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5 スランプ

今回は初の主人公とは別視点です


「スランプだ」



頭を抱えてそう零したのは2日前のこと。


俺、ハロルド・ゲイナーは27歳という微妙な年齢で小説家の卵だ。

27歳と言ったら他の小説家はそこそこ売れ始めている時期。

しかし俺はまだ代表作と言っていい程の作品はなく、執筆活動をしながら自宅でカフェを営んでいる。

もちろん、執筆活動だけでは食っていけないからだ。


それよりもスランプだ。話のネタが全く降って来ない。

どうしたものかと悩んでいると、本日唯一のカフェの客である、昔から付き合いのある数少ない友人と呼べる存在(本人には絶対言わない)が、俺の作ったビーフシチューを食べならがら俺に視線を向ける。



「いつもの事だけど今回は酷そうだな?」



名は、スティード・ベルグ。

赤い髪と金の目、そして犬耳と尻尾が特徴的な狼タイプの獣人。見た目の年齢は俺と同じ感じだが、獣人は人間に比べ寿命が長い。

きっと後何年かしたら俺の方が先に老けるんだろうな、と度々思う。



「あぁ、今回はマジで何も浮かんで来ねえ」



別に代表作が無いからといって焦っている訳ではない。

ただ、俺は自分が書きたい物を書く。それだけなんだがその書きたい物が何も見つからない。



「毎日同じ事を繰り返しの生活をしてるのが悪いのかもしれねえぞ!たまにはいつもと違う事…そうだ、西の森にでも気分転換しに行ってきたらどうだ?あそこで駆け回ると気が晴れるぞ!」



スティードは、間違いない!と町の西にある森へ行く事を提案してきた。



「駆け回るって、お前みたいな犬と一緒にするな」



「犬じゃねえ!狼だ!」



このやり取りは定番のもの。

まぁ、俺からしたら犬も狼も似たようなもんなんだが、それを言うと面倒な事になるのでそこは黙っておく。



「西の森か。久しく行ってないな。」



西の森は広大で魔物も多く、町の人間はあまり近付かない。

最近では魔物の他に山賊が住み着いてるという噂もチラホラ流れている。

しかし、そんな物騒な場所でも彼ら獣人からしたら些細な事なのだろう。

人間よりも遥かに身体能力の高い獣人、しかも彼らは森でこそその力を発揮する。

だからなのか危険な森でも彼らにとっては庭のようなものらしく、暇があれば行くそうだ。

このスティードも、森で狩りをし、その獲物を町へ卸して生活している。



「ふむ、たまには人気のない場所でゆっくりするのもいいのかもしれないな」



「魔物には気をつけろよ?最近、前に比べて増えてきてるんだよな…ってお前なら心配いらないな。人間にしては剣の腕もあるし、魔法も使えるもんな。」



スティードは皿に残ったビーフシチューをスープのように飲み干し、ケラケラと笑う。



「剣の腕だけならお前には負けないしな」



「剣は俺の専門外なんだよ!」



スティードは食べ終えた皿を置き、ナプキンで口元を拭く。

今日のも美味かった!と、感想を付け加えて。



「さて、早速森に行くとするか」



「相変わらず行動早いな!」



思い立ったらなんとやらだ。

もたもたしていてはいつまで経ってもスランプから脱出出来ない。

俺は着けていたエプロンを脱ぎ、カウンターの下にしまっていたカバンを取り出す。

カバンの中はいつでも出かけられるようにと色々揃っている。

大きなカバンだが丈夫な上持ち運びが楽な作り。

取材や旅行など遠出をする時は必ず持ち運んでいる。



「数日留守にする。食い終わったんならその皿は洗って、金は置いていけよ。あと戸締りもしておけ」



「へーい、いってらー」



俺の指示に文句を言わないのは、スティードにとっていつもと変わらない扱いだからだ。

昔からの付き合いとなると気も使わなくていいし、雑に扱える。

あいつも不満に思ってないのかそれが普通だと思っているのか何も言ってこない。

言ってきたら改めるが何も言わないって事は構わないって事なのだろう。

俺としても楽で助かる。





さて、2日前の話はこれぐらいにして、現在俺は西の森の中にいる。

2日間過ごし色々考えてはいるのだが、未だに何もネタは浮かばない。


野宿したり、魔物と戦ったり、森の中を散策したり。

行動はしているのだが…衝撃的な何かが足りないのだ。

しかしその何かが一体何なのか全くわからない。



「釣りでもするか」



丁度今居る場所の近くに川が流れている。

釣りでもしてのんびりしよう。

適当にそこら辺の木の枝を折り、それを竿にする。

針と糸はカバンの中に常備している。

あとはそこら辺の虫でも捕まえてエサにすれば完璧だ。

こうして釣りの準備を終えた俺は川へ向かった。



川へ着いた俺は釣りのポイントを探す。

どこかいい場所はないかと辺りを見渡していると、上流から何故か巨大な鳥が流れて来た。その大きさは狼ぐらいだろうか。

何故そんな鳥が流れてくるんだ?

呆然と流れ過ぎていく鳥を見送っていると、今度は別の物が流れてくるのが見えた。



「人、だよな?」



仰向けの状態で人が流れてくるのだが…。

これは見送らずに助けた方がいいのだろうか?

その人物はピクリとも動かないように見える。目も閉じている。意識は無いのだろうか?


俺は川に入り、流されてくるであろう場所へと向かう。

川の深さはそこまで深くなく、水は俺の腰ぐらいまでだ。そして流れはだいぶ穏やか。

人が流れ過ぎる前には間に合うだろう。


服が濡れるなんて御構い無しに俺は川の中を歩いて進む。

そして流れて来た人物を無事キャッチする。

流れて来たのは少女と呼ぶような年頃の女の子。

水で濡れた薄桜の髪が透き通るように美しかった。


取り敢えず俺はその少女を抱き上げ、岸へと移動した。


カバンに入れていた毛布を取り出し平らな地面に履き

、少女を寝かせる。

息はしている。目立った外傷は服の外には見られない。ただ、流石に服の中は見る事は出来ない。

でも結構服がボロボロな気がする。

一体この少女に何が起こったんだ。


とにかくどうやら意識がないだけのようでホッと胸を撫で下ろす。

しかしこのまま濡れたままでいては風邪を引いてしまうだろう。

俺は近くにあった乾いた流木を何本か拾い、一箇所に集めた。

そして指先に魔力を集中させ、火を生み出し流木の山へと放り投げる。

魔力のこもった火は燃えやすい。あっという間に焚き火が出来上がった。

これで服を乾かせるな。


それにしても何故この少女は川を流れて来たのだろう?

先に流れていった鳥も何か関係しているのだろうか。

流れていった鳥を思い出し、ある事に気付く。



「あの鳥も取っておくべきだった。…肉」



森では貴重な食料だったのに。

勿体無い事をしたと、思わず小さく溜息が零れた。


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