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レベル1のシャーマンはいまいち役立たず

 とりあえず、斥候に便利な道具でもないだろうかとオレはバックパックの中を探す事にした。

 宝箱からバックパックにアイテムを移す時、面倒だったから宝箱傾けてバックパックに流し込んだんだよね。

 だから、具体的にどんなアイテムが入ってるのかはいまいち把握し切れてない。

 主に探してるのは防具だ。それも隠れ身能力があるタイプの。


 今身に着けてる防具、ローブ。

 それはインチキなレベルの隠蔽能力を発揮してくれるが、匂いは消してくれない。


 ゲームにおいて探知は、音、視覚、匂い、の三つで判定された。

 どたどた動くと探知技能が低くてもバレる。

 相手の目の前に出ればバレる。

 くっさい香水をたっぷりつけてたらバレる。

 そういう感じだ。


 コボルトは特に匂いに頼って探知するタイプのモンスターで、この装備ではあんまり効果が無い。

 だから匂いを消してくれるタイプの防具を探してるんだけど……。


「うーん……無いな」


 ユニーク系アイテムは含まれてないんだよな。

 隠密系装備って貴重品だから、クエスト報酬とかが多くて。

 だから、MODで追加した装備品の中にはあまり隠密系装備はない。


 視覚系の隠蔽装備は多いんだがな。光学迷彩とか。

 しかし、嗅覚系の装備は殆どない。


 ゲーム内ユニークでも……確か、女王の香水と、妖精の透明帽子ってやつしかなかったと思う。


「参ったな……どうしたもんかな」


「騎士様」


「ん? なんだ?」


「お昼ご飯ですよ」


「ああ、もうそんな時間か」


 だいぶ長いことグダグダやっていたらしい。数時間かけても見つからないなら、匂い消しの装備はないと考えた方が妥当か……。


「それで、昼ごはんはなに?」


「ヘビとネズミですよ。今日は丁寧に処理が出来ました」


「お、おう……」


 どうしよう、食べる自信が無い。



 テーブルの上にはデカいネズミとヘビ。

 ジャン爺さんは普通にうまそうに食ってる。

 バイタリティ溢れるジジイだ……。


「騎士様、食べないのですか?」


「え、あ、ああ、うん、食べるよ」


 開いて塩を振って、ジンジャー……生姜を刷り込んで焼いたらしいヘビ肉。

 不味そうには見えないが……ええいっ、ままよ!


 意を決して口に放り込む。

 そして気合いで咀嚼。

 ……あ、うまいぞこれ。


「うまいな、これ」


 ちょっとパサパサしてるな。鶏肉っぽい感じ。スープにした方がうまそうな気がする。

 もしくはしょう油だれに付けて、炭火でじっくり焼いたらうまそう。……焼き鳥だな、それ。いや、焼き蛇か。


「そうですか! お口にあったようでよかったです。また見つけてきますね」


「あ、ああ、うん……」


 嬉しそうにしてるエレーヌにヘビ肉は勘弁とは言えそうもなかった。


 次はネズミ肉に取り掛かる。

 これにはかなり手間がかかってるらしい。内蔵を取り出して、熱湯で茹でて毛や皮を処理して、そこに香草を刷り込んで焼いたらしい。

 確かにうまそうな匂いはするが、見た目があんまりにもネズミなので泣きたい。


 これはネズミの形をしたジョークミートだと頭の中で唱えつつもナイフで捌き、口に入れてみる。

 ……これも鶏肉っぽいな。でもちょっと違う。ヘビ肉よりは水分がある。茹でたからか?




 その後、昼食は問題なく終わった。

 しかし、部屋にヘビの匂いが漂ってるな。ヘビの血って強烈な匂いなんだな……。


「匂い、かぁ……」


 匂いでまた思い出してしまった。匂いの問題をどうしようか。

 シャーマンの魔法で自然と一体化して、森の中で全ての隠蔽状態をマックスに引き上げる魔法があるんだが、今のオレには使えないし。


「エレーヌ、匂いを消す方法とかない?」


「そうですね……攪乱戦術という意味あいでしたら、馬の血を浴びるという方法が」


「別の」


 馬の血の匂いをプンプンさせてもしょうがないだろう。

 むしろ自分の居場所を喧伝するようなもんだぞ。

 まぁ、戦争時に獣人相手に戦うなら有益なのかもしれないが。


「今回、コボルトたちのところを偵察するにあたって匂いを消す必要があるから」


「うーん……すみません、分からないです。その集落のコボルトの毛皮があれば、それを纏ってカモフラージュが出来るのですが」


「だよなぁ」


 シャーマンのレベルを上げる事を考えるべきかな。

 でも、ジョブレベルって上げるの大変なんだよな。


 ゲーム内ではレベルは二種類あった。

 メインレベルという肉体そのものに作用するレベルと、ジョブに作用するジョブレベル。

 メインレベルは敵を倒せばそれで上がるのだが、ジョブレベルはジョブごとに必要な行動をとることで経験値が溜まる。

 バーバリアンは戦うだけでいいのだが、レンジャーは戦う以外に隠密をしたり、鍵をピッキングしたりと言った方法で上がる。


 そして、シャーマンのレベルを上げる方法が、シャーマン魔法を使うか、森の中で瞑想をするか、なのだ。一応ほかにもあるが、ここで出来る事ではない。


 それがなかなかの曲者で、レベルの低いシャーマン魔法は弱い。

 レベルが上がれば、もっと強い魔法を覚えられるんだが。


「発芽」


 拾っておいた種を発芽させる。

 種が割れてぴろぴろと芽が伸びていく。

 しかし、すぐに止まる。


「促成」


 成長が再び始まる。

 促成を何回か繰り返すと、コスモスの花が咲いた。

 今の季節は春っぽいので凄い場違いだ。


「吸精」


 そして、そのコスモスが枯れて本当にちょびっとだけマナポイントが回復する。

 具体的にどれくらいかというと、開花一回分くらい。つまりまったく意味が無い。


「どうしよう……」


 以上の三つがレベル1のシャーマン魔法だ。クソ弱い。

 ゲーム中だったらひたすら魔法を連打するか、瞑想するかだが……今はそんな悠長な事をしてられる場合ではない。


 ゲームではほかにもスピリッツポイントという世界に10個しかない場所で瞑想をする事でレベルを1だけ上げられたのだが、そんな場所があるのか定かではない。


「学術系魔法に何かあればいいんだがなぁ」


 魔法には前に焚火に火をつけた学術系の魔法と、それ以外の自然系魔法がある。

 学術系の魔法はルーンの組み合わせを知り、ルーンを取得してさえいればどんなものでも使える。

 オレは全てのルーンを覚えてるし、組み合わせも大体覚えてる。なのでほとんどの魔法が使える事になる。


 しかし、学術系の魔法はどんなジョブでもキャラでも使用出来るが、攻撃と回復があるばかりで痒いところに手が届かない。

 今回の状況を打破できるような便利なものではないのだ。


「あー、手詰まりだぁ……」


 どうしようもねぇわこれー。

 などと思いながらゴロゴロと床を転がる。

 フローリングの床なのであんまりよくないのだが、そうでもしないとやってられない。


「騎士様、何か様子がおかしいです」


「ん?」


 さっきからずっと窓の外を眺めていたエレーヌが声をかけてくる。


「何かあったのか」


 エレーヌの探知能力はオレより高い。注意力もオレより上だ。

 何かあったら気付くのはエレーヌが先だろう。


「はい。先ほどからこちらをうかがっているものが……一……いえ、二……また増えました。三、ですね」


「斥候隊か?」


「分かりません。ですが斥候隊という割にはひと塊になっています。斥候隊であれば情報を持ち帰るためにもっと分散し、人数も増やすでしょう」


「固まってるのか。ゲリラ戦術か? 井戸を潰すのならそんなに人数は必要ない」


「ですが、井戸を潰せば私たちは死ぬか、ここから撤退する事になります。獲物が欲しいゴブリンたちには下策でしょう」


「森の中には水源がある。ゴブリンやコボルトが使ってる奴がな。井戸を潰されればそこを使わざるを得なくなる。オレたちには必要ないが、ジジイが撤退するには水が必要だ」


「なるほど。兵糧攻めの一種とも考えられますか……誘導としても使える手です。しかし、ゴブリンにそんな知能があるでしょうか?」


「ボケジジイが言うにはみだらな言葉を言うしか能が無いらしいが、人語を解する頭脳があるならそれくらいは出来るだろう」


「そうですね。ゴブリンメイジやコボルトシャーマンは特に知能が高いですから、出来るかもしれません」


「とすると、井戸を守る必要があるな……」


 何か毒を放り込まれたら大変だ。

 シャーマンの基本技能には毒無効化があるが、レベルの低い今は大した効果が無い。

 毒次第では普通に死んでしまう。獣人の強靭な肉体を持つエレーヌも危険だ。

 そして老いぼれた人間であるジジイは確実に死ぬだろう。


「仕方ない、オレが守衛に立つ。エレーヌは隠れて弓で狙っておいてくれ。襲ってきたら撃ってくれ。斥候隊なら逃がしてもいい」


「そうですね。こちらの察知能力が高いと分かればうかつに手を出せなくなるでしょう」


 ただまぁ、エレーヌの察知能力は視覚に頼ってるからなぁ。

 もちろん嗅覚も人間を遥かに超えてるが、ゴブリンたちも匂いのことくらい弁えてる。

 昨日は夜闇に紛れ、こちらが風上になるのを狙って襲って来たんだろう。


 しかし、たとえブラフでもこっちの察知能力が高いと分かれば相手は襲撃のタイミングを変えざるを得なくなる。

 そう、昨日のように夜闇に紛れ、こちらが風上になるタイミングだ。

 そんなタイミングそうそうあるもんじゃないし、あったとしてもそのタイミングの時だけ警戒を厳重にすれば初動が早くなる。

 情報を制す者が勝利するというのは本当なのだ。


「それじゃあ、行ってくる」


 エレーヌが頷いてゴブリンたちに見えないように反対側の窓から出て行く。


 それを後目にオレは扉を開けて井戸へと向かう。

 そして、井戸のふちに腰掛け、エレーヌが指差していた辺りへと目線をやる。

 どこにいるのかはわかっていないが、あてずっぽうだ。

 こっちを見ているとゴブリンが勘違いすりゃ儲けもんである。


 こういう時、遠見の魔法でもあればいいんだけどな。あいにくとそんな魔法はなかった。


「って、待てよ」


 そういえば、魔法追加のMODがあったような……。

 確か入れてたはずだ。ルーンは……。


「えーと……アンサズ・ギョーフ・ジュラ」


 情報・結合・収穫。

 情報を結合して収穫。それによって情報収集。


「……見えた」


 目で見えたわけではない。

 ただ、ゴブリンがどこにいるか、というのが感覚的にわかっただけだ。


 それにこの魔法、使ってみて分かったが、あまり使い勝手がよくない。

 ゴブリンたちの状況がよくわかるが、存在していると分かるものしか見れないようだ。

 正真正銘の遠見用だ。相手の存在に気付いてて情報が欲しい時にしか使えない。

 まぁ、かなり有用な魔法なのは変わらないが。


「何か話してるな」


 話しているのは分かる。だが何を話しているかはわからない。

 とりあえず、ゴブリンたちの正確な位置は分かったのでそちらに目線を向ける。


 しばらくそのまま目線を向け続けていると、ゴブリンたちがこちらに向かってくるのが分かった。

 そして、遠見の魔法の範囲から外れた。

 どうやらこの魔法、追尾は出来ないらしい。場所固定の探知という事か。

 発動しなおせば見えるだろうが、移動中の相手にやっても無駄だろう。


 そして、森からゴブリンたちが姿を現す。

 ただ、オスじゃない。見た目がまるっきり人間の女の子。メスだ。


 エレーヌが少し戸惑い気味ながら、覚悟を決めた目でこっちを見てくる。

 オレの号令次第で射るだろう。だが、まだやるべきじゃない。


 何しろ、ゴブリンはこっちに向かって走ってくるでもなく、ゆっくりと歩いてくるのだ。

 さらに言えば手には武器も何もない。背中に隠しているのかもしれないが、小柄な彼女らで隠せる武器なんてたかが知れてる。

 正真正銘丸腰の可能性が高い。


 そんな自殺行為を意味もなくしに来るとは思えない。

 とすれば何かしらの意味があってここに来るのだが、丸腰で来るとなると……交渉、あるいは服従、そのどちらかの可能性が高い。

 というかそれしかないだろ。


 ゲリラ戦術をやるにしたって武器くらい持ってるべきだろうし、見つかったと思ったなら逃げるのが普通だ。


 とりあえず、エレーヌにはハンドサインで撃たないように示す。

 別に示し合せたりはしていなかったが、手を下げるようにすればわかるだろう。


 実際わかってくれたようで、エレーヌは弓から少し力を抜いた。

 まぁ、それでもすぐに撃てるように用意はしてるけど。



 そしてゴブリンたちが近づいてきて、村に入ってくる。

 まだ走り寄ったりはしていない。


 腰の剣に手を当てる。スクラマサクスと言われるタイプの剣だ。

 西洋の刃物と言えば切れ味はさほどでもないイメージが強いが、スクラマサクスはそういうタイプの剣ではない。

 スクラマサクスはとナイフを拡大したような剣で、かなり切れ味がいい。

 ゴブリンくらいなら真っ二つに出来るはずだ。


 その剣を抜きはしないが、いつでも抜けるように柄を握っておく。

 そして、オレから少し離れた位置でゴブリンたちが立ち止まる。


 さて、何をするつもりだ……?


 そう思った時、ゴブリンたちが異口同音に唱和した。


「ご主人様! 今日からお世話になります!」

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