表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/230

重要 〜Rouge〜

 突然糸が切れたように頽れるノワに一瞬慌てたけれど、マスターが冷静に受け止めているのを見て、何が起こったのか理解した。


「何を……!?」

 けれどミアやヴィルさんはそうはいかなかった。青ざめた顔で、ノワとマスターを交互に見つめている。



「……おいフウ、この馬鹿はこの短期間に何があった?」

 マスターに不機嫌な声で尋ねられ、記憶を掘り返す。


「詳しくは話してもらえなかったけど、魔力を暴走させて、死にかけて、魔術でダメージ受けて、死にかけて、死にかけたみたいだよ」

 言ってみて、改めてその凄さにちょっと驚く。マスターが疲れたように溜息をついた。

「……どうやったらそこまで……」


「……あの、彼に何をしたのですか?」

 ミアが固い声でマスターに尋ねる。マスターは面白そうに彼女を見上げた後、丁寧に答えた。


「彼の躯に蓄積されたダメージを一気に解放させた。治癒魔法や回復魔法を自分にかけると、傷は治っても痛みなどの症状は消えない。ノワールは、痛みを魔力で身の内に封じ込み、寝ている時などにゆっくりと回復させる。そうすれば、事実上傷が完治したように動けるからな。だが、あまり溜め込み過ぎると、躯に莫大な負荷がかかる。溜め込んだ時はこうして解放させなければ、命に関わる」


 そう言ってマスターが、いつもの魔法をかけた。苦しげに顔を歪めていたノワが、規則正しい呼吸を繰り返し始める。


「今かけた魔法で、こいつはダメージを全て回復させるまで眠り続ける事になる。この様子だと、3日かな。悪いがお嬢さん、目が覚めたら血を飲ませてやってくれ」

「……勿論です」


 ノワに危害を加えるものではないと分かったからか、ミアは素直に頷いた。ほんの少し、目に複雑な色を浮かべていたけど。


「……じゃあ彼は、どれだけダメージを負っても魔法を使い続けられる、という事ですか?」

 ヴィルさんの問いかけに、私とマスターは同時に頷いた。


「ノワの魔力は桁外れですから」

「ノワールは、その魔力を使って、いくらでも魔法が使える。それこそ、死ぬ間際でもな。だが、こいつの魔力は諸刃の剣だ。暴走すれば器が耐えきれんし、こうして無茶を続ければ、いつか肉体だけでなく、精神にも支障をきたす。だから無茶をするな、魔力を暴走させるなといつも言うているが、聞く耳を持たない」


「……どうしてですか?」

 ミアの問いに、マスターはノワを軽々と担ぎ上げながら答えた。



「彼にとって、どうでも良い事だからだよ」



 言葉を失う兄妹を余所に、私達は書斎を出て、ノワを部屋に運んだ。少しして、ヴィルさんもミアも付いてきた。ちょっと意外。



 ノワをベッドに寝かせて布団を掛けて、私達は一息ついた。そこで気付く。

「あ! ご飯作ってもらってない!!」

「安心なさい。儂が作るよ」

「やだ!」


 マスターの申し出を速攻で却下する。マスターの料理は本当に不味い。その割に普段、ノワの料理を邪魔して私達の食事を悲惨なものにするのだ。この世界に来て1番嬉しかったのは、純粋にノワの手料理を味わえた事だ。


「私が作りますよ」

 そう言ってくれたミアが天使に見えて、とびきりの笑顔でお礼を言った。

「ありがとう! 助かる!!」


 黄昏れているマスターに同情する人が1人もいなかった事は、少し可哀想だと思ったけど、美味しい食事には変えられない。放っておく事にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ