やほよろづのかみがみ
「で、何の用だ、マンティコア」
「種族の名で呼ぶな。私の名はレネルだ」
「ああそう。で、レネル。何の用だ」
「特に用はない」
「帰れ」
用がないなら来るな。
ヒマだから来ちゃったって、お前はどこの親友だ。
そこまで仲良くなった記憶はねえぞ。
「用はないが、私を打ち負かした男は私が守らなければならない。それは義務だ」
「なんだそれ、意味わかんねえ」
「守らねばならんのだ」
「帰れ」
「守らねばならんのだ」
「帰れ」
その後、帰れ、守らねばならんのだ、の押し問答。
オレも折れなければレネルも折れない。
最終的に、そうまでしてやりたいなら勝手にやれと言う事になった。
ただし、村に居座るにあたっていくらかの条約を結んだ。
まぁ、単純な話で、村人を襲ったりすんなとか、その辺りだけどな。
「一応聞いておくが、オスのマンティコアが襲ってくるなんてことはないだろうな?」
「無い。私は既に巣立ちをしたのだ」
「そうか」
ならまぁいい。しかし、どんどん人外の比率が高まってくな、この村は……。
まぁ、既に最初から人外比率は多かったんだが。
現状でもゴブリンとコボルトの方が人間より多いし。
「ああ、くそ、参ったな。いろいろと考え直さなきゃなんねえことが多過ぎる。どうすりゃいいんだこいつは」
不確定要素が次々と出てきてどうにもなんねえ。
とにかくもっと情報を集めてって、不確定要素を可能な限り減らしていきたいが、それでまた新たな不確定情報が増えていって……。
ああもうなんか泥沼だなこれ。
「マジでここら辺の開拓ハードモード過ぎね? エレーヌ、町に帰ってオレと家庭を持たないか」
「そ、それは大変魅力的なお誘いなのですが、開拓を投げ出すわけにもいきませんから……」
「そうだな……」
さらっとプロポーズしてみたが拒否られた。ちょっと泣きたい。
「あーもう……どうすりゃいいんだこれは。やること多過ぎるんだよ」
どっから手を付けていけばいいのかすらもわかんねえような状態だぞ、これ。
とりあえず周囲の調査からやらなきゃいけないんだけど、その調査をするには安全を見越して村に兵力が必要。
しかし兵力を用意するためには資金が必要。
その資金を用意するためには開拓して資金になるものを得て……。
おい、詰んでねえか、この村。
というか、確実に詰んでる。八方塞がりってレベルじゃねえぞ。
王様に木の棒と50円もらって最初の村から出た瞬間に四天王出てくるくらい詰んでるぞ。
「兄さん! また変な女がきやした!」
「追い返せ!」
アルファベットブラザーズがまた来たが、今は考え事で忙しいんだ。
新しいモンスターだか何だか知らねえが、そんくらいは自分で何とかしろ。
「ですけど、その女、自分の事を神とか言ってて、下手に攻撃したらヤバいんじゃねえかってみんな言ってて……」
「はぁ? 頭のおかしいキ印さんは救貧院にでも叩き込んで来いよ」
「ここらへんにはないっす」
「じゃあ追い返せ」
「嫌っす! 兄さんがやってくだせぇ!」
「だああああああもうっ!」
ブチ切れて机を一旦ぶっ叩いて深呼吸。
落ち着け、落ち着くんだオレ……冷静にならなきゃ見えるものも見えなくなるぞ……。
そうだ、落ち着け、オレ……。
「……ふう。よし、落ち着いた。わかった、その女に会う」
「ありがてぇや。兄さんにまかしときゃ大丈夫っすね!」
「あーそうだな」
そこまで信頼されても困るんだが、今んところ信頼が無いとまずい状況だからそのままにしとく。
一応のリーダーであるオレに信頼が無いと、リーダーシップが無くなっちまうからな。
さて、そういうわけで村の外延部の方まで出てみると、確かにそこには変な女が来ていた。
褐色の肌に白っぽい髪色がエキゾチックな雰囲気を放ち、シルクハットに燕尾服。そしてモノクルをかけた変な女だ。
しかし、更に変なのは、燕尾服にもシルクハットにも、何やらスパンコールみたいにキラキラ輝くものが大量にちりばめられているところだった。
「はい、で、あんた何者」
「お初にお目にかかる、村長殿。我が名は森の王! こうして今一度民が増えたことで、この私が守護に参った!」
なんかいちいち言動が仰々しいなぁ……。
しかし、こうして相対してみると、神々しい雰囲気がハンパじゃないくらいある。
コイツは確かに神だ。アルファベットブラザーズが本当に神じゃないかって戸惑うのもわかる。
「ああ、そう。で?」
「ついては私を神として崇め、奉ってもらおう!」
「いいよ」
「えっ」
「あん?」
「いいのかね? 私は君たちの信仰する神々とは違うのだが?」
「別にいいんじゃね?」
こちとら日本人だ。ほぼ無神論者だぞ。神様一人増えたくらいじゃ今更騒がない。
むしろ神様増えるのはそれはそれでいいことじゃね? うん、いいことだと思う。
「じゃあ、とりあえず面接をするか」
「面接? え? なにをするのだね?」
「そうだな。特技は?」
「うむ、そうだな……この村の民に加護を与え、邪悪なる意志を退ける事が出来る。森は君たちの味方となるだろう」
「ほう、森が味方に。森が味方にとは具体的に何のことですか?」
「え、うむ、そうだな……まぁ、森で怪我などしなくなるし、森で迷ったりなどもしなくなるだろう」
「ふむ……で、その加護は当村において祭られる上でどのようなメリットがあるとお考えですか?」
「うむ、そうだな……まぁ、君たちは林業を盛んにやっているようだし、そういった時にケガ人などはでなくなるだろう」
「ふむ……」
まぁ確かに悪くないな。
「他には?」
「これと言ったものはないな……一番はやはり、邪悪なる意志から君たちを守ってだな……」
「その邪悪なる意志って?」
「なにかこう、嫌な気分だ」
「抽象的過ぎるんでもうちょい具体的に」
「うむ…………つまり、君たちは陽気になる」
「……まぁ、いいだろう」
まだ抽象的だけど、なんとなくわかった。
つまり、穢れを祓うって事だな?
穢れっていうのは元々気枯れの事で、嫌な気分の事を指すからな。
「神殿は造るけど、造りはオレの流儀でいいか?」
「何でも構わんよ。私を神として扱ってくれるのならば……」
「さようで」
じゃあ、まずは鳥居を作って、本殿を作らないとな。
あんまり本格的なものは造れないけど、そこらへんはこれからの発展に期待ってことで……。
しかし、どうにも一気にドタバタしてきたな。
とりあえずは、林業で金を貯めて、無理にでも冒険者を雇うべきか。
時間契約でもいいから、今は優秀な冒険者の手が欲しい。
さて、レネルと森の王とやらが村に来て、二日。
その二日の間に特に変わった事はない。
強いて言うなら森の王の服装がなぜか巫女服に代わってしまったくらいだ。
神社に祭ったせいかどうかは知らんが、本人は全く気にしてないように見えて、袴の構造にもぢもぢして赤面してたのがナイスだった。
そういうわけで神社に祭った価値はあったとオレは思うんだ。
「……さて、教会が出来たとこで村の設備は少々整ったと言ったところか」
「あれが教会、ですか……」
「教会だよ。形はちょっと変わってるけどな」
「はぁ……騎士様の故郷ではあのような教会が一般的だったのですか?」
「そうだよ」
一応、日本の国教は神道のはずだからな。天皇家の存在自体が神道の価値観に根差してるものだから。
「さて、教会が出来たはいいが、問題は信徒が一人もおらんということだ」
「そうですね……私は戦女神アトラースの信奉者ですし」
そういえば、そういう設定だったっけ。
なんでも、その戦女神アトラースは目の前の全てに歯向かい、最終的には世界を支える大地母神になったとかいう。
女性戦士には大人気の神格らしい。
「ふむ……ところでデュラハンって体だけ深海に沈めたりしたらどうなんのかな」
「止めて差し上げてください……。というか騎士様、考えるのが面倒になったからと言って話題を変えないでください」
「ごめん」
実際問題、信徒とかどうにもしようがねえんだよ。
個々人の信仰なんてどうにも変えようがないんだから。
「とりあえず、オレは毎日柏手打ちに行ってやるか……」
「柏手、というのは?」
「かしわでっていうのは、まぁ簡単に言うと拍手の事でな。神社でお参りするときのお祈りの動作なんだが……まぁ、オレも詳しくは知らないんだけどね」
手を叩いてお祈りする。それくらいしか知らん。
なんか鐘鳴らす回数とかにも決まりはあった気がするんだが、よく覚えてない。
「とりあえずオレは信仰するか……」
マジで神様だったら、おざなりにしたらなんかバチとか当たりそうだしな。
それにお祈りしたらマジで見返りがあるってすごくね? それならオレ毎日お祈りするわ。
というわけで、さっそくお祈りするためにやってきた。
突貫工事で作ったのでみすぼらしい見た目だが、まぁ一応は神社としての体裁は保ててる神社だ。
その神社の本殿の階段に、森の王が頬杖をついて寝転がっていた。
うむ、袴から覗くおみ足がセクシーだ。
「おや、村長殿ではないか。何用かな」
「あんた神様ならもうちょっと威厳のある態度とれよ」
「ふむ……こうかな?」
なにやら偉そうに足を組んでどっかりと座り込んだ森の王。
まぁ、神様っぽいからこれでいいか。
「さて、それじゃエレーヌ、一応オレの故郷での参り方を教える」
「はい」
「手を叩く」
「はい」
パンパンッと二回強く手を叩く。
「そして目を閉じて頭を下げ、お祈りする。お祈りはなんでもいい。無事に帰って来られますようにとか、そういった類の願掛けだ」
「では、騎士様が無事に帰って来られますように……」
エレーヌの優しさでオレの胸がほんわかした。
「これで終わりだ」
「え? これだけで終わりなのですか?」
「そうだよ」
本当なら賽銭箱にお賽銭入れるものなんだけど、賽銭箱なんか設置してもしょうがねぇし、そもそも外貨が入らないので賽銭なんか入れる奴はいない。
「とまぁ、これがオレの故郷の参り方だ」
「随分と簡素なのですね」
「重要なのは儀式じゃなくて信仰心だろ? 本当に信仰する心があるなら、神はそれを見ているはずだ」
「そう、ですね。たしかに、今の教会は真に大事なものを忘れている気がします。真に大事なのは、心……」
割と適当なこと言ったんだけどなんか納得されてしまった。
「さて、これがオレの故郷流のお参りの仕方だ。お気に召さなかったかな、森の王殿」
「そんなことはないさ、村長殿。うれしいよ、こうしてまた、私を神と認めてくれる人々が居る事がね」
ふむ。それならいいんだが、ちょっと気になるな。
「ここらへんには昔は人が住んでたのか?」
「ああ。住んでいたとも。みな、よい人々だった。だが、かつてあった戦で村は滅び、ここらは深い森に覆われた……」
ふむ、つまり忘れられた神ってやつか……。日本でも、割とあったんだよな、そういうの。
そういうのが零落した末が妖怪だなんて言われてたな。
河童だったかひょうすべだったかもそうして生まれた妖怪だとかいう話を聞いたことがある。
「そして、それから幾百年の時が流れ、ここにまた人々が現れた」
「それがオレたちか」
「いや、違う」
「ってことは前の開拓隊か」
「よくはわからんがそうなのだろうね。私は彼らに私を神として信仰するように頼みに行ったが追い返されてしまったよ」
「だろうな」
軽く聞いた感じ、ここらは一神教の国だ。
一神教は他宗教を弾圧する傾向が強い。
そりゃ追い返されるだろうよ。
「しかし、その彼らも滅び、また君たちが現れた事で信仰するように頼みに行ったところ……」
「あっさりと騎士様が認めてしまったのですね」
「うむ、そうだ。何か騙されているのではないかと思ったよ。はっはっはっは」
「いやあ、はっはっはっはっは。照れるなぁ」
「いや、別に褒めてはおらんのだがね」
「あ、うん」
「しかし、君たちに救われたのは確かだ。そこで、村長殿。君には私の名を教えよう」
「森の王じゃねえの?」
「それは通り名だよ。真の名は、バロン。森の王、バロンだ。よろしくしてくれたまえ、村長殿。いや、ハヤテ殿、だったかな」
「ああ。こっちこそ、よろしく頼む、バロン」
差し出された手を握り、固く握手をした。
「さあて、何やら服は変わってしまったが、神としての役目をしかと果たさせてもらうぞ! さあ、森へと行き、そこで糧を得るのだ!」
「あ、今日は行商が来る日だから交渉とかするわ。それからドリュアスの方に顔を出してくる事になってる」
「うむ、そうか。つまり、私の出番はないのだな?」
「まぁ……そうなるな」
「では、私は昼寝をしている。何か用があったら呼びたまえ」
ごろりと不貞寝してしまった。
うーん、なんかちょっと申し訳ない気分になってしまった。
Q.バロンって?
A.バロン(インドネシアの聖獣。別名バナスパティ・ラジャ)をモデルにした神様。そのものではありません。




