文明の利器SUGEEEEEE
押し寄せる敵たちが次々と撃ち落とされていく。
同時に放たれ続ける3本の矢。それは散らばって複数のハルピュイアに突き刺さり、時として使われる1本の矢が的確にハルピュイアを射抜く。
「幾らなんでも数が多過ぎるな!」
足元の矢筒を蹴り上げて、空中に散らばった矢を手に取って、4本一気に番える。
矢筈にかっちりと収まった弦を引き絞り、その張力によって矢が発射される。
140キロを超える張力を持った強弓は下手な弩を超える圧倒的な威力を発揮する。
攻城兵器に匹敵する強弓はハルピュイア程度を一撃で屠る。
「キリがありません! なんて数でしょうか!」
だが、数が多過ぎる。
押し寄せる津波のようなハルピュイアの軍勢は幾ら撃ち落としても減ったようにすら見えない。
ハルピュイアの軍勢に突っ込んでいったレネルの姿はもはや見えない。
恐らくは無事なのだろうが、あまりの数にどこにいるのかすらもわからないのだ。
「クソ! 地上ならやりようは幾らでもあるってのに!」
地上ならば、森というフィールドはシャーマンのオレに有利に働いてくれる。
あれほどの数が相手でも、だ。時間はかかるだろうが、まず負けはしない。
シャーマンにゲリラ戦術をやらせれば世界最強だという事を教え込んでやるのに。
そう愚痴りながらも弓を引き続けるが、やがて押し寄せたハルピュイアが至近距離にまで迫る。
「抜剣! 白兵戦闘準備!」
ハルバードをバックパックから引き抜き、弓を捨てる。
エレーヌも同様に弓を背負うと、レイピアを抜く。
「うぅぅぅらぁぁぁぁぁっ!」
全力でハルバードを振り回した。
身体能力を強化するスキル、バーサクは既に使用済み。
本来よりも遥かに増強された身体能力は、トップヘビーでなおかつ10キログラムを超えるハルバードを軽々と振り回す腕力をオレに与える。
振り回されたハルバードは一撃でハルピュイアを粉砕し、ただの一振りで10匹を超えるハルピュイアを肉の塊に変じさせていた。
次々と襲い来るハルピュイアを薙ぎ払い続けながらも、エレーヌの方へと視線をやる。
エレーヌの戦い方は実に堅実だ。
左腕に装着した小型のラウンドシールドで守り主体で、カウンター狙いの刺突剣術を扱う。
手堅い戦い方で、一対一なら相当強く、多対一の戦い方でも十分に強い。
恐らく放置しても問題ないだろう。
一番の問題は動けないドリュアスだ。
ドリュアスに目線をやると、何も出来ないので木に引っ込んでるところだ。
ゲーム中でも何にも出来ないから、主人公に木に害を成す鳥を追っ払ってくれって頼んでたしな。
「っ!」
よそ見をしていたせいで頬が切られた。
とりあえず頬を切った奴は始末しておき、再びハルバードを全力で振り回す。
「邪魔だぁぁぁっ!」
執拗に薙ぎ払いを繰り返す。
ハルバードの利点であるリーチの長さを最大限に生かした戦い方。
オレの異常なレベルの腕力も相まって、ハルピュイア相手に無双する事が出来ている。
だが、キリがない。
幾らでも押し寄せる敵の増援。
終わりのない戦い。
どこまで続くのか、これは。
「ちぃっ! 一旦撤退だ! 体勢を立て直す!」
「了解です騎士様!」
ハルバードで前面のハルピュイアを薙ぎ払い、そこを無理やり突破する。
包囲網を抜け、距離を取り。
そして、コボルトキングの戦いの時にも使った魔法を構築する。
「ソウイル・テイワズ・スリサズ・テイワズ・ソウイル・テイワズ!」
構築された魔法を即座に発動。
一直線に放たれる強烈な極太の熱線は拡散し、ハルピュイアを100体近く一気に落とした。
既にハルピュイアの数は最初の半分近くにまで減じたが、それでもまだ500体近くのハルピュイアが空を飛んでいる。
「レネル! レネル! レネェェェェルッ! 撤退だ! 撤退! 撤退ぃぃぃぃっ!」
その叫びと同時にハルピュイアの群れを突き破ってレネルが飛び出して来た。
そして、オレたちに追いつくと地面に降り立って併走し始めた。
「撤退するのか? 私はまだ戦えるぞ」
「状況が悪すぎる。足場が悪くなってきた。もっと開けた場所に戦場を移したい」
薙ぎ倒したハルピュイアの死体で足の踏み場もない状況になっていたのだ。
加えて、あの森の中ではどうにも座りが悪い。
ハルピュイアが一度に攻め込める数も制限してくれていたが、それ以上に混戦状態になるのが不味い。
「加えて、これ以上水源を汚したくもない。土中で濾過はされるだろうが、妙な細菌が繁殖でもしたらたまらん」
あとで水源の辺りのハルピュイアの死体は片づける必要があるだろう。
加えて言えば、死体は植物に悪い。塩分が多いからな。
死体を刻んで畑に撒いたら畑の作物は枯れるらしい。
爺ちゃんに聞いた話だが、実体験なのかどうかは怖くて聞けなかった。
「そういうわけだから撤退だ。いいな?」
「分かった。いいだろう。ハヤテ、エレーヌ、掴まれ」
「ああ?」
よくわからんが言われた通りに腕を掴む。
エレーヌも同様にレネルの腕を掴むと、それと同時に体が浮き上がる感覚。
「おわっ! お前飛ぶなら最初からそう言え!」
「騒ぐな! 失速しそうだ! 貴様ら重いぞ!」
「なっ、失礼な! 重くなどありません!」
「重いんだよ!」
「そりゃまぁ……鎧と装備が重いんだろ」
オレはローブを着てるが、下にはブリガンダインという鎧を着けている。
他にも足の保護用のグリーブと、腕の保護用のガントレットも身に着けている。
総重量は15キロをくだらない。
エレーヌはオレより重装備で、ブリガンダインの上にチェインメイル、更にプレートアーマーまで身に着けている。
ところどころ外して軽装にはしてるけど、たぶん、総重量は30~40キロくらいある。
オレの方は鎧だけで15キロくらいあって、身に着けてる剣と手に持ってるハルバードで30キロくらいあるだろう。
レネルは実質的に3~4人の人間を持ち上げてるようなもんだ。そりゃ重いさ。
「貴様ら鎧脱げ!」
「脱げるかアホ!」
「無茶を言わないでください!」
「とにかく重いんだよ!」
「頑張れ!」
「既に頑張っとるわ!」
ギャースカギャースカ言いつつも、レネルは飛行を続ける。
上空なだけあって視界は良く、ちょうどよさそうな場所を見つけた。
「レネル! 10時の方向だ!」
「はぁ? なんだ10時の方向とは!」
「あーっと、茶碗持つ方の手の方向だけど、それでいて気持ち前向きな感じ!」
「茶碗が分からん!」
「ああもうあっちだあっち! あっち! あっち!」
「最初から指させばいい!」
そりゃごもっともな話だ。
そう思いつつもレネルが方向転換し、ちょうどよく見つけた広場へと降り立つ。
以前にコボルトキングと戦った広場とはまた別のところだ。
「手を放すぞ!」
「おうよ!」
「えっ、ちょっと、待って!」
レネルが手を離し、落下する。
そして、地面に落下して着地の瞬間に足、膝、太腿、腰、背中の順に設置する事で衝撃を和らげる事が出来る。
空挺部隊などではこういった技術を習得する事があるらしい。
もちろんオレには出来ない。
普通に足で着地してそのまま気合いで衝撃に耐える。
そして、レネルと空中で絡まり合ってわたわたやってるエレーヌが落下してきたのを受け止める。
「ふぐおぉぉぉぉっ!」
めちゃんこ重かった。
想像の倍ぐらい重かった。
あ、そうか、エレーヌの鎧が重いから……。
「す、すみません、騎士様……ありがとうございます……」
「いや、いいんだけどね……」
そりゃこんな重い鎧つけてたら着地なんか出来んわ。慌てたのもわかる。
さておいてエレーヌを地面に降ろすと、ハルバードを再び構える。
魔力は先ほど全部使ったので空っぽ。
先ほどより広い場所なので、ハルバードは自由にぶん回せる。
「さて……ハルピュイア500匹か……こりゃ下手なドラゴンよりきついな」
「そうですね……強力な一個体よりも、非力な軍勢の方が厄介である場合は多いです」
「とはいえ、既に500匹近くは殺ったんだ。そう思えば少しは気が楽かな……」
「そうですね……なんにせよ、最善を尽くすほかないでしょう」
全く持ってその通りだ。
そう思いながら、オレはバックパックから銃を取り出す。
見た目はふつーにアサルトライフルだが、実は連射式のマスケット銃……という設定。
連射式の時点で根本的にマスケットじゃねえよな、うん。
とはいえ、MODで追加した武装だからそういう事になってしまうのは仕方ない。
というわけで、さっそくそれを構えると、次々とハルピュイアに向けて連射する。
「…………騎士様、それは何ですか?」
「マスケット銃です」
「連射しているようですが」
「連射式マスケット銃です」
マガジンを交換して再び連射。
「なにやら先込め式でないようですが」
「後装式マスケット銃です」
次々と撃ち落とされていくハルピュイアを眺めながら、オレは一つ呟く。
「……さっきの戦い、意味なかったな」
「そうですね……」
もっと早く気付けばよかった……。
その後、文明の利器TUEEEEして一人で殆どのハルピュイアを薙ぎ払った後、打ち漏らした奴はぼつぼつ白兵戦で処理した。
銃は強力だけど、弾薬の補充が出来ないからな。出来るだけ節約するに越したことはない。
まぁ、100万発も持ってるから別にいいんだけどね。
「しかし、強力な銃ですね……連射できる銃がこれほど恐ろしいとは思いませんでした」
「そうだな」
問題は、威力の低さだろう。
いや、もちろんマスケット銃として十分な威力はあるんだ。
ただ、火薬で激発するという武器なだけに、体を鍛えても威力は上がらない。
ゲームでなら問答無用でダメージ与えてたけど、ドラゴンの鱗とかに効果があるかどうか。
加えて言うと、マスケット銃は原始的な銃だけに貫通力が低いし、射程も短い。
強靭な皮膚を持つ動物には致命傷を与えづらいのだ。
あまり強くないモンスターの掃討にしか使えないだろうな。
そもそも銃はムスケテールという職業専用の武器なので、本来オレには使えないはずなのだ。
現実だからこそ使えちゃいるが、弓と違って何か違和感を感じる。
あまり精密には狙えそうにもない。
「とりあえず、ハルピュイアの脅威は退けたか」
「そうですね。まだいくらか残党はいるでしょうが、問題のない範疇でしょう」
「だな」
討ち漏らしがあっても、別に大繁殖するわけではあるまい。
渡りをするとのことらしいし、繁殖したハルピュイアはこの森から去っていくはずだ。
ん? ってことは、このハルピュイアたちってモンスター娘じゃなかったんだな。
外部から来たモンスターなんだろうし。
という事は、この森に土着してるハルピュイアが居る可能性もあるってことか……。
「参ったな……外来種との交雑云々は気にするつもりはないけど、妙なモンスターが生まれでもしたら一大事だな……」
あとでドリュアスに詳しく聞いたほうがいいかもしれない。
ここら辺のモンスターの生態について聞くならあいつだろう。
「とりあえず、レネルを回収して一旦ドリュアスのところに戻ろう。あそこらへんのハルピュイアの死体を始末しなきゃいけない」
「そうですね。水源の汚染は問題ですから」
そういうわけで、レネルと合流して、一路ドリュアスの元へと。
銃について
・フリントロック式ではある
・火薬は黒色火薬。激発力は弱い
・射程距離が短く、有効射程は100メートル前後
・命中率はライフリングのない滑腔銃なので泣けるほど悪い
・撃ち過ぎると内部に火薬カスが溜まり、打つ事すら出来なくなる
・弾丸が球体なので貫通力が弱い
・当たりさえすればえぐい傷になるので威力は高い
・弾丸重量が重いので現代のショットシェル並の威力はある
・火薬の吸水性が高いので雨の日は簡単に使えなくなる
・隠密性なんてものはない
・火薬臭いので撃たなくても位置がバレる
・敏感なので簡単に燃焼して危ない
・これらの問題は進歩した銃になれば解決するが、もちろんそれを作る技術はない
総評:100メートル以内くらいなら連発銃なので弓より遥かに強い。距離が開くにしたがって弓の方が有利になる。1キロほど離れると、届きさえしなくなるので弓の方が確実に強い。




