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6 念願の食事


パチパチと何かが燃えるような音がする。

ゆっくりと目を開けるとオレンジ色の空が広がっていた。


もう夕方なんだなぁ。さっきまで太陽は真上にあったはずなのにいつの間にそんなに時間が経ったんだろ?

あれ?私、川に落ちて流されてそれから滝に…。

そこまで思い出して勢い良く起き上がる。


私生きてる!?

ペタペタと体のあちこちを触り、自分が生きている事を確認する。うん、生きてる!足もちゃんとある!


静かに喜んでいると、ぱさりと何かが私の上から落ちた。

一体何だろう?と拾い上げると、それは誰かの上着みたいな服だった。

私が羽織ったらきっとワンピースにもなるその大きなブラウンの上着。それを見てはっとする。

え!?誰かいるの!?身を縮こませ周りを見渡す。


私の寝ていた所には毛布、そしてすぐ近くには焚き火。

どうやら私はこの上着の持ち主に助けてもらったようだ。


でもまだ油断しちゃだめだ!おじさんの時だってそうして油断して酷い目に遭ったんだから!

というかこの上着の持ち主は一体何処!?


キョロキョロと辺りを見ると、少し離れた所に川が見えて、川沿いの岩の上に座り、何かをしている人を発見した。

こちらには背中を向けていて、まだ私が起きた事に気付いてないみたい。

私は恐る恐るその人に近付く。


すると私の足音に気付いたのか、その人はこちらをゆっくりと振り向く。

肩に付くか付かないかの黒い髪、その黒髪から覗く細めの目、眉間のシワが少し寄っている。


私が黙ったままその人の事を見つめていると



「目が覚めたんだな。どこか痛い所はあるか?」



手に持っていた棒、あれは釣り竿だろうか?それを地面に置き、ゆっくりと立ち上がる。

スラッとした体型、背の高いその人を私は自然と見上げてしまう。

そして慌ててその人の問いに顔を横に振る。


鳥に激突されたお腹もどこも痛くない。

ボロボロの服のわりに擦り傷ひとつなかった。



「そうか、なら良かった。ところで何故お前は…」



男の人が私に何か聞きかけた時だった。




ギュルルルルルル




空気の読まない私のお腹の音が盛大に鳴り響いたのだ。

やだ、もう!すごく恥ずかしいんですけど!!

私は慌ててお腹を押さえる。

きっと今の私の顔は恥ずかしさで真っ赤になっているだろう。鏡がないため、確認する方法はないけど顔がすごく熱くなっているからきっと間違いない。


すると男の人はクスリと笑い



「お前が寝てる間、釣りをして魚を数匹釣ったんだが食べるか?」



優しい声でそう言った。

迷わず私は瞬時に大きく頷いた。


だって転生して1日以上まともな物は何も食べてないんだもん。

いい加減ちゃんとした食事にありつきたかった。


それにこの人悪い人には全く見えない。悪い人だったらわざわざ私を助けたりなんかしないし、食べ物をくれようとはしないはず!

…でももしかして私をどこかに売り飛ばそうと考えていたり?

あ、ありえる!うん、油断しないように、かつ食べ物を美味しく頂くことにしよう!


私が1人悶々としていると、男の人は釣った魚を手頃な木の枝に器用に刺していく。

そして焚き火の周り、火が通るような位置に魚を通してある枝を刺し立てる。



「焼けるまでまだ火に当たっていろ。服は完全に乾いていないだろ?」



男の人はそう言って、私がさっきまで寝ていた毛布の上へ座るように促す。

私は大人しくその言葉に従った。

私が毛布の上に腰を降ろすのを確認した男の人は私と焚き火を挟んだ場所に座る。



「さて、取り敢えず名乗っておくか。俺はハロルド。ハロルド・ゲイナーだ。ここへは、まぁ…気分転換をしに来ている」



気分転換…魔物も山賊も出るこの森に?

なんか図太いな。

と、とにかく礼儀正しく名乗ってくれたんだから、私も名乗っておこう。



「私の名前はレミア。川へは魔物から逃げている途中で落ちてそのまま流されてしまって」



名字も名乗った方がいいのかな?

ハロルドさん風に言えばレミア・シホウ?

でも転生したんだから実際元の私とは別人な訳だし元の名前なんてあんまり関係ないよね。

本当は名前を変えてしまってもいいのかもしれない。でもピンコ様に名乗った手前、レミア以外他に考えられなかった。

取り敢えず名字は無しの方向で!


私の説明を聞いたハロルドさんは魚の焼き加減を確認しながら



「それは災難だったな。そもそもどうして人の寄り付かないこの森へ?」



うん、その質問にはどう答えようかな。

土地勘もないし、まずこの世界の事も全く知らない。

迷子と言ったとして、仮にこの人が本当にいい人だったら家まで送るとか言ってくるかもしれない。

でもその肝心の帰る場所が私には無いのだ。


困った時はあれだ!話を作ってしまおう!

実際嘘をついてもそれが嘘だと証明出来る人はいないんだ!

本当の事、自分は転生したばかりだと言ってもきっと変人に思われ怪しまれるのがオチ。


わぁ、私ってば策士!



「じ、実は私の住む村はとても貧しくて食べるのにも困っていたある日、血も涙もない両親に売られ買い取った人の元へ連れて行かれる途中、山賊の襲撃に遭いこんな所まで連れてこられ…そして昨日の夜、隙を見て逃げ出した所を魔物に遭遇し、追いかけられてその時に川へ…」



やばい!

スラスラと嘘と本当の事が入り混じった話が口から出ていく。

私ってこんなに頭の回転早かった?もしかしてピンコ様の影響?


と、とにかくこの設定でいこう!

自分を売った両親の元に帰りたがる人なんていないだろうし、故郷の事はそこまで詮索されずに済むでしょ!

私が自分の才能に驚きつつも、設定を作り上げていると



「お前、若いのに苦労してるんだな。ほら、焼けたからこれでも食って元気出せ」



憐れみの目を私に向け、ハロルドさんはいい感じに焼けた魚を私に手渡した。

私はハロルドさんを警戒しながらその魚を受け取る。



「い、いただきます」



そう言って魚にかぶり付く。

あ、ちゃんと塩がかけられている……おいしい。


やっとちゃんとした食べ物にありつけた私はもぐもぐと食べながら涙を流した。

きっと、ずっと気を張っていたから食べることで安心して気が緩んだんだと思う。


するとハロルドさんは慌てた様子で彼の近くに置いてあった大きなカバンをゴソゴソと漁り、中からハンカチを取り出して私に差し出してくれた。

その顔には心配の色が見られる。


うん、やっぱり私にはハロルドさんが悪い人には思えない。



「ありがとうございます」



ハロルドさんの優しさにお礼を言ってハンカチを受け取り、涙を拭いた。

そして一気に魚を食べる。

ハロルドさんも同じように魚を食べ始めた。


とても静かな食事。

でも誰かと一緒に食べる事がとても嬉しくて私はまた泣いてしまった。


挿絵とか憧れるけど画力がなかった…

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