なんだかこの昔話はおかしい
5月8日 放課後 雨
ザーザーザーと雨の音がしている。教室の奥にある机には誰もいない。教室には女子生徒たちの笑い声が響く。葵は職員室に向かう。職員室の教師からは不思議そうな顔をされた彼女は出席の欄が白くなっている場所を確認すると驚きもせずに部室へ向かう。
部室に向かうと黒谷先輩はいなかった。代わりにチャラそうな男が一人。
「あ、先輩はいないっすよ。あ、俺は山浦っす。」
「なんか焦ってるみたいですけどどうしたんですか?」
葵は聞く。
「あー。明日は葵ちゃんと桃色っち抜きで愛知に行くんすよ」
初対面で自分の名前にちゃんを付けてくる男に驚きながらも疑問をいだく葵。
「えっとなんで私抜きなんですか?あとなんでいきなり愛知に行くことに...?」
「え?知らないんだっけ先輩は本当のこと教えたら腰が抜けて葵ちゃん倒れちゃったって言ってたっすよ」
「え?そんなことないですよ」
「あーちょっと盛ったっす。それより先輩になんのようすか?」
「あ、魔物関連で...」
何を言っているのだという顔で見つめてくる男を前にしまったと思った葵。この部の部員ということで化け物について知っていると思い込んでいた。
「あ、先輩はあいつらのことをそういって教えたんすね。うーんってことは本当のこと知らないってことすか」
安心した葵。同時に先ほどから連呼される本当という言葉に疑問を抱いていた。
「さっきから言っている本当って何のことですか?」
「あー。質問の答えにはなってないっすけど。葵ちゃんには二択の選択肢があるっす。おとなしく明日を過ごすか先輩に秘密で愛知に行くか。」
もちろん答えは決まっている。親友が化け物に何かをされたかもしれない葵には一択の答えしかなかった。
「行きます。」
「まぁそうくるっすよね。」
◇◇◇
葵ちゃんは神話とかって信じるっすか?まぁ魔物とか言ってるんだから別に驚いたりはしないっすよね。
神様は二人の男と女を作り出しました。彼らの名前はクレアスとテリアという。
クレアスとテリアは食べては寝て食べては寝てという生活を繰り返していました。そんなある日。食料が不足し洞窟へ食料をもとめ向かっていた時でした。そこにはつかめそうでつかめない煙のようなものがありました。その煙は人のような形に変わり、その煙は自分を神と名乗りました。
「神はたくさんいるのかい?」
男は言った。
「いるさ。もちろん。星の数ほどだよ。」
「じゃぁ、なんで僕らは神をあなたを含め二人しか知らないんですか」
煙は考えるようなそぶりをするとこう言った。
「君たちの見ている世界が狭いからだよ。話しは君たちは今まで疑問を持つことはなったことを聞いてみてもいいかな?」
煙の言うことが理解できない女はこう言う。
「この世界に何かがあるんですか?」
「何かって。この世界にはいろんな不思議がある。例えばだけどどうして君たちは生まれながらその姿なんだ。周りの動物は卵から生まれ生まれてすぐには子供なのに。どうして言葉を使えるんだ?どうして名前があるんだ?どうして生きているんだ?わからないだろ。君たちはそういう風にできている。そういう風にね。」
煙は果実を取り出し二人に食べさせた。
◇◇◇
「禁断の果実の話は聞いたことあるっすよね」
先輩の質問に答える葵。
「あ。神様のおきてを破って禁断の果実を食べて賢くなったっていう。」
「それに近い感じっすね。」
◇◇◇
果実を食べた二人にはあるものが生まれていった。疑問の心だ。彼らは次第にすべてのものに疑問を抱くようになった。そしてそのたびに煙に聞いた。煙は快く教えてくれた。
ある日のことだ。女が目を覚めると男がいなくなっていた。女は煙のところへ向かう。
「ねえねえ。クレアスはどこ?目が覚めたらいないの。」
「それは大変だねぇ。あいにく俺はここから動けないのでね。クレアスのいるところの地図をあげよう。」
女は走った。男を探しに。女が地図の通りに向かうとその景色は衝撃的だった。
巨大な柱の形をした建物があった。煙は教えてくれた。自分たちは神に作られ神に都合よく作られた。神によって作られた人格を持って。それを知った男は確かめに行ってしまったのだろう。
女は入ろうとする。中にはいると永遠と続くまっすぐな道があった。道の脇にはたくさんの花が咲いていた。奥に進むと道に変化が出きた。周りの風景が花ではなく何か固い透明のものになった。その先には何とも言えないものがあった。なぜだろうか。言葉で表せない。自分は神に作られた人だからだろうか。しかしわかることはある。そこには男がいたのだ。寝ている男。そこに向かって彼女は走り出す。しかし進めないようだ。光のある方向に進んでみる。するととんでもない光景が広がっていた。黒い建物がたくさんある。道はまっすぐになっていて道行く人はあるくのではなく丸い何かを二つつけたものを足で回して移動をしていた。動物はいる様子がない。人々は服を着ていた。服。あの煙が教えてくれた。ぽわんぴわんと耳が壊れそうな音が響く。それを聞いた人々はどこかへ一目散に走っていく。空から星のようなものが降ってきている。それが近くにくると目の前がぱっと光った。目が覚めると丸い何かに入れられていた。目の前には神がいる。神は何か焦っているようだ。神は罰と言った。するとたちまち女の足は変形していく。女の足は砂になった。体全身が砂になっていく。女は死ぬのだと思った。砂は集まって女の姿かたちそっくりになった。女は恐る恐る体をみるとその体は砂になっていた。隣にいる男を見るとサルのようなしっぽが生えていた。また、神は言う。名前を没収させてもらうと。
◇◇◇
「今の話と魔物に何が関係してるんですか?」
「まだわからないっすかねぇ。」
◇◇◇
それから長い年月をかけたある日。とある少年がいましたとさ。少年は疑問を抱いた。物語に出てくる者たち、神話に出てくる最初の人間である男女には名前があって自分たちにはないのか。他にも少年はたくさんの疑問を抱いていた。少年は幼いころから生きているのかわからないような生活をしていた。普通とはすこし違った考えを持っていた少年はスラムでであった男に感心されて王都まで連れていかれる。王都ではちやほやされ、夢な生活を送った。たった五年間。少年は捨てられた。王都で珍しいとされた少年の能力は飽きられてしまった。少年がたどり着いた先は一人の老人の家だった。家というかは乗り物と言わんばかりのものだった。煙突から煙は出て、巨大なタイヤをつけ動いている物体。中にいた眼鏡をかけた不思議な雰囲気な老人はそれを家と言っていた。老人は名前をクロイヤと名乗った。少年は自分には名前はないと言う。老人は微笑みジンという名前を少年につけた。ジンは名前を付けてもらったことを喜んだ。ジンと老人は楽しい日々を過ごした。そんなある日。ジンは老人の持っていた本を読んでしまった。ジンは神話の男女の向かった地に同じように足を踏み入れてしまうのだった。ジンは神に認められた。ジンは心に闇を持っていた。自分を認めない世界を許さなかったのだ。神はジンのその考えから世界を破壊してしまった。
◇◇◇
「どう?これでもわからないっすか?」
「うーん」
葵は難しそうな顔をする。
「転生って知ってるっすか?」
「あー。わかりますよ。」
「転生。消えた世界。能力を持つ人類。この世界に突如現れた怪物。たくさんいる神。これでわからないっすか?」
「でもなんで転生者は怪物みたいなことを?」
「簡単なことっすよ。戻りたいんすよ。元の世界に。不可能と知りながらも。神の中にそそのかしたものがいたんすよ。また、復讐の意味もあるんすけどね、まぁそれは置いといて。あ、そういえば先輩もその転生者のひとりなんすよ。嘘だと知ってるからこそ仲間?を助けたいと思ってるみたいっすよ。知らないけど。」
葵は先輩らしいと感心した。そのあと葵は今回桃色の身に起きたことを知らされた。
しかし涙を流したり何かを思うことはなく、ただただ今すぐ向かいたいという顔をしていた。