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三枝香奏と立原郁也の日常

再び、始まる。

作者: 南丘優

幼馴染に久々に会って自分の気持ちを再確認的なのを書きたかったんですけど、書いてるうちに変わっちゃったてへぺろ。やたら長くてその割りに進まない。加えて後半急展開過ぎ!になった…ポテチつまみながらでも読んで頂けたら嬉しいです。

(暇だなぁ…)

学校の最寄り駅でぼんやりと景色を眺める。

景色と言っても単なる田舎の駅が視界に映るばかりだし、入学からほぼ毎日見ている景色だから見飽きたものだ。

本を返却するのに図書室に寄り、慌てて学校を出たものの電車にぎりぎり間に合わなかった。

次の電車まで、あと40分以上。

急いだ所為で本を借りる余裕がなかった為、手持ち無沙汰になる。

友達は部活かバイト中だろうし、暇潰しに話す相手もいない。

仕方がないのでひたすら景色を見ていると、いつの間にかうとうとしていた。

「香奏!」

いきなり名前を呼ばれ、びくっとして起きる。

「ごめんごめん、驚いた?」

派手に反応してしまった事に対する恥と、それに伴う相手への憤りを抱えつつ振り向くと、

「郁哉」

「久しぶりだな香奏ー。元気してた?」

家がとても近く、小学校までは一緒だったが、中学から学区の関係で離れていた友達。

所謂幼馴染の郁哉がいた。

前に会ったのは中学の時だったから、半年以上は経ってるんだな、と思い出す。

「ほんと久々だね。郁哉も高校生になったんだ。」

当たり前なのだが、郁哉の高校の制服姿を見てやっと実感したので、つい口に出た。

弱冠、嫌味も含めたけど。

「ひでーなー。いくら俺でも義務教育を卒業出来ない程馬鹿じゃねぇよ!」

開口一番幼馴染の嫌味を飄々と受け流し笑う。

「卒業出来ても入学出来るとは思わなかったんだよー。義務教育はどんな馬鹿でも卒業出来るし。」

こんな奴だったな。

たまに苛つくほど能天気で、底抜けに明るい、嫌味のない奴。

思い出を掘り起こして、ちょっと懐かしくなった。

「ひど!お前は俺をなんだと思ってんだよ!」

「…馬鹿?」

「直接的過ぎる!」

「鳥頭」

「変わらない!」

懐かしい。このやりとり。

小学生の頃は毎日の様にやっていて、いつだったか夫婦漫才と揶揄されたことを思い出した。

…ちょっと、顔が赤くなる。

「香奏はどこ高校?」

一頻り笑った後で郁哉が質問してくる。

「あんま、見ない制服だよね」

ちら、と視線を滑らせて言葉を重ねた。

「江戸崎だよー。この辺だと通ってる子少ないんだよね。」

私が携帯を買って貰ったのが高校に入る少し前だから、メアドとか携帯番号とかを知らない。

だから、お互いどこに通ってるかも知らなかったんだなと今更思う。

ちょっとそれは、寂しい。

当たり前なんだけど、昔は大抵の事は知ってたのに。

知らないと言う事実もだけど、知らなくて平気でいられたことがショックだった。

彼にとって、…私は、

「江戸崎⁉︎マジで!」

素っ頓狂な声に思考が遮られた。

「何いきなりでかい声出して…。五月蝿いよ…」

苛立ちを籠もらせながら呆れたように私が言うと、トーンダウンした声でごめん、と謝った。

「てかてか!江戸崎ってほんと?凄くね!頭いいとこだよね!」

しかし反省はしてないらしく、再び遠くに話しかけるような声になる。

「本当だよ。嘘吐いたって仕方ないじゃん。…まあ、勉強してたし?」

「うっわー。そこ否定しないんだ。流石秀才様。」

後半棒読み。下手な役者よりも棒読み。

「だから煩いっての…。」

もう一度、でも意味を変えて注意した。

「郁哉は…和田南?」

中学の時と違う、学ランを眺めて言った。

尤も学ランが制服の学校なんてこの駅を最寄りとしている学校だけでも結構ある。

だから釦を見て判断したのだけど、他校の校章には詳しくないから、半分当てずっぽうだった。

「お!正解!よく分かったな!制服個性がないから似たとこ一杯あるのに。」

あ、合ってた。

「えへへー。すごいでしょー?もっと褒めて?」

「よしよしすごいすごい。」

わしゃわしゃわしゃ。

「めっちゃ棒読みじゃんか。」

「素直だからな。例え声でも演技はできない。」

わしゃわしゃわしゃわしゃ。

「…何してんの?」

「褒めてる。」

わしゃわしゃわしゃわしゃわしゃ。

「撫でんな!頭ぐちゃぐちゃじゃんか!」

「褒めろっつたの香奏だろ!」

わしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃ

「私は犬じゃない!手を止めろぅ!」

郁哉の手を引き剥がし、慌てて後退りして距離をとった。

「なんだよー!前は撫でられるとめちゃくちゃ喜んでたじゃんかー」

「小学生の頃の話でしょ…」

そんな昔の話されても。

「香奏も変わったんだな。」

いきなり郁哉がしみじみと言った。

「何急に…老人みたいだよ?」

ちょっとびっくりして私が言うと、ひでーなと笑いながら

「いつまでもちっちゃくて俺とじゃれあってる香奏じゃないんだよなーって思ってさ」

そう言った彼の顔が、どこか寂し気に見えたのはきっと私の願望。

でも、少し位期待してもいいよね?

「ちっちゃいかどうかは別として、じゃれ合う位ならしてあげなくもないよーっ」

できるだけ能天気に、期待を押し込めるように明るくそう言う。

「そりゃありがとな香奏!」

微かに笑いながら言った郁哉の顔が、ひどく大人っぽく見えて、なんだか距離を感じた。

「…まぁ、確かに色々成長したよな…背は小せえけど…」

前言撤回。

視線を下にすーっとずらしながら言ったその顔は、大人っぽいよりはむしろ、

「おっさんか!」

自然な所まで詰め直した距離を、再び離した。

「どこ見てんのよ変態!」

「いやいや…健全な男子なら当たり前だろ…?しかも制服の上からでも分かる位のもん見せられたらむしろ見ない方が失礼だろ」

両腕を胸の前で交差して、威嚇するように言った私の言葉を受け流してペラペラと語り出す。

「中学のときなんか絶壁だったのに成長したな…Dは堅いな」

「黙れー!!失礼だし!勝手に測んなし!」

怒って軽く小突こうと手を出すけど、軽々と受け止められてしまう。

ちょっと悔しい…

前は全然力の差なかったのに…

…男の子、なんだなぁ

そんな事を悶々と考えていたら、

「手ちっちぇえな」

いつの間にか手を自然に組み替えて手の平を合わせる形にされていた。

なんていうか、これは、体温がかなり近く感じられて、なんか、

「女の子って感じすんな」

すごいドキドキする…

必死で平静を保とうとするのに、郁哉の顔がなんだか真面目な雰囲気を持った、何処か大人な感じがして、顔の温度が上がるのがわかった。

いきなり雰囲気を変えられて、僅かに戸惑いを滲ませて言葉を紡ぐ。

「当たり前でしょ…昔っから私は女子ですー」

なんとか、いつも通りの私で居れてるはず。

「…知ってるよ」

苦笑しながら郁哉はそう言い、きゅっと指を絡ませて手を握ってきた。

これは、これは本当にマズい…!

「な、にいきなり…!」

手を解こうと力を込めつつ睨みながら言い放つ。

絶対私いま、顔赤い…

「昔は、さ」

握った手に力を込めて引き寄せながら、郁也は言う。

「こうしてよく手ぇ握ってデートしたな」

にやっと意地悪そうに笑って私の顔を覗き込み、そう言っている彼の真意が何処にあるのかわからない。

体温が上昇していくのを実感するけど、それでもなんとか反論する。

「デートって、一緒におつかい行っただけでしょ!しかも何年前の話よ…」

無遠慮なまでに絡ませてくる視線から逃れるように、目を泳がせる。

「俺にとっては」

ぐっと顔を近づけ、今度こそ視線を捉えられる。

「全部デートだけどな」

目を逸らすことすら許されない距離で、いっそ振り切ってまっすぐな目を見返す。

「は?何言って「俺にとっては!」

声量は上げずに、むしろ下がって潜めるような大きさなのに、私の言葉を押し込めるほどの迫力。

「昔っから香奏は女の子だ」

図ったように電車がホームに入ってきた。

「おーやっと来たなぁ。待ち時間長くて参るよな。」

執拗に合わせてきた眼とまるで正反対に、あっさりと身体を離して電車に向かう。

「香奏も乗るんだろ?早く」

なんか、悔しい。

私はこんなに心臓ばくばくで、きっと顔も真っ赤になってて。

どうしようもないくらいにどきどきしてるのに、平然とした顔しててむかつく。

…私ばっか、こんな振り回されて。

ぎゅっと、さっきまで郁哉に握られてた手を抱きしめて、後を追って電車に乗り込む。

「ねぇ、郁哉?」

むかつく、ので振り回し返すことにきめて、さりげなく郁哉の肩近くに頭を凭れて問いかける。

「ん?」

返事した声がやけに気が抜けて聞こえて、また理不尽に苛っとした。

「彼女いる?」

答えなんて分かってるけど。

そこまでタラシな幼馴染を持った覚えはない。

それでも心置き無く仕返しするために一応聴いておいてやる。

「いねーよ。生まれてこのかた一度も、な。…香奏は?」

予想通りの返答。そして予定通りの質問。

「ううん。私もまだ一度も、ね。…だったらさ」

そっと顔をあげて、不安で潤みそうな瞳を誤魔化すように微笑む。

「私がなってもいいよね?」

面食らったような郁哉の表情。

これで私の悪戯心は満たされた。

「…香奏は昔からそうだよな」

するり、と私の頬に手を滑らせながら彼は言う。

「絶対俺に男らしくなんて、恰好良くなんてさせてくんない」

ゆっくりとした言葉がじれったくて、だけどすごく心地良くて。

「いっつも、遅いんだもん…私が待つの苦手なの知ってるくせに」

ほっぺを擦り寄せてじっと見上げる。

「…だから、早く聞かせてよ」

催促しながらもやっぱり怖くて、時間を止めるように目を閉じた。

郁哉の手が顎までなぞるように動いて、顔が近くにきたのが分かった。

「もちろん…俺のお姫様。好きだよ、香奏。」

もしも時間を切り取って、しまっておける宝箱があるなら、私はこの瞬間を閉じ込めたい。

久々の再会は、同時に始まりだった。






本当はちゃんと落とし前つけたかったけど字数と羞恥心が足りなかった…続き気が向いたらかくかも。もういいやとか言わないでね笑

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、青春劇ですねえ。作者の恋愛に対する憧れが感じられます。羞恥心との兼ね合いが難しいものですね。わたしも書くの難しいです。付き合わないと面白くないけど、こいつと付き合っていいのか? って思…
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