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バロンちゃんマジ神様

 さて、ハルピュイアの大群を退け、カラヴィンカが村の辺りに戻ってきて、暫くの日数が経った。


 その間、ハルピュイアが攻め寄せてくるようなことは一度もなく、村は実に平和なものだった。

 村に出ていた戒厳令のようなものは停止され、平常運転へと戻った。


 そして、特にどうという事もない日常が再び始まり、ため池の造成作業に一時注力する事となった。

 開拓事業を推し進めたいのもあるが、時期も差し迫って来ている。

 既に雨季が近づいてきているのだ。ため池を可能な限り広げておきたい。


 そういうわけで、周囲の開拓は一旦取りやめ、農作業に従事する事となる。

 一日の作業はひたすらに単調だ。穴掘って土運び出して、地面踏み固めて……その繰り返し。

 農民って大変なんだなぁ、とよくわかる仕事の繰り返しである。


「あーあ、だりぃなぁ」


「そうっすねぇ……けど、兄貴が農作業メインに動いてくれてるんで、だいぶ楽になりやしたよ」


「そりゃあなぁ」


 オレの作業効率は常人の数倍だ。既に身体能力がおかしい領域に来てるので、それくらいは楽勝なのだ。

 ざくざく土を掘りだしては外に放り投げまくり、力いっぱい地面をぶっ叩いて固める。

 そうすりゃあっという間にため池の工事が進んでいく。

 とはいえ、ため池は可能な限り広げたいので際限がないのだが……。


「しかし、こうも毎日おんなじことの繰り返しだと飽きるな……」


「まぁ、しゃあないでしょう。気楽な冒険者暮らしなら違うんでしょうけどねぇ」


「出来るもんなら冒険者に戻りてーな。はははは」


 からからと笑うが、もともと冒険者をやってたという気持ちは殆どない。

 だが、この農作業にずっと従事してるよりはよっぽど楽しそうだ。命の危険もあるんだろうけどな。

 でも、この開拓作業も割と命の危険が日常茶飯事だからなぁ……。


「ま、グチャグチャ言ってもしょうがねぇよ。もうひと踏ん張りだ。この冬を越せれば、人も増えるはずだ」


 そうなりゃオレを筆頭としたメンバーで開拓作業に注力できるようになる。


「この冬越したら、エールが作りてぇなぁ。エールが飲みてぇや……」


「エールか。醸造技術はないからなぁ。お前やったことあるのか?」


「へい。他の奴らもぼちぼちやったことがあるはずです」


「そんならまぁ、全員の食う分と備蓄を確保したら、残る麦でエール作ってもいいかな」


「さっすが兄貴。話が分かるぅ」


 楽しみは必要だからな。それに、エールは栄養分が豊富だ。

 中世じゃパン代わりに修道士が飲んでてベロベロに酔っ払ったって記録もあるそうだ。

 パンと違って保存も利くし、割といいことではないだろうか。うん。

 なんてことを思いつつも開拓作業を続ける。




 やがて時は流れる。


「それこそ蒸気機関車が生まれ、太陽の塔が出来て、人類は宇宙に進出するくらいの勢いでだな……」


「騎士様? いきなり何を?」


「いや、そうならないかなぁ、と希望を込めてなんとなく妄言を」


 開拓作業はひと段落。既に雨季に入り、外ではジャンジャカ雨が降ってる。

 この調子で冒険者が雨のように降ってこないだろうか。降るわけねーか……。


 最近は村の方に人間が増えてきており、これであと冒険者さえ増えてくれれば完璧……と言った調子だ。

 村の防衛力として冒険者さえ居てくれれば、オレたちが村に残る必要はなくなり、開拓作業に集中する事が出来る。


 別にそいつらが居なくてもオレたちが開拓に集中する事は出来るが、帰ってきたら村が滅んでたとかマジ勘弁だし……。

 何はともあれ、どうにかできる問題ではないし、今は耐える時か……。


 さて、そう言った諸々の問題はさておき、オレは今、全力で粘土を捏ねていた。


「雨季だからちょっとくらい休みたいでござるよ……」


 こないだまでしんどい農作業に従事してたんだから、1日や2日くらい休んでもよくね?

 エレーヌと退廃的な生活に1日耽るくらいは許されると思うんだ。


「そうはいきません、騎士様。雨季だからこそ普段はあまり注力出来ない事に注力するんです」


「分かってるんだけどさぁ……」


 うちのエレーヌさん超勤勉だから、オレも働かざるを得ない。

 いや、だって一生懸命働いてる人の横でだらけるとかまともな精神性の持ち主だったら無理でしょう。


「――――体は残業で出来ている」


 仕方なしに粘土を捏ねつつ呟く。


「血潮はサービス残業で、心は愛社精神」


 もう会社無いけど。


「幾たびの日数を越えて帰宅せず」


 そもそも帰る家すら元の世界じゃなくなったけど。


「ただの一度も定時退社はなく」


 よくあること。


「ただの一度も残業代はない」


 本当によくあること。


「彼の者は常に独り、喫煙所の椅子で仮眠に酔う」


 喫煙者が来ると煙いのですぐ目が覚める。


「故に、その生涯に意味はなく」


 割と真剣になんで生きてるんだろうって思った事がないでもない。


「その体は、きっと残業で出来ていた」


 残業塗れの人生だった。

 ああ、これもまた残業なのか……オレの人生は残業に彩られている。


「騎士様、なんだか目がうつろですが……」


「はい、いえ、問題ありません、部長」


「ぶ、ぶちょう?」


「ごめん、なんでもない」


 ああ、残業が、残業が見えるよ。サービス残業だよ。ああ、あああああ……。


「そうだ、労働基準法を完備しよう」


 ……この村に労働基準法完備したら、たぶんだけど村の経営が立ち行かないな。

 労働基準法をどの程度きつくするかにもよるけど。

 と言う事は、今度はオレがデスマーチ指揮者か。嫌だ嫌だ、凄く嫌だ。デスマ指揮者なんて冗談じゃない。


「ちくしょう、労基の徹底を希望する」


 世界そのものに労働基準法を組み込もう。そうすべきだ。

 ……なーんてアホな事を考えてるうちに、捏ねていた粘土はぼちぼちまともな水瓶の形になる。

 後はこれを乾燥させて、素焼きをして、それから釉薬をつけて焼いて……と言う面倒くさい工程を重ねる必要がある。


 焼く際にも、まともに水瓶として使えるように祈る仕事がある。

 しかしシャーマンは祈祷が専門でないのでオレの祈りで水瓶がちゃんと焼けるかどうか。

 そもそも焼き物をするのに祈祷って本来必要なのかどうか。いや、確実にいらねーよ。

 などとセルフ突っ込みしつつ、出来上がった水瓶粘土を部屋の隅に置く。


「とりあえず、水瓶の素体はこれで10個か……」


「ええ。騎士様にはご苦労をおかけします……」


「いや、いいよ。オレが一番力あるしね」


 粘土はよく捏ねてから焼かないと破裂する……そう学んだ。その捏ねるのが割と重労働なので、一番力のあるオレが担当している。

 ここんとこ怠ると焼いてたやつは使い物にならなくなるし、下手したら炸裂して周囲の焼き物もダメになるからなぁ……。


「あ~……マジで職人とかも早くこねーかな」


 焼き方から釉薬まで何もかも手探りでやってるレベルだ。

 たまーにテレビなんかで焼き物してるところを見てたからまだ少しは分かってるんだが、それでも手探りなのは確かだしな……。


 つうか、焼き物を焼く耐火レンガってどうやって手に入れるんだ?

 耐火レンガの作り方には、耐火レンガを砕いて入れてから焼きましょうとか本末転倒な事しか言ってなかったのしか覚えてないし。

 なるほど完璧な作り方ッスね~それが不可能って事を除けばよぉぉ~! って叫びたくなったわ。


「まぁいいや、今はあるもんでなんとかしないとな。うん」


「そうですね。自助努力が大切ですね」


「そうだね」


 自助努力にも限界はあるが、その限界を迎える前に職人が来てくれればいいのだ。

 とにもかくにも今はやれる事は何でもやっておかないといけない。


 オレに無意味に艱難辛苦をたくさん与えてくださる致命的なレベルにまでに性根が根腐りを起こして、根性が捻じ曲がっているミスター神様はオレの事が大嫌いに違いないのだから。

 やれることをなんでもやっておかないと、きっとそのくそたれな神は大喜びでオレに無意味な艱難辛苦を与えるに違いないのだ。

 艱難辛苦汝を珠にするとか昔の偉い人は言ったそうだが、オレは別に珠になりたいわけではないので艱難辛苦は要らないのである。

 ほどほどの苦労をして、ほどほどに平穏な人生を送っていければそれでいいよ。


「つか、なんでオレはこんな大変な開拓作業をしてるんだろう?」


「あの……それは騎士様が開拓をしようと言い出したからですが……」


 分かってる。分かってるんだよ。

 開拓作業とかオレたちにかかれば楽勝じゃね? とか舐めてかかったせいでこんなことになってるって。

 開拓作業をして十全な生活基盤を作れば、あとは縁側で猫を抱いて茶を飲むような平穏な人生が送れると思ってたのに。


 ところが開拓作業は楽勝どころか、開始時点で既に村は落城寸前と言う有様だったのだ。

 そもそもジャン爺さんが一人しか住んでいないって、現代日本では問題になってた限界集落問題とやらが真っ青になるレベルの限界集落だ。


 その限界集落にモンスターたちが押し寄せて、オレたちはモンスターと戦いつつ開拓作業を行い……。

 そして、世界万国博覧会か、あるいは動物園でも開けそうなくらいに危険な猛獣のバリエーションに富んだ森を開拓して、人の入り込める土地にしなくてはならないのだ。


 当然のようにライオンが闊歩して、サソリが歩き回り、サーベルタイガーが水を飲む。そんな森を人が入り込める土地にしなくてはならないのである。

 どうすんだよ。どうやったらそんなことが出来るんだよ。ライオンとかサーベルタイガー根絶やしにすんのか?

 無理じゃないとは思うが、何年かかるんだよ。

 でもサソリとかどう考えても根絶やしにするの不可能だぞ。オレにどうしろと言うのだ……。


 とりあえずサーベルタイガーは捕獲して、千早か隕鉄と名前を付けて可愛がるつもりである。

 なついてくれるかは知らないが、ボコにした後にエサやればなついてくれると思うんだ。


「ああもう……前途多難すぎる……ちょっと気晴らしに散歩してくるわ……」


 嫌な気分も歩き回れば多少はマシになるに違いない。そう考えつつ、外套を手に取ってそれを羽織る。


「雨が降っていますが……どちらに? 山道は危険ですよ?」


「ちょっとバロンのとこに。今日お参りしてないし」


 いちおう、毎日律儀にお参りしている。

 あのやたら大仰な態度を取るエキゾチック美女のバロンは淋しがりやなのか、なかなかお参りにいかないと向こうから出向いてくるアグレッシブゴッドなのだ。

 向こうから出向いてきた場合、大人しく連行されることになり、ナンマンダブツナンマンダブツ……と宗教を間違ったお参りとかは許されず、最初にやった作法通りにしないとバロンは激怒して邪知暴虐の王を除かなければならぬくらいに怒るに違いない。関係ない王様かわいそう。

 たぶん本気で怒らせたら、呆れた奴だ生かしておけぬ、とかバロンが言い出して、ドス一本持ってオレをブチ殺しに来るに違いない。


 そんなことになったら最終的にバロンが妹の結婚式をするために走ったり、エリヌンティウスとかそう言う感じのバロンの友人的なソレと力いっぱい殴り合うような事態になるに違いない。

 そんな事態はまっぴらごめんだ。


 あるいはお参りに行かないと「そうかそうか君はそういうやつなんだな」と冷たい目で見られるに違いない。

 そうなると持っても居ない大切な宝物の蝶を全部差し出しても許してくれないだろう。


 あるいはバロンが若い女の死体の髪を毟っていて、オレが義憤に燃えて剣を手に「何をしていた、言え。言わぬと、これだぞよ」とか言って脅すに違いない。

 そして最終的にバロンの服を奪い取って夜闇の中に消えていくと言う追剥ぎ行為をしなくてはならないのだ。

 正直言ってバロン相手だったら追剥ぎ行為のついでにしっぽりと楽しむくらいの事は大半の悪漢はやると思うが、展開的にやってはならないんだろう。


 そんな感じの被害妄想満載で、支離滅裂になっていく文学的な妄想を逞しくさせつつ、ざんざん降りの雨の中を歩いていく。


 村はさほど広いわけではないので、歩いていればあっという間にバロンの住まう家であり、社である教会と言う名の神社へと辿り着く。


 じゃんじゃか降る雨の中で、粗末な作りの神社は何とも頼りない。

 そのうち改築してもっと真っ当なお社にしてあげないとな。

 そう思いつつ、社へと近づいて、ほどほどにマジメで、ほどほどにおざなりな礼をしておく。


「うむ。本日のお参り完了」


 ちょうどいい気分転換になった。さて、帰るか。

 そう思ったところで、勢いよく社の扉が開かれた。


「む、君か。よく来たな」


 アグレッシブゴッドのバロンだ。まぁ、バロンの家みたいなものなので、バロン以外が居たらおかしいのだが。


「雨の中で大変だったろう。さあ、上がるといい。お茶くらいなら出そう」


「いや、まだ仕事があるので……」


「そう遠慮せずに」


「いや……」


「上がっていくといい」


 上がっていかないの? ねぇ? ねぇ? とありもしない尻尾を振っている姿が見えた。

 それにテクニカルノックアウトされて、オレは神社に上がっていくことに。


 神社の内部はさほど物が無い。

 人間と違って神は多くの生活必需品が必需でないので、物が無くても問題ないのだそうだ。

 来客用にティーセットと、村周辺に生えてる野草を干してお茶にした類の嗜好品があるくらいだろう。


「ゴボウのお茶だが、問題ないかな?」


「平気平気」


 トン汁とかに入ってるあのゴボウ。あれをお茶にしたものがこの村では一般的なお茶だったりする。

 オレはお茶飲まない性質の人間なので、基本的に水を飲むんだけどね。


「最近は雨季で大変だが、君たちはよく頑張っている。粗末なお茶だが、是非とも労わせてくれ」


「そりゃどうも」


 淹れてくれたゴボウのお茶を受け取って一口。あんまりうまくはない。

 どうせ不味い水を少しでも美味しく飲むためのものなので、そう言うものなんだろう。


「私は森の神だ。君たちがこうして村を広げる事に対して助力は出来ない」


「出来ないことをやってくれなんて頼まないさ」


「だから、その分だけ森で働く君たちに助力をしよう。もっと信仰が集まればもっといろいろと出来るんだがなぁ。一年中森の恵みが手に入る森にしたり」


「そりゃすげぇ……」


 それもう森って言わなくね? アーコロジーとかそういわれるべき類のものだよね。


「私に出来る事はなんでもやるつもりだ。だから、君たち人間は頑張ってくれたまえ」


「はいはい。頑張りますよっと」


 言われるまでもなく頑張るさ。

 頑張る以外に道は無いんだからな。


「それじゃ、オレはここらでお暇させてもらいますよっと。まだまだやる事が山積みなんで」


「うむ。引き止めてしまって悪かったな。頑張ってくれ」


「あいあい」


 お茶を飲み干して立ち上がる。

 外の雨はまだやまない。

 それでもやる事は一杯ある。

 さあ、今日も頑張っていきますか。

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