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おひさまと海はみている

作者: 青空女兄

性描写はないですが一部直接的な描写はあります。

プルルと車が停まる。


そのバンの前部には男が二人、

むしろ青年と言った方がいいか。


十代か二十歳、

オレンジのタンクトップにキャップを被って

迷彩柄のハーフパンツに身を纏っている。

もう一人はスカイブルーのタンクトップにやはりキャップ。

卵形の顔には顎に髭。


二人は廃油を利用した車で旅をしていた。

ひどく経済的な若さの旅。


日本をどこまでも回る。

回る回るフリーダム。

訪れて交渉し廃油を分けてもらう。それは笑いのあるコミュニケーション。



初夏の北陸、

この日は暑かった。

彼らの剥き出しの肌もすっかり焼けている。


そこに現れた青い海。

白いさざ波。

そよぐはまなす。


手前はごつごつした岩場。

だがその黒い塊を降りていけば

わずかな砂地がありそうだ。


飛び出した。

デッキチェアを脇に抱えて。



誰も居ないビーチ。

このときだけは彼らのプライベート空間。


チェアを備え付ける。


海風に吹かれて。


彼らは太陽を全身で味わうことにした。




(どうしよう)


あのお兄さん達だれ?

なんでこんなとこいるの?

僕帰んなきゃ。

すぐ戻るって言ってきたんだ。

すぐ戻んなきゃお母さんに怒られる。

すぐ戻るって言ったんだもん。


早く帰んないかな。

なんで服着てないのかな。

おちんちん見えてるのに恥ずかしくないのかな。

あ。


気付かれたらどうしよう?


怖そうだよ。

あの人顔怖いもん。

こんなとこ見たな!ってきっと怒る。

僕の海パン無理矢理脱がされてしまうかも?!


やだやだ、

早くどっか行ってよ。

僕帰んなきゃいけないのに。

あそこに着替えあるのに。

もう上がりたい。

海から出たいよ。

気付いてくれたらいなくなるかな。

ううん、気付かれちゃだめ!

ああ、どうしよう。

どうしよう。


だいたいなんであの人達はだかなの?

おかしいよ、ぜったいおかしいよ。

だめだ。やっぱり気付かれないようにしなきゃ。


ぐるっと回ってあっちから上がろうかな。

遠いなあ。気付かれないくらいあっちってすんごく向こう。

でもやんなきゃ。

そんで、こっそりと後ろから近づいて。


気付かれちゃうかな?

ほんと、なんであそこなの!

そこなのに。

そこに僕の服隠してあるのに。

自転車の鍵もポケットに入っているのに。


ねえ、早く行ってよう。

おしっこしたくなってきちゃった。

あ、動いた? ひっくり返っただけ?

そっか。

二人とも下向けばいいのに。

そしたらそうーっと近づいてそのすきに服取れる。


早く、早く。

あっちの人も早く。

ひっくり返って。

おちんちん見えてるよ。

僕に見られてるよ。

それわかったら、隠すかな。下向くかな。

でもだめだよね。

こっちに向かって来ちゃうかも。

僕んとこまでばしゃばしゃ来て、なにするかわかんない。

しかえしに僕のおちんちん取っちゃう?!

やだよ。怖いよ。


あん、おしっこしたい。

あの人もあそこからおしっこするのかな。

あんなに垂れてちゃ不便だよね。

ぶらぶらしちゃうよ。

重くないのかな。

きたえてるからあんなに大きいのかな。


うう、むずむずする。

早く行ってよう、ほんとにもう。

おしっこでちゃうよ。

そしたらおこられちゃう。

きっとばれちゃう。においとかなんか。


そっか。海パン脱ご。

脱いだらばれない?


あ、でも脱いだときに見つかったらどうしよう。

見られちゃう。

あの人達に僕のおちんちん見られちゃう。

僕も見てたからいいわけできない。

それにおしっこなんかするおちんちんなんて

取られちゃうかもしれない!


やだ、やだよ。


おちんちん硬くなってる。

今脱いだらすぐ見つけられちゃう。

でももれそう。

ほかのこと考えなきゃほかのこと。


お兄さん達も硬くなるのかな。

あんな長いのに硬くなるわけないよね。

きっとそうならないからあんなふうにはだかになってるんだよ。

だって恥ずかしいもん。


だけどどうなんだろう。

どうなのかな。

思い切ってみようかな。

怖い人たちじゃないかもしれないし。

だって気持ちよさそうにしてるし。


そっか僕もはだかだったら怒らないかも。

おんなじかっこだもん。

おたがい恥ずかしくないよね。僕は恥ずかしいけど。

でもお風呂じゃみんなはだかなんだし、いいよね?


でもでも、おちんちんおさまんない。

硬いまんまだよ。

このままじゃぜったい笑われる。

おしっこしなきゃ。



だいじょうぶかな?

バタ足したからあっち行ったかな?

臭かったらどうしよう。

海でおしっこしたってばれちゃう!

そしたらそんな悪いおちんちんはゆるさないって!


だいじょうぶ、だいじょうぶだよね。

おもいっきりあっちいけってやったし。


(よし)




少年が海から現れる。

寝そべっていた青年は不意の来客に驚く。


「なぁ、おい。あれ」


うつぶせていた青年もその声にゆっくりと体を起こした。


砂地には波が絶えず迫ってくる。


チェアのすぐそこまで、そして引きずるようにまた海の中へ。


陽差しは強い。


白い体を隠さず少年が波を裂いて近づいてくる。



(ふ、二人ともこっち見た)


少年の心臓はまるで

警鐘を鳴らすように速く打っていた。


におってないよね?

手の中の海パンみえないよね?

笑わなきゃ。



「きみ、ここで泳いでたの?」


青年の一人が裸の少年に尋ねる。

そう考えるしかない。さっきまでだれもいなかったのだ。

地元の子だろう。

おれたちみたいに

だれもいないから裸で泳いでたんだ。


「あ、はい」


少年は正直に答えた。

近づいてよく見ると思ってみたより怖くない。

それにはだかを見られたと怒ってもいない。

やっぱりはだかで上がってきてよかったと思った。

勇気を出してみる。


「お兄さん達のうしろに僕の服があるんです。取らせてもらっていいですか」


彼らは振り返った。

乾いた岩場には黒地に映えるように

彼らの鮮やかな衣服が散らばっていた。


「ここにあるの? 取ってやろうか」


青年が立ち上がって岩場の陰へと探しに行く。


(え、いいのにぃー)


少年は硬直したまま黙っていた。

一人が少年の衣服を探す間もう一人はめずらしそうにじろじろ眺めている。


(恥ずかしい)


ほんとは前を隠したかった。

でもそんなことしたらすぐになんか言われる。

お兄さん達も早く前を隠して欲しい。

そうすれば僕も隠せるのに。


少年は手の中の海パンを握り締めて待っていた。



青年が子供服や荷物を持って戻ってきた。

少年は礼を言って受け取る。


ほんとうはすぐに去りたかったが

裸で岩場をよじ登るわけにもいかないので断念した。


青年達に後ろを向けて

透明なビニールバッグから取りだしたバスタオルで体を拭く。


「おい、背中拭いてやるよ」


不器用に拭っている少年に声を掛ける。

しっかと胸にタオルを掴みながら振り向いた少年は、

おずおずとそれを青年に差しだしすぐにあっちを向く。


「おまえ、やさしいなあ」


「おれの弟もこんくらいでさー」


背中の向こうで会話が弾みだした。

少年はどきどきしつつも安心していた。


(いい人達みたい)



「ほい」


青年がバスタオルを返して寄こした。

少年は満面の笑みで礼を言う。


(早く家に帰んなきゃ。でも)


安心した途端好奇心が湧いてきた。

去りがたい。


タオルを手に持ったままじっとしている少年を見て

彼らは会話を止めた。


「おまえも焼いてく?」


青年が細い肩を掴んで少年を自分のチェアに座らせる。

そして股の間に彼を置いたまま再び背もたれに転がった。


タオルを掴んでちょこんと腰掛けている少年。


隣の青年も目を閉じて仰向けになっている。


少年はどうしたもんだろうと考える。

が、しばらくして深く座り直した。


腿の内側に触れたのを覚り、

青年は小さな体を倒してやった。

細く引き締まった腹に少年は寝そべる。


目の前には真っ青な空。

ところどころに小さく浮かぶ雲が見え、

何気なく目の端に入れていると

形を変えているのがわかる。


大きいバスタオルをおなかに掛けた。



少年は眠っていたのに気付いた。

空はまだ青い。


しかし視界は大きくうねっている。

視界に白い砂地が入っている。


「起きた?」


青年はずり落ちそうになっていた少年を

腹の上に戻してやった。

ふと見れば気持ちよさそうに眠っていた少年は

絶えず体を動かし放っておけばチェアから落ちていたのだ。

それを何度もそっと拾い上げてやっている。


(あれえ)


少年は背中に挟まっている物を邪魔に感じた。

タオルでも巻き込んだのか落ち着きが悪い。

ごそごそと手を回す。


「おいおい、触んなよ」


びっくりして飛び起きる。

体勢を変えて寝そべる青年の体を見た。


「なにおまえ、勃起してんじゃん。やっべえー」


「しょうがねえよお、こいつが動き回んだもん」


隣からの茶化す言葉に笑って言い訳をする。

少年は目が離せない。


「ほら、驚いてるじゃん」


「だってよ、すべすべなんだぜ。ちょっとおれ、きちゃったよ」


「溜まってっからだよ」


ばつが悪そうに早口になる青年をからかう声で

にぎやかなやりとりが始まる。

その間も少年は固まっていた。


それを察した青年は両手で前を隠した。


(あ、お兄さんでもやっぱり隠すんだ)


やっぱり恥ずかしいんだ。

そう思うと少年は理由もわからず嬉しくなった。

口が開く。


「お兄さんのおちんちん硬くなってるの?」


「ほらみろ、子供にやばいもん見せんなよ」


「うっせ。おまえは寝てろ」


にやつきながら隣の青年は横向きになった。


青年は少年の顔を見る。

少年もその困った顔を見返す。

しかしまたすぐに両手の中のものが気になってしまう。


青年は浅黒い上半身を起こした。

タンクトップの跡が薄くわかる。


向かい合わせの二人。

少年は真ん前の顔と真下の両手へとしきりに目を動かした。


手が少しよけられる。


少年は手を伸ばす。


両手が外れる。


差し出した柔らかい指は

そっとそれに当てられた。


熱い。


硬いのに表面はしっとりと弾む。


濁ったような赤み。



少年の手がぶれる。

すかさず、傍のものがぴくと震えた。


慌てて手を引く。


少年は下を向いたまま、視線も外した。


チェアから降りて急いで服を着ようとする。

パンツに足がうまく通せない。何度も試み砂まみれになる。

Tシャツは裏返ったまま。


「元気でな」


バスタオルを押し込んだビニールバッグを強く握り締めて走り出そうとした少年に

後ろから声がかかる。


少年は背だけ向けている。


首をコクンと振る。



全力で駆けていた。


白い砂地をサンダルで力強く蹴る。


掴んだバッグが前後に大きく跳ねる。


日は少しだけ西空にあった。


躍動する影が浜辺に映る。



輝く顔は草むらに置いた自転車へと向かう。


(ああー、どうしよう)


少年の頭はいっぱいだった。

怒る母への言い訳だけを必死に考えていた。






END


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― 新着の感想 ―
[一言]  面白かったです。この少年は、アソコのことばかり考えているんですね。なぜなのでしょうか?  ところで、全裸で泳ぐのって気持ちいいですよね。それと、海でオシッコをしてもばれませんよ。顔に出さな…
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