オレは四天王の中で最弱な男
前半は生い立ちや世界設定
今はもう思い出すことさえ困難になるほどの昔、オレはそれまで住んでいた日本という国で死を迎えた。
原因は何だったか、確か交通事故だった気がする…いや、通り魔に殺されたんだったか?
とにかく、オレは一度死んだんだ。
死後の世界は、天国だ地獄だ…などと。
生きてるうちに想像していた事もあったが、実際は違った。
無…とでも言えばいいのか、真っ暗な世界に意識だけが存在している状態。
正直、気が狂ってしまってもおかしく無かったと思う。
実際狂いかけた。
その後どれほど経ったか分からないが、次第に目の前が明るくなっていった。
実際には目など無いが、目が眩む程にと思うくらい光が強くなった。
そして。
気がついた時は、新たな命として産まれ落ちていた。
産まれてすぐにすぐに気づいた事ではあるが、この世界は…所謂、異世界だった。
魔法という物が存在し、人と魔が争う世界。
何の因果か、前世の記憶を保持したまま産まれてしまったオレ。
魔法の適正もあり、幼い頃から色々な事を効率良く学んだ結果…周りとは圧倒的な差をつけての成長をしてしまった。
そうして300年以上が経った今、オレは王の守護を担う『四天王』の一人にまでなれた。
…300年という時間で分かる通り、今生のオレは人間では無く『魔物』として産まれたんだ。
つまり、魔王配下の四天王が一人。
前世のオレに言ったら「厨二乙」とでも言われてしまいそうな役職である、いや…まぁ、異世界に転生したと言った時点で妄想乙となるだろうが。
ーーーーー
この世界では人と魔が争っているとさっきは言ったが、それは少し正確では無い。
正しくは「人が魔に敵対している」と、いったところか。
魔王様が治めている国は、資源も豊富で人口(魔口?)的にも人族の3倍はいる。
人と比べて、戦闘力も3倍程高い。
3倍の強さの兵が3倍の数、単純に計算しても9倍の戦力差がある。
はっきり言って、人族など相手にならない。
戦争をしたとして、結果はすでに見えているだろう。
しかし魔族としては、戦争に勝ったところで何の旨味も無い。
資源的にもこちらの方が豊富であるし、人族を征服したとしても管理も大変だ。
人は人、魔は魔。
それぞれが別に管理する事で栄える世がある、それが魔王様の考えであった。
だが、人王はそうは思わないようだ。
こちらの豊富な資源や土地、人族にとってはなんとしても手に入れたい物なのだろう。
人族からの宣戦布告は定期的に行われている。
戦力差は歴然だというのに、なぜ?
それは、人族にとっての切り札が用意された時に行われる。
『対魔族用人型決戦兵器』
つまりは「勇者」の存在である。
ーーーーー
数十年〜百数年のスパンで現れるソレは、到底人族とは思えない程の力を持っていた。
たった一体が投入されるだけで、魔族の街一つが蹂躙されてしまう程に。
ソレらはこの世界の人族の突然変異であったり、ごく稀にオレの前世の世界から召喚される事もあった。
女神の加護を受け、世界に蔓延る魔を滅す。
…うん、前世で100万回くらい聞いた煽り文句だ。
だが、実際の女神は平等である。
人も魔も等しく見守り、この世界の発展を願っている。
人族が「聖なる力」とか言ってるのも、ぶっちゃけ酸素を操るだけの力だ。
魔族は酸素の多い所では息苦しくなるし、最悪は呼吸困難に陥ってしまう。
人族が「障気」と呼んでいる物が魔族にとっての呼吸に必要な物であり、これを操る術が「邪なる力」と呼ばれる魔王様の力だ。
ここで一つ、考えてもらいたい。
両方が同じ気体である時、そりゃどちらかが密度的に増えればもう片方は減るだろ?
前世でも、物を酸化させて朽ちさせたりする酸素は「人間以外」にとっては…いや、細胞を酸化させて老化が進むんだから「人間にとっても」有毒なガスだって話もあるよな?
この世界特有の物だけど、障気は魔族の呼吸に必要な以外に害は無い…寿命の違いはここにも有ると思う。
一体どっちが「聖」でどっちが「邪」なんだろうな?
ーーーーー
そんな勇者に対抗する為に、オレたち四天王は存在する。
対人族で考えた時、無類の強さを誇る魔王様。
そりゃそうだ、辺り一面を障気で覆い無酸素の状態に出来るんだから。
人がその空間で生きて行くのはかなりの困難だ。
しかしそれも、酸素を操る勇者との相性はすこぶる悪い。
能力が拮抗してしまい、単純な肉弾戦となってしまう。
そうすると、1対1では勝ち目が薄くなる。
そうならない為の「四天王」なのだ。
魔王様には勇者の能力を抑えて貰い、オレ達四天王が勇者を倒す。
魔王様の力を借りて卑怯?
いや、言い方は悪いけど…ぶっちゃけ「空気清浄機」程度の役割しか魔王様はしていない。
そしてオレ達四天王は各階層を守っているわけで、実際に勇者と戦うのは一人づつだ。
勇者が来た時は最上階に魔王様、3階層目に参謀兼水の四天王が。
2階層目に軍隊長兼火の四天王、1階層目に情報統括兼風の四天王が配置される。
え?
オレ?
…………
……………外。
…………………庭師兼土の四天王です。
いや、まぁ、庭師って言うか、馬丁兼っていうか、雑用兼というか…。
まぁ、雑事全般です。(泣)
と言うわけで、勇者が来たら真っ先にオレが相手する事になるんだけど。
種族的にと言うか、属性的にと言うか…
過去3回の襲撃で、その…馬鹿にされましてね。
曰く「雑魚」だの「四天王最弱」だの…まぁ、間違っては無いけども。(血涙)
でも腹が立つには立ったので、丁重におかえり頂きました。(土に)
で、最後の襲撃から数十年。
少し油断してたのもあったのか、今回は城の内部への襲撃を許してしまったんだ。
ーーーーー
その時のオレは、人族の国へと来ていた。
新たな勇者が”召喚”されたと人族からの宣戦布告を受け、降伏勧告の書簡を届けるよう魔王様に頼まれたのだ。
この書簡を渡して今まで降伏した事などは無いのだが、一応様式美として毎回届けさせて貰っている。
まぁ、ようは雑用だ。(泣)
「魔王様配下の四天王が一人、大地のグルドでございます」
謁見の間にての自己紹介、この時に「庭師兼…」などと言わないのは特使としての威厳がなくなるからだ。
「土」じゃなく「大地」って言ったのも…うん、まぁハッタリです。(照)
「貴様、頭が高いぞ!ここにおわす方をどなたと心得る!」
謁見の間に入り、人王の前へと歩いて行き上記の自己紹介をすぐにした。
まぁ、人族の礼儀にとっては無礼もいいところだというのは理解してる。
元人間だしね。
「これはこれは、申し訳ありません。私が仕えるのは魔族の王、サタン様ただ一人。人族の王に下げる様な、安い頭は持ち合わせておりませんので」
オレは、胸に手を当て微笑みを浮かべながら言う。
これがキチンとした外交の場ならば頭の一つも下げようが、相手は自国へ侵略を繰り返している「敵国」なのだ。
少しくらいの挑発は大目に見て貰いたい。
「……!!!貴様!!」
先程も怒鳴り声を上げた宰相らしき人物が、顔を真っ赤にしながら身体を震わせている。
どうやら効果は抜群のようだ。
肝心の人王は、オレの言葉を意にも介してないのか無表情にこちらを見つめている。
腐っても王と言う事か、なかなかの威厳である。
「宰相、よい。今から戦争をしようかと言う相手なのだ、礼儀を弁えろと言うのも無理がある」
「!!!………はい」
今にも掴みかかって来そうな宰相を手で制し、人王が話し出す。
「しかし、グルドと言ったか?いくら敵同士とは言え、そのような態度では品位を疑われるぞ?」
人王の言葉に、謁見の間に居た兵や貴族達から笑い声が上がる。
「まぁ、魔族故に仕方が無いと大目に見るとしよう。だが…使いがこの程度ならば、魔王という者の位も知れると言うもの」
呆れ顔で言い放つ人王、堪えきれず大声で笑いだす貴族達。
なるほど、挑発に対しては挑発で返す…と、そういう事か。
「おや?随分と大口で笑うのですね、やはり蛮族の笑い方には品が無い」
口に手を当て、クククっと笑う。
それに反応したのは王だった。
「…蛮族、それは自らの事を言っているのか?」
「いえいえ。自国の物だけでは飽き足らず、他国の物まで欲しがる欲深さ。対価を支払って頂けるのならば取引の場もございましょうに、それを良しとせずに武力によって奪い去る。そんな貴方がたを蛮族と呼ばずに、なんとお呼びしましょうか」
あなた達がしている事は野盗と変わりませんよ、そう言ってやった。
これには誰からも声が上がらなかった、恨みがましい目で見ているので心中では罵詈雑言の嵐なのだろうが。
「…価値観の相違だな、戦争とはそう言うものだ」
「ならばそれで宜しいのでは?そもそも私は、戦争を起こすこと自体が蛮族の所業だと言っているのですけども」
「…魔族に何を言われた所で響かんよ」
「悔しそうな顔をして、何を仰っているのやら」
「そう見えるか?ならば目”も”劣っているのだな」
「なるほど、蛮族は詐術も嗜むのですね」
「っ…!!嘘では無い!!」
しばらくの舌戦の後、ついに人王が立ち上がった。
顔を真っ赤にして、先程の宰相のようになっている。
やがて落ち着きを取り戻し、玉座へと腰をかけた。
先ずは1勝、などとくだらない事を考えてしまう。
「ふん、まあいい。とにかく書簡は受け取った、とっとと帰るがいい」
「なれば、これにて失礼。願わくば貴方がたが知恵と理性の働く、賢き生き物である事を祈っております」
「…くっ!」
来た時同様、頭は下げずに挨拶をする。
また顔を赤くした人王を尻目に、その場を後にしようとした。
「…くっくっく、そう言えば」
その直後、背後から声が掛かった。
後ろを振り返ると、人王が笑っている。
「此度の勇者はえらく協力的であってな『すぐさま魔王の討伐に向かいます!』と、すでに出ていったよ」
先程の舌戦で負けたのが悔しかったのか?
どう考えてもこちらに流すような情報では無い、機密扱いの軍事情報である。
そうまでしてオレを悔しがらせたいのか、と。
「…貴重な情報をありがとうございます、ですが城に辿り着くまではまだ時間がありましょう。すぐに戻って、対策を立てさせて頂きます」
いくら勇者とは言え、人族の行軍速度には限りがある。
早馬で駆けた所で、オレの方が早く城に着く事が出来る。
すると、人王はさらに大きな声で笑いだした。
「あっはっはっは!どうやら分かってないようだが、勇者の能力は一つでは無い!聖なる力に加え、今回は神速の能力を持っていたようだ!」
「なに…!?」
「今ごろきっと、既に魔王城へと着いている頃だろう。貴様がここにいる事で、戦力も減った魔王軍で太刀打ちなどできるものか…ひぃ!!」
やばい。
何がやばいってマジやばい。
四天王の他3人は今、城にいないんだ。
つまり、魔王様と使用人(使用魔?)達しかいない!
つい殺気が漏れてしまい、それを受けた人王が悲鳴を上げた。
何やら股下が濡れているようにも見えるが、それを弄って挑発しているような余裕は今のオレには無い。
正規の出口から出て行く時間も惜しく感じ、謁見の間の壁に大穴を開けてそこから出ていくことにした。
ーーーーー
ところ変わって魔王城。
「どけ!雑魚に構っているヒマは無い!」
四天王不在の魔王城では、召使いである使用魔達が身を呈して勇者と対峙していた。
勇者の聖なる(酸素を操る)力が城に広がり、魔族達の動きが鈍っている。
かろうじて立っている事が出来るのは、魔王(空気清浄機)の力である。
しかし勇者との力の差は歴然であり、一人(一魔?)また一人と倒れて行く。
ついに立ち塞がる魔族も居なくなり、勇者は魔王の元へと辿り着いた。
「魔王、覚悟しろ!お前を倒して、世界を平和にしてみせる!」
勢いよく扉を開けた勇者は、大声で啖呵を切る。
典型的なテンプレ脳であった勇者は「魔王=悪」と思い込み、自分が正義であると疑わずにここまでやってきたのだ。
「勇者よ、よくぞここまで来たな」
勇者が訪れた事により、玉座から立ち上がる魔王。
その姿は。
漆黒の衣を見に纏い、血に染まったような真っ赤な瞳を持ち、天を衝くような捻れた角を生やし、噛み殺す事に特化したような牙を持ち、振るえば空気をも引裂きそうな爪を持った。
少女であった。
人間で言えば15〜16歳程、あまり発育は良くないがそれでも女性と分かる身体つき。
先程出した声だって、まだ何処かあどけなさが抜けていない。
普通なら、戦う事に躊躇してしまう見た目。
しかし勇者は、そういう見た目の「魔物」だと割り切ったようだ。
「覚悟!」
そう言って、酸素を操る力を開放して魔王に斬りかかる勇者。
それに対して、魔王は鋭い爪で剣を受けた。
もちろん、空気清浄機の力は使いながらだ。
「くっ…!なかなか…」
元々戦闘に長けているわけではない魔王は、次第に勇者に押されていく。
所々肌は切られ、纏っていた漆黒の衣(ゴスロリ)もボロボロになる。
「…あぁ!!」
ついには剣を受けてた鋭い爪(付け爪)も切り飛ばされた。
魔王に残されたのは牙(八重歯)と、角(自前)だけである。
「トドメ!」
「…っ!!」
爪を失いバランスを崩した魔王に、好機とばかりに斬りかかる勇者。
避けようがなくなった魔王は、固く目を閉じて覚悟を決めた。
「………」
「………?」
しかし、いつまで経っても襲って来ない衝撃。
魔王は目を開く。
「!!…グルド!」
「遅くなってすいません、お嬢」
魔王が目にしたのは、自分の前に立ち「代わりに」切りつけられたグルドの姿であった。
ーーーーー
「グルド!……っ、遅いわよ!いったい、何やってたの!」
魔王様がオレの姿を見て、一度笑顔を浮かべた。
すぐに頬を膨らませて、横へと逸したが。
何ていうか、素直じゃないんだよな。
「いやいや、お嬢の命令で人族の国へお使いに行ってたんじゃ無いですか」
「それでも、妾を守るのがお前の役目でしょう!?危機にはすぐに駆け付けなさい!」
む、無茶苦茶やでぇ…。
などと心の声は飲み込む事にした、言い返した所で「最弱」なオレの言葉など無視されるのがオチだからだ。
「…申し訳ない、お嬢。これからは何を差し置いてでもすぐに駆けつけますよ、オレの命や存在のすべて…お嬢に捧げます」
「そ、それでいいのよ!貴方は私の配下なのだから!」
しょうがないな、といった感じで言った言葉なのだが魔王様の琴線には触れられたようだ。
そっぽを向いたままだが、その横顔はどこか嬉しそうに見える。
…顔が赤くなってるのは、見なかった事にしよう。
そうやって話をしていると、段々と背中の”蝿”が鬱陶しく感じてきた。
「な、なぜ!?なぜ効いていない??!」
話をしている最中、ずっと背中を切りつけてきた勇者。
くるりと向きかえると、驚愕に表情を浮かべていた。
「…まったく。人が喋ってる時は邪魔しちゃいけません、ってママに教わらなかったのか?ん?いや、オレは人じゃ無くて魔か」
「いったい、何者だお前は!!」
「質問を質問で返すなって、どうやら教わってないようだな。ママに代わって、魔々(ママ)が教育し直してやるよ」
…うん、くだらない事を言ったよ。
ごめんなさい、だからそんな目で見ないで下さい魔王様。
「いいから答えろぉ!!」
勇者は、どうやらパニックを起こしているようだ。
先程のジョークをスルーしてくれたのは有り難いが、このままじゃ話にならない。
オレは仕方なく自己紹介する事にした。
「魔王様配下の四天王が一人、大地のグルドだ」
厨二乙!
そんな事、勇者が思ったかどうかは分からない。
まぁ、オレだったら思う。
「大地の、って…何?」
そして、思わぬ所からのツッコミが入った。
まさかの魔王様だ。
「え、いや。何かそっちの方がハッタリが効くかなーって」
「何か痛々しいわよ、普通に『土属性が得意な小鬼族のグルド、325歳のオス』で良くない?」
「あぁぁぁぁ…やめて言わないで、そんな詳細なオレのプロフィールを!」
魔王様(上司)による個人情報の漏洩が酷すぎる件。
訴えてもいいですか?(どこに?)
「…土属性?…ゴブリン?」
オレがテンパってる間、勇者はぶつぶつと何か呟いていた。
顔を伏せ、次第に笑い声がこぼれてきた。
…ついに壊れたか?
「くくく…何だ、ゴブリンか。しかも土属性使いとは、ただの雑魚ではないか!」
えー…そんな事言っちゃう?
いや、気持ちはわかるよ。
オレだって前世だったら、ゴブリン×土属性=雑魚って方程式が成り立っていたもん。
「多少は頑丈なようだが、所詮はそれだけ!ならば…全力で削る!」
勇者はそう言って、目の前から消える。
そして次の瞬間、脇腹に衝撃が走った。
「ふむ。これが、人王の言ってた…」
神速、と言ったか。
確かに、目にも止まらぬ速度で動き回り…神速と言えるかも知れない。
勇者の動きに感心している間にも、次々と切りつけられていく。
脇腹、肩、太もも、頬、腕、首。
「受けてみろ!光の剣閃、閃光斬!」
「…ぶふぉ!」
オレは耐えきれず、吹き出してしまった。
光!剣閃と来て閃光て!
どんだけ同じ言葉を重ねる気だ、笑い過ぎて腹痛が痛い!(真似)
そのまま崩れ落ちたオレを見て、倒せたと思ったのか勇者が姿を表す。
「負担がでかくて、1日に1度しか使えない大技だ。オレにこの技を使わせた事、あの世で誇るがいい」
あの世なんてねーよ、とツッコミを入れたかったがそれは一度死んだオレにしか分からない事だ。
そもそも、笑い過ぎて声が出ない。
「さて、後は魔王。お前だけ…」
もっと腹を抱えていたかったが、どうやらここまでのようだ。
勇者が魔王様に剣を向けたのを見て立ち上がる、オレに対して背を向けて無防備極まりない。
オレは腰に佩いていた剣を鞘から抜き、一閃…とはせずに勇者の肩に手を置いた。
「…貴様!なぜまだ生きている!!」
「いやぁ、勇者くん。ぷっ…いやいや、言いたい事は沢山あるんだけど少しだけ良いかな?」
驚愕の表情を浮かべたまま固まってしまった勇者に対し、オレは構わずに質問した。
「何で肩とか足とか攻撃したの?超スピードで不可避の攻撃なんだから、首とか心臓とかに一撃入れればそれで充分じゃない?」
「なっ……!」
その一撃に賭けて能力を使えば、もっと負担が減って回数も使えるようになるだろうし。
まぁ、それでもオレの耐久があれば怪我すらしないが。
「え、何で?いっぱい攻撃した方がカッコいいと思ったの?」
「………」
「剣閃って程鋭くも無いし」
「………っ」
「いくら速いって言っても光程じゃないし」
「………っ!」
「盛った?ひょっとして盛った?」
「………っっ!!!」
「それとも元々あんな名前なの?だったら看板に偽り有りだよ?」
前世ならジャ○に訴えてる所だ。
「……えた」
「え?」
「……自分で考えたんだよ!!」
「そっかそっか。一生懸命考えたんだね、だったら悪い事言ったな。うんうん、カッコいいよ」
勇者は真っ赤になってぷるぷると震えている。
ちらりと魔王様の方を伺うと、肩を震わせて笑うのを我慢しているようだった。
うん、気持ちはすごいわかる。
「っ!!技名の事はどうでも良い!!とにかく、トドメをさしてやる!」
トドメもクソも、ダメージを受けてもいないのだが。
しかしこれ以上煽ってやるのもかわいそうだ。
雑魚扱いされた仕返しは、これくらいにしておこうか。
オレは抜いた剣を、右手一本で正眼に構える。
対して勇者は上段、体重の載せやすい一撃に賭けた構えだ。
「はっ!!」
鋭い踏み込みとともに、剣を振り下ろす勇者。
それに合わせて、側面を払うように剣を振るう。
所謂、パリィと呼ばれる技術。
勇者はそれによりバランスを崩し、前方へと身体が流れる。
オレは手首を返して、首元へ狙いを定め剣を跳ね上げた。
「くっ!」
勇者は慌てて能力を発動し、体制を整え後ろへと下がる。
先程消耗したせいか、長時間の発動は無理なようだがこの程度なら出来るようだ。
その後、攻守を入れ替えてもう一合。
今度はオレが、勇者の太ももめがけて突きを放つ。
引くにしてもバランスを崩し、払うにしても力の入りくい。
そんな絶妙の位置だ。
勇者は引く事にしたようだ、慌てて足を引きバランスを崩す。
「なにっ?!」
追撃。
すかさずオレは間合いを詰め、勇者の奥襟を左手で掴む。
軽く引っ張り、残った方の足に足払いを掛けて転がす。
そのまま喉元に剣を当てて、チェックメイトだ。
「がはっ!」
「はい、おしまい。やっぱり技術の方は全然だったな」
同じ日本人として良く分かるが、戦いの経験も無い人間が能力だけを手にいれてもこうなるのがオチだ。
せめて10年…いや、20年程経験を積んでから攻めて来られてたらいい勝負が出来たかも知れない。
「くそっ!土属性使いと聞いて油断した、本当は物理特化の剣士だったのか…」
「いや、どちらかと言うと魔法の方が得意だけど」
オレは魔法を鍛えて四天王入りしたんだ、剣術はその後に手慰みに覚えただけ。
ただ単純に、200年以上鍛錬したってだけだ。
「そうね、グルドが魔法を使っていたらきっと瞬殺だったわね」
「嘘をつけ!土属性みたいなしょぼい魔法、使い勝手が…」
ゴゴゴ…
と、城が大きく揺れる。
「確かに使い勝手は悪いな、こうやって周りを巻き込んでしまうから」
「この揺れ…まさか!!」
その通り、オレの魔法。
辺りの地面をちょっと動かしただけ、それだけの魔法。
「”地震”…ただ、敵地で使えば砦だろうと要塞だろうと関係なく潰せるだけが取り柄の魔法だ」
「そんな……なんて、規模だ」
良かった、土属性の強力さは理解してもらえたようだ。
まぁ、確かに…汎用性では他の属性に負ける事も確かだけど。
とにかく、勇者さんの出番はここまでだ。
丁重におかえり頂こう。(土に)
「”土葬”」
「あぁぁぁぁぁ!!!」
オレが魔法を唱えると、城の床が一部だけ消えて真下の地面が剥き出しになる。
勇者はそのまま落下していき、地面に触れると同時に吸い込まれていき地中深くへと埋められていった。
ーーーーー
「そもそもあの勇者、何でグルドの事を雑魚だと思ってたのかしら?曲がりなりにも『四天王』の一人なのに」
城の床を元に戻し、魔王様と2人きりになる。
勇者に切り捨てられた召使い達は、重症ではあったが全員が一命を取り留めていた。
それら全員が魔王様の力により回復し、今は療養中だ。
まぁ…勇者の気持ちは、オレにもわからんでもない。
「戦力的に言えば、多分…魔族で一番の強さなのに」
土属性使いが、ましてやゴブリンなんかが一番強いとか何の冗談だよ。
って、前世のオレもツッコんでいただろう。
「まぁ、オレが強そうには見えなかったんでしょうね」
「ふぅん?まぁ確かに見た目は人族っぽいし、体格も細いほうだからねぇ」
それだけじゃ無いけどね。
「そもそもグルドには覇気が足りないのよ、いつも一歩下がって周りにへーこらしてるから」
いやいや、それは仕方ないでしょうに。
なんてったって、オレは最弱の男なんだから。
「ただいまー…って、あれ?召使い達は?」
「あらあら、何だか血の匂いがしますねー」
「まおーさまー、ぐるにー!お土産買ってきたよ!!」
魔王様から叱咤激励(?)されていると、城の外から声が聞こえて来た。
どうやら他の四天王が帰って来たようだ。
「あら、お帰りなさい。バカンスは楽しかったかしら?」
「お帰りなさい、姐さんがた」
魔王様と二人で3人を出迎えた。
そう、他の3人は休暇をとって旅行へ行っていたのだ。
「おい、グル公。なんかあったのか?」
火の四天王、ベル姐さんが聞く。
「勇者の襲撃が…やっぱ、時期が悪かったんですよ。こんな時に旅行だなんて」
「でもでも、行きたかったんですもの。楽しみだったのよ?」
水の四天王、ユーリ姐さんが言う。
こう言う風にのんびりした雰囲気を出されると、あまり強く言えなくなってしまう。
「あのね!あのね!むこうにね、こーんなおっきな亀さんがいてね!」
風の四天王、ノンノ姐さんが言う。
こんな元気いっぱいにはしゃがれると、そうですかーと笑顔で頷くしかない。
「で?グル公、もちろん始末したんだよな?」
「ええ、まぁ。例年通り、滞りなく」
「かかか、なら良いじゃねえか。俺たちが居なくても、グル公さえ居れば問題はねぇ!」
いやいや、だったら何の為の四天王だよ。
というツッコミは飲み込んだ、言っても無駄だから。
「ねえねぇ、グルドちゃん。私、お茶が飲みたいわ」
「俺のも頼むわ!」
「僕もー!お砂糖いっぱい入れてねー!」
「じゃあ、妾の分も入れて4つね。急いでよ!」
「………わかりましたよ」
何を言っても無駄だと、早々に諦めてお茶の準備をする事にした。
魔族の国は女王君主制、女尊男卑の傾向が強い国だ。
男が女性をたてて、女性の為に働くというフェミニンな風習がある。
この国では男の立場が著しく弱い。
つまり…
オレは、四天王の中で最弱な「男」というわけだ。
よろしければ評価お願いします。