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鳥類系モンスター

 ドリュアスの元へと戻ると、既に死体の大半は消えていた。

 そこらじゅうの木がうぞうぞと蠢いて、転がる死体を取り込んでいる。


「うわぁ……すごくホラーだな……」


 最近の木は自らの栄養の為に動物の死体を取り込むのか。恐ろしいな。

 どうりで森の中で何の死体も見つからんわけだ。


「おーい、ドリュアスさんよ。あんた無事かい?」


 巨木に声をかけると、にょきりとドリュアスが生えて来た。


「無事よ。ありがとうね」


「別にいいさ、オレたちにも死活問題だからな、水源は」


「そう。それでもありがとうと言っておくわ。私が朽ちて消えても、いずれまた新しい木が生えてくるけれど、そこに私は居ないから」


「じゃあ、お前は今後100年はとりあえず無事だ。何しろオレが居るからな。喜べ」


「あら、じゃあ喜んじゃうわ」


「ああ、喜んどけ喜んどけ」


 そういってドリュアスの無事を確認し、いくらかここらのモンスターについて軽く尋ね、地面に散らばしていた矢を回収して急いで村へと戻った。

 ハルピュイアどもとの戦いはまず間違いなく村の方でも見えてただろうからな。

 村の方でも混乱があっただろうから、早いところ戻って安心させてやらないと。




 そういうわけで村へと戻ってみると、やはりだが村全体は混乱していた。

 すぐに村人全員を集めた上で事情を詳しく説明して、今のところ問題がないことを詳しく説明して混乱を収める。


 モンスター組の不安はそこまで酷くはなかった。

 元々この森で生きてた奴らだから、こういうトラブルも自然の流れの一つとして受け止められるんだろう。

 だが、一方の人間組の不安がりようはハンパではなかった。

 アルファベットブラザーズが怖いから泊めてくれとオレの家に押しかけてくるくらいだった。


 怖くて寝れねぇとのことなので拳で寝かしつけたら簡単に寝てくれた。




 そして翌日。

 夜行性のコボルトたちと交代し、オレたち人間組が村の見張りに着く。

 さすがにあんなことがあったばかりなだけに、普段からやっている見張りは強化せざるを得ない。


 この見張りのせいで、遠方まで出向く開拓が出来てないんだよな、今のところ。

 なにしろ村人たちだけで対応できるモンスターばかりじゃないのだ。

 村人で対応できないモンスターが出たらオレたちが対応せざるを得ない。

 そのためには出来るだけ近距離の開拓だけで済ませる必要がある。


 オレかエレーヌのどっちかが残るって手段もあるが、そうなったらなったでオレだけじゃ対応し切れない事態や、エレーヌだけじゃ対応し切れない事態があるからな……。


「はぁ……参ったなぁ……」


 冒険者不足。これは本当に深刻な事態だ。

 オレたちに匹敵する強さを持つ面々が欲しい。

 とはいえ今の状況じゃホントにどうにもならねぇから困る……。


「あー……冒険者どっかから湧いてこねぇかな……」


 ぼけーっと木を組んだだけの粗末な物見櫓の上で周囲を見渡しながら呟く。

 もちろんどっかから湧いたりするようなことはないんだが。


「ヒマだな……」


 即応態勢の為としてオレが見張りについてるんだが、予想以上にヒマだ。

 コボルトにゴブリンたちはこんなヒマな事を毎日やってたのか。オレなら30分で仕事やめたくなるな。


 そんなことを考えていると、ぎしぎしと物見櫓が揺れた。

 何事かと思って下を見ると、ミルクたちがちょろちょろ上ってきてるところだった。


「どうしたんだ、お前ら」


「お昼ご飯だよ!」


「みんな大好き麦粥だよー」


「ビスケットもあるんだよ!」


「ありがてぇ」


 どうやら昼飯を持ってきてくれたらしい。

 茶色をしている非常に不味そうな見た目の麦粥とビスケットをありがたく受け取る。


 この麦粥、見た目はなかなか不味そうだが食ってみると割とおいしい。

 茶色っぽいのは魚醤。ここらで言うとナンプラーで味付けされているからだ。

 そこにニンニクで香りづけしてあるのでなかなかおいしい。


「今日の炊き出しの担当は?」


「コボルトたちだよ」


「そうか」


 コボルトたちの作ったメシは割とおいしい。

 ゴブリンは……そう……まぁ……そうねぇ……。

 人間組は可もなく不可もなくだが、アルファベットブラーザズは見た目よりずっと料理がうまい。

 元冒険者なだけのことはあるらしい。


 さておき、その麦粥を木のスプーンで一掬いしてムシャムシャやりつつ、ミルクたちに尋ねる。


「開墾の進捗はどうだ?」


「エリーが言うには予定よりいいペースで進んでるって」


「そうか。そんなら重畳。しかしエリーね……お前らいつの間にそんなに仲良くなったんだ?」


 エリーと言ったらエレーヌの事だろう。ゴブリン組には名前なんか殆どないし。

 コボルト組もろくな名前を持ってる奴が居ないので、該当者はエレーヌくらいしかいないのだ。


「毎日よくお話するんだよー?」


「開墾はエリーが指示出してるもんね」


「だから、ご主人様と仲のいい私たちと仲がいいのだー。えっへん」


 別に胸張るこっちゃねえと思うけどなぁ……。

 まぁ、こいつらに張るほどの胸はないが。


「あ、ご主人様えっちな目で見てるー」


「えっちなことするー?」


「しちゃうー?」


「しません」


 野ざらしとかいうレベルじゃない場所でおっぱじめるとか羞恥プレイなんてもんじゃねえぞ。 


「開墾作業は順調か。冬までにどれだけ畑を広げられるかが勝負だな……」


 麦の種まきの時期は冬頃。雪が降り始める頃に撒くのだそうだ。

 その鉄則を守るのであれば、残る時期はおよそ6~7か月程度。

 それまでに維持できる可能な限り畑を広げる必要がある。


 開拓村では自給自足が出来るようにならなきゃいかんのだから、主食の大半を占める麦の栽培が可能になるのは急務だ。

 既にジャン爺さんが栽培はしていたが、それも所詮は一人分が限度。

 それも足りない分は行商人に頼っていたのだから、自給できていたとは言えるような規模ではなかった。


 そういうわけで、この村の腹を満たしてなお余るほどの麦を栽培できるようにしなくてはならない。

 余るほどの麦を作る事が出来れば外に向けて売る事も出来るからな。


「水路は?」


「ちゃんとできてるよー」


「でも、ため池はぜんぜん進んでないよ」


「そうか……」


 ため池の方はかなり重要だ。

 ジャン爺さんに聞いたところ、ここらは雨季と乾季の差が酷いわけではなく、年間を通して降水量はそれなりにあるらしい。

 だが、旱魃被害が無いわけではない。可能な限り影響を抑えるためにも、ため池は必須だ。

 現代と違って蛇口ひねりゃ水が出るわけじゃねえんだ。


「ため池と畑の重要性で言えばため池の方が重要だからな……開墾要員をいくらかため池の造成に回すか」


「それからそれからー……って、あれ?」


「どうした」


「あれ、ハルピュイアじゃない!?」


「たいへんだよ!」


「もしかしてご主人様を襲いに来たのかな!」


「なんだと!」


 弓を出しながら望遠鏡でその方角を覗く。

 確かに、有翼の人型が空を飛んでいる。

 しかし……。


「ハルピュイアじゃねえぞ、あれ」


 ハルピュイアとは全く見た目が違う。

 ハルピュイアは有翼だったが、腕そのものが翼だった。

 一方、オレの視界に写ってる空を飛んでるものは、背に翼が生えていて、人間と同じ腕が生えている。


「よく見えねぇな……確かに鳥っぽい何かなんだろうけど……よくわかんねぇ……」


 ドリュアスに色々と聞きはしたが、時間が無かっただけにあまり詳しくは聞けなかった。

 そもそもドリュアスは自分の木から殆ど動けないので、あまり多く知っているわけではなかった。


 聞けたモンスターは、キラービーなどのハチ系のモンスターに、クモやマンティコア、という程度。

 そして、あそこにいるモンスターは明らかにそれとは別だ。


「ミルク、何かわかるか?」


 望遠鏡を手渡す。

 ミルクが逆側から望遠鏡を覗く。


「あれぇ? ぜんぜんみえないよ?」


 取り上げて反対方向にして渡す。


「あ、みえた。んー、よくわかんない」


「ミルク、私にもみせてー!」


「つぎわたしー!」


「望遠鏡はオモチャじゃねえ!」


 落として壊されたら溜まったもんではないので取り上げる。

 そしてもう一度先ほどのモンスターを見やるのだが、やはりよくわからん。


 なんか和服っぽい服を着てる事はわかったのだが……。


「うーむ……ミクル、クルミ、ここに残って見張りしといてくれ。オレとミルクはジャン爺さんのところに行ってくる」


「わかったー!」


「りょうかーい!」


 ミルクを抱きかかえて物見櫓から飛び降りる。

 そして着地すると、小走りでジャン爺さんのところへと。


 ジャン爺さんはアルファベットブラザーズと共に、薪割りの作業に勤しんでいる。

 その爺さんを呼び止め、詳しく聞くことに。


「ふむ。有翼の人間ですか。それでしたら、カラヴィンカというモンスターでしょうな」


「カラヴィンカ?」


 聞いたことねぇ。


「ええ。美しい声音で鳴く見目麗しいモンスターたちでしてな。ハルピュイアのような下劣なモンスターと違い、それはそれは美しい声で鳴くものです」


「害は?」


「特にありませんな。しかし、ここ数年姿を見せていないと思っていたのですが、今年は姿を現しましたか。あの声がまた聴けると思うと、嬉しいものですな」


「カラヴィンカ……ねぇ……」


 害がないというならまぁいいのだが。

 しかし、ハルピュイアを始末した直後に姿を現したりなんかするから驚くじゃないか。


 いや、むしろ……ハルピュイアを始末したから現れたんだろうか。

 ここにハルピュイアたちが大群生して卵を産むようになったから、在来種のカラヴィンカとやらが生息地を追われる形になった……と。


 とすると、生態系は元通りの形に戻ったと考えられるが……。

 まぁいいや。この世界に在来種の保護なんて考え方はないんだからな。

 戻ったんだろうが戻ってなかろうがどっちでもいい。


「おやっ、こっちにカラヴィンカが来ますな」


「え、マジで。どこどこ」


「あそこです」


 ジャン爺さんが指差す先には確かにカラヴィンカが居た。

 ふわりふわりと鳶のように上昇気流をうまく使って飛翔しているらしい。

 かなりデカい翼は揚力を生み出すためのものらしいな。


「ふわぁー……すっごい綺麗だね、ご主人様……」


「ああ、綺麗だな」


 極彩色の翼で風を捉えて空を舞う姿は何とも綺麗だ。

 そして、ここまで響いてくる綺麗な歌声のような鳴き声。

 ハルピュイアを退治したおかげで戻ってきたのだと思うと、少し嬉しかった。


「他に殆ど仲間は見えませんが、一時は何十羽ものカラヴィンカが飛んでおりましてな。いずれ、多くが戻ってくるでしょう」


「ああ、そうなるといいな」


 美しい音色の声を響かせるカラヴィンカたち。

 それは平和の象徴のようにも見えた。

Q.カラヴィンカってなんじゃらほい?

A迦陵頻伽かりょうびんが上半身が人で、下半身が鳥の空想上の生物。仏教に由来する。

サンスクリット語のカラヴィンカを音訳したのが迦陵頻伽。

やっぱりだが本作ではあくまでそれっぽい生物。

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