SEKKYOU
バロンにお参りをして、ぼちぼち行商人たちと交渉をして薪を売りつけ。
それが終わったらドリュアスのところまでご機嫌伺いに出向くわけなのだが。
「なんでみんなついて来ようとしてんの?」
「騎士様がまた何日も留守にされては村が回らなくなりますから……」
「ああー……うん……」
たしかに、オレが数日帰らなかったせいで、村には相当の不安が広がってしまったらしい。
オレというリーダーが、ある種のリーダーシップを発揮してるおかげで今は村が回ってるのだ。
そのリーダーシップはいわゆる原始時代の勇者みたいなものだ。
つまり、そいつが居れば自分たちは安心であるというのが武力方面で発揮されてる形って事だ。
実際、今の村で一番強いのはオレだから間違ってはいないんだろう。
そのオレが居なくなってしまうと、不安が蔓延して村が回らなくなる……と。
まぁ、確かにしょうがない。
「しゃあないか……とはいえ、ぞろぞろ行ってもしょうがないから、ティルフィンとミルクたちは残ってくれ。エレーヌとレネルはついてきてくれ」
「しかし主殿!」
「ええいやかましい! 主命だ! 控えおろう!」
「ははっ!」
「ご主人様、お土産とってきてねー」
「ああはいはい。途中でウサギでも捕まえてくるよはいはい」
というわけで、エレーヌとレネルを連れて森の仲へと入っていく。
レネルがついてくるのは単純で、コイツはどうあってもオレの傍に居たがる。
オレの事を護りたいというのは本音らしい。とはいえ、護ってもらう必要はないと思うんだがな……。
「あー、やれやれ」
しかし、レネルが傍にいると気が休まらない。
レネル自体は騒がしい性格でもないし、厳しいわけでもない。
レネル単体では、半分無視してもいいから気が楽なんだが……。
「ふん、ウサギごときでハヤテが護れるものか」
「おや、下劣なマンティコア如きが騎士様を公私に渡って支えられるとでも?」
「ほう、いい度胸だな、子ウサギ。試してみるか」
「いいでしょう、その首を叩き落としてあげましょう」
エレーヌとレネルの仲が死ぬほど悪いのだ。
基本的にエレーヌはオレの傍に居る事が多いので、必然的にレネルとも一緒になるんだが……。
「お前ら頼むから仲良くしろよ」
「いくら騎士様の頼みと言えど、このあばずれと仲良くするのは無理です」
「ああ、まったくだ。この子ウサギと仲良くしろだと? 悪いがハヤテの眼は節穴だ。私の方が強い」
「いい度胸ですね、マンティコア。草原で鍛えたこの健脚の力、思い知らせてあげましょうか」
「ふん、大自然の中で鍛え上げられた私の力を見せてやろうか」
「だからやめろって言ってんだろうがお前ら」
どうしてこいつら仲良く出来ないの?
草食獣と肉食獣だから仲良く出来ないの?
「第一に、公においても、私事においても、騎士様をサポートして支えているのは私です。今更あなたの出る幕などないのですよ」
「ふん、貴様如きに出来る事ならば私とて出来る。それになんだ、デレデレとみっともない。戦士ならば悠然と構えているものだろうが」
「おや、男を支えるのはいつの時代も女ですよ。女に生まれたのであれば、騎士様を全てを持ってしてでも支えるのが当然の事です。そのご立派な体は飾りですか」
「ふん! 貴様に出来るのならば私にも出来る! 私もメスだ!」
頭痛くなってきた……。
「お前ら……女の子なんだからそうやってすぐに殺し合いを始めるんじゃありません」
「女だからこそ引き下がれない事もあるのです、騎士様」
「ふん、私は女など捨てた。女だからと言って侮るのはやめろ」
「おや、あなた先ほどお○んこがついていると言っていたではありませんか。前言を翻すとは誇りはないのですか?」
「なんだと!?」
オレはなんだか今、猛烈に泣きたい気分だ
「お前ら頼むからやめてくれ……エレーヌも下品なこと言うのはやめてくれ……」
なんかちょっと興奮した気がしないでもないが、それ以上に泣きたい。
エレーヌはおしとやかで芯の強い女の子だってオレ信じてる。下品なことなんか言わない。
「す、すみません、騎士様……つい頭に血が上って……」
「ふん、情けない」
「うるさいですね。その無駄な脂肪の塊を切り落としてあげましょうか」
「だから喧嘩すんなって言ってんだろうが! ああもうお前らお仕置きだぁぁぁっ!」
シャーマンの魔法、バインディング・クラインバーズを発動する。
その魔法で、周囲から蔓草が伸びてきてエレーヌとレネルを縛り上げる。
「ぬっ! なんだこれは! こんなもの引き千切って!」
「動くなゴルァ! 心霊治療!」
レネルの体内に直接毒物を叩き込む。
叩き込んだ毒物はそこらへんにあった植物。
アサガオっぽい花で、ジャン爺さんが麻酔薬代わりに使っていたというので使ってみたが、効果はバッチリだ。
「な、なんだ……なにを、した」
「チョウセンアサガオっつってな。熱燗に混ぜて飲むと麻酔薬にもなるんだが……量を間違えると倦怠感や意識障害を発生させる毒だ。他にも色々効能はあるがな」
本来は医療用の植物なんだが、同時に毒性も強いからな。
下手したら死んでしまうが、そうなる前にちゃんと治療してやるので問題ない。
「さて、レネル君、エレーヌ君。君たちには山ほど説教があります」
「は、はい……申し開きもありません……」
「じゃあ、まずはエレーヌから説教します」
というわけで、エレーヌを抱きかかえ、レネルをその場において森の奥に。
「あ、あの、騎士様、なぜ離れて説教を?」
「レネルの前だと恥ずかしいかなって」
「な、なにをするつもりでしょうか……?」
「上の口ではなんとでも言えるが、下の口は非常に正直なので、そっちに答えを聞く事にする」
「え、ええっ!? こ、こんな森の中でですか?!」
「なぁに、植物くらいしか見てないさ」
というわけで、森の奥にエレーヌを連れ込んで、厳しくお説教をした。
お説教をして、もう喧嘩しないと確約させることが出来た。
上の口も下の口も、どっちもな。
さて、お説教を終えて、エレーヌと近くの湖で水浴びをした後、レネルの元へと戻る。
「さて、レネル、気分はどうだ?」
ぐったりしてて返事がない。
呼吸をしてるので生きてるのは間違いないが、意識を喪失してるようだ。
「どれ、心霊医療」
右腕の裾を捲って、レネルの心臓の辺りに手を差し込む。
血液の流れを感じ取り、その中を流れる毒素だけを手で堰き止め、それを体内から掬い取る。
それを何度か繰り返し、毒素がなくなったところで水筒の水を顔にかける。
「ぶわっ!? な、なんだ! 雨か!」
「おはよう、レネル」
「む、ハヤテか。なにをした」
「水をぶっかけた」
「わけのわからんことを……まぁいい」
ブチブチっと蔓を引き千切ってレネルが起き上がる。
そして、オレがその両腕を掴む。
「む、なんだ」
「大人しく座りなさい」
「なぜだ」
「いいから座れや」
力づくで座らせる。
レベルアップしたバーバリアンのパワーを舐めるな。
「ぐっ、ぬっ、なんという馬鹿力だ!」
「さて、レネルくん。エレーヌと仲良くできますね?」
「なぜ私がそんなことをしなくてはならない!」
「仲良くできますね?」
「出来るか!」
「どうやらレネルにも説教が必要なようだ。エレーヌ、手伝ってくれ」
「は、はい!」
というわけで、レネルの説教を始める。
エレーヌも厳しくレネルの説教をしてくれた。
エレーヌのいうところの無駄な脂肪の塊への執拗な説教はオレにはマネできないと感じさせるほどだった。
エレーヌは小柄だから小さく見えるけど、バランスのいい体型だと思うんだけどな……。
そして、その説教が終わった時、エレーヌとレネルはとても仲が良くなっていた。
いやはや、仲良きことは美しき哉。
さて、大変仲のよくなったエレーヌとレネルを引き連れ、あの時にも訪れた水源へとたどり着く。
相変わらずの姿で悠然と屹立する巨木になんとなく圧倒される気分。
こういう、長い年月を感じさせる自然物があると、なんとなく圧倒されるよな。
「はろー。元気かい、ドリュアスさんよ」
返事がない。
首を傾げて再び心霊医療を発動して、木の内側からドリュアスを引きずり出す。
「はろー。挨拶したら返事くらいしろや」
「ああもう……はいはい、なんか用かしら。忙しいのよ」
「別に用はない。あんたが元気かどうか確かめに来たんだ。しかし、忙しいってなんでまた。あんた自宅警備員だろ」
「自宅? ああ、木のことね。そうね、自宅警備員ね。その警備が忙しいのよ」
「はぁ? なんで」
「鳥よ! 鳥が私をついばむのよ! だから忙しいのよ!」
「ああ、そう」
しかし、鳥に対して木が出来る事ってなんかあるのだろうか。
何にもない気がするんだが。むしろ何が出来るんだ、木って。
「で、その鳥に対してあんたは何をしてるんだ?」
「毒を作ってるわ。新芽をついばむ鳥はみんな死ねばいいの」
「ああー……」
そういえば、植物って虫害を受けたりすると毒が出来るって聞いたことがある。
農薬なんかよりも遥かに強力な毒だから、虫食いのある野菜は食べない方がいいらしいって農家の人に教えてもらった。
「でも、鳥って実を運ぶだろ? あんたの子孫が生まれるのはどうなんだ」
「それはいいの。でも新芽をついばむ鳥は死ねばいいの。新芽を食べられたら実すら作れないのよ!」
「ああ、なるほどなー」
確かにそりゃ大問題だな。まぁ、コイツが枯れさえしなけりゃ子孫は作れるんだろうけど。
「あのう、騎士様」
「ん? なんだ、エレーヌ」
「この方がドリュアスですか?」
「そうだよ」
「それにしてはその、なんというか、随分と……お若いというか、お美しいというか」
「ああー……」
まぁ……ゲームだとブッサイクだったからなぁ……。
あまりにキモいから、顔面のテクスチャをのっぺらぼうに取り換えるMODがすぐに作られてたし。
「まぁ、ドリュアスにも色々と居るんだろう。コイツはその中でも美人だったってだけだろ」
「あら、なによ。褒めても何にも出ないわよ」
とかなんとか言ってるけどさっきから頭とか肩にぼとぼとドングリが落っこちてきてるんですが。
「しかし、鳥か。鳥避けでも作ってやろうか?」
「どんなの?」
「こう、デカい目玉みたいな風船みたいなの……」
田舎の方に行くと田んぼの真ん中とかにぶら下げてある奴だ。
「多分そういうのは効かないわ。鳥と言っても、普通の鳥じゃないもの」
「っていうと、ハルピュイアとかか?」
「そうよ。ハルピュイアよ! あの小憎たらしい鳥類が私の新芽を食べるのよ!」
「なるほどね。それで毒を作ってるわけか」
しかし、この森にはハルピュイアまで居るのか? なんでもありだな。
などと思っていると、遠方から何かがこっちに飛んでくるのが見えた。結構数が多い。20体はいる。
バックパックから望遠鏡を取り出して覗いてみると、羽のある翼に、鳥類の足をした人間型のモノがこちらに飛んできている。
「う、うーん……? これは……?」
いまいち判断がつかなくて、エレーヌに望遠鏡を渡す。
「エレーヌ、向こうにハルピュイアらしきものが見える。確認してみてくれ」
「はい。…………いました。確かにハルピュイアです」
「この辺りのモンスターだと思うか?」
「恐らく……違うのではないかと」
「だよな」
確かに人間型はしている。人間型はしているんだが、ハルピュイアって元からそういうモンスターだ。
しかし、顔がまるっきりババアだし、よだれ垂れ流しでまともな理性があるように見えない。
「ってことは、話し合いの出来る理性の持ち主じゃないよな」
「そうですね、話し合いの余地があるとは思えません」
「となると、始末する必要があるな……」
ハルピュイアは記憶が確かなら、なんでも意地汚く食い散らかすモンスターだ。
村を襲われたら、備蓄し始めてる小麦や肉類が食い漁られてしまう。
そんなことになったら、今年の冬は越せないだろう。
間違いなく餓死者が出る事態になる。
加えて、ここの水源を護っているドリュアスが枯れるような事態になれば大惨事だ。
ハルピュイアは汚物を撒き散らす怪物でもあり、水源を汚染されれば大変な事態になる。
この森全体の生物が激減する大惨事を引き起こしかねない。
「幸い、数は少ない。ここで始末してしまおう」
「そうですね。この距離なら、接敵までに殆ど落とせるでしょう」
バックパックから弓を取り出し、矢筒を肩にぶら下げる。
そして、弓を番えて弦を強く引き絞る。
感覚的に狙いをつけると、矢を解き放った。
大気を引き裂いて飛翔する矢は遥か遠方のハルピュイアに直撃。
頭を一撃で砕き、そのまま森へと落下していく。
その様子を最後まで見届ける事無く、新たな矢をつがえる。
レンジャーのレベルは全く上がっていないので少々心配だったが……問題ないようだ。
この戦いでレンジャーのレベルも上げられる。
「この調子なら楽勝だな」
「そうですね。騎士様もなかなかお上手です」
「いや、エレーヌには負けるよ」
オレが一本打ってる間にエレーヌは二本か三本打ってるんだもんな。
しかも全部ヘッドショットっていうね。オレよりよっぽど弓の名手だ。
「…………! ハヤテ、聞こえたか?」
「あん? なにが?」
唐突なレネルの問いかけに思った通りに応える。なんも聞こえなかったし。
「ハルピュイアが啼いた。助けを求める声だ。そして、それに応じる声……100や200では済まんぞ。下手をすれば、1000にも届くような凄まじい数の声があちこちから響いている」
「はぁ!? マジで!?」
「ま、じ?」
「本当かって言ってんだよ!」
「ああ、そうだ。本当だ。……そうか、時期が悪い。この時期はハルピュイアどもの繁殖期だ。恐らく、ちょうど繁殖のために渡りをしてこの森に辿り着いたのだ」
見渡す限りの大森林。その森林の中にどれだけの数のハルピュイアが潜めるのか。
その疑問に予測がつくよりも早く、森林の中から次々とハルピュイアが姿を現した。
それはあっという間に空を埋め尽くすほどの凄まじい数になり、空が暗くなるほどの大量の数。
「下手を打ったな……繁殖期で激しく気が立っている状況で刺激されて、怒り狂っている」
「もっと早く言ってくれよ!」
「無茶を言うな。ハルピュイアの渡りは場所が決まっていない。今年は運悪くこの森だったのだ。ただのはぐれかと思ったが、まさか本隊がここにいたとは……」
「いずれにしろ、必死こいて戦うしかない事態みたいだな……」
一気に三本の矢を番えて放つ。
どこに放っても当たるのだから、狙いなんかつける必要はない。
束ね打ちをしてもどうせ当たる。加えて言えば、精密射撃が期待出来ない距離でも当てる事が出来る。
だが、この数が相手では……。
「持久戦になるぞ、エレーヌ」
「はい……覚悟は出来ています」
バックパックから矢を全て放り出す。
足元で山になった矢を確認しながら、オレはエレーヌと背中を合わせて弓を構えた。
「オレの背面は任せる!」
「騎士様には私の背面を預けます!」
さて、持久戦の始まりだ……。




