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 凶悪かつワガママボディのマンティコアを逃がしたのち、オレたちは全速力で村へと戻っていた。

 そして、アルファベットブラザーズの仕事を中止させ、急遽村全体の防備を固める。


「働け~い! キリキリと防御陣を作るのだぁ!」


 ビシャリと鞭を鳴らす。


「兄貴、なにやってんすか?」


「いや、やってみたかっただけだ」


 一回やってみたかった。ただそれだけだ。ぶっ叩いたのは地面だし、言ったのは森の方角だ。


「……騎士様、遊んでいないで早く柵を設置してください」


「ごめん」


 エレーヌに怒られたので、気休め程度に柵を設置した。

 マンティコアって空飛ぶから意味ないとは思うんだけど、気休めにはなる。

 本当に精神的安定を招くというだけの気休めにはなる。

 その気休めにしかならないから遊んでたんだよね……無駄だって分かってるし……。


「うーん……どうしたもんかな」


 この村、防御が薄すぎんだよ。

 まぁ、周囲にゴブリンとコボルトしかいなかったから仕方ないけどさ。

 日常的に襲われてたんじゃ、防護柵なんか作ってる暇なかったろうし。


「なんでこういう時に便利な魔法がねぇのかなぁ……」


「騎士様、村全周の防護柵の設置が終わったとゴブリンたちから通達が」


「ああ、了解。……気休め程度に落とし穴でも掘る?」


「うーん……人員が疲弊するだけでしょうし、やめておいた方がよいのではないでしょうか」


「それもそうか。マンティコアに通じるレベルの落とし穴掘るの大変だしな……」


 四足歩行だから、相当なサイズじゃないと意味が無い。

 そんなデカい穴掘ってたら疲れてしまう。


「えーと、あとなんか出来る対策は……」


「……ないのではないでしょうか」


「……ない、よなぁ」


 え、どうすんのこれ。


「う、うーむ……そうだ、こういう時は三人寄らば文殊の知恵だ。ミルクー! ティルフィーン!」


 というわけで、ミルクとティルフィンを呼んだ。

 呼んだのはミルクとティルフィンだけだったのだが、ミルクとクルミとミクルの三人が揃った。

 ティルフィンはなんでか来ない。


「ただいま参上だよご主人様!」


「今日はどーしたの?」


「マンティコアと戦うの?」


「ああ。マンティコアと戦う、かもしれない。かもしれない運動だ」


「かもしれない運動?」


「そうだ。何事も、かもしれない、で動けば予測が立ち、柔軟に物事が対処できるという話だ。運転免許取る時に散々教えられた」


「へー。ご主人様って免許もってたの? 免許皆伝なの?」


「運転下手くそすぎてもらえなかった。って、そういうのはどうでもいい。とにかく、かもしれない運動だ。もしかしたら妻のお腹の子はオレの子じゃないかもしれない……そういう風に悲観的に考える事で物事に対処するんだ」


「ええーっ!? エレーヌ妊娠してたの!?」


「してませんっ! 騎士様もとんでもないこと言わないでください! 私は騎士様一筋です!」


「ご、ごめん。でも、エレーヌのこととは言ってなかったんだけど……」


「え……あっ……!」


 エレーヌが顔真っ赤にしてうつむいてしまった。かわいい。


「かわいい」


「うん、かわいいね、ご主人様」


「かわいい!」


「かわいい!」


「カワイイ!」


「かわいい!」


 何故かいつの間にか村中の人間、ゴブリン、コボルトが集まってかわいい連呼。

 人間連中は大体分かってるが、ゴブリンやコボルトはいまいちよく理解していない。

 みんなかわいいと言ってるから、場のノリで言ってみてるだけだ。


「かわいい!」


「かわいい!」


「かわいい!」


「かわいい!」


「かわいい!」


「かわいい!」


「かわいい!」


「かわいい!」


 本当にエレーヌはかわいい。

 ぷるぷる震えてるのもかわいい。


「も、もぉぉぉぉぉおおっ! バカな事やっていないで防御陣地の作成ですよ! ちゃんとやらない人は斬り捨てます!」


 ジャキーンとレイピアを抜いて怒るエレーヌ。


「うわぁ! 姐さんがブチ切れた!」


「仕事に戻れぇ!」


「誰か写真撮ってねえのか!」


「あんな時間かかるもん使えるかよ!」


 わらわらと散っていく村人。

 残るのはオレとミルクたち、そしていつの間にか来ていたティルフィン。

 最後に、ジャン爺さんが一人。いや、二人いても困るんだけどさ。耄碌ジジイ一人でも大変なのに、二人いたら大変だ。


「ジャン爺さん、あんた仕事は?」


「この老いぼれに出来る事はやりましたでな」


「さようで」


 まぁ、爺さんだししゃあないか。


「さて、無駄な時間を使ってしまったのでかもしれない運動に戻るが……」


「その無駄な時間を使わせたのはどこのどなたですか!」


「オレですごめんなさい」


 だってエレーヌが可愛かったし……。それにロスした時間はほんの3分程度だ。

 ぶっちゃけ3分で出来る事ってタカが知れてるし。


「さて、かもしれない運動だが……マンティコアが3匹攻めてくるかもしれない」


「その時、私たちはどうすべきでしょうか」


「自分の体に香辛料を塗ったくり、日光浴をする」


「なぜですか?」


「一思いにパクリと苦しみもなく食ってもらえるかもしれない」


「食べられる事を前提にしないでください!」。


「つっても、かもしれない運動には限度があんだよ。オレなんか運転講習中に、後ろからターミネーターが追ってくるかもしれないって思って運転してたら、一発で不合格喰らったし。かもしれない運動ってクソだわ」


 悠長に信号まもってるヒマないから信号無視しただけなのに……。

 いや、それが全くの不正解だってことは分かってんだけどさ。

 あの時のオレはどうかしてたよ。


 次があったら自分がジューダス・プリーストのボーカルかもしれないって思いながら運転することにする。

 ペインキラーを熱唱しながら運転してやるぜ。

 って、そんなこと考えてる場合じゃなかった。


「しかし、実際問題3匹もマンティコア出たらどうにもなんないだろ。1匹だけならオレが倒せるけど、残りの2体がいるし……」


「私も決死の覚悟で戦えば1体くらいは倒せると思いますが……」


「最低でも1体残るよな……」


 この村の人間たちの戦闘力に期待するのは間違ってる。

 人間側のアルファベットブラザーズは怪我をして冒険者を引退した奴らだし、コボルトやゴブリンはマンティコアの餌になるだけだ。

 この村で対マンティコア作戦では、戦力として役立つのはオレとエレーヌだけなのだ。


「どうすんだよほんともう……」


「か、かもしれない運動でなんとかならないのですか?」


「……マンティコア3匹が相手なら徹・剛力拳襲を使わざるを得ないかもしれない」


「て、徹・剛力拳襲ですか。それは一体どんな……?」


「力いっぱいぶん殴る」


 新しく覚えたバーバリアンのスキルだ。

 残念ながらバーバリアンのスキルはどれもこれも力いっぱいぶん殴ったり蹴っ飛ばしたりばっかりだ。


「……で、その技ともいえない技でマンティコアは倒せるのですか?」


「倒せたらこんな会話してない」


「そうですよね……」


 結論、どうにもならない。


「はぁ……最悪、オレたちが足止めしてる間に、みんなを逃がすぞ」


「はい……」


 一応、ティルフィンやミルクたちにも聞いてみるか。


「お前ら、マンティコア相手に有効な戦術とかあるか?」


「あったらもう言ってるよ!」


「ゴブリンにあんまり期待しちゃメッだよ!」


「私たち、弱いもんねー」


 それは自慢げに言う事じゃないぞ


「ティルフィンは?」


「はぁ、その……残念ながら主殿のご期待に応えられるほどの事は……」


「だよな……」


 もしも勝てるような知恵があったらコボルトたちはもっと版図を広げてる。

 たぶん、あんな森の外延部に住んでたのはマンティコアが居るからっていうのもあったんだろうな。

 もっと詳しく森の生態について聞いておけばよかった。


「もう、運否天賦に任せるしかないのか」


「人事は尽くしました。後は天命を待つほかないでしょう……」


 結局それ以外に方法がないならそうするしかないよな……。


 オレたちは覚悟を決めて村の防衛に取り掛かった。






 …………そして、それから2週間。

 今の今までマンティコアの襲撃は一切ない。

 もう来ないんじゃね? などと言う雰囲気になった。


 気を引き締めようにも実際来ないし。

 というかもう仕事再開しちゃってるし。

 柵は邪魔だから撤去しちゃったし。


 ただまぁ、さすがにまた探索を開始するのはヤバいんじゃないかってことで探索は中止している。

 開拓計画が遅れるなぁ……。


「はぁ……参ったなぁ」


 自分がまとめた計画書をぺらぺらと捲る。

 計画書というよりは、しなきゃいけないこと、した方がよいこと、しなくていいことを箇条書きにしただけのもんだが。


 そのうち、しなきゃいけないことの2割ほどがおしゃかになってしまった。

 した方がいいことは4割がたおしゃかだ。


「マンティコアさえ……マンティコアさえどうにかなればな……」


 だからと言って駆逐できるほどオレたちは強くない。

 人数が少なすぎるのだ。オレと同じ強さの奴が、あと5人もいれば駆逐できるんだが。


「唯一の救いは、粘土が見つかったこと、水源の確保、それからその他もろもろ……」


 溜息を一つ。

 マンティコアの存在は開拓計画の大きな障害だ。

 この村で産出される資源の大半が採掘困難になることを意味するのだから。


 交易路を開拓するだけで十二分な成果と言えるが、ここら一体を人の住む場所、富栄える場所にするには足りない。

 富ませるには人を集めて仕事を増やし、なおかつ売りになる産業を手にする。

 誰もが金になると分かればここには人が集ってくる。

 その金になるという証拠、見せ金になり得る資源類がマンティコアのせいで採掘困難になる。


「人だ。人が足りない」


 そう、全ての問題はそこに集約する。

 アルファベットブラーザズ以降も人は増えているが、戦力として役立つほどじゃない。

 優秀な冒険者たちを集めるための何かがあれば……。


「優秀な冒険者を集めるのにちょうどいい餌、か……」


「騎士様、そこまでして優秀な冒険者を集める必要があるのですか?」


「あるよ。開拓計画を順調に進行させるには、兵力が必要なんだ」


「私たちが更に強くなる……というのではダメなのでしょうか」


「ああ。凶相の育預様が言っていた。戦いを制するのは意志でも血でもない。ただ鉄量のみなのだと」


 そして、鉄量にはそれを運用する兵士が付属し、その兵士は血を流す。

 戦いを制するのは意志でも血でもない。だが、戦いを決するのは、兵士に血を流させる意志と、兵士に与える鉄量、そして兵の血だ。


「オレたちがただ強くなるというのは意志において寡兵を増強する事に他ならない。兵力の増強には値しない。兵力の多寡は雌雄を決する大前提となり得る」


 寡兵によって大軍を打ち破るというのはありがちな話ではある。

 だが、寡兵によって大軍に挑むというのは、兵の調達の時点で失敗している事を示す。

 兵の調達が不可能だったのだから仕方ないという反論もあるだろうが、ならば戦端を開くに至る外交にて失敗したことを意味する。

 戦争とは本来、外交手段の一つでしかないのだから。


 オレたちの状況はそれに当てはまらないが、一部適用出来るところはある。

 すなわち、現在は軍備を整える時期だという事。つまり、戦端を開く以前の状態なのだと。

 既にマンティコアとの戦いは始まっているが、あくまでも小競り合いの規模だ。マンティコアという仮想敵を得て、それに対する対策を練るという段階に至っている。

 国同士の戦いで、戦端を開くのを遅らせるのは外交だが、この場合では戦端を開くのを遅らせるのは小競り合いとなるだろう。

 マンティコアの攻めにくい要因を作るか、兵力の減少を招かない方法で撃退を繰り返す。

 その間に兵力を増強するということになる。


 マンティコアの撃退はオレたちが出来る。

 何とかしばらくは持ちこたえる事が可能だろう。

 その間になんとしてでも兵力を増強しなくてはならない。

 一般人を鍛えて兵士にするのは時間が足らず不可能。

 ならば既に鍛えられている冒険者を集め、用兵に用いれるように基礎を叩き込むのが早い。

 故に、冒険者を集める餌が必要なのだ。


「なんとしてでも冒険者を集める方法を練らなくてはならない。それが開拓計画を進行させる唯一の方法なのだから」


 交易路を拓くにしても、マンティコアの征伐は必須だ。

 マンティコアをなんとかしなくてはにっちもさっちもいかなくなる事態なのだ。


「冒険者を集める餌が必要だ。何かないか?」


「いえ、なにも……」


「だよなぁ……」


 それが思いつかなくて悩んでんだからどうしようもねぇ。

 この果てしのない手詰まり感、どうしたらいいんだ。

 と、思ったところで家のドアがノックされた。


「入れ」


 ドアに向けて声をかけると、アルファベットブラザーズの一人、クリフが顔を出した。


「兄さん、客ですぜ」


「客? 誰だ?」


「さあ? ボロ布を着た女ですけど、村の外でうろうろしてたんで連れてきやした」


「ボロ布を着た女……? まぁいい、連れてこい」


 クリフが問題ないと判断して連れ込んだのなら大丈夫だろう。そう信頼していった。

 すると、クリフがこないだのマンティコアを連れて家の中に……。


「兄さん、この人です。なんでも、一番強い奴のところに案内しろって」


「久しぶりだな、人間」


 オレは今なんというか、色んな意味で人の世の無常を呪っていた。

 怪しい女が現れたらなにがあっても絶対に村の中に入れるなと言ったのに、なんでこいつは……。


「テメェの眼は節穴だ!」


「ええっ!?」


 なんか不貞寝したいよ、もう。

分かりにくい部分があったので文をつけたし。

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