決着の後
地面にコボルトキングの体が崩れ落ちる。
その前に剣を引き抜いていたオレは、血振りをして剣を鞘に納める。
「勝者はオレだ! コボルトたちよ! 貴様らの王はオレが討ち取った!」
その言葉を聞くや、コボルトたちは堰を切ったように逃げ出す。
住処まで逃げ出すのだろう。そしてそこで王が討ち取られた事について話す。
あんま頭よくないから次の王にオレを擁立するくらいしか思いつかないんじゃあるまいか。
そして、もう一方のゴブリンたちはと言えば何が起きたのか理解できないといった様子だ。
しかし、自分たちが生き延びた事を理解すると、わーわー騒ぎ出す。
こいつらまとまりねぇなぁ……。
などと思っていると、ゴブリンたちがオレに群がってくる。
「なんだ?」
敵意はない。武器も捨てているし、襲い掛かってくる様子はないが……。
しかし、ゴブリンが掴みかかってくる。
何事かと慌てて対応しようとするが、群がられれば一気に足を掬われた。
って、うぉっ!?
「ぐえっ! うおあっ!? バカやめろ! 胴上げすぐえっ」
上に放り投げられ、落下してきたところを受け止められてまだ投げられる。
胴上げである。
確かに定番だ。なんかの試合とかに勝ったら、その立ち役者を胴上げするのは決しておかしくない。
それに、やる事もさほど危険なものではない。
先ほど言った通り、上に放り投げ、落下してきたら受け止めてまた放り投げる。
それだけ。
うん、それだけなのだ。
そう、やってることはそれだけだが、さすがに十メートル以上も上に放り投げられたら話は別だ。
打ち上げられるたびに重圧が体を襲い、落下の時には地面に落下したのと変わらない衝撃が襲う。
幾度となく襲い掛かる落下と浮遊の重圧。
意識が朦朧とし始める。
ああ、刻が見えるよ……エレーヌ……。
結論、人は胴上げで死ねる。
幸い、オレは胴上げで死ぬには至らず、何とか生還する事が出来た。
今はゴブリンに取り囲まれて、やんややんやと騒がれてるところだ。
「オマエ、ツヨイ。オレタチ、トモダチ」
男のゴブリンが声をかけてくる。
お前らとトモダチになった覚えねーよ。馴れ馴れしいよ。
「マテ。コイツ、コボルトノキングタオシタ。オレタチノミカタ。イチバンツヨイ」
「イチバンツヨイヤツ、キングニナル」
「ジャア、コイツキングカ」
その発想はおかしい。
「キングダ」
「ゴブリンキングダ」
「オレタチノキングダ」
「バンザーイ!」
「バンザーイ!」
わかった。こいつらただのバカだ。
……まぁ、なんかうまいこといったからそれでいいか。
「はぁ……とりあえず、お前たちは元の住処に戻るんだ。コボルトとの戦いで傷を負った奴も多いだろう」
「ソウダナ。ジャアナ、キング」
一応キングなのに態度が気安いなお前ら。
別に傅けってわけじゃないが、それはどうなんだ。
「マタナ、キング。アソビニコイヨ」
いや、遊びに来いよってそれでいいのかお前ら。
一応キングなんだろ? そうなんだろ? 普通は住居に連れてかない?
違うの? なにこれ、オレがおかしいの?
「あの、騎士様、どうしたんですか?」
「いや、異文化理解って難しいなと思って……」
もうゴブリンの事を理解するのは諦めよう。
とりあえずコボルトキングには勝ったのだし、次はコボルトの集落に行かないと……。
いきなり襲われたりしたら嫌だな……。
「よし、次はコボルトの集落だ」
「はい。重要ですね。コボルトとゴブリン、その二つを撃退しなくては………………」
「どうした?」
エレーヌが口をパクパクさせて空を指さす。
なんなんだと思いつつもそちらに目線をやる。
その直後、何かが地面にすごい音を立てて着弾した。
「のわあああっ!?」
な、なんだ! 何が起きた!?
「き、騎士様っ、も、モンスターです。おそらく、ドラゴン……!」
エレーヌが超小声でオレに耳打ちをする。
そして、その言葉通り、そこに居たのは確かにドラゴンっぽいものだった。
なぜ、っぽいもの、と表現したかというと、見た目がまるっきり人間の女性だったから。
違うところと言えば、なんかエロい鎧をつけてるくらい。
膝から下と肘から先を緑色の甲殻で作られた鎧で覆った体。
一番大事な太腿と肩を防御してないけど、それ意味あるのか。
胴体はまだまともな鎧っぽいものを身に着けてるんだが、お腹が丸出し。急所晒してどうすんの。
胸はと言えば、そこだけ甲殻がなくなってて、胸が布に覆われて強調されてる。
一番の急所が薄布一枚ってどうなの……。
「な、なんて意味のない鎧なんだ……アレを造った奴はただのバカだ……」
でもすごく浪漫があるので、愛すべきバカと表したいところだ。
「そ、そうですね……見た目だけはいいですが、身を守る防具としては意味がない……ってそんなことを言ってる場合ではありません!」
そういえばそうだった。
しかし、ドラゴンらしきやつはオレたちの事など気にも留めず、転がっている死体を検分し始める。
そして、ひときわ大きいコボルトキングの死体を軽く蹴って死んでいる事を確認する。
その間、オレたちは身動き一つ取れなかった。
だって迂闊な事したら気付かれそうじゃね?
ネコみたいに逃げるものを追いかける本能とかあったら溜まったもんじゃない。
そして、ドラゴンはそのコボルトキングの死体を担ぐとそのまま飛び上がっていってしまった。
なんで死体持って行ったんだ? 食べるのか? ドラゴンって死肉喰うの? スカベンジャードラゴン?
「た、助かったのでしょうか?」
「たぶん……」
生きた心地がしなかったわ。だって、見ただけで強そうって分かるんだもん。
「はぁ……よし、じゃあ、家に帰って寝よう」
「騎士様? コボルトの集落に出向くのでは……」
「なんかもう果てしなく疲れたから……」
今のでなんかもういろいろと疲弊しきった。家に帰って寝たい。
というか、この森にドラゴンまで居ると分かって現実逃避したくなってきた。
この森の開拓難易度高すぎだろ。ベリーハードってレベルじゃないぞ。
「コボルトとか明日でいいと思うよ……コボルトもほら……会議するだろうし」
「そ、そうですね……」
そういうわけで、家に帰った。家っつってもジャン爺さんの家だけど。
さすがにいつまでもジャン爺さんの世話になるのもなんだし、そこらの家を手入れして住めるようにしないとな……。
とりあえず戻って暫く骨休めして、それから夕飯。
そしてうだうだとやって……。
「ミルクたち、帰ってこないな」
「そうですね。どうしたのでしょうか……」
考えたくはないが、やられてしまったと考えるべきだろうか……。
いやいや、きっと帰ってくるさ。絶対にやり遂げる意気込みを感じたしな。
「まぁ、明日になったら帰ってくるさ。だから今日はもう寝ちまおう」
「そうですね……戦いで疲れていますし」
既に泥まみれの体も水浴びして洗い流してある。
水がかなり冷たくてつらかった。
「それで、あの、騎士様」
「ん?」
「あの時の話は……」
「あ、あー、あー、あー……」
明日じゃダメ? って言ったら引っ叩かれますよね、これ。
ぶっちゃけ、すごく疲れててエッチなことするよりも今は布団が恋しい。
かと思ったら、ちょっと想像しただけで何やら下の方が元気に……。
そういえば、疲れマラって現象があったね……。
「とりあえず、その話は部屋でな」
「は、はい」
そのあとについては詳しくは話さない。話せない。
話してたまるものかよ。




