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雨季

 雨季はアンニュイなものだ。

 人間、雨が続くと憂鬱な気分になってしまうもので、じとじとした空気には不快指数が高まるばかり。

 ベッドもじっとりと濡れて気持ち悪さがある。


「もうっ、騎士様はいろいろやりすぎなんですっ」


「えー、でもエレーヌ喜んでたよね」


「そっ、それとこれとは別なんですっ!」


 うーむ、ベッドがじっとり濡れてるのもなんか誇らしいものがあるゼ。

 まぁそれはさておき、雨季だと色々と大変なのだ。


「ご主人様ー、じめじめするぅ」


「じめじめするのー」


「べたべたー」


「じゃあくっつくな」


「でもご主人様とちゅっちゅするー」


「んちゅ~、えう、れろ……」


「ご主人様の背中いいにおーい」


「じめじめする言うとるのに……お仕置きしてやる!」


 うーん、雨季。全く色々と大変だぜ。




 さて、そうこうして雨季を終え、雨が減るにつれて、めっきりと寒くなり始めた世界の中、オレたちは冬を越すための準備を整えていく。


 冬を超えるために必要な暖房を焚くための薪はいくらでもある。

 必要なのは食糧。そして、その蓄えはもうとうに終わっている。食糧を蓄える方法は農耕じゃ無理な時期だったから購入で済ませたしな。

 そういうわけで、既にこの村の冬支度はだいぶ終わりを迎えているが、大詰めとなる作業は残っていた。


 それは家の補修工事。家の補修をしなければ寒さは越せないのだ。

 ジャン爺さん曰く、この辺りはそれほど寒さが酷い地域ではないらしいのだが、それでも冬は寒いものなのだ。


 とはいっても、戦う事しか脳のないオレに家の補修工事で出来る事はあんまりなかった。

 力仕事ならいくらでも任せてくれってところなんだが、生憎とそこまで力仕事が必要なわけじゃなかった。

 そうなると、途端にやる事がなくなり、オレは窓際になるのだ。ああ、窓際。悲しい響きだ。


「よし、窓際脱退のために開拓を進めよう」


 と言うより、森の見回りをしようってだけなんだが。

 冬季になって冬ごもりをする動物がいるかは分からないが、食糧が足らなくて人里に来る動物とかいたら困るからな。


 一人で行ってもいいが、帰って来たらエレーヌに怒られるだろうから、誰かと一緒に行くか。

 さて、誰と行くかな……。


 ミルクトリオを連れてってもなんか役に立たなそうって言うか、むしろ危ない気がするのでやめておく。

 ちなみに危ないと言うのは三人が危険であると同時に、オレがその三人に襲われて危険であると言う二つの意味がある。


 レネルを連れてくと、無暗に周囲を刺激しそうなのでやめておこう。

 まぁ、森に行くのがバレたら勝手についてくるだろうけど……。


 エレーヌは忙しいのではなっから対象外だ。

 エレーヌは手先が器用なので、家の補修作業にてんやわんやなのだ。


 アルファベットブラザーズはそもそも冒険者としてやっていけない状態だからこの村に来たので論外だ。


 そうなると、消去法でティルフィンになるな。

 と言うわけで、ティルフィンを連れて行く事にしよう。


「ティルフィン」


 そう声をかけると、しゅたっ、と天井からティルフィンが飛び降りてくる。


「はっ、ここに」


「忍者ごっこ疲れない?」


「ご、ごっこではありません!」


「でも天井に張り付いてて疲れない?」


「平気です!」


「まぁ、ティルフィンがそう言うならいいんだけどね」


 いいんじゃない、別に。スリケンとか投げ出してあからさまにニンジャなアトモスフィアを発したりしなければ。

 でもいずれモンスターから何か情報を聞き出す時にインタビューしてもらうのには役立つかもしれない。


「さて、開拓を進めるためにも森に出る。と言うわけで、お供をしてくれ」


「はっ!」


「キビダンゴは無い」


「は?」


「俺は知能指数が高いから分かる。モモタロのお供のイヌはキビダンゴがいる。俺は詳しいんだ」


「あの、キビダンゴとは?」


「キビダンゴが無い。考えていなかった。だがコウボウ・エラーズと言うではないか。だからおかしくない、いいね?」


「は、はい……」


 だがイヌをお供にするにはキビダンゴが必要。古事記にもそう書かれている。平安時代の哲学剣士、ミヤモト・マサシもニンジャにスシ、イヌにキビダンゴと言っていた。

 イヌにキビダンゴは実際必要。


「さて、では行くぞ」


「はっ!」


 そういうわけで出発。

 つぶしてしまうぜ鬼ヶ島。

 おもしろいおもしろい、残らず鬼を攻め伏せて、分捕り物をエンヤラヤである。

 しまった、サルとキジが居ない!


「なんてこった、マッポーの世の中、サルとキジがいなくては……めんどいからもう終わりだ」


「え? あの、開拓をやめてしまうのですか?」


「あ、いや、そうじゃない」


 うん、馬鹿な事はもうやめよう。そうしよう。

 そういうわけで、しっかりと装備を整える。腰にはスクラマサクスを差し、背にはハルバードを背負う。


 纏う衣服は、普段使いのローブにブリガンダイン。そして、その上からさらに防寒用のマントを被る。

 こうしないと寒いのだ。


「ふー、ぼつぼつ行くか。ティルフィンはそんな恰好で平気か?」


 粗末な麻らしき服を着て、腰に剣を差してるだけの身軽な格好だ。凄く寒そう。


「シントーメッキャスレバ火もクールと言うのです!」


「お、おう……」


 どういう意味だ? シントーメッキャスレバ火もクール……?

 よく分からんが、ティルフィンが平気だって言うなら大丈夫なのだろうな。

 まぁ、尻尾とか耳とかめっちゃもふもふだし、意外と寒さに強いのかもしれないな。




 さて、森にやってきた。ここから踏み入るのに慣れ親しんだだけに、ここらへんはもう勝手知ったる道と言ったところだ。

 チャカチャカ歩いていき、ティルフィンはその後ろをついていく。

 今日はとりあえず、今まで探索してきた場所の総ざらいをするとしよう。

 外側をぐるっと一周して、最後にドリュアスのところを一応見てきてから戻るとしよう。


「冬だと草木が少なくて歩きやすいな」


「はい。ですがその分恵みが少ないので、日々を生きるのは少々大変ですが」


「今年は村の蓄えもあるから楽になるさ」


 コボルトとゴブリン、その2つの集落は人間の村とほぼ合一している、と言ってもいい。

 人間とほぼ変わらないような見た目だという事もあり、実質的に亜人のような扱いとして受け入れられている。

 元々、知能の高いゴブリンは亜人種として町で暮らせるという設定もあったし。


「特に変わった様子はないみたいだな。ティルフィン、一応なんか気付いたら教えてくれ」


「はい」


 その後、しばらく森中を探索する。

 とは言え、何ら変わった様子はなかった。どこもかしこも平穏そのもの。

 森を闊歩していたライオンの姿もなく、温かい地域を求めて南進でもしたのかもしれない。

 サソリの類も全く見えず、ちょっとした小動物がうろちょろしているくらいだった。


「平和だな」


「は、はは、はい!」


「寒そうだな」


「さ、寒くありません!」


 めっちゃガタガタ震えてるんですけどそれはどうなんですかね。


「どっか風を遮れるところで暖を取るか」


 確か、向こうの方に洞窟があったはずだ。中は探索してないが、さほど広い洞窟ではないとエレーヌが言っていたので何かが住んでいるという事もないだろう。

 道中で薪を拾っておき、その洞窟に辿り着く。


「へぇ、奥行きは無いみたいだけど高さは結構あるな」


「そ、そそ、そのようですねっ。ひっくしゅ……な、何かが住んでいる匂いも、ないです」


 エレーヌは耳がいいが、ティルフィンは鼻がいい。目も滅茶苦茶いいらしい。

 エレーヌとティルフィンのお墨付きならば、何かが住んでる事は確実にないだろう。


「ふぅー……風が無いだけでだいぶ暖かいです!」


「そーだな。さてと」


 枯草をひと塊にし、それに魔法で着火。火を薪に燃え移らせる。もう何百回と繰り返した行動なだけに慣れたものだ。


「ほれ、こっちこい」


「ひゃあ!」


 ティルフィンをマントの中に押し込む。オレも寒いので貸してやりはしない。

 それにくっついてた方があったかいしな。


「はう……主殿あったかいです……」


「そうだな」


 ティルフィンの体温はかなり高い。それもあって余計に外気温が寒く感じるんだろうが。

 しかし……やべぇ、ティルフィンの尻尾もふもふしてて超気持ちいい。腕に当たってるんだが、腕がしあわせ。

 恐る恐る撫でてみると、ぴくんっ、とティルフィンが反応する。


「あ、あの、主殿……?」


「いや……尻尾があまりにも、そう……魅力的だったからしょうがない」


「そ、そうですか」


「だから撫でてもいいよね?」


「は、はいっ」


 本人の許可もいただけたので遠慮なく撫でてもふもふする。やべぇ、柔らかくて気持ちいい。

 なんで毛の柔らかい動物って撫でるとこんなに気持ちいいんだろう。一時期死ぬほどハムスターが飼いたかった事を思い出すなぁ……共食いする事もあるって知って飼うのやめたけど。


「はあふ……はふ……」


「んん? ここか? ここがいいのか? んん?」


「あ、あるじどのぉ……」





 色々あった。そう、色々あったの。

 ティルフィンが襲ってきて、据え膳食わぬは男の恥って言うし。まぁ、ともかくいろいろあったの。

 男は細かい事を気にしてはいけないから、そのいろいろについての言及はやめておこう。

 ただまぁ、ティルフィンはえっちな子なんだなぁ、って言うだけだ。

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