魔術施行 〜Noir〜
意識がやや浮上するのを感じ、うっすらと目を開ける。
霞む視界に、白っぽい天井が目に入った。先程の洞窟から、どこかへと連れて来られたようだ。
全身がぼろぼろになっているのを無視して無理矢理身を起こそうとした時、自分が拘束されている事に気付いた。
「!」
腕と脚と、首。鎖のようなもので、床に固定されているようだ。目を床に向けると、何か線が引かれていた。それはおそらく——魔法陣。
「ighrgjkvkf」
頭上から声が聞こえた。そちらに視線を向けると、先程俺の意識を刈り取った吸血鬼が、そこにいた。その隣には、あちこちに治癒魔術のもやを纏った数体の吸血鬼ども。あの攻撃から命拾いした奴らのようだ。
咄嗟に魔法を使おうとするも、意識が朦朧として魔法に集中できない。仕方なく術式を使うべく呪文を唱えようとするも、声さえ出せなかった。
あまりにも役立たずで無力な自分を、八つ裂きにしてやりたいと、真剣に思った。
そんな俺の様子を見つめていた、俺の魔法から生き残った吸血鬼が、手を伸ばして来た。冷たく節くれ立った指が、俺の額に触れる。
背中の魔法陣が輝いた。
「————————!!!!!」
途端に俺の身に生じた熱に、躯が跳ね上がった。
全身の血管という血管に、煮え立った重金属を流し込まれたような、異様な熱が駆け巡る。悲鳴を上げようにも、首の周りの血管1本1本から生じる熱が、それを許さない。
熱から逃れようと無意識にもがくが、戒めは小揺るぎもしない。身動き1つ許されないまま、俺は魔力の暴走時でさえ体験した事の無いような熱に炙られ続けた。
永遠とも思える時間の後、熱がやや和らいだ。
息を吸い込み、我を取り戻そうとした時、魔法陣が再び輝いた。
「……ぁ…………っ!」
全身のあらゆる臓器、筋肉が、捻られ、引きちぎられんとしているかのような激痛が走った。灼け付くような痛みは、熱と相まって、身も心も蝕んでいく。
暴走の反動よりも、今まで負ったどんな怪我よりも激しい痛みに、意識を失う事すら許されない。必死で細い息を繰り返す事しか出来なかった。
時間の感覚はおろか、痛みと熱以外に何も知覚できなくなった頃、三たび魔法陣が輝いた。
脳髄を抉るような頭痛が、息も絶え絶えな俺を襲った。頭痛はそのまま頭全体に広がっていく。悲鳴のような、頼りない吐息が口から漏れた。
自分が今どんな状態なのか、何が起こっているのかさえも分からない。痛みが、熱が、俺を、俺という一個人の全てを、蹂躙していく。
何年も経ったのではと思える程の時間の後、ようやく魔法陣が輝きを失った。ずっと俺の額に触れていたらしい吸血鬼が、ゆっくりと手を離した。
熱と痛みが和らぎ、一気に脱力する。それでも頭は割れるように痛み、全身が悲鳴を上げていた。
「……、……——―」
急速に意識が薄れていく。ただでさえ前後不覚に近い状態で、痛みによって強制的に意識を繋ぎ止められていただけの俺は、何も考えられず、そのまま闇の世界へと引きずり込まれていった。
長さが統一しませんね……
すみません。