8 観察
今回はハロルド視点です
レミアが横になってから少しして小さな寝息が聞こえてきた。
よっぽど疲れていたんだろうな。
両親に売られ、買い取った奴の元へ向かう途中山賊に攫われこんな森に連れてこられて。
挙句に、山賊から逃げ出したはいいものの今度は魔物に追いかけられその途中で川に落ちて流されて。
………なんという不幸のオンパレード。
まだ子供なのにこんなに苦労して。
しかし、彼女の表情には絶望という色は灯してなかった。
なんて強い娘なんだろう。
俺はそんなレミアを見ていると、昨日まで全く浮かんでこなかった小説のネタが溢れ出るように浮かんできて、ノートに走らせるペンが止まらなかった。
この娘の生きていく様を見ていきたいな。
ふと思いついた事だ。
観察…に近いのだろうか?
彼女は一体どんな風に人と接し、どんな風に笑い、どんな風に怒るのか…それが気になったのだ。
泣き顔は既に見たが、あれは心臓に悪い。
この俺が慌ててしまうぐらいだ。出来ればもう俺の前ではあまり泣いて欲しくないな。
しかし、森を出たらレミアはどこかへ行ってしまうのではないだろうか?
故郷……自分を売った親の元へなんて帰りはしないだろうが…行くあてはあるのだろうか?
もしないのなら…
俺はペンを止め、ぐすっすりと眠るレミアを見た。
「あまり不幸な目には遭って欲しくないな」
幸せそうに眠る彼女を見て、自然とそんな言葉が零れた。
翌日、結局俺は一睡もしないまま未だ溢れ出るアイデアをノートに書き続けていた。
ネタが降り続ける幸せ、寝ている場合ではなかったのだ。
まだ日が昇って少ししか経ってないが、レミアが眠そうな目を擦り、起き上がった。
「おはよう、ございます」
「あぁ、おはよう。よく眠れたか?」
ペンを止め、レミアに視線を向け挨拶を返すと
「はい、ぐっすり眠れました。ハロルドさんはこれから眠りますか?でしたら私が見張り番をしますけど」
一睡もしていない俺を気遣ってくれたのか、レミアはそう提案してきた。
しかし俺は全く眠くもないし、逆に疲れも吹き飛んでいるぐらいだった。…アドレナリンというやつか?
「いや、構わない。それより朝食にするか?森に入った時に見つけた果物がまだ残っている。まだ食えるんだがそれでも大丈夫か?」
「私まで頂いていいんですか?」
レミアは何というか遠慮深いというか、もう少し図々しくしてもいいぐらいじゃないか?
「貰えるもんは貰っておくもんだ」
そう言い、俺はナイフと果物をカバンから取り出し、食べやすそうな大きさに切ってレミアに差し出す。
「お世話になりっぱなしで申し訳ないです」
頭を下げて果物を受け取るレミアにフッと笑ってしまう。
俺の周りには居ないタイプだからなのだろうか。
例えばスティードなら食えと言う前から食い出している。他の奴らもそんな感じだ。だから見慣れないタイプのレミアを見ていると面白かった。
そして今、果物を口にしたレミアの表情が一気に変わった。
目をキラキラさせて果物を見つめている。
「お、おいしい!」
「そうだろ?その果物はここら一体の名物なんだ」
夕焼けの色をしたそのジューシーで柔らかい果実、ティーラは西の森の周辺に群生していて、冒険者やスティードの様なハンターが収穫し、町へ卸している。
それも結構な高値でだ。
スティード…結構稼いでいるんだよな。
今度何か奢らせよう。
俺もティーラを食べ、お代わりをするレミアの表情を観察した。