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8 〇〇を潰してはいけません

 夜更けもだいぶ過ぎた頃。家が燃え崩れる丘の上は、突如として阿鼻叫喚の渦に包まれた。

 男達の怒号と罵声が引っ切り無しに飛び交っている。


「早くあのバカを止めろっ」


「ええい離せっ、これがオレの誠意だ」


 信じられない早業で、騎士スキッドは瞬く間に胸当てと背中の鎧をとりはずした。腰回りの部分に手をかけた所で、ならず者達に取り押さえられる。


 ならず者達も必死だった。子供とは言え、女の裸が拝める機会なのだ。さらに大金が手に入るとなれば万々歳。

 ところがどうだ。大金はともかく、赤毛ゴリラの筋肉なんぞは頼まれたって見たくも無い。


 腕に脚にそして腰に、一人相手に五人がかりでしがみつく。しかし結果は見事な惨敗だった。一分かからずに、全員が逞しい肉体から引き剥がされてしまう。

 その隙に腰と太ももの防具も剥ぎ取ると、スキッドは手甲の指を肌着の胸に突き立てた。雄叫びを上げて一気に引き裂く様は獣そのものだ。


「ヤベェぞ! このままじゃ全部脱いじまう」

「あんな筋肉ダルマッチョ見たくねえぞ」

「脱ぐの早過ぎだろ!? あの鎧どうなってんだ」


 悲痛な声を上げるならず者達。彼らは各々で武器を手にしてはいたが、その使用を躊躇っていた。

 このスキッドの奇行は、あくまで彼なりのケジメなのだ。ただ脱衣をするだけ。視覚以外の被害は無いので、どうすれば良いのか見当もつかない。


 そんな中、部下の一人がついに痺れを切らした。


 手にした剣を振りかざし、ついにスキッドに斬りかかったのだ。

 殺気を感じ取ったスキッドは手甲で刃を受け止めると、もう一方の手で剣身を掴んだ。


「貴様ァ〜、何の真似だ。オレの想いを踏みにじるつもりか? 」


 燃えるような紅眼で睨まれ、部下は足をすくませた。ヒィと小声を出すだけで精一杯だ。

 スキッドはバキリと剣を握り潰した。

 誠意を裏切られて、怒りを露わにする。歯をむき出しに睨みをきかせ、周囲の部下達を圧倒した。


「もう怒ったぞ、かかってこい! 」


 上と同じように下半身の肌着も破り捨てる。これで残りは手甲と脚甲、そして大事な部分にピッチリフィットした黒いパンツだけになった。


「もうやだこんな変態! 」


 部下の一人の叫びをキッカケにして、ならず者達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


「あっおい、逃げるな、戻れ」


 ボスは呼び止めたが、夜の闇に消えた部下は誰一人戻っては来なかった。


 燃える屋敷を背景に、ほぼ全裸の鎧男がボスに迫る。等間隔で聞こえてくるのは、土と金属の擦れる音。


「分かった、金は返す。何ならアジトの金庫の中も持って行っていいぞ」


 人質を構えながらボスは後ずさる。しかしスキッドは歩みを止めない。逆立った赤毛はまさに怒髪天を衝くといったところだ。


「鍵なら俺が持ってる。へへ、だから許してくれよ。この通りだ」


「おい」


 急に背後からボスは声をかけられた。確認しようと振り向く間も無く、下腹部に激痛が走る。


「今更謝ったくらいで済む状況じゃねーんだよ」


 股の間から伸びる足を見て、ボスは自分の身に何が起きたか理解した。痛みの震源地が股関なのもあって、全身の毛穴から脂汗が噴き出す。


 ボスの動きが止まるや、キャロは伸ばした脚をすぐに戻した。半ば意識を失っていた人質のジョーンズを急いで引き剥がす。

 そしてダメ押しと言わんばかり、もう一度ボスの背中を蹴りつけた。


 男の大事な部分を潰されたボスは、苦悶の表情を浮かべて内股で倒れる。

 ボスは咄嗟に両手を突き出した。地面とのキスは回避出来たものの、大事な部分の激痛は止まることを知らない。ハの字に眉毛を曲げて、大粒の汗で牧草を濡らした。


 もう使い物にならないのではないか。


 そんな恐ろしい考えが頭をよぎった。四つん這いの状態のまま、呼吸だけが荒くなる。


 フッと炎の灯りが遮られた。わずかに顎を突き出してボスは目線を上に上げる。


 こんもり盛り上がった黒布がそこにあった。

 あわや鼻に着くかという絶妙な距離、その気にならなくても臭いが鼻腔を侵食してくる。


 両腕を組んで、悠然とボスを見下ろすスキッドがそこにいた。


「オゴッ……アガ、ガ、ハァハァハァ」


 ボスの頭は痛みと屈辱と現実逃避に飲まれた。脳の処理が追いつかず、パニックで過呼吸に陥る。

 その様子を見ながら、スキッドは諭すように優しくボスに呼びかけた。


「あまり強く息をかけるな……()()するだろ? 」


 その瞬間、黒布が急激に体積を増した。

 圧倒されたボスは、四つん這いの状態から背中のバネを使って飛び上がった。何としても逃れんとする、決死の現れだった。

 スキッドの股から全ての力を使って逃れる。そして背中から地面に激突すると、ボスは気絶した。白眼をむいて、口からは泡を吹いている。


 曲がった四肢はピクピクと痙攣を繰り返し、瀕死のカエルのようであった。

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