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Noir et Rouge 〜闇夜に開かれし宴〜  作者: 吾桜紫苑
第4幕 学院編入
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魔術書——精霊 〜Noir〜

 1日の授業がようやく終わった。


 実技の後は天文学だったが、実戦に参加した生徒はほとんど寝ていた。教諭が何も言わない所を見ると、いつもの事らしい。フウだけは念話で叩き起こした。


 実戦の授業後、クラスの人間の見る目が変わった。大人しくしていたせいかフウも俺もやや侮られていた節があったが、実力を目の当たりにして評価が変わったのだろう。


 元々興味を示していた生徒達は素直に感嘆の言葉を向けてきた。今度相手にしてくれと頼み込まれたのには適当に返事を返した。元々無難な態度をとっていたのも功を奏したか、俺もフウも致死的な攻撃をしたにも関わらず友好的だ。生来お人好しなのだろう。


 一方、闇属性、あるいは移民という事で警戒していた連中は、ますます警戒を強めている。こちらの方が常識的と言えるが、過剰に敵意を抱いているのが面倒だ。彼我の実力差を見て引き下がると思っていたのだが、思ったよりもここの連中はガキらしい。


 今後の動きを計算し直しながら、俺は1人学院の敷地を歩いている。フウはクラスの生徒に誘われて授業外活動の見学に赴いていた。授業以外にも戦闘や魔法技術を磨く活動はあるらしい。といってもスポーツ要素が強いらしく、おそらく俺の世界で言う部活動のようなものなのだろう。

 フウに「学院の生徒として馴染む事を最優先しろ」と指示している以上、活動に興味を示した方が良い為行かせている。俺にも声がかかったが、その手の魔法には興味が無いので断った。


 今学院に止まっているのは、借りた魔術書を読む為だ。読んでいて疑問が生じればまた借りに行けるのだ、邸に戻らずここにいた方が良い。

 だが、学院内で彷徨いていると絡まれるのは昼休みに証明済みだ。下手に図書館で騒ぎになって出入り禁止にされたら話にならない。人気の無い所を探す事にした。


 見つけたのは、学院の建物の更に奥、敷地の境界に近い場所にある森林。誰かがいそうなものだが、不思議と人気が無い。闇の気が少しばかり濃いからだろうか。何にせよ、好都合だ。


 適当な木の根元に腰を下ろす。鞄から借りた魔術書を全て取り出し、1冊に手を伸ばした。

 魔術で一気に読み取る事も出来るが、こうして時間があると1冊ずつ読む。理由は分からないが、効率の悪い方法だと分かっているのに、昔からこうして読んでしまう。唯一無駄に消費する時間だ。


 今日借りた魔術書は、魔法理論の授業で気になった範囲。問われた理論の矛盾点——大気中の魔力の影響値について。教諭は一切触れなかったが、この世界の魔力濃度は高い。そして、人のイメージが魔法に強く影響する。いくつか気になった事もあったが為に、関連書籍を纏めて借りてきた。


 最初の数ページは教科書にも載っている内容だったので、適当に流す。専門的な内容が出始めた頃合いから少し真剣に文字を追っていると、求めていた知識が目に止まった。宗教の為か誇張が見られる部分を除いて読んでいく。



『あらゆる生物には魔力が宿る。特に植物や湖、海に宿る魔力は人に宿るものより大気中に放出される割合が多く、自然、特に森は魔力濃度が極端に濃い。このような場所では魔力の無秩序な流れがぶつかり合い、時に吹き溜まりを作る。この吹き溜まりで意思を持つ生命が誕生する事がある。これが精霊であり、彼等は自然の守護者となる』



 そこまで読み進めて、顔を上げた。普段は極限まで抑えている「視力」を上げるべく、瞳に魔力を集中させる。



 瞬き1つで世界が変わった。無色かつ無秩序な魔力の流れが吹き荒び、巻き上がり、木々を縫うように進んでいく。



 その魔力の流れの中を泳ぐように、あちこちに4色の——光と闇を除く魔力属性と同じ色の——光の塊が飛び交っている。光は互いに衝突する事無く、一定の方向性を持って飛び回る。


 これが精霊だろう。吸血鬼の集落からこの街に来る中継地点に利用した泉の場所で妙な気配——生物であり生物でないような気配を感じ、気になってはいたのだが、あれも精霊だったのか。


 元の世界にも似たような概念はあった。魔力の吹きだまり、源泉、地中に流れる魔力の線。魔術の構成においてはこれらを活用する事が多い為、術師程ではないが一通り学んでいる。一説では、その魔力の吹きだまりに負の気が混ざる事で魔物に、正の気が混ざる事で精霊になるとされていた。


 だが、この世界の精霊は異様に数が多い。草木を縫って飛び回る精霊とやらは、こちらの気配も認知しているのか、時折近付いては周囲を回っていく。そういう意味では確かに意思を持つと言えそうだ。人と同等の精神性を持っているようには見えないが。

 この精霊の数には何か意味があるのだろうか。答えを求めて視線を落とす。



『精霊は、自然の力が満ちている所ならばどこでも発生する。ほとんどの精霊はある程度の時間世界を漂うと消滅するが、幾つかは消滅する事なく、周囲の魔力を取り込み生き残る。これらはいずれ知性を持ち、高位精霊と呼ばれる存在となり、具現化して魔法を行使するようになる。高位精霊は下位の精霊を使役出来る。世界は6柱——火、水、風、地、光、闇の始原精霊が神と共に支えているが、下位精霊と同様に光と闇の属性が存在しない事から、高位精霊はこれとは異なるものと認識されている』



 1度読み止め、目を閉じた。粗の多い理論を1つ1つ分析していく。


 故郷で暮らしていた時代の記憶は無いが、一応魔法士協会の加盟国——原則不干渉を決め込んでいるようだが——である為に知識はある。その中に、動物や人の使う道具が長い時を経る事で力を得て妖や神となる、というものがあった。協会では、長い時間を掛けて大気中の魔力を蓄積する事で、力と知性を得たと分析されている。


 こちらの精霊はそれと同じ様でいて、少し違う。故郷でのそれは、元々感情を持つとされる動物や、人が意思を持って扱う道具に魔力が宿ったもの、つまり人や生物の意思が基になって知性を形作ったとされている。だが精霊は魔力の塊でしかない。それも自然中のと限定されている。人の意思を宿した魔力でも動物の魔力でもない。

 だからこそ、生じやすくも不安定な存在なのか。数の多さも気配の薄さも、それで説明が付く。何故意思を持つようになるのかは興味深いが。


 光と闇の精霊がいないというのも面白い。光は全ての陽の下に生きる生物が、闇は万物が、切って切れない縁を持つ。植物も湖も海も、光闇どちらとも縁があるというのに、何故それらの属性は精霊として形を成さないのか。そうして精霊として形を成せない属性が、何故出来損ないとして下位に置かれるのではなく、上位属性とされるのか。



「……そもそも、本当に存在しないのか?」



 小さな呟きが口から漏れる。思考の過程をすっ飛ばして浮かんだ疑問だったが、案外的を射ているのかも知れない。

 光も闇も余りに当たり前に存在しすぎて、普段人は認識していない。精霊もまた然りだとすれば、視えるのは光属性や闇属性の人間のみ、という可能性は無いだろうか。


 改めて周囲に目を向ける。無色光の流れと4色の光の塊が飛び交う中で目を凝らすのは容易ではない。光が混ざり合い、色の識別が付かなくなっていく。


 ……流石に、この場で識別するのは無理か。


 目で視る事が出来ないのなら、闇を操って精霊を引っ張り出すという手段もある。だがいくら人気が無いとは言え、多くの人——それも「あれ」を知る人のいる場所で闇を操るのは大馬鹿だ。諦めて考察に戻る。


 始原精霊と高位精霊が別物。これはおそらく正しい。世界を構成する力と世界に漂う力から生まれる力。始原精霊についてもう少し詳しく知らねば断言は出来ないが、根本が違うように感じる。


 この世界で魔力が世界に与える影響力が大きいのは、精霊の多さ故だろう。意思あるものが意思ある魔力に反応し、魔法の構築に影響を及ぼす。理論的に不思議な事ではないし、世界によっては精霊——この世界のものと定義は異なるかもしれないが——を使役して魔術を構築する事もあると聞く。そのような魔術があるなら、精霊が魔法や魔術の構築を補助した所で不思議はない。


 更に読み進めていく。嘘臭い検証や宗教色の強すぎる記述を流し読みしていると、ふと興味深い記述が目に止まる。



『高位精霊は人間の国に止まらず、フォレス国へと移動し定住する。かの精霊の国には人間と同じような序列制度が存在し、最高位の精霊が王となる。フォレス国にいる高位精霊は好奇心旺盛で人に好意的であり、召喚魔術に応じて魔法を操る人間と契約を結ぶ。大抵は高位精霊の中でも下位のものが現れるが、魔力の親和性など幾つかの条件によっては上位の精霊も召喚に応じうる。下位のものは小型の動物の形を取り、位が上がるにつれて大型の動物へと変化していき、ある一定の位からは人型を取る。同じく召喚に応じる神獣は、生まれた時からフォレス国に存在する動物が、精霊の力の波動により変容したものである』



 魔物生態学の教科書に記載されていた召喚。精霊の他はエルラ国の妖精族、ドラリア国の竜族も稀に召喚に応じると書かれていたのを記憶しているが、この書では述べられていない。精霊に関する魔術書なのだから当然だが。


 それにしても、大気中の魔力から生まれた生物が人間と同じような序列制度を作り上げるというのは興味深い。生物がある程度序列を持つのは普遍的な事象だが、人間と同じように数段階の位があるのは珍しい。人への好奇心故か、数が多いと自然そのような形の社会を構築するという証明か。取る形が変化するのも気になる。


 それ以上に面白いのは神獣だ。元々はただの動物として生まれたものが、高位精霊の力の波動で神獣へと変容する。しかも、大気中の魔力や通常の精霊では変容しないときた。その境界条件は何か。精霊の力の濃度というのなら、精霊が色濃く存在する地でも神獣が生まれそうなものだが。


 何か手がかりが無いかと文字を追うも、それ以上精霊や神獣に関する記載が見当たらない。ページを繰ると話題が変わっているから、この魔術書ではここまでだろうか。


 尚もページを流していると、不意に大気の魔力が乱れた。今まで存在しなかった人の気配が伝わってくる。

 顔を上げると、流れるような長い銀髪が目に入った。ミアだ。


「ノワール、こんな所で……読書、ですか?」

 何をしているのか、と問おうとした所で魔術書が目に入ったらしい。怪訝な声に頷いて、問い返す。

「そういうお前は、何故ここへ?」

「ノワールを探しに……そろそろ皆戻るので」


 言われて視線を空に向ければ、陽が沈みかけていた。暗闇でも不自由しない代わりに、明暗の変化に気付きづらい。その為、時間の経過に気付かなかった。単に読むのに集中していたのもあるが。


「分かった」


 鞄に魔術書を詰め、立ち上がる。ミアと共に校門へと向かった。

続きます。

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