目的地 〜Rouge〜
「美味しい! 本当にありがとうございます!!」
20体以上のスレイヤを1分もかけずに全滅させた少女は、手渡した保存食を、目を輝かせて頬張っていた。
「いや、これくらいしかあげられなくて、申し訳ないくらいだけど……」
何せ、命の恩人だ。本当はもっと豪華なものを奢りたいけれど、草原のど真ん中では他にどうしようも無い。
あっという間に食べ尽くした少女は、満足げな顔で礼を言ってきた。
「ありがとうございました。もうお腹減って、どうしようかと思ってたから」
……この草原を突っ切るのに、食料1つ持っていない?
常識外れな行動に眩暈を覚えながら、僕は口を開いた。
「これくらいの事しか出来なくて申し訳ないけど、少しでも役に立てたなら良かった。
……自己紹介が遅れたね。僕の名前はヴィルヘルム=オッシ=パーヴォラ。ヴィルって呼んでくれ。王立ルーフィア学園の5年生だ。先ほどは助けてくれて、本当にありがとう。君の名前を聞いていいかい?」
少女はきょとんとした顔をした後、口を開いた。
「うーん、名前かあ……まあ、いいか。私の名前はダンスーズ・フージュ。ノワにはフウって呼ばれてます」
風変わりな名前の少女は、しかし、口調も態度も、どこにでもいる女の子だった。外見と雰囲気からして、弟と同じくらいだろう。
しかし、さっき見せた魔法や、剣技は……
「じゃあ、フージュと呼ばせてもらうよ。フージュ、君はここで何をしていたの? このあたりは夕方から魔物の数が多い。女の子が1人で歩いていいような場所じゃない」
「そうなんですかー。道理で多いと思った。
えっと、探している人がいるんです。魔力を頼りに探そうとしたんだけど、どうもさっきから魔力の波動が弱くって。だいたいの方向は分かっているから、そっちに向かえば分かるかもですけど。
それで、私も聞きたいんですけど、ヴィルさんの目的地って、どっちですか? 私、向こうに行くつもりなんですけど、もし方向が一緒なら、その馬車に同乗させてもらえないかなー、なんて」
可愛い顔でそんな事を言うフージュを、まじまじと見つめた。
彼女の指す方向は、僕と全く同じだった。さらに言えば、その指差す先には、たった1つの集落しか無い。つまり、僕達の目的地は同じ、という事だ。
だけど、そこは。
「……フージュ。そこに何があるのか、分かってる?」
「ううん」
あっさりと首を振るフージュに溜息を漏らす。そして、質問の答えを口にした。
「……そこは、吸血鬼たちの集落だ」
前回に引き続き、短いですね……
次回からは、もう少し長くなります。