。

 大きな島にできた国。その国の政府は、大きな島の住人達が一丸となり、共に生きるべきだと言い出した。


 ジョウ族とヤイ族、この二つの民族には実は見た目には大きな違いが無い。髪も同じ色、瞳も同じ色、肌も似たような色。

 服を取り替え生まれを偽れば、見抜ける者も少ない。更には長い長い時の中で、ジョウ族とヤイ族の混血も増えていた。


 大きな島の政府は、この国で身分の差別、民族の差別を無くすことを決め、ジョウ族もヤイ族も同じ国の同じ人であり、平等に同様の人権を持つ者と定めた。

 大きな島に近代化の波が現れた。


 これにジョウ族は喜んだが、ヤイ族は怒った。その怒りは激しく、各地で大きな島の政府に抗った。


 これまで見下していた奴等が、自分と平等だ、など許せない。

 どれだけ辛く苦しいことがあっても、ジョウ族を見れば、自分達はアレよりましだ、と安心することができた。

 これからジョウ族と平等になり、見下す相手が居なくなれば、私たちは平静に平穏に暮らすことができなくなる。

 この先、この大きな島の人間全てが平等だなんて、そんな暮らしには耐えられない。

 穢れた民を私たちと一緒にするな。


 大きな島の各地でヤイ族は政府に反抗した。ヤイ族の中にもジョウ族と平等な社会となることを、近代的と喜ぶ人もいた。だが、ヤイ族の民は、自分達より下の身分が居なくなることを不安に思い嫌がる人達は、政府に対して反対運動を各地で続けた。

 家に火をつけ、橋を落とし、何人もの人が死ぬこととなった。


 近代化を推し進める政府はこの反乱を武力で鎮圧した。そして半ば強引に、大きな島にこれまであった、身分制度を無くした。

 こうしてジョウ族とヤイ族は身分差の無い、同じ大きな島の同じ国の民として、平等だと法律に描かれた。


 しかし、大きな変化の中でも、これまでの暮らしの中で伝えられてきたものは残る。

 長い長い歴史の中で積み重ねられてきた、その精神は、大きな島の人達の多くが胸に抱えている。


 米を神聖なもの、と崇めていた歴史から、米はこの大きな島の民の主食となった。

 大きな島の外から、獣の肉を食べる食文化が伝えられた。これまで四ツ足の獣の肉を食らうのは野蛮と言っていた者も、牛や豚の肉を食べるようになった。

 獣を食えば獣になる、と言い伝えられきたのは時代遅れとなり、獣の肉を食うことが当たり前となった。こうしてヤイ族とジョウ族の食文化の違いは無くなっていく。


 しかし、牛の乳を飲めば牛になる、と伝わっていた大きな島。そのためにその大きな島の民には、牛乳を飲めば腹を壊す者もいた。長らく牛乳を飲む習慣の無かった民には、腹の中で牛乳を分解する酵素を作ることが、できない者が多かった。


 また、大きな島の中で、ヤイ族は長い間、ジョウ族を見下して暮らしていた。そんなヤイ族の末裔には、常に誰か他者を見下していないと安心することができない、という精神性が残っている。

 大きな島の中で、法律では誰もが平等となってしまった。もはや二つの民族には上も下も無くなった。その結果、不安に駆られるヤイ族の末裔は、見下して不満をぶつけられる他人という存在をいつも探し続けている。

 穢れた者として、見下し蔑む為の理由をいつも探し求めている。理由さえあれば、『自分達はアレよりマシだ』と安心できるからだ。


 今では大きな島の中では、法律と公は誰もが平等となっている。しかし民族としての感情と個は、常に見下せるものを探して求めている。


 長い長い時が過ぎ、獣を狩る狩猟の民、ジョウ族は縄文人と呼ばれ、

 米を育てる農耕の民、ヤイ族は弥生人と呼ばれるようになる。


 大きな島は今ではひとつの国であり、その国の名は日本と呼ばれる。


 この大きな島の国に住む、日本人と呼ばれる民族の70%以上は、縄文人と弥生人の混血である。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 作品の投稿ありがとうございます。 実は歴史も関係あると気づかずにいつのまにか ぐいぐい読んでしまっていました。 色々全然知らなかったので短編小説として勉強になりました。 鳥食べないなんて、…
[気になる点] 追記すると、ブッダはそもそも肉食忌避してないので、蘇我氏が日本に持ち込んで聖徳太子が導入した当初の仏教もそのようなものでした。 その後、中国で中国思想の影響を受けて仏教が発展というか変…
[気になる点] >仏教思想が入りやすい状態が既にできていたから いや、旧来の神道派(物部)と、新渡来人の仏教派(蘇我)でドンパチしてますがな。 「入りやすい状態」がない状態で入ったのは武力ですよ。 …
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